米大統領選に見る民主党の苦い勝利


セルジュ・アリミ(Serge Halimi)

ル・モンド・ディプロマティーク統括編集長


訳:土田修


 今月20日、米大統領に就任したジョセフ・バイデン氏の最初の閣僚人事(外交、財政、環境)は、米政府の根本的な変化を望む人々を失望させかねないものだった。民主党はかろうじて「トリプルブルー」(大統領選挙での勝利と上下両院での多数は確保)を達成したが、下院では議席数をかなり減らした。バイデン新政権は党内左派を意識しつつ、大敗を免れた共和党に配慮した慎重な舵取りを強いられることになる。[日本語版編集部]

(仏語版2020年12月号より)

photo credit: Photo News
1月20日に米国大統領に就任した民主党のジョセフ・バイデン氏。

 米国大統領選投票日の11月3日夜、民主党候補の勝利にもかかわらず、同党の運動員の大多数は非常に悔しい思いを噛み締めていた。彼らにとって予想された通りの結果とはとても言えなかった。というのも、ドナルド・トランプ氏は敗退したものの、いくつかの州(ジョージア、ウィスコンシン、アリゾナ、ぺンシルべニア)であと数万票上積みしていれば、もうあと4年間ホワイトハウスにとどまっていられたからだ。ほんのわずかの差で勝利を逃したのだ。こうした僅差での敗北はトランプ氏を勇気づけ、「この選挙は民主党による不正選挙だ」と声高に叫ばせることになった。トランプ氏の熱狂的支持者たちは投票集計装置を攻撃した。彼らによれば、それはべネズエラでウーゴ・チャベスのために考案されたソフトウエアによる電子システムで、選挙結果を好きなようにねじ曲げることができるからだ。トランプ氏の顧問弁護士であるルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長が額から流れ出る黒い汗をぬぐいながら[メディアは髪染めなど染色剤を使ったせいではないかと推測している]、自身も賛同しているこうした根拠のない非難を声高に口にしている姿を目にすると、米国政治がどういうものに成り果てたのかが見て取れる。

 ジョセフ・バイデン氏にとって、より気がかりで深刻な事態は、共和党支持者の77パーセントが今回の選挙が不正であると信じていることだ(1)。1月20日に就任するこの大統領は、民主党が上院で過半数を取ることができず[1月6日に実施されたジョージア州の上院決戦投票で民主党が2議席を獲得し、かろうじて共和党と同数(50議席)になった]、下院で10数議席を失い、全米州議会でも勢力を拡大できなかった。こうした状況の中で共和党員の不信に立ち向かわなければならないところだった。バイデン政権は任期当初のハネムーン期間[政権発足後の100日間のことを言い、この間、議会やメディアは政権への批判を控える慣習がある]を享受できないも同然だ。12年前のバラク・オバマ氏の時よりずっと逆風の船出といえる。オバマ氏は任期中の素晴らしいスピーチと、2冊の回想録のほかには大した業績を残すことができなかったが、彼の選挙は今回のように異議を唱えられることはなかったし、全世界に夢を与え、民主党は上下両院で優に過半数を獲得していた。それに、オバマ氏はこれから大統領に就任する「寝ぼけたジョー」よりはるかに活力があり、30歳も若かった。

 皮肉なことに、未来が最も有望に見えるのはトランプ陣営の方なのだ。トランプ氏の敵対者たちは、4年前のトランプ氏の勝利は信じがたい不正な選挙運動の結果で、それは白人の最後のあがき(あるいは断末魔の苦しみ)を表しており、凋落しつつある宗教関係や農村部や高齢の有権者が肩を並べるトランプ陣営が消えゆく運命にあると考えた。

 反対に、トランプ氏の敵対者によれば、人口構成を見るかぎり、若者や多民族など過半数の「多様な人々」に支えらた民主党が雪辱を果たすことは必然的なことだった。ただ、こうした民主党の未来はもはや確かなものとはいえない。選挙基盤を確かなものにし、その周辺部でも支持を広げたトランプ流の共和党主義が政治の舞台を去ったわけではないからだ。トランプ大統領は、彼がわがものにしていた共和党のあり方を変えた。それはこの先も彼のものであるか、彼の仲間のものであるか、はたまた彼が後を託すことになる者のものであるのだ。

