新しい世代のフェミニストたち

韓国人女性たちの反乱


フレデリック・オジャルディアス(Frédéric Ojardias)

ジャーナリスト


訳:大津乃子


 現代的な都市の外観と最先端の技術力というイメージとは裏腹に、韓国社会には男性優位の文化が根強く残り、女性は家族に献身的に尽くすことが求められる。2020年10月、韓国政府は人工妊娠中絶を認める法案を提出した。しかしながらその法案は、女性の権利を求めて闘ってきた活動家たちを満足させるには程遠い内容だ。古い社会規範を変えることは容易ではなく、彼女たちの闘いは続いている。[日本語版編集部]

(仏語版2020年11月号より)

ソウル夜景

 2019年4月11日、韓国の憲法裁判所はある歴史的な決定を下した。7対2で、裁判官たちは何十年にもわたって有効とされてきた堕胎(妊娠中絶)罪は違憲であるとの判断を示したのだ。これは女性たちにとって重要な勝利だった。「何年にも及んだ闘いの結果です」と話したある女性活動家は、感激のあまり声をつまらせていた。2020年10月、韓国政府は妊娠14週までの人工妊娠中絶を無条件に認める法案を提出した。その期間を超えた場合は従来通り違法となるが、妊娠24週までのレイプによる妊娠、母体に危険が及ぶ場合、もしくは「経済的、社会的な」理由による中絶は容認される。教会と伝統主義者は頑なに反対するが、フェミニストたちはこの法律はまだ懲罰的すぎると考えている。彼女たちはこの数年で起きた進歩を支えとしてさらなる闘いを続ける。

 韓国で#MeToo[訳注1]運動が始まるには時間がかかったが、社会に大きな影響を与えた。2018年の初め、女性検事のソ・ジヒョン氏は、男性の上司が彼女の体を触ったことを公に非難した。そしてそれに対して抗議した結果、自身のキャリアがどのように壊されたかを語った。他の女性たちも次々と沈黙を破り、彼女の例に倣った。政治リーダー、映画監督、アーティスト、大学教員から被害に遭った経験が堰を切ったように語られ出して大きな反響を巻き起こし、性的暴力がかつてのように黙殺されることはもはやないことを示した。

 こうした事実が明らかになると、今まで躊躇していた多くの女性たちが運動に参加し、人目をはばからずに力強く声を上げ始めた。2018年の夏、韓国の歴史上もっとも大規模な複数のデモがソウルで行われた。「私の生活はあなたのポルノ映画ではない」と叫び、女性たちに気づかれずに撮影するためにトイレやサウナといった公共の場に設置された「モルカ」と呼ばれる隠しカメラが拡散しているのに、当局が何も対応していないことを数万人の女性が告発した。これらの動画は、流出したセックス動画と同様にインターネット上で拡散したり販売されて、被害者の人生を台無しにする。警察と司法は明らかに怠慢で犯人に対して寛大であると非難されている。これらの抗議デモは2019年8月、さらに2020年5月に行われ、インターネット上の性犯罪の罰則強化につながった。

 「2018年のデモは、私が思い切って参加した最初のフェミニストの集まりでした」と、22歳のジャーナリストであるソ・ジウンは話す。というのも、韓国ではその言葉そのものがタブーなのだ。すなわち「フェミニスト」と自称することである。それにより、家族、男性の同僚、インターネットユーザーなどから激しい非難を受けることになる。「当時、私はフェミニストであることを隠していました。活動家だとみなされることが、そして標的にされることが怖かったのです。しかし状況は変わっています」。100万部以上売れたチョ・ナムジュの小説『82年生まれ、キム・ジヨン』(1)の成功が物語っているように。この小説の主人公である若い既婚女性は、極めて家父長的な社会から求められるもの、そして日常的かつ徐々にひどくなる女性に向けられる屈辱に打ちのめされてしまうのだ。

 このように、少しずついくつかのタブーは消えている。ソウルの性暴力救援センターの代表であるパク・アルム氏は「私たちが1991年にこの団体を創設した時は、『性暴力』という言葉を口に出すことさえできなかったのです」と回想する。「今では、被害者たちは話をする勇気を手にしました。それは大きな変化です」。2016年5月、ソウルの地下鉄の江南駅付近で、通りがかりの23歳の女性が、後に誰でもいいから女性を殺したかったと供述した34歳の見知らぬ男に殺害された事件は、大規模な抗議の波を引き起こした。フェミニストの作家イ・ミンギョンによる説明はこうだ。「この被害者は私だったかもしれません。この犯罪の後、フェミニスト運動は急激に拡大しました」

