マレーシア、強制労働の実態

血と涙のゴム手袋製造


ピーター・ベンツェン(Peter Bengtsen)

ジャーナリスト


訳:三竿梓


 2019年に日本の外国人労働者は166万人を突破し、技能実習生の処遇などが大きな問題となっている。外国人が強制労働させられる状況は、コロナ禍でより需要が増えたゴム手袋の世界一の生産国であるマレーシアでも横行するが、近年、発注元の欧米諸国を巻き込み、監視体制の強化や被害者への補償などが進められているという。その実態を調査したルポルタージュ。[日本語版編集部]

(仏語版2021年2月号より)

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 2019年末、クアラルンプール郊外の工業地帯にある小さなレストランで夕食を取っていたセリフ・Sさん(1)に話を聞いた。彼は、マレーシアでは強制労働が横行していると証言し、「私の知人は全員、ここ数年で破産したよ。仕事を斡旋してくれるはずだった雇用斡旋業者に費用を払ったせいでね」と続けた。話はこれだけではない。従業員が失踪しないよう、雇用主は彼らのパスポートを取り上げ、保管している。

 セリフ・Sさんは、10年以上前からゴム手袋製造業者の中でも最大手の一社に雇用されている。このメーカーの納入先は欧州と米国の保健衛生セクターが特に多い。これは、マレーシア経済の海外市場向け部門の全てについて言えることで、電気・電子機器や衣料品、ゴム製品の主な輸出先は欧米諸国である。2018年の輸出額を見ると、電子部品は448億ドル(約380億ユーロ)、繊維・アパレル製品は42億ドルに上っている。ゴム手袋に関しては、マレーシアは2019年に世界一の生産国となり、地球全体の需要の63%をカバーした。生産量は3000億双に上る(2)。国際労働機関(ILO)によると外国人労働者はマレーシアの労働人口の20〜30%を占めるという。長期に及ぶ過酷な労働にもかかわらず、マレーシアの賃金はネパール、バングラデシュ、ミャンマーや他の諸国の人々に「出稼ぎで家族の生活を豊かにする」という夢を抱かせる。2018年に彼らが自国へ送金した総額は90億ユーロ近かった(3)

 マレーシアで働くために労働者が支払う代価は家族と離ればなれになることだけではない。多くの人が、現地企業から派遣されたリクルーターに費用を支払うため、出国前に地元の貸金業者から法外な金利で重い借金をしてくる。この状況は、数々の証言からどの労働者にも概ね当てはまる。セリフ・Sさんを始め、外国人労働者たちは寮に入居する。寮には門限があるので、彼らはその時間までに戻るよう急いで食事を取るという。少しでも定刻を過ぎたり、許可なく外泊したりすれば最大で基本月給の半分に相当する罰金のリスクが待っている。セリフ・Sさんは「罰金や停職処分はしょっちゅうさ」と言い、ある若い男性従業員が持ち場で居眠りをしてしまったために停職扱いとなった最近の事例を話してくれた。一日12時間の勤務と一カ月間に休日が全くないこともある労働条件は、マレーシアに入国して間もない労働者からすれば、生活リズムの変化が激し過ぎるだろう。

 取材班が話を聞いたバングラデシュ人の労働者たちは出国前に一人3700〜4300ユーロをリクルーターに支払っていた。ネパール人の場合は、1100〜1250ユーロである。マレーシアの最低賃金は月額240ユーロで、超過勤務分は400ユーロまでしか支給されない状況をふまえると、外国人労働者が自由を手に入れるまでに数年を要することは誰の目にも明らかだ。

 多くの労働者が合法あるいは違法に残業し、この借金地獄から抜け出そうとしている。帰国を望む者もいるが、彼らの決意は数々の障害を前に打ち砕かれる。アサド・Iさんは心情をこう吐露した。「もうどうしようもないよ。できることなら家に帰りたい。たとえ費用が嵩んで、さらに借金をすることになったとしてもね。でも、それも不可能だ。パスポートを取り上げられているからさ。それに、もし捕まったらどんなに殴られるかわからない。それが怖いんだ」

強制労働の実態を認めない大企業

 「奴隷制度の現代的形態2014-2020」に関する国連の特別報告者であるウルミラ・ボーラ氏に話を聞いた。「リクルーターは、海外の仕事をちらつかせて出稼ぎ労働者たちから途方もない額をだまし取っています。その話のほとんどはまやかしに過ぎず、労働者はこの制度を熟知した雇用主の言いなりになってしまうのです」

 欧米の企業は、製造拠点の国外移転によって安価な労働力を多数利用することになり、利益を得ている。たとえ多くの国際的大企業が納入業者に対し強制労働を明確に禁止するコンプライアンスを課したとしても、世界規模で広がるサプライチェーンにおいては、強制労働は各地に広がっていくだろう。

