われわれは皆、子どもだ


セルジュ・アリミ(Serge Halimi)

ル・モンド・ディプロマティーク統括編集長

(仏語版5月号論説)

訳:土田 修



 力を持つ者たちの世界はまたもや地に落ちた。それは、われわれ大衆のせいではない。大戦後の全国抵抗評議会 Conseil national de la résistance[訳注1]の経済・社会綱領を思い起こしてみるといい。それに、ニューディール政策における労働組合の諸権利獲得と大規模な土木工事もそうだ。だが、当時、フランスのレジスタンス運動員の多くはまだ武器を持っていたし、一般大衆は「レジスタンスから革命へ」というスローガンがなんとか実現することを願っていた。それは日刊紙『コンバCombat』[訳注2]のスローガンでもある。フランクリン・ルーズヴェルトの方は、米国の一部の経営者を、労働者が反乱を起こし、社会的混乱が続けば、彼らがこよなく愛する資本主義が吹き飛んでしまうと説得した。つまり、経営者らに譲歩を求めたのだ。

 今の状況はそれとはまったく違う。自宅に閉じ込められ、子ども扱いされ、茫然自失に追い込まれ、相次ぐ報道によって恐怖を掻き立てられた国民は、従順で意気消沈した傍観者に成り果てた。外出禁止令によって仕方なく、通りから人影が消えた。フランスの「黄色いベスト」運動も、アルジェリアの「Hirak(大衆抗議運動)」も、ベイルートやバルセロナのデモ行進も姿を消した。まるで嵐の雷鳴に怯える子どものように、われわれは政府が自分たちにどのような運命をもたらそうとしているのかただ待っているだけだ。というのも、病院も、マスクや検査も、糊口をしのぐための給付金の支給も、どれも政府の思惑次第だからだ(1)。外出の権利も同様に、「誰が、いつ、どんな方法で、誰と」外出するのかは政府の判断に属する。政府はあらゆる権力を握っている。時として医者や雇用主でもあり、われわれに刑罰を科す裁判官にもなり、外出禁止の期間と罰則を決める。4月13日に共和国大統領が11のテレビ放送を使って行った演説を、ワールドカップの視聴者の2倍に当たる過去最多の3700万人のフランス人が聞いたとしても驚くには当たらない。その夜はテレビを見る以外に何もできなかったからだ。

 さらに驚くべきことは、権力者たちが自らどこへ向かおうとしているのかよく分かっていないことだ。彼らが決めることは、それが論理的に矛盾していても、反論を許さない。たとえば、マスクだが、政府はマスクの在庫がない時には「マスクを着用しても役に立たない」と言い続けた[訳注3]。在庫ができたら、今度は「命を救うのに役に立つ」と言いはじめた。「ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)」が義務付けられているが、安全を保つ距離は[フランスは1メートル以上とされるが]フランスからベルギーに移動したり、ライン川を超えてドイツに入ると1.5メートルになり、大西洋を超えて米国にたどり着くと2メートルに変わる。そのうちに権力者たちは、どのような年齢や体格なら外出禁止にすべきかを、われわれに宣告することだろう。コロナ後に「シニア」とか「重量オーバー」と言われるよりは、コロナ前に「年寄り」や「太っちょ」と言われた方がまだマシだった。以前は年寄りも太っちょも自由に出歩くことができたからだ。それに、家で孫たちと距離を取るように言われ続けている退職間際の老教師たちが、小学校で児童たちから感染しなくなったのはなぜなのかもそのうち分かるだろう。

 いつの日か、われわれはもう一度、経済的・社会的なものを含む別の選択の意味を理解し、自らに課すことのできる“大人”になるだろう。目下のところ、われわれは殴られても殴り返すことができない。また、虚空に向かって語りかけており、そのことをよく知っている。そこから現在の不快な雰囲気ややり場のない憤りが醸成されている。部屋の真ん中に火薬の入った樽が置いてあり、誰かがそれに火を付けるのを待っているかのようだ。幼少期の次に、思春期(反抗期)が来るはずなのだが……。


  • (1) 米国では、1人当たり1200ドル(約13万円)の小切手が数千万人の国民に発送されるが、そこにドナルド・トランプの名前が記載されている。


  • [訳注1] 1943年、ジャン・ムーランによって設立されたフランスのレジスタンス統合組織。1944年に採択された綱領ではレジスタンス活動に関する事項のほかに、「国土解放の暁に採るべき施策」として社会・経済改革の項目リストを掲げた。

  • [訳注2] 第2次世界大戦中、連合国軍がドイツ占領軍からパリを解放する戦いが始まった後の1944年8月、アルベール・カミュが編集長となって発刊されたレジスタンス運動の地下日刊紙。ジャン=ポール・サルトルやアンドレ・マルロー、レイモン・アロンらが寄稿している。「レジスタンスから革命へ de la Résistance à la Révolution 」は同紙の有名なスローガン。

  • [訳注3] フランスのニュースサイト『メディアパルト』は「マスク、国家の嘘の証拠」(4月2日付)という記事で、政府は3月、「マスクは感染防止に役に立たないから市民は着ける必要がない」と言い続けたが、医療関係を含めマスクの在庫がなかったのに大量発注を怠った事実と責任を隠すための嘘だったと報じた。この件でアニエス・ビュザン前健康大臣とエドゥアール・フィリップ首相が共和国法廷に訴えられている。


(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2020年5月号より)