「堕落している」とみなされる未婚の母たち

 それから4年後の2020年4月、韓国初のフェミニズム政党が総選挙に参加した。議席獲得はならなかったが、その存在そのものが小さな革命となった。現在、国会議員の19%が女性で、韓国においては記録的だ。近隣の民主主義国家、台湾の国会議員の女性議員比率は41.6%である。

 現代的でIT技術大国のように見えるが、実は韓国社会は今でも新儒教[訳注2]の影響を強く受けている。李氏朝鮮王朝(1392~1910)にとってバックボーンの役割を果たした新儒教は、厳格な家父長制度と保守的な価値観を奨励している。すなわち女性には一生涯にわたって父親、夫、そして長男に服従する義務があるのだ。確かに、韓国は強力な民主主義の国であり、2017年には女性初の大統領となったパク・クネ大統領を、数カ月にわたる大規模で平和的な抗議運動によって罷免することができた(2)。しかし韓国は、男女平等の問題については驚くほど時代遅れである。そして韓国人女性たちは著しく低いガラスの天井[訳注3]にぶつかり続けている。

 第一子が生まれたら女性は仕事を辞めるべきだという社会や家族からの圧力は、非常に強いままだ。現在でも伝統的な嫁のあるべき姿は“hyobu”[孝行な嫁]とされている。模範的な嫁は料理をして家事を取り仕切り、子どもたちと夫と義理の両親に尽くすのだ。現代的かつ高学歴で世界に目が向いている韓国人女性の中に、こうした境遇を望む女性はもはやほとんどいない。

 未婚の母たちは、この根強く残る家父長制度の影響をまともに受けている。婚外子はまれで(2018年の全出生数のうち婚外子は1.9%。フランスでは59.1%だった(3))、激しく排斥される。未婚で妊娠すると、中絶か子どもが生まれた時に親権を放棄するように強いプレッシャーを受ける。「私の両親でさえ、私に息子を手放すようにと言いました」と、韓国未婚の母家族協会(KUMFA)の会長であるキム・ドギョン氏は証言する。「私たちは堕落しているとみなされるのです。多くの女性が仕事を失います。つまり、子どもを手放さないとますます生活は不安定になるのです。同じ学校に通う生徒の親は、自分たちの子に私の息子と遊ばないように言います。私は彼らから悪口を言われて、親の集まりに呼ばれません。私の息子の出生証明書には「婚外子」と記載されます。彼は生まれた日からレッテルを貼られているのです」

 14歳の娘を持つ若い母親で、協会のメンバーであるジョン・スジン氏もまた証言する。「私が未婚で妊娠したと知った上司は、『お前みたいなやつはここにいないでくれ』と言って私を解雇しました。同僚たちでさえ私を非難したんです」。KUMFAはこうした母親たちに財政的、心理的なサポートを行っているが、補助金は一切受け取っていない。多くの未婚の母親たちは、市町村によるいくつかの出産奨励プログラムから事実上、排除されている。ほとんどの女性が自分の家族から見捨てられ、長い間、国際養子縁組のあっせん機関の餌食となってきた。問題の多いこれらの機関では、出産前の彼女たちを受け入れて、彼女たちの苦悩につけこみ赤ん坊を手放すように仕向けていた。裕福な工業国であるにもかかわらず、韓国が多数の子どもたちを外国に養子として送り続けていたのは、この深く根付いた家父長制度のせいである。

 仕事の世界でも、家父長制度は強い影響力を持っている。経済協力開発機構(OECD)の加盟国の中で、韓国の女性はもっとも高学歴だが、もっとも不安定な雇用形態で就業しており、賃金水準は最低だ。「差別は採用面接の時から始まります」と韓国女性労働者会(KWWA)会長のベ・ジンギョ氏は説明する。「面接官が女性の志望者に恋人はいるか、結婚あるいは出産の予定はあるかと尋ねることはよくあります。就職すると女性は、自分は責任あるポストには就けないと気づくのです」。“huesik”と呼ばれるふんだんに酒が振舞われる職場の飲み会(最後は女性が接待をする飲食店に行くこともある)にも、女性が呼ばれることはない。そこは商談だけではなく、仲間内の絆を深めたり昇進を有利にする場でもある。最初の子どもが生まれたら会社を辞める可能性がある女性を雇用しないことが、多くの雇用主にとってもっとも手間がかからない方法なのだ。2018年には、韓国の大銀行のうちハナ銀行、新韓銀行、国民銀行の3行が採用試験で不正を行ったとして有罪判決を受けた。より多く男性を採用するために、女性の志望者の試験の点数を低くしていたのだ。

