ジョージ・フロイドの死が顕わにしたアメリカの不平等

黒人の貧者がミネアポリスで生きるということ 



リチャード・カイザー(Richard Keiser)

カールトン大学(ミネソタ)教授(専攻:アメリカ研究&政治学)、ミネアポリス在住

訳:大竹秀子 


 無抵抗の黒人男性に対する警察の暴力の現場を生々しくとらえた衝撃的なビデオがオンラインで拡散したことで、全米を揺るがす抗議運動を生んだジョージ・フロイド殺害事件。現場となったミネアポリス在住の著者が、事件の背景となった、特定のグループの人々を「処分可能」とするシステムのありようと、社会の認識、それを体現し、利を得る形でのミネアポリス警察組合の横暴の軌跡をたどり、抜本的警察改革への限界を指摘する。[日本語版編集部]

(英語版2020年7月号より)


Black Lives Matter by Jeff Kopp


 ユージーン・マッカーシー、ヒューバート・ハンフリー、ウォルター・モンデール、ポール・ウェルストーンを米上院に送りだしてきたミネソタ州。同州が共和党大統領候補に票を入れたのは、1972年のニクソンが最後だった。このような背景をもつ州で、ジョージ・フロイドの殺害が生じ、市民による抗議行動や散発的な暴力を引き起こしたことは驚異に見える。だが、ミネアポリスと[州都]セント・ポールを合わせてツイン・シティ(双子の都市)と呼ばれる都市圏で暮らし、事情をよく知っている住民にとって、これらの激動的事件は予測できないことではなかった。

 ミネソタは、教育水準、幸福度、収入、コミュニティにおいて全米最良の州のひとつに数えられている。だが、ティム・ウォルツ州知事が暴動の起きた夜が終わって、述べたように「もしあなたが白人であるならば、こうした統計はすべて正しい。だが、そうでないなら、最下位に近い」(1)。ミネソタは、大学の学位をもつ黒人人口の割合では、50州中39位、黒人就業者では45位、家を所有する黒人では48位だ。ミネアポリスの白人世帯の平均所得は、年に9万9500ドル、黒人世帯は2万8500ドルにとどまる。白人と黒人は分断され、かつ不平等なのだ。

 ミネアポリスは、その典型だ。1970年代以来、アメリカのいたるところで人種的不平等が増大している。新型コロナウイルスのパンデミックは、人種的不平等のために、白人よりも黒人の方が死亡する可能性が高いことを人々に思い起こさせている。とはいうものの、ウイルスは多くの人々から職と通学を奪った一方で、連夜、抗議を行う時間を与えてもいる。暴動の常として、抗議を行う人たちの大半は平和的で、自分たちがそこからほとんど出ることもない地元の建物や店に損害を与えるにとどまった。だが今回、富裕層を顧客対象とするショッピングエリアやレストラン街を破壊し、何ブロックも先の銀行を襲撃したのは異例だった。

「黒人のくせに運転する」ことの罪

 人種的不平等は当然、警察の取り扱いにも表れる。アメリカの警察活動は一般に、州や連邦政府ではなく、市や郡政府に所属している。警察のハラスメント、さらにはジャマール・クラークやフィランド・カスティールのような黒人男性の警察による殺害には──いずれの事件でも警察は無罪判決を獲得している──長い歴史がある。ミネアポリスの住人のうち非白人は40%しか占めていないにもかかわらず、警察が武力行使を行った全事件のうち74%は非白人が対象とされ、そうした事件の63%で黒人に対する武力が行使されている。郡の公選弁護人事務所が2018年に行った調査によると、黒人人口が全人口に対して占める割合が19%にとどまり、白人人口が65%をしめる市で、警察に車を捜索されたドライバーの4人中3人は黒人だった。

 警察がドライバーを捜査する場合も、対象となるのは76%が黒人で、白人は13%だ。警察には広範な自由裁量があるので、ほとんどどんな理由で通行中の人々を止めても正当化される。大半の黒人は、自分たちが疑惑をもたれる原因は肌の色であり、アメリカのどこの都市でも耳にする言い回し、自分たちが有罪なのは「黒人のくせに運転する」からだと言うことだろう。警察に対する黒人の不信感は、ツインシティでは通常のことで、アメリカの黒人たちは、警察の起源が歴史的にみて逃亡した奴隷を再捕獲するための奴隷パトロールだったことをすぐに思い起こす。

