米国政府における復活 


セルジュ・アリミ(Serge Halimi)

ル・モンド・ディプロマティーク統括編集長

(仏語版9月号論説)

訳:土田修 



 2008年にバラク・オバマ氏が中道派のベテラン政治家ジョセフ・バイデンを自らの副大統領候補に指名したのは、慎重さを重視した結果のように見えた。民主党はイラク戦争に反対する進歩派の黒人であるオバマ氏をジョージ・W・ブッシュ氏の後継候補に選出することで急激な変化を表明していたからだ。今年11月、大統領の座に登りつめようとしているのは、今度はバイデン氏の方だ。ところで、彼には熱意を感じさせるものが一切ない。副大統領候補のキャスティングでは、彼よりも大衆の熱狂を集めることのできるシンボル的女性を選ぶことが求められた。それも政治的急進派の候補ではなく、政治的対立を「包摂」するような候補だ。こうしてバイデン氏は、ジャマイカ人の父、インド人の母、ユダヤ人の夫を持つ移民の娘カマラ・ハリス氏を指名した。

 ここでバイデン氏の果敢な挑戦は終わった。カリフォルニア州選出の女性上院議員であるハリス氏は、型通りでご都合主義的な政治家だ。確固たる個人的野心と、億万長者から資金調達する熟達した才能の権化としてその名は知れわたっている(1)。ニューヨーク・ウォール街の株価は、バイデン氏が民主党予備選でバーニー・サンダース氏に勝利した3月に既に大幅に上昇したが、ハリス氏の副大統領指名によってさらに上昇した。彼女は昨年末、民主党予備選から撤退するという手痛い失敗を経験したが、彼女を指名し、彼女がその後継者になるかもしれないバイデン氏という人物のおかげですべてがうまくいきそうだ。タイミングも良かった。ハリス氏はバイデン氏とほぼ同じ政治的主張を持っている。アメリカは偉大で美しく、若干の改革があればもっと良くなる。アメリカの価値は世界に希望を与え、アメリカとの軍事同盟は独裁者から自由と民主主義を守っているという考えだ

 バイデン氏とハリス氏は、2期大統領を務めたオバマ氏より多くのことを成し遂げることを約束をしていない。少なくとも彼らは、オバマ氏が2008年6月の民主党予備選の後に発したような不用意な主張を口にすることはないだろう。オバマ氏は「われわれはこの日を思い出し、海面上昇が緩やかになりはじめ、地球は救われつつあると子どもたちに語ることができるだろう」と語った。オバマ氏がドナルド・トランプ氏に大統領職を譲った時、子供たちは成長していたが、海面上昇は緩やかにはなっていなかった。

 バイデン・ハリスという「チケット」(正副大統領候補の組み合わせ)戦略は、たとえどれほど選択の幅が制限されていたとしても、少なくとも有権者をわくわくさせようという狙いが込められていた。現職大統領をホワイトハウスから追い出し、ならず者に冒涜されたと民主党が感じている制度を立て直すことだ。民主党の指導者の1人は最近、「プーチンはヒットラーである(2)」と述べた中で、トランプ氏をベニート・ムッソリーニに譬えている。こうした嫌われ者の対抗馬が11月に民主党の有権者を投票所に向かわせることになるのだろう。

 大半の欧州諸国の政府も「正常な」大統領が米国政府に戻ってくることを望んでいる。無教養で人を罵倒する人物であっても、欧州諸国は米国のリーダーシップから逃れることができない。それだけに、米国が民主的な政府に立ち戻り、欧州諸国にもっと配慮した処し方をすることを思い描いている。そしてまた、民主主義や「自由な世界」、西洋の価値観についての当たり前の発言が信頼性を持つよう期待している。とはいえ、トランプ氏が再選されるようでは世も末だというだけの理由で、こうした「正常な」大統領の復活を喜ぶべきなのだろうか?


  • (1) Michela Tindera, « Billionaires Loved Kamala Harris », Forbes, New York, 12 août 2020.

  • (2) Selon M. James Clyburn, un des chefs de la majorité démocrate à la Chambre des représentants, le 2 août dernier sur CNN. 


(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2020年9月号より)