 複数のゴム手袋製造業者が、フォーチュン誌の発表する全米企業ランキング上位500社に名を連ねる企業を顧客に持っている。調べると、マッケソン[ヘルスケアサービス企業](売上高16位)、オーウェンズ・アンド・マイナー[ヘルスケアソリューション会社](同332位)、ヘンリーシャイン[ヘルスケア製品・サービスサプライヤー](同304位)、メドライン[医療機器メーカー]の名前があった。このうちマッケソン、ヘンリーシャイン、メドラインの3社に取材を申し込むと、納入業者には「規則を遵守するよう」求めているという回答はあったものの、マレーシアの下請け業者の労働実態に関しては一切言及がなかった。

 株主もこの状況については口を開かない。とりわけ、これらの企業グループの株式を保有しているブラックロック、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ(SSGA)、バンガード・グループといった大手の資産運用会社がそうだ。しかし、バンガードは「弊社が株式を保有する企業が人権を尊重しているかどうか注視している」と言い、企業と密に協力しサプライチェーンを管理していると明言する。ブラックロックは、長期的な投資を重視すると謳っているが、取材依頼には応じなかった。SSGAとも連絡は取れていない。

 透明性に欠け、具体的な対策も取られていない状況は、海外の納入業者の監査が概ね民間の監査法人に委ねられている状況からして当然といえよう。監査結果は公表されないよう入念に管理されている。匿名の内部情報によると、マレーシアのゴム手袋製造業の労働環境は、米インターテックやアンダーライターズ・ラボラトリーズ (UL) 、スイスSGSといった世界最大手の認証企業から調査対象として明確に挙げられているという。しかし、これら3社のいずれもが強制労働に関する証拠を集めた我々の調査結果に対し回答を拒否した。社会的責任監査の実務を担う複数の調査員いわく、労働者が職業紹介料を支払うために膨大な額の借金を負っていることは周知の事実だという。しかし、彼らはそれを「奴隷労働」とは認めていないのだ。

 さらに、これらの調査機関は多国籍企業から出資を受けている。2019年、国際NGOのクリーンクローゼスキャンペーン[衣服やスポーツウェアの生産に関わる世界中の労働者の労働環境改善を目指す組織]が調査したところ、不正な監査報告は200件に上ることが明るみに出た。このレポート(4)の共同作成者であるベン・ヴァンペパストラート氏は残念そうにこう発言している。「この事実は、社会的責任監査のシステムが労働者の保護に寄与していないことの証左です。企業の評判や収益性にしか恩恵をもたらさないこのやり方は、期待される経済モデルの実現を妨げています」

 力は大きくないが市民団体の運動にメディアの報道が重なって、投資家や多国籍企業を動かした例もある。たびたび喧伝される企業の社会的責任(CSR)からはほど遠い実態を暴くことに成功したのだ。2019年、米NGOのトランスペアレンテムは数カ月に及ぶヒアリングと改善要求により、マレーシアの縫製工場に雇われていた2500人の外国人労働者のために160万ユーロの補償金を獲得した。彼らは仕事を得るために出国前に費用を支払っていた(5)。同様に、オランダのエレクトロニクス・ウォッチはタイの電子部品工場で働く1万人の外国人労働者のために900万ユーロを(6) 、ワシントンに本社があるウォーカー・ライツ・コンソーシアムはインドネシアの繊維産業部門で働く2000人の労働者のために400万ユーロを勝ち取った(7)

米国の措置による変化の兆し

 2019年10月1日以降、少なくともマレーシアでは風向きが変わり始めた。アメリカの税関当局が——めったにないことだが——強制労働の疑いで、マレーシア企業のWRPアジア・パシフィックが製造した使い捨てゴム手袋の輸入を禁止したのだ。この措置は業界全体を揺さぶる。マレーシア人的資源省は、労働者の保護を強化する新たな条項を労働法に加えると約束し(8)、強制労働をなくすことができなければ米国が輸入禁止措置を取る可能性を企業に警告した。2020年7月、米国が世界最大手のゴム手袋製造業者トップ・グローブのマレーシア工場で製造されたゴム手袋の輸入を全面的に禁止したことで、この予想は現実のものとなった。

 トップ・グローブへの制裁の影響は、すぐさま過去に例がないほどの広がりを見せる。輸入禁止措置から3週間後には、トップ・グローブは不当な職業紹介料を返還するとして、1000万ユーロを外国人労働者に支払うと発表した。これに倣い、業界大手のハルタレガも800万ユーロの補償金を支払うと約束し、スーパーマックスは支払われるべき補償総額の見積もりを開始したことを明らかにする。2020年10月、トップ・グローブの補償額は2800万ユーロと当初の3倍近くになり、他にもコッサン・ラバー・インダストリーズが外国人労働者に1000万ユーロを支払うと約束した。米国市場から閉め出されることを恐れた複数のライバル企業もこの流れに続いた。

