バイデン勝利 だがアメリカの分裂はいまなお深い

トランプ後も生き延びるトランプ主義


ジェローム・カラベル(Jerome Karabel)

カリフォルニア州立大学バークレー校、社会学教授


訳:大竹秀子


 ジョー・バイデンは、民主党と連携し、自らの政策を方向転換する必要がある。中道主義とビッグ・マネーによる支援から脱却し、恵まれないアメリカ人へと重心を移し、トランプが約束しながら実現を反故にしたことすべてを庶民に提供することが必要だ。[日本語版編集部]

(英語版2020年12月号より)

     

 数日間、最終結果をじりじりする思いで待った末、ジョー・バイデンは、ドナルド・トランプに僅差で勝利した。だがそれは、民主党が心底から願っていた、トランプ、そしてトランプ主義への決定的な否認からほど遠い勝利だった。それどころか、今回の選挙はその真逆で、民主党にとって最悪とさえ言えるところがあった。わずか3カ月で15億ドルという潤沢な資金を得て(1)取り組んだきわめて重要な上院の過半数奪還を果たせず[訳注1]、下院で議席を失い、分権的なアメリカの連邦制度において重要な権限をもつ州議会の過半数で支配力を獲得しようとする試みさえ失敗に終わった。

 受け入れがたいことだが、パンデミックとそれが引き起こした悲惨な経済状態がなければ、トランプが再選への道をたどっていた可能性は否定しがたい。トランプの絶え間ない嘘、パンデミックへの不手際、無慈悲な人柄、陰謀論への熱中、家父長的姿勢、人種の軋轢に対する対応能力の欠如と煽動の4年間であったにもかかわらず、アメリカ人は7300万以上の票を彼に投じたのだ。これは歴代の共和党大統領候補の中で史上最高の得票数(2)であり、2016年選挙の彼自身の得票数より1000万票以上多い。

 2020年2月、経済は堅調だった。失業率は記録的に最低に近い3.5%、インフレ率は2.3%、2019年最終四半期からの成長率は2.4%と好調だった。強い経済に加えて現役大統領であることの優位、そして大きな戦争が起きていなかったことから、大勢の政治学者や経済学者たちは、選挙でトランプが強力な立場に立っているという結論を出していた(3)。2020年初頭の世論調査でトランプは僅差でバイデンに遅れをとっていたが、選挙賭博市場[訳注2]でのオッズでは、3月12日(パンデミックが新聞の大見出しになりだした後の)の時点ですらトランプの方がバイデンより低いとされていたし、2月のCBS世論調査では、登録投票者の65% が トランプ再選を予測した。

 パンデミックとそれがすぐさま引き起こした悲惨な経済の沈滞によって、トランプが勝利する見込みは壊滅的な打撃を受けた。しかし、トランプ主義が国家の構成員である国民から消し去られていないことは間違いない。トランプ自身、数千万人の熱狂的なフォロワーの支持を保持しているし、Club for Growth(課税と所得再分配に反対するグループ)やFamily Research Council(人工中絶、離婚、ゲイの権利に反対する福音主義キリスト教者グループ)など右派組織のネットワーク、そしてフォックス・ニュースとブライトバート・ニュースのようなメディア機関など、彼の運動をあおる右派組織のネットワークは、現在も強力だ。きわめて重要なことに、ドナルド・トランプが強力なアピールを持つことを可能にした諸要因──一世紀以上もの間でこれまでになく根底的な人口構成の変容が進行しているこの国の中での反移民感情、人種をめぐる敵対意識、高学歴層による文化的見下し、多国籍企業とエリート層の利権に奉仕し地域社会を破壊して大勢のアメリカ国民に生活水準の低下をもたらしているグローバル化──が、なくなったわけではない。

エリートへの反乱

 トランプ主義は、グローバルに起きている政治・経済・文化的エリートに対するポピュリストの反乱であり、グローバル化と産業の空洞化で暮らしに強烈な影響をもたらされた人々にこのうえなく強くアピールしている。ジョン・ジュディスが指摘するように、右派の「ポピュリスト」運動がもりあがる傾向が強いのは、主要政党が真の問題を無視したり、軽く扱うときだ(4)。トランプ主義を可能にしたのは、まさにそうした失策だった。

