アメリカの本当の権力者は誰?

合衆国と合州国のはざまで


リチャード・カイザー(Richard Keiser)

ミネソタ州カールトン大学教授(政治学およびアメリカ研究)


訳:大竹秀子


 アメリカで日常生活に直接関わる政策は、大統領は誰かというより、各州政府を誰がコントロールしているかによって決まる。州法が、連邦法と同等に重要なのだ。大統領府と連邦議会が党派で分断され、連邦議会で民主的な意思決定を行うことが不可能な状態が続くなか、連邦政府より州ベースでの政策実現をめざし、ヒトとカネの投入が州へと流れるようになってきている。[日本語版編集部]

(英語版2021年1月号より)

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 2020年11月、ジョー・バイデンとドナルド・トランプとの米大統領選に世界は注目した。だが、はるかに現実的な政策を生み出すことになるのは、大統領選よりも連邦議会選挙、および50州それぞれでの郡選挙とレファレンダムだということを、アメリカ人は承知していた[訳注]。大統領府と、下院、上院が党派間で分断され、政府が分断されるという難問のために、民主党と共和党で意見が分かれる問題に関してワシントンの議会で連邦法を可決することは、実現困難になっている。議会で民主的な意思決定を行うことができないのだ。少なくとも防衛や外交政策とは無関係な問題に関しては、ワシントンが生んだ政権の空白地帯を州が埋めている。カリフォルニア州やテキサス州だけではなく、州こそが、我々の注目に値する。

 最も多く実験的政策が生まれている州では、一党が知事職を掌握し、かつ州の上下両院で多数を制している。「トライフェクタ(三拍子揃った体制)」と呼ばれ、現在、共和党が上下両院を制し、知事も共和党という州が23を数える。民主党がトライフェクタの統一政権をもっているのは15州で、残りの12の州は、連邦政府と同様に政策決定がマヒ状態に陥る可能性を抱えている。

 これは、著しい変化だ。1992年には、トライフェクタの州は19のみだった。ほかの31の州では、知事は少なくとも上院か下院のいずれかを野党に握られていた。当時、有権者が民主党寄りだった州は、それ以来、さらに民主党に傾き、共和党の州でも同じことが起きて、これにより、連邦の統治が麻痺する事態がたびたび起きている。

法案づくりやロビーイング資金投入をどこで

 政党、およびその支援者たちは、何十年にもわたり政策を可決することができないワシントンにイライラさせられたあげく、法案づくりやロビーイング資金投入を州にまわすようになっている。憲法修正第10条は、連邦政府に与えられた特定の権限以外は、すべての権限が州にあるとしている。ワシントンは州の決定を覆すことができるし、州は連邦法をまっこうから否定する法案を可決することはできないが、自由裁量の余地はたっぷりある。

 たとえば、議会と大統領との間に一貫した政策が欠如していた状態だったときに、多くの州が同性婚を合法化する、あるいは禁止する州法を可決した。最高裁が連邦法を確定する(Obergefell v Hodges, 2015年6月26日)前の2009年から2015年の間に、12の州が合法化を選んだ。

 ワシントンが1970年の規制物質法の制定以来、行動できずにいるもうひとつの政策領域は、マリファナ法だ。カリフォルニア州は「プロポジション215」(1996)を可決してマリファナの医療用使用を合法化する道を開いた。まもなく他の州も続き、いまでは36州で法制化されている。2012年以来、15州で成人の娯楽用マリファナの使用が解禁されているが、中央政府が動きのとれない状態にあるため、厳密に言えばいまも非合法だ(1)

 人工中絶の問題もある。最高裁は1973年(ロー対ウェイド裁判)にアメリカで人工中絶を合法化する判決をくだしたが、連邦政府は公的資金による妊娠中絶支援を行うかどうかの再検討を拒んでいる。共和党が知事も議会も握る少なくとも15の州(ルイジアナ、ユタ、アーカンソーなど)では、医療健康保険に加入できていない人々に性と生殖に関する健康サービス、すなわち、避妊、妊娠の自主的中断、不妊予防を提供する最も重要な非営利団体である「プランド・ペアレントフッド(Planned Parenthood)」に州政府の予算措置を一切停止する法が可決された(2)。逆に、民主党が強い7つの州では、メディケイド(連邦政府による貧困者への医療扶助)を使って人工中絶への予算を出すようにしたし、他の9つの州でも裁判所の命令により、この政策が実行できるようになった(3)