 WRPアジア・パシフィックも1600人の従業員に約440万ユーロの補償金の支払いを開始し、これと引き換えに2020年3月には米国の輸入禁止措置が解除された。しかし、全ての手続きが完了するまでには数カ月、場合によっては数年かかるかもしれず、今後も状況を注視する必要があるだろう。労働者は、帰国すると補償金を受け取れないので、滞在を伸ばそうと過酷な仕事を引き受けてしまう可能性もある。海外のメーカーは、こうした搾取から長年にわたって利益を得てきたというのに一銭も負担していない。

 欧州連合(EU)は大企業に罰則を科していないが、人権侵害が認められた場合、EU市場への優先的なアクセス権をその「国」から剥奪する手段は持っている。今では欧州議会のハイディ・ハウタラ副議長が次のように発言するほどに状況は変わってきた。「EUは、奴隷労働や、特に外国人労働者といった立場の弱い人々の搾取が認められる製品およびサービス産業の輸入停止を可能にすべきです。米国の例に倣うことには消極的に見える欧州委員会ですが、現在、企業に対し、下請け企業に労働者の人権を確実に尊重させる義務を課す法律を準備しています」。2020年4月、欧州委員会司法総局のディディエ・レンデルス氏は、この法律の施行予定は2021年と発表し、2017年にフランスで可決された発注元企業を監視する義務に関する法律から着想を得たと述べた。ただし、このフランスの法律は常に正しく適用されているとは言えないのだが……。

欧米諸国のアメとムチ政策

 EU加盟国レベルでは、国をまたぐサプライチェーンにおける労働環境の改善を目指す拘束力の強い法律の制定が、一朝一夕にはいかないが着々と進められている。ドイツとオランダでは「監視義務」を定める法律が準備され、他の13の加盟国でも同様の提案が検討され、活発に議論されている。従業員に強制労働をさせているマレーシアの製造業者と取引のあるEU輸入業者を罰するために、しっかりした法律適用と監視の仕組みが作られるだろう。そこには被害を受けた労働者への補償措置も組み込まれるはずだ。

 厳しい措置を取る一方で、各国政府は、公的機関による発注という効果の疑わしい施策を講じている。経済協力開発機構(OECD)加盟国では、官公需が国内総生産の12%を占める。国の購買力は、サプライチェーン全体における健全な労働環境の保証を企業に促す強力な手段ともなるが、米国、英国、スウェーデン、デンマークの医療機関へのゴム手袋納入リストを見ると、その強大な力も活用されていないことがわかる。

 スウェーデンでは地方自治体が「倫理的な購入の促進を目指す共通の倫理憲章と契約条項」を作成している。また、2019年にはマレーシアの大手使い捨てゴム手袋製造業者3社に監査を実施し、その最中に強制労働を疑わせる多くの懸念事項が認められたこともあって、結果を公表した。そして早くも翌年には新たな一連の監査を行うために再びマレーシアを訪れている。「外国人労働者を借金地獄と搾取から救う闘いは、息の長い仕事です(9)」。エステルイェートランド地方議員のエマ・ルワー氏の言葉にあるように、この問題の解決には長期的な覚悟が必要なのだ。


  • (1) 安全上の観点から労働者たちの氏名は仮名にしてある。

  • (2) « Top supplier Malaysia sees no quick end to shortages in $ 8 billion gloves industry », Reuters, 4 juin 2020.

  • (3) Isaku Endo, José de Luna-Martinez et Dieter de Smet, « Three things to know about migrant workers and remittances in Malaysia », World Bank Blogs, 1er juin 2017.

  • (4) « Fig leaf for fashion : How social auditing protects brands and fails workers » (PDF), rapport 2019, Clean Clothes Campaign, Amsterdam.

  • (5) Steven Greenhouse, « NGO’s softly-softly tactics tackle labor abuses at Malaysia factories », The Guardian, Londres, 22 juin 2019.

  • (6) Nanchanok Wongsamuth, « Thai electronics firm compensates exploited workers in rare award », Reuters, 11 décembre 2019.

  • (7) « Largest sum ever : WRC recovers 4.5 million dollars in unpaid severance », Worker Rights Consortium, Washington, DC, 4 décembre 2019.

  • (8) Cf. Jason Thomas, « Stop forced labor or Malaysia may face sanctions, warns Kula », Free Malaysia Today, Petaling Jaya (Malaisie), 7 janvier 2020.

  • (9) « Sustainable supply chain — Guidelines contractual terms », rapport 2019, Hållbar Upphandling, Stockholm.



(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2021年2月号より)