コロナ感染症と気候変動問題


フィリップ・デカン(Philippe Descamp)

本紙記者

ティエリー・ルベル(Thierry Lebel)

水気候学者、
開発研究所(IRD)および環境地球科学研究所(IGEグルノーブル)研究局長、
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)研究活動参加者


訳:村上好古


 感染症の流行には始めと終わりがあるが、気候変動問題はこれを放置すると、後戻りのできない破滅的な状況に至る。新型コロナ感染症の流行に直面した私たちは今、これから何を学び、着実に亢進する気候変動問題にどう取り組めばよいのか。[日本語版編集部]

(仏語版2020年5月号より)


John Crossley. – « The Lookout » (Le Guetteur), 2015
© John Crossley - Eames Fine Art Gallery, Londres

 2020年3月、公衆衛生上の危機の問題の陰に隠れて、気候変動に関するニュースはあまり報じられなくなった