 ドナルド・トランプを大統領にまで持ち上げるのに、民主党に責任がなかったとは到底、言えない。ビル・クリントンが北米自由貿易協定(NAFTA)を支援し、中国の世界貿易機関(WTO)加盟を円滑化するためのロビー活動を行ったことで、アメリカは雇用面で犠牲を払うことになった。ある推定によると、中国のWTO加盟によりアメリカの製造業は240万の職を失ったとされる(5)。その後のオバマ政権での、ウォール街に味方する財務長官の任命や2008年以降の大不況に責任を負うウォール街の幹部たちに対する訴追へのしり込みの結果、家や年金を失った何百万もの人々への保護に失敗したことなどから、民主党は庶民の利益には無関心なのだと人々が感じるようになった。労働者よりも企業に有利に働く貿易協定をしゃにむに追及することで、民主党は政治的に高い代償を払った。MITの経済学教授デイヴィッド・オーターの研究結果によると、中国関連の貿易による衝撃がミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニア各州で、トランプ勝利の票差を生んだ可能性があるという。いずれも、2016年の大統領選で彼の勝利を決した州だ(6)

 歴史的に労働者の党とされてきた民主党だが、労働者階級、中でも特に白人労働者の間での支持は、長年にわたり衰退を目の当たりにしている。このパターンは2020年も続いており、出口調査でも選挙前の最終期に行われた調査でも(7)、大学の学位をもたない白人有権者の間では67%対32%でトランプが勝っていた。トランプは特に白人福音派(キリスト教再生派)の間で人気が高く、彼らの票の81%を得たし、農村地帯の住人(65%)の支持も得ていた。

 特に目立つのは、下院選挙区の中で最も貧困な場所では、2000年以来、共和党支持が上昇し、いまでは民主党より共和党に投票する可能性がますます高まっているのに対し、裕福な部類に入る50の選挙区のうち44区で、──その中でも最も富裕な10の選挙区のすべてにおいて──、民主党議員が選出されていることだ。民主党と共和党への支持パターンに見られるこの階級の逆転は、ドナルド・トランプのいないトランプ主義の復帰に向け、豊かな土壌を提供している。だからもし、民主党が脆弱な層の保護を怠り、彼らを置き去りにするようなことがあれば、彼らは共和党を頼り続けるだろう。共和党は彼らに、移民、アフリカ系アメリカ人、外国人、そして、定義をあいまいにしたまま「エリート」と称されている有力な人々すべてを出来合いのスケープゴートとして提供してくれるからだ。

 共和党は極右の党と化し、現在、ハンガリーとトルコを統治しますます独裁化を強めている両国の現政権と同じように、多くの意味で極度に右傾化している。そしてアリゾナ州の上院議員ジェフ・フレークや、サウスカロライナ州下院議員のマーク・サンフォードのような共和党議員たちは党の主流派から外され、それ以外の議員たちは今ではトランプ主義の手中にがっちりととらえられており、今後もしばらくは、その状態に変化はなさそうだ。

「人種隔離を永遠に」

 他の資本主義民主主義国と比べて、アメリカ合衆国が提供する環境は右派ポピュリズムにとって好ましい。こうした運動が人種差別主義者に及ぼすアピールは根が深い。第三党で立ったジョージ・ウォレスの1968年の大統領選キャンペーンが驚くほどの成功を収めたのは、その一例だ。ウォレスは、アラバマ州知事に当選した時の就任演説で「今日も人種隔離を、明日も人種隔離を、永遠に人種隔離を」という有名な宣言をおこなった人物だ。ヨーロッパの多くの国でも見られる、移民に対する同種の敵対的感情、加えて、困難な経済的局面において最も弱い人々を庇う施策が貧弱な福祉国家だという現状がこれに加われば、将来のトランプ主義運動への大衆の熱狂的支持を生む要素が出そろう。

 将来におけるトランプ主義タイプの運動の危険性は、多くのヨーロッパ諸国よりアメリカの方がはるかに大きい。というのもヨーロッパで普及している比例代表制は決していつでもではないが、往々にして極右のポピュリスト政党を周辺に追いやる。オランダの自由党の、2017年の議会選挙での得票はわずか13%だったし、スペインのVox党の2019年の得票は15% にとどまった。だがアメリカでは、ポピュリスト右派が現在、二大政党のひとつを支配しており、また、小選挙区制が、いまなお第三党の出現をはばむ大きな障害になっている。このように、制度的にみて、ドナルド・トランプよりはるかに危険な扇動的政治家が今後、勃興する機は熟している。ロナルド・レーガンの広範な個人的アピールとバラク・オバマ並みの知性と統制力を併せ持つ人物が出現するだけで十分だ。さまざまなことをやりハンガリーの民主主義をむしばんできたヴィクトール・オルバーンのアメリカ版誕生の可能性を否定することはできない。

