リビア、ロシアとトルコの草刈り場


ジャン=ミシェル・モレル(Jean Michel Morel)

作家、アラブ・イスラーム世界のオンライン専門誌Orient XXIの編集委員
近著(小説)にRetour à Kobané, Éditions A-Eurysthée, Jongny (Suisse), 2018がある


訳:生野雄一


 2011年、カダフィ大佐による独裁政権が崩壊した後、大混乱に陥ったリビアは、相争う国内勢力によって3つの地域に分断され、諸外国の介入を招く。いわばリビアの「シリア化」が進行するなかで、とりわけ、オスマン帝国の栄光への憧憬を隠さないトルコと、アフリカに軍事的な足場を築きたいロシアが、リビアを食い物にして戦利品を分け合おうと画策している。[日本語版編集部]

(仏語版2020年9月号)

3つの地域に分断されたリビア


 2011年2月の民衆蜂起、それに続く北大西洋条約機構(NATO)空軍の介入、そして最高指導者ムアンマル・アル=カダフィの死亡以来、リビアは大混乱と分断と諸外国からの干渉に見舞われている。リビア国内を分ける古くからの3地域は同胞相争う孤立地域と化した(1)。ベンガジに代議院がある東部のキレナイカ地域は、ハリファ・ハフタルの支配地域である。彼は、自らを元帥に任じ、またリビア国民軍(LNA)と自ら名付けた軍隊を指揮している。西部のトリポリタニア地域は、いささかその名にそぐわない国民合意政府(GNA)によって統治されている。この政府は国連(UN)に承認されており、政治的にはムスリム同胞団の思想に近い。南部のフェザーン地域は、さまざまな民族が暮らしており、リビアの石油の4分の1を産出している。2つの陣営に分かれたトゥブ族の民兵が支配者として君臨している。

 GNAはトルコから積極的な支援を、そしてそれほどではないがカタールからも支援を得ており、より目立たない形でイタリアとドイツからも支持されている。その軍事力の主体はファジュル・リビア(“リビアの夜明け”)連合の民兵で構成されている。これに対峙する陣営を指揮するハフタル氏は、1980年代の終わりに離脱するまではカダフィ軍の将校だった人で、彼も地場民兵やスーダンやチャドの傭兵を抱えている(仏語版本紙記事Un afflux historique de mercenaires 参照)。彼を支持する外国勢は、エジプト、アラブ首長国連合、反ムスリム同胞団の先頭に立つサウジアラビア、そしてとりわけ、地中海地域での足場を強化しようと狙うロシアである。これら諸国に加えて、フランスも、トリポリ[GNA]とは手を切ることなく、ハフタル元帥陣営の勝利を望んでいると言われている(2)。2019年7月に、ハフタル元帥の敗走部隊が残置したフランス製のミサイルがトリポリ近辺で発見されたことで、フランスの曖昧な立ち位置が白日の下に曝されてしまった(3)。1年後、タルフーナ[トリポリの南東65kmの町]で[民間人の]多数の死体が埋められている場所が相次いで見つかり、ハフタル側の民兵が略奪を犯したものとされて、ハフタル元帥を支持することがしだいに問題視されるようになった(4)。そのためフランスは、国連安全保障理事会の常任理事国としての立場上、国連が唯一承認しているGNAを支持することで国際的合意に沿うことしかできなかったとみられる。

 フランスは、今年の初めから、リビアに大軍を差し向けてきたトルコと真正面から対峙している(仏語版本紙記事Emmanuel Macron et l’«État profond» 参照)。トルコがこの地域に関心を抱く理由は、オスマン帝国がマグレブ[北アフリカ地域]を占領し、この地に3州を設け、アルジェ、チュニス、トリポリをそれぞれの首都にした16世紀に遡る。1920年に解体されたこの大帝国を今日、北アフリカに再興しようというのではないにしても、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は、ことあるごとに、躊躇なくこの大帝国の威光に言及している。そして彼は、トルコ軍が国境を越えて出動する能力があることを誇示する機会を増やしている。たとえば、シリア北部への侵攻、イラクのクルド人地域やリビアへの介入、イエメンでのトルコ軍基地建設計画、カタールへのトルコ軍派遣、アゼルバイジャン西部のカラバフ山地でのアルメニアとの紛争においてアゼルバイジャンのそばまで軍隊を進めるぞという脅し、などだ(5)。これらすべてはトルコの勢力圏を拡大したいという意思を表わしている。2018年には、トルコ政府寄りの新聞イェニ・アキット紙はトルコ軍が進駐している10カ国を列挙したうえで、「トルコはオスマン帝国の領土に立ち戻る」と主張してはばからなかった。こうした拡張主義の熱は当時海軍司令官のセム・グルデニズ氏が2006年に考案しマヴィ・ヴァタン(「青い祖国」)と命名された、ある海軍政策の復活にも具体的に表れている。この政策は、外交より安全保障を優先するもので、トルコがロシアやフランスと敵対してもGNAを支援するというのが、それを例証している。