 看護師のように女性の比率が高い職業に就いた女性たちは、同僚と同じ時期に妊娠しないように上司から圧力をかけられる。「他の職種では、妊娠した女性を解雇して終わりです。職場における男女平等の法律は存在しますが、守られていません」と、ベ・ジンギョン氏は打ち明ける。同氏によれば、労働市場を非常に不安定にした1997年のアジア通貨危機の後、国際通貨基金(IMF)による「救援」を口実に、労働法を遵守しないことが暗黙のうちに受け入れられるようになったのだ。女性の平均給与は男性の68.5%しかなく(4)、男女格差は「先進国」といわれる国の中で最大だ。生産年齢にある男性のうち72.3%が仕事をしているのに対して、女性はわずか52%である。そして新型コロナウイルスによる危機にもっともひどく苦しめられているのは、女性の賃金労働者たちだ(5)。韓国の大企業500社の経営幹部1万5,000人のうち、女性の割合はたった3.6%である。

 しかしながら、韓国では男性よりもずっと多くの女性が高等教育を修了している。2世代前は、大学に進学できたのは男性だけだったが、今日では25歳から34歳の女性の75.7%が大学の学位を持っている。一方、男性は64.1%だ(6)。キャリアか子どもを持つかの選択を迫られ、あまりに変化しない社会からの時代遅れな期待を拒絶した多くの女性たちは、自立を選び結婚を諦めている。どうしても結婚しなければならないと考える女性は、10年前には47%だったが、現在では22%にすぎない(7)

 結婚する韓国人が少なくなり、また結婚する時期も遅くなっているため、出生数が急減している。2019年、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)は0.92で、過去最低を記録した(8)。2005年から右派の政権も中道左派の政権も実施している少子化対策には、巨額な費用がかかった。総額で1,230億ユーロも費やしたのに、驚くほど効果がなかった。目標を間違えたのだろうか? 「出生率がもっとも高かった地域が世宗特別自治市なのは偶然ではありません」と、ベ・ジンギョン氏は指摘する。ソウルの南に位置する、官公庁が集まるニュータウンの住民のほとんどは公務員であり、そのため他の職種よりも職場での男女平等が進んでおり、雇用もより安定しているのだ。

若い男性による女性蔑視

 前述の作家イ・ミンギョンは、政府が「ジェンダー間の争いに起因している出生率の低下を、頑なに経済的な観点からしか検討しない」ことに不満を覚えている。また最近、女性たちの主張が通ることが多くなっているのを見て、特に若い男性世代で女性蔑視の論調が先鋭化している。「多くの男性がフェミニストを憎んでいます。彼らは私たちを侮辱するのです」と、ジャーナリストのソ・ジウンは言う。20代の男性は、30代の男性よりもさらに辛辣だ。こうした若者の76%が、フェミニズムへの敵対心をむき出しにしている(9)

 2019年9月に『82年生まれ、キム・ジヨン』が映画化されると、インターネット上でのヘイト発言や侮辱が爆発的に増加し、この新しい社会の断絶が韓国全体に拡がっていることを白日の下にさらすことになった。自分たちを差別の被害者だと考えている男性たちは、男性中心主義を標榜する団体に集まって、長期間にわたる兵役義務を盾にして伝統的な男性の特権を正当化する。こうした論争は政治にも影響をもたらしている。フェミニストに近い考えを持つと見られている中道左派のムン・ジェイン大統領は、若い男性有権者の間で自分の支持率が急落するのを目の当たりにした。

 若年層における失業の増加と経済の停滞により、男女平等に関する対立は深刻化した。延々と続く非常に硬直した社会規範により、若い男性は結婚しようと思うと、家を買い、生まれてくる子どもたちの教育費を払うために十分に稼がなければならない。そうした財力を持たない多くの男性が、疎外されたと感じている。職場で経験したことのない女性との競争に直面して不満を感じている多くの男性が、女性が男性に期待しているものが変わったと認めることを拒否している。「若い世代の男性はまったく変わっていません。彼らは父親を見ながら育ったのです!」と、ソウルの女子学生は揶揄する。韓国の女性たちにとって、闘いはまだ続きそうだ。



(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2020年11月号より)