 バイデンは、この1世紀で最悪のパンデミックでよろめく、徹底的に二極化された国を背景に大統領になる。おまけに、彼にこの任務を行う能力があるかどうかは未知数だ。パンデミックは、トランプ主義出現の下地を作った格差拡大をさらに助長している。労働省によると、現在の不況は、アメリカ史上で最も不公平だ。今回の危機のただなかで、低賃金の職が失われた率は、高賃金の職の喪失の8倍に及ぶ。遠隔勤務へのシフトは高学歴者にとってはるかに有利で、危機の開始時初期に大学卒の労働者が在宅勤務をしていた人数は、高卒資格しかもたない労働者の4倍だった(8)

 一方で、アメリカでもっとも富裕な人々は大儲けをしている。アメリカ全土でロックダウンが始まった3月18日から10月20日までの間にアメリカで10億ドル以上の資産をもつ金持ち643人は、彼らの富を全財産の3分の1に近い、9310億ドルも増やした。ジョー・バイデンはこうした資金提供者から恩義を得ている。過去6カ月の間に、彼らはひとり10万ドル以上の寄付を行った人々から、合わせて2億ドルを集めたのだ。アメリカの主要な財力の中心──すなわち、ウォール街、ビッグ・テック、ハリウッド、そしてプライベート・エクイティさえ──バイデンは、自分たちの基本的な経済的利害を脅かさない大統領になるものと信じている。

 いまなお、あの情け容赦のないミッチ・マコネルが上院を仕切ることになりそうだということを考えると、バイデンは自らの立法議案のいずれを成立させようとしても、大変な困難に直面するだろう。またバイデンは上院で右派に拘束されると同時に、民主党のバーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレン派につらなる勢力により左からも深刻な圧力に向き合うことになる。この縦横の圧力とどう折り合いをつけるかは、大統領が誰であろうと能力が試される課題だが、カリスマ性を欠くバイデンのような政治家にとっては、大変な試練になるだろう。

バイデンは、アメリカの労働者の支持を取り戻せるか?

 バイデンは、マコネルに率いられ議事進行妨害をはかる議会共和党員だけではなく、副大統領として大変忠実に仕えたオバマ政権の政策からも一線を画す必要がある。トランプ主義の再発生を未然に防ぐためには、バイデンは大胆かつ決然と行動して、民主党と共和党のいずれもが過去40年間にとってきたネオリベラル政策に痛めつけられてきた大勢のアメリカ人の側に立っていることを示さねばならない。これには、彼のキャリアを特徴づけてきた慎重な中道主義からの脱却が必要になるだろう。状況の劇的な変化、民主党内で力を得ている進歩派の運動、そして柔軟な姿勢をもつ政治家という当を得た評判で、必要な方向転換が可能になるかもしれない。

 方向転換は、どのようなものになるだろう? ドラマチックで政治的に人気が高い戦略は、第2次大戦中に徴収されたようなタイプの超過利潤税をパンデミック中に大儲けをした人たちに対して課すよう、強力に唱道することだろう。さらにもっと重要なのは、バイデン政権が可決するに違いない延び延びになってきた救済策で重きを置くべきなのは、巨大企業ではなく、パンデミックによる経済の低迷で誰よりも被害を受けている人々(特に低賃金労働者、失業者、そして小企業)だということだ。もうひとつの重要なステップは、パンデミックの間に立ち退きに直面することになった何百万人もの借家人やホームオーナーたちに真の保護を提供することだろう。

 確かにそうした方策を、共和党が多数を占める上院(どちらが多数党となるかは、1月に行われるジョージア州の決選投票の結果で決まる)が承認することは、ないかもしれない。それでもこうした法案を強力に押し進めることにより、民主党は労働者階級に対する姿勢を変え、よく目に見える形で尽力をしているという信号を送り出すことになる。最低でもそうした政策課題を擁護することは、民主党の立ち位置を明確にし、きわめて重要な2022年の連邦議会議員選で、何もしない上院に対して民主党が対決することを可能にするだろう。何にもまして重要なことは、フランクリン・デラノ・ルーズベルトのニューディールの精神で庶民を志向する民主党の再生こそが、オリジナル版よりもっと有害になるであろうトランプ主義のリバイバルに対抗し得る最も効果的な防御手段になるということだ。



(ル・モンド・ディプロマティーク 英語版2020年12月号より)