アンカラの「スルタン」

 数次の休戦交渉(直近では2020年1月にベルリンで行われた)にもかかわらず長引く内戦に陥ったリビアは、この地域のいかなる勢力にとってもその気になれば容易に征服できるようにみえた。エルドアン大統領にとっても「戦勝」の機会があれば、次第に批判的になっている国民に対して威信を高めるのに役に立つかもしれない(6)。国民からの批判は、彼を政権に就かせたトルコ公正発展党(AKP)が2019年3月の地方選挙で敗北したことに表れており、このときは野党がイスタンブールとアンカラの市長を勝ち取った。こうした苦境を物語るように、この年、AKPは2度分裂し、大統領組織の内部においてさえ軋轢があることが明らかになった。トルコのジャーナリストのフェイム・タシュテキンが、インターネットサイトDaktilo1984において、次のように詳しく述べている。「トルコの国内政治と対外政策は絡み合っている。対外政策は国内政治にとってエンジンの燃料の役割をしている」(2020年6月21日)。

 トルコにとって、リビアは、2016年のクーデタ未遂事件までエルドアン氏の支持者であった[社会運動家の]説教師フェトフッラー・ギュレンのサハラ以南のアフリカでの組織網を手に入れて、経済的かつイデオロギー的な伸展を遂げるための「発射基地」でもある。リビアの地に足場を確保するためには、エルドアン大統領はいかなる手段もいとわない。すなわち、自国の経済が脆弱であるにもかかわらず資金援助を行い、人的支援(主としてトルコがロジャヴァ=西クルディスタンに侵攻した際に制圧したジハーディストたちを差し向けた(7))および、地対空ミサイルMIM-23ホークやドローンのバイラクタルTB2といった軍事物資の支援を行う。後者は、観測筋によれば、最近のLNA部隊との戦いにおいて効果を発揮したとされている。

 目下のところ、アンカラの「スルタン」にとってすべてが成功しているようだ。2019年11月27日には、エルドアン大統領はGNAの首相ファイズ・サラージと合意の上でリビアの大陸棚の排他的経済水域(EEZ)の線引きを変更し、トルコが地中海東部の天然ガスの採掘・調査区域にアクセスできるようにした。しかしこの区域はキプロスやギリシャが自国への帰属を主張している水域内にあり、このことがフランスを含めたギリシャと同盟を結ぶ欧州諸国とトルコの緊張関係のさらなる要因となっている。化石燃料の84.4%を輸入に頼るトルコにとって、アフリカ第3位の石油輸出国であるリビアに進出すれば石油と天然ガス資源にアクセスできるようになる。

 軍事面では、エルドアン大統領は、GNA側の4大民兵隊がLNAを排除するのを支援することで2019年4月以来トリポリを包囲していた勢力の力を削ぎ、大いに得点を稼いだ。こうして、ハフタル元帥の部隊が潰走したことで、2020年1月にGNAが手離していた沿岸の町スルト──カダフィ大佐の生地だ──を奪還するめどが立ち、また、砂漠の中にあるアルジュフラの巨大な空軍基地を取り戻すことにも道を拓いた。しかしながら、エルドアン氏の同盟者たちがこの目的を達成したかどうかは明らかではない。去る7月5日、ラファール[フランス製戦闘機]による空爆は、GNAがトルコに提供したアルワティヤの空軍基地を標的にしていた。誰がこの空爆を行ったのか分からず、最初は、エジプトではないかとされた。リビアとの国境に近いシディバッラニ基地から戦闘機を発進させることができるからだ。次いで、フランスが疑われた。2019年2月に、ハフタル元帥のLNAを前にして逃亡したトゥブ族の反逆者たちを躊躇なく爆撃したのはフランス軍だった。ついには、アラブ首長国連合による介入説が有力となった。同国は、リビアのアルカディムに基地を持ち、シディバッラニのエジプトの軍事施設にもアクセスがある。どの場合にせよ、この空爆はロシアの暗黙の了解なしには行い得ない。トルコがこの空爆に抗議をしたが、口先だけの脅しにとどまったのはこのためだ。