 民主党の失望感は半端ではない。落胆と士気低下にさえ陥りかねない。20万人以上の新型コロナウイルス感染症による死者、経済の停滞、増え続ける失業者、歴代大統領と違って4年間、一度も50パーセントを超えることがなかった支持率、それに膨大な数の嘘と大っぴらな侮辱の数々をひっさげたトランプ氏の敗北は確かなものであると思われた。また、ほとんどすべてのメディアから総攻撃を受け、その選挙資金は民主党候補を下回っていた(トランプ大統領は大金持ちに税制上の優遇措置を惜しみなく与えてきたのに不思議なことだ)。そのうえ、アーティストや将官、左派の大学人、アマゾンの最高経営責任者まで含めた米国のほとんどすべてのエリートはバイデン氏を強く支持した。

 だからこそ、11月3日に民主党員は、勝利することだけでなく、共和党に天罰が下ることを期待していた。民主党員は1980年の選挙同様、カリフォルニアで投票が続いている最中にもトランプ大統領の敗北が確定するものと思っていた。侵すべからざる進歩主義を唱えるアメリカの屈辱が本当の意味で濯がれるには、共和党が予想通りに敗北した後、トランプ・ファミリーが投獄されーーそれを求める声も実際にあったのだがーーできることならオレンジ色の囚人服姿の写真が撮られるはずだった。この筋書きは今や幻になった。フロリダ州パームビーチにあるマール・ア・ラーゴの別荘に滞在しゴルフを楽しむトランプ氏が、ずっと政治活動から遠のいたままでいるはずはなさそうだ。彼は任期途中で(弾劾裁判で)解職されそうになるなど、あらゆる侮辱を受けたにもかかわらず、4年前の選挙より1000万以上多くの票を得たことで意を強くしたトランプ氏は、自分は約束を守り共和党の裾野を広げた勇敢な大統領なのだと支持者を説き伏せることができそうだ。だが、その満足のゆく業績にパンデミックが暗雲を投げかけただけだとも……。

 ある者の熱意は他者を否定されるといっそう強まる。最も熱狂的な共和党員の「もう一つの真実」[訳注1]は、共和党内部で議論されることがほとんどない。[支持者層の違いなどから共和党員と]パラレルな世界にある民主党員が同じような欠陥を抱えているだけにそうなのだ。というのも、トランプ氏の支持者は、トランプ氏が親しんでいるメディア以外の大部分のメディアによって報道されたトランプ像と自分たちを一体のものと見なすことができただろうか? バイデン氏に投票した多くの有権者、範を示し、リードし、方向性を打ち出す高学歴者と都市住民は確かに、トランプ氏が道化師、ファシスト、「プーチンのプードル」、あるいはアドルフ・ヒトラーの後継者であると確信していた。さる9月23日、広告業界出身のドニー・ドイッチュは、MSNBC(米国のニュース専門放送局)のスター司会者に異議を挟まれることなく、トランプ氏の支持者をナチスの集会に参加する狂信的な群衆に喩えて、次のように言った。「トランプ氏に投票するユダヤ人の友人に、『よくそんなことができるね』とあえて言いたい。トランプ氏が唱えていることとアドルフ・ヒトラーが唱えていたことには何の違いもないのに」。その2日後、ワシントン・ポスト紙の論説記者もドイッチュに、ナチス独裁政権の登場と米国大統領の全体主義的傾向とを比較するのを臆するべきではないと提案し、こう書いた。「アメリカはドイツで起きた国会議事堂放火事件の一歩手前にいる。それをわれわれは止めることができる。この国の民主主義を灰燼に帰させてはいけない(2)

米メディアのパラノイア的報道

 さらには、こうした中、バイデン氏が大統領選に勝利した時、CNNテレビのスター記者クリスティアン・アマンプールは番組で、バイデン氏の勝利を喜んだり、運動の手をしばし休める代わりに、11月12日が「水晶の夜(クリスタル・ナハト)」[訳注2]の記念週間に当たることを注意喚起した。1938年に発生した「水晶の夜」ではユダヤ人商店のショーウインドーが破壊され、商店主の多くが殺害されるか、強制収容所に送られた。アマンプール記者によると、それは「現実、知識、歴史、真実」に対する攻撃の前触れであり、即刻、トランプ大統領の犯罪行為を思い起こさせる攻撃でもあったのだ。欧州もそうだが、進歩的な米国メディアもこうした行き過ぎた反応に取り合わないよう自重している。だが、トランプ氏の支持者は自分たちがパラノイアであると嘲笑されるたびに、そうした過剰な反応を思い起こすことだろう。トランプ氏支持者は既に、4年間ひっきりなしに叩かれ続けてきた途方もないロシア疑惑の真相が明らかにされないまま、大統領選挙が行われたことに注目していた。