 気候変動に関しても政府がもたもたしているうちに、14の州議会が温室効果ガスの排出量目標を連邦政府より厳しく設定する法を可決した(4)。同じく、労働組合の弱体化をめざす共和党の試みをワシントンの民主党が阻止しているうちに、2000年以来6つの州で、労働者の組織化をはかる組合を打倒する有力な手段を企業に与える法が可決された(5)

保護がなくなるとき

 このような州の政策決定の例を、民主主義の表現と見てよいものだろうか? 予算を通すことさえできない事態がたびたび起きるワシントンの無能ぶりと比較すれば、「イエス」と断言してもよさそうにみえる。だが残念ながら、州レベルでの組織化されたこの党派勢力が、異論を唱える声を遮断する例がますます増え、民主的な代議制度を弱体化させている。

 特に、保守的な共和党が統治する州は、大都市のリベラルな民主党派の声を無視しがちだ。一方、アメリカの大都市では、州が民主党か共和党かに関わらず、同じ州内の農村地帯と比べて、人々は一般に学歴が高く、宗教にとらわれない。多様性に関してより寛大で、市政に信頼を寄せている。住民は、最低賃金や移民の擁護、レイシズムとの闘い、環境保護などの問題に対する行動に関しては、市に権限を与えている。州政府がこうした法のいずれかに異議を唱える場合、州議会には市の法を無効にする力(州法の専占)がある。

 大都市で可決された法を保守的な州が無効にした例は数百に及ぶが、在住許可をもたない移民の雇用に反対する法や、性犯罪者の追放、マリファナの医療使用の禁止など保守的な市の法律が、連邦政府や州によって無効化される例はごく少ない。

 2017年にアーカンソー州は、ファイエットビル市で可決されたLGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア)の住民と旅行者への保護を、州法を優先させて阻止した。ノースカロライナとテキサスの州議会は、シャーロットとヒューストン両市が可決した、民間企業にトランスジェンダーの市民への差別がないトイレの設置を義務づける法の執行を州法を優先して阻止した(6)。テキサス州は、オースティン、ダラス、サンアントニオ、ヒューストン各市が可決したアメリカの市民権をもたない難民を保護する法を州法で阻止し、また、連邦移民法の執行に関し、市警にアメリカ合衆国移民・関税執行局(ICE)への支援を義務づけた(7)。2010年のジョージア州と2019年のフロリダ州などほかの9つの州では(そのうちの8州で、共和党がトライフェクタ・パワーを握っていた)、公的な在留資格をもたない移民に寛容な措置を取る「聖域都市」を禁止する法を可決している。8つの州(そのうちの7州は州政府を共和党が掌握していた)では、食料品店でプラスチックの袋の使用を禁止する現行の市の法律を無効にする法を可決した(8)

 2016年には、アラバマ州が最低賃金を時給10ドル10セントにあげるというバーミングハム市の法をくつがえした。同市によるこの法律は、連邦政府が2007年以来、時給7ドル25セントからあげることができないでいることに対処しようとしたものだ。アラバマ州は、州内の市が最低賃金をあげることを州法で阻止する24の州のひとつだ。このうち22州は、共和党が単独で統治体制を握っている(9)。さまざまな州が州法で自治体の法を阻止する法を可決してきたが、その多くはALEC(10)のようなビジネス・ロビーイング協会が起草し、銃規制法や増税、ウーバーやエアビーアンドビーの規制(地方自治体による禁止令を州法で阻止することも含めて)、病気休暇や育児休暇の有給化の雇用者への義務づけ、ブロードバンド・インターネットとケーブルテレビの規制法を州内の自治体が制定することの妨害を目的としている(11)。一番最近では、いくかの州で、ネイルサロンやゴルフ場、銃器店、ビーチなど、生活維持に不可欠とはいえないビジネスをコロナ関連でロックダウンしようとする市の規制を州がくつがえしている(12)

 州法の専占は、特に共和党が支配する州が大都市を擁している場合に、自治というアメリカの信念を弱体化させてきた。地方自治は、アメリカでは長く続いている価値だが、裁判所が州に対立して市の側に立つことは、ありそうにない。懲戒的な州権力行使の中断を求める市にとって最大の希望は、連邦政府による介入のようだ。



(ル・モンド・ディプロマティーク 英語版2021年1月号より)