 警官組合は現在、ミネアポリスおよびアメリカの主流メディアにおいてスケープゴートになっている。組合というものは、すべからく、組合員を不当な扱いから守るべき存在だ。だが、ミネアポリス警官組合委員長のボブ・クロール警部補は、民主党の歴代の市長および彼らが任命した警察本部長が行った、暴力的な警官に懲罰を科そうとする試みのすべてに反対することで、部下たちから忠実な支持を得、再選を果たしてきた。ジェイコブ・フレイ市長は、「ミネアポリスでは、変革に熱心に取り組む警察本部長や公選された役職者たちは、長年にわたり、警察組合による警官への擁護ならびに説明責任追及を著しく限定する法により妨害を受けてきた」と語っている(2)。フレイと前警察本部長のジャネ・ハートーのいずれもが、悪徳警官の解任を阻んだとして組合を非難している。過去何十年にもわたり、告発された警官は組合の仲裁プロセスを通して、つねに自己防衛のため、あるいは正当な理由に基づいて行動したのだとして守られてきたと言う。

 フロイドの首を9分間近くも膝で押さえ続けた警官デレク・ショーヴィンは職歴20年の警官だが、職権乱用の告発を17回受け、2007年に起きた警察による暴行に対する訴訟で告発された。告発のうち16件は、懲罰を受けることなく幕引きとなり、市と組合との間でかわされた契約に基づき、市民には詳細が知らされなかった。残りの告発に関しては、2通の戒告処分通知書が出された。

 そばに立ちショーヴィンを見ていた警官3人のうち2人は、警察部隊に入ってまだ1年未満だった。3人目のトウ・サオはこれまでに6回提訴されたが、うち5回の告発は免訴となった。彼は手錠をかけられた囚人への殴打をめぐる2017年の訴訟で告発された2人の警官のひとりだった。市は、この事件を2万5000ドルで示談にしたが、彼は組合に守られ、警察による懲戒処分を一切受けなかった。

警察組合の邪魔だて 

 組合のクロール委員長は、2019年のドナルド・トランプ支援集会でトランプと共に舞台に立った人物だ。彼の見解では、市で政権を握っているリベラルな民主党は、市内の暴力の鎮圧にあたらせるべくもっと多くの警官を雇用することを拒否して、警察を見放した。ここで重要なのは、この見解が全米各地でリベラルな民主党に不信感を抱いている警官たちの、自分たちは矢面に立たされているという意識を反映していることだ。歴代の警察本部長たち(市長により任命される。他市から雇用されることも珍しくない)は、危機回避策を教えたり、無意識の「暗黙の先入観」による偏見を根絶するプログラムを制定してきたが、組合は抵抗し、そうした努力を妨害してきた。

 市当局者たちは、警官が市の住民たちに共感を抱けるよう市内に住むことを義務づけたが、警察は州議員たちにロビー活動を行ない当該法の廃止に成功した。ミネアポリス警察職員の92%は現在、市外に住んでいる。フレイ市長は、黒人市民はすべて脅威であるとみなす態度を変えさせようとして、「殺人学」と呼ばれる戦闘員スタイルの警察訓練を断固、禁止した。

 クロール委員長は、フレイ市長が拒否したプログラムに含まれていたトレーニングを組合の資金を使って無料で実施して、危機回避策への反対を表明した。クロールは、「危機回避策はミネアポリス警察ではうまくいかないだろう」、なぜなら、ミネアポリス警察の性格にあわないからだと述べた。「後ずさりを教えるトレーニングは、自然じゃない。相手を取り押さえて『おとなしくしろ、でないとブタ箱行きだ。必要なら力づくでやるからな』と言えないことで、警官は大変なストレスを負う」(3)

 クロールはジョージ・フロイドを「暴力的犯罪者」と呼び、抗議者たちをミネアポリスの「テロリスト運動」の一部だと評した。クロールの部下たちは彼に忠実だ── 彼は前回の組合選挙では対立候補なしで立候補し、後継者を指名している──というのも、彼はいかに残忍で人命を奪う行動であろうと部下を守るからだ。これは全米各地の警察組合でも共通している。

 ミネソタ州および全米各地の主要組合は、警察組合とは連帯しないというシグナルを送っている。しかし、警察当局が警察組合に加担していること、そして警察組織をあげて組合を選んでいるという事実は、組合への非難を急ぐあまり見落とされてきた。クロールはまもなく組合を離れるが、ミネアポリスであろうとどこであろうと、警察官の募集において、威圧的暴力や人種偏見、他者への共感度が評価項目に含まれるようになるまで、警察組合の文化は変わらない。

「警察への資金打ち切り」の動き 

 これから、どうなるのだろうか? アクティビストおよびミネアポリス市議会が主導する「警察への資金打ち切り」運動は、勢いを増している。このスローガンが何を意味するかは明確にされていないが、警察に割り当てられてきた予算を社会サービスや、地域社会が選んだメンタルヘルス・サービス提供者に回し、家族やコミュニティの問題は彼らに対処させる(暴力犯罪には従来通り、ミネアポリス警察が対応する)という意味で使われている可能性もあるし、ミネアポリス警察を解散してまっさらからやりなおすという意味なのかもしれない。だが、後者の考えには大喜びする人もいるだろうが、おびえる人の方がずっと多いことだろう。