 オバマ氏の大統領選挙は憎悪と歪曲の装置を作動させた。オバマ氏の保守に近い中道主義や緊縮財政、銀行に対する寛容策、ドローンを使った暗殺、移民の大規模な国外追放、警察官の不法行為に対するやる気のない抗議声明にもかかわらず、共和党はオバマ氏をゴリゴリの急進派で仮面を被った革命家、偽物のアメリカ人であるとして糾弾した。バイデン氏はオバマ氏同様に左寄りではないのだが、そのことは関係がない。「私は社会主義に反対してきた男だ。私は穏健派だ」と彼は投票日の1週間前にマイアミで強調した。だが、彼の任期はまったく同様にボルテージの上がった雰囲気の中で進行することになるだろう。というのも、ジャーナリストのマット・タイビが分析したとおり、アメリカの主要メディアは狂信的な支持者たちに情報を提供することなく、満足させることに気を遣っているからだ。彼らはメディアを生かすも殺すも十分な数があるからだ(3)。ニューヨーク・タイムズ紙を情報源として読んでいる人たちの91パーセントは民主党支持であり、フォックス・ニュースを見ている人の93パーセントは共和党支持だと答えている(4)。だから(メディアの)当を得たビジネス・モデルは家畜(定期購読者・視聴者)に欲しがっている飼料(情報)ーーそれがバイアスがかかったり、誇張されたり、偽造されていてもーーを与えることだ。そして、ジャーナリストは、彼らが多様性を重視している場合であっても、最後の異端者を追い払うことに専念している。

 その結果は決定的だ。ニューヨーク・タイムズ紙は民主党の思想的な補完物となり、毎日、トランプ大統領を蔑視したり、嫌悪感を示す半ダースくらいの論説記事を掲載したが、その購読部数は700万を数えている。一方、フォックス・ニュースはほとんど同じように盲目的に共和党を支持したことで、かつてないほどの収益を上げた。

 お互いを認めず、対立している二つの「国家」が存在することは米国では新しいことではない。南北戦争当時、こうした分断は経済的、社会的な階層を問わずに起こった。最近では、リチャード・ニクソンの補佐役だったケヴィン・フィリップスが1969年に地図とグラフに基づいて、「豊かになることで中流階級になり、より保守的になった米国大衆の抗議運動」を利用するように提唱した。「大衆は身分制度や、体制的な特権階級の政策と税制に反対して蜂起するのだ(5)」。収入が増えている人々の税金に対する反感と、彼らに言わせれば宗教の教えにほとんど敬意を払わない進歩的知識人の責任のあるソーシャル・エンジニアリングに対する敵意とを結びつけるこの分析に、フィリップスは人種的遺恨の要素を付け加えた。一言で言えば、伝統的に民主党を支持してきた南部の「白人貧困層」は黒人解放問題に飽き飽きしてしまっていた。そして、フィリップスによれば、そこに共和党員が庶民階層の有権者から集票するのに重要な鍵があった。庶民階層は本来的に、右派の経済政策に敵意を抱いているが、「政党の選択を説明する際に、民族的・文化的敵意が他のあらゆる理由に勝っている」。フィリップスの政治戦略によって、ニクソン、ロナルド・レーガン、ジョージ・W・ブッシュが再選された理由が説明されるし、トランプ氏が大統領職についた理由もよく理解できる。

 だが、専門家やエリート階層、移民、マイノリティを標的にした[トランプ氏の]言説は、学生の比率が増え、白人の比率が減少している国では、選挙の観点から言って危険なものになる。だから、民主党は[トランプ氏のお陰で]時が有利に働いていることを確信していた。ほとんどすべての黒人票、大多数のヒスパニック(中南米系)の票、いくらか優勢な女性票、恒常的に増えている高学歴者票を勘案すれば、民主党の勝利は確実なものだったはずだ。

 少なくとも、 2020年の大統領選には、このアイデンティティの教理、すなわち住民全体を明確な人口構成上の区分であると同時に、民族的、政治的でもある区分への振り分けを見直すというメリットがあった。というのも、前回と今回の選挙結果を比較することで、バイデン氏が4年前のヒラリー・クリントン氏に比べて得票数を伸ばしたのは主に白人有権者だったことや、今回、トランプ氏に投じられた票の多くは女性とマイノリティの票が加わっていたものだったからだ。こうした状況を見ると、2016年の選挙と2020年の選挙には大きな違いはなかった。白人男性、特に学位のない白人男性の有権者票は共和党に投じられ、黒人やヒスパニックの有権者の票は民主党に投じられているということだ(次のグラフ参照)。