 実際、トルコは、この紛争を左右するもうひとつの重要な国であるロシアには気を遣っている。リビアを崩壊させた2011年の西側諸国の空爆に加わらなかったロシアは、リビアを新たな足掛かりにして、北アフリカとサハラ以南のアフリカへの影響力を広げ、また、シリアの危機に乗じて近東に築いた影響力を強化しようとしている。ロシアが提供する自国の傭兵とアサド寄りのシリア人戦闘員がハフタル氏の主たる切り札だ。何がしかの理由でこうした兵力が前線からいなくなると、ハフタル元帥は、トリポリを目前にして敗退したときのように、大いなる困難に陥ることになる。

「凍結された紛争」を望むロシア

 「リビア問題」に関して、ロシアは現実的であると同時に臆面もない動きをしている。味方を助けはするが、介入を加減しながら、味方が完全には勝利しないようにしている。たとえば、7月には、トリポリから500km離れたアルジュフラ基地の滑走路にミグ29やスホーイ24[いずれもロシア製戦闘機]が待機していた。この基地はハフタル元帥の部隊が支配しており、そこにロシアの戦闘機が来ているということは、トルコとGNAにとってはそれだけで警告になる。彼らはこの基地を奪取してフェザーン方面に進出したいのだ。そこは、石油、天然ガス、金が豊富で、大量の地下水もある。ところが、ロシア空軍は6月にトリポリの入り口でLNAの部隊が瓦解するのを防ぐために出撃することはなかった。

 シリアにおけるときと同様に(8)、ロシアはトルコに対して妥協的だった。トルコは敵陣営を支援すると同時に、何かと問題はあるがNATOおよびEUと経済的に連携し事実上の同盟関係を形成している。ロシアとトルコの対立が決して激しい衝突にならないのはそのためである。プーチン氏とエルドアン氏の間には一種の矛盾を孕んだ同盟関係が成り立っている。シリアとリビアに関して、両国の利害は常に一致しているわけではないが、両者はどこまでが対立の許容範囲かを、お互いに知っているようにみえる。

 ロシアは完全に「凍結された紛争」を良しとしている。すでに、ウクライナ、ジョージアあるいはモルドバでそれを証明している。この費用の掛からないやり方で、ロシアはこれら3カ国に対して国を不安定にするような影響力を保持しつつ、各国がEUやNATOに加盟しようとするのを阻止している。ロシアにとって、(シリアでもそうしたように)リビアにおいて、いくつかの軍事基地を手に入れるまでの間、またひとつ「凍結された紛争」を有することは、現実的なアプローチだ。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が和解を促す発言をする一方で、勝者も敗者もなく、ひそやかに戦争を続けることはロシア政府の既定路線のようだ。

 ということで、リビアでは「シリア式」の状況がみえてくる。つまり、トルコとロシアが、この国をそれぞれが影響力を持つ区域に分け、一種の共同統治を行ない、戦利品を分け合うのだ。おそらく公平な分け方ではないだろうが。「即時無条件で停戦し、リビア全土で進行中の軍事的な強化を中止するように(9)」とのフランス、イタリア、ドイツによる最近の呼びかけにもかかわらず、ドナルド・トランプ米国大統領がこの問題にとりわけて関心がないなかで、情勢を変えることはできないだろう。態度を二転三転させるエジプトのアブドルファッターフ・アッ=シーシー大統領が、6月6日には、「外国傭兵」の退去と民兵部隊の解体を条件にした停戦提案を行い、次いで6月20日には陸軍を介入させると脅したが、情勢は変わらないだろう。シナイ半島でのジハーディストの反乱を抑えきれないでいるエジプト軍のこの脅しには信憑性がない。それに、エジプト議会が7月に承認したのは、「武装した犯罪者である民兵と外国人テロリスト分子」を抑えるために国境を越えて「西方の前線」(リビアを指す)に軍隊を展開することだけだった。

 トルコとロシアの力関係がどう変化しようが、リビアの行く末は、脇役に成り下がった国内の対立勢力のあずかり知らないところで決まっていくだろう。ベルリンでの停戦交渉には、サラージ氏もハフタル氏も招かれなかった。ましてや、リビア国民の意見が求められることは全くなかった。



(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2020年9月号)