 ミネソタ大学ミネアポリス校、ミネアポリス公園理事会などは、ミネアポリス警察との契約を破棄した。警察は大学のスポーツイベントのパトロールに雇用され、校内の暴力事件に対応し、コンサートを監督してきた。こうした仕事は、警官のつましい平均給与6万100ドルの足しになることが多い。契約のキャンセルは、体制側が少しは行動を起こしたとして、人々を驚かせたが、アクティビストたちは、満足していない。今は期限が切れて無効になっている警察組合の[上記の学校や公園などとの]契約が再交渉されるときが来れば、警官たちは簡単に手にはいる副収入を回復するために、クロールが阻止してきた変化を受け入れるかもしれない。

 知事は、ミネアポリス警察が非白人種に対して差別的な扱いをしているという告発をミネソタ州人権部に調査させている。州は市より上位の権限を有するので、州人権部は、市に具体的な変革を命じたり、ミネアポリス警察と組合に対する一時的指揮権を手にすることもできる。

 警察による黒人殺害が有罪判決を得ることは、アメリカではきわめてまれだ。黒人の命はいまなお大事だとされていないためだ。ブラック・ライブズ・マターが変えたいのは、まさにそこだ。ミネアポリスで大勢の抗議参加者たちは被害者の名前のリストを呼びあげているが、その名はジョージ・フロイドで終わらず、エメット・ティル[訳注]をはるかにこえて過去にさかのぼる。

 これはアメリカだけではなく、すべてのネオリベラリズムの国における大きな問題だ。アメリカの黒人、ヨーロッパの移民、先住民、ホームレスに関わる問題なのだ。現代資本主義と現代ナショナリズムがあいまって、市民と権利の定義を変え、その命を国が抹消することができる処分可能な人々というカテゴリーを生み出し、それが広く受け入れられている。

 このグループに属する人々は、倫理にもとる行動をとっていると定義づけられている。怠け者のホームレス、第一世代のうちに英語をマスターすることができなかった移民、白人至上主義という文化体制を拒み、社会秩序に挑戦する非白人の人々がこれにあたる。選挙の洗礼を受けた指導者たちは、警察や法の改正に本気で取り組んで処分可能と定義された集団を守ろうとはしないだろう。

「処分可能」のお墨付き 

 ショーヴィンがフロイドの首を膝で押え続けて命を奪う場面を映したビデオの存在だけでは、彼とその共犯者たちへの有罪判決が得られないかもしれないのは、そのためだ。被害者の過去に少しでも「犯罪的」行動があれば──解剖で体内にドラッグが検出されたり、たばこをバラで売ったり偽札を使ったことがあるというようなささいな行動でも──アメリカの白人の過半数が、その人に「処分可能」のお墨付きを与えるのに十分なのだ。薬物犯罪の過去がある(「麻薬戦争」後は、大変多くの人々がこれにあたる)、あるいは経済的不安のために罰金未納の黒人は、価値がなく、消去可能で、いなくなってかまわない存在とされる。陪審員の人種的構成が判決を多く左右する。

 たとえ警察が有罪とされた場合でも、白人リベラルと保守派は、樽自体が腐っているとはみなさず、たまたま不出来なリンゴが1個まじっていたと見るだけで、警察は白人ミドルクラスの暮らしを守る立派な仕事をしているという警察への信頼へと舞い戻っていくことだろう。その点では、ミネアポリスの警察と、ニューヨークやパリ、シドニー、リオの警察とはなんら変わりもない。


  • (1) Press conference, 31 May 2020.

  • (2) Quoted in David K Li, 'State of Minnesota files civil rights charge against Minneapolis Police Department', NBC News, 2 June 2020. 

  • (3) Quoted in Ryan Grim and Aida Chávez, 'Minneapolis police union president: "I've been involved in three shootings myself, and not a one of them has bothered me"', The Intercept, 2 June 2020. 


  • [訳注] 1955年にミシシッピ州で惨殺された当時14歳の黒人少年。北部シカゴからミシシッピの田舎町の親戚を訪問したエメット・ティルは、南部の黒人差別の深刻さを知らず、買い物に立ち寄った白人夫婦が経営する食料品店の店主の憎悪を買い、拉致され惨殺された。店内で経営者である白人女性に口笛を吹いたとも言われている。殺害後、川に捨てられすっかり変形した遺体をティルの母親は隠さず、葬儀で棺のふたをあけて会葬者に見せることで、差別の不正を世に問い、全米に大きな反響を生んだ。


(ル・モンド・ディプロマティーク 英語版2020年7月号より)