共和党に投票したヒスパニック米国人

 だが、こうした展開は誰も予想しなかった局面で起きていた。トランプ氏は、警察の暴力に無頓着でブラック・ライブズ・マター運動に敵意を示していたのに、アフリカ系アメリカ人の票を増やしたし、メキシコ国境の壁の建設(一部で完成している)を進め、移民を強姦魔や人殺し呼ばわりしたのに、理解し難いことだが、ヒスパニックの有権者の票をそれなりに伸ばした。共和党員の中には、自分たちの党が保守的であると同時に、大衆的・多民族的になったと考える者がいるほどだ。そして、民主党員は、彼らが獲得したはずの支持者(捕虜とまでは言わないが)の一部が逃げ出すのを心配しだすほどだ。

 その謎はテキサス州リオ=グランデ市によって部分的に解決する(6)。そこの住民は90%以上がヒスパニックだ。4年前の大統領選ではクリントン氏がザパタ郡(テキサス州南部)で65パーセントの票を獲得した。今回の選挙ではトランプ氏が勝った。何が起きたのか? 他民族同様、ヒスパニックの住民は彼らに当てがわれたアイデンティティへの思いだけで行動しているわけではない。個別の事情として、リオ=グランデの住民はバイデン氏が石油産業に敵意を抱いていることから、高学歴でなくても高収入の仕事に就けなくなることを恐れたのだ。彼らにとって気候変動よりも生活水準が低下することの方が心配なのだ。警察官や国境警備員としてまっとうな生活を送っているこの地域の他の住民は、民主党が彼らの仕事に対する予算措置を打ち切ることを恐れている。要するに、ヒスパニックであっても人工中絶や都市暴動に敵意を抱く権利はある。特に自分たちの住む地元でそうしたことが起きている映像を目の当たりにすれば無理もない。

 結局、アフリカ系アメリカ人であってもメキシコ移民をこれ以上受け入れたくないと思っている人がいるように、ヒスパニックであっても保守的な人がいるし、マイノリティの入学を優遇する大学の措置を不安に思いながらもアジアからやって来る者もいる。民主党が頭の中で進歩的な票の加算を念入りに模索する一方、共和党は現実に起きているさまざまな分断を巧みに利用してきた。民主党と共和党の双方にとって危険なのは、それぞれが現実社会の片側しか見ていないことだ。もし、民主党に投票するヒスパニックの若者が親の世代より多いとしたら、それは必ずしも彼らが親の世代より自分たちの「アイデンティティ」を強く意識しているからではない。むしろ、彼らの多くが親の世代より高等教育を受けているからなのだ。多様性もまたこのように複雑化する土壌の中で、確かだったと思われていたものが揺らぎ始めている。

 米国は政治システムに対する自信を失っていることから、少なくとも力でそれを世界に押し付けることを断念するようになるだろう。たとえ、(バイデン氏勝利という)結果にホッと胸を撫で下ろしたとしても、今回の大統領選で勢力を伸ばすことができなかった米国左派に残されていることは、かつてトランプ氏を当選させたバイデン氏を含む民主党員のような[共和党を意識した]慎重すぎる政策を取らないように、新大統領に注意を促すことだけである。




  • (1) Sondage du Monmouth University Polling Institute, 18 novembre 2020.

  • (2) Dana Milbank, « This is not a drill. The Reichstag is burning », The Washington Post, 25 septembre 2020.

  • (3) Matt Taibbi, Hate Inc. : Why Today’s Media Make Us Despise One Another, OR Books, New York, 2019.

  • (4) Étude du Pew Research Center, octobre-novembre 2019. Les proportions pour NPR (la télévision publique), CNN et MSNBC sont aussi déséquilibrées en faveur des démocrates ; ABC, CBS et NBC les favorisent aussi, mais moins.

  • (5) Kevin Phillips, The Emerging Republican Majority, Arlington House, New York, 1969.

  • (6) Elizabeth Findell, « Latinos on border shifted to GOP », The Wall Street Journal, 9 novembre 2020.


  • [訳注1] 2017年1月22日のトランプ大統領就任式についてホワイトハウスのショーン・スパイサー報道官が「過去最大の人々が集まった」と称賛したことについて、インタビューで「なぜ明かな虚偽発言を行ったのか?」と聞かれたケリーアン・コンウェイ大統領顧問が「もう一つの事実だった」と答えたが、インタビュアーから「もう一つの事実とは事実ではない。虚偽だ」と反論された。大統領顧問が明かな虚偽を「もう一つの事実」という言葉を使って説明したことはネット上やメディアで批判や嘲笑を受けた。

  • [訳注2] 1938年11月9日夜から10日未明にかけてドイツ各地で発生した組織的な反ユダヤ主義暴動・迫害。主体となったのはナチスの突撃隊(SA)のメンバーと言われ、ユダヤ人居住地域の商店や会社、シナゴーグなどが襲撃され放火された。


(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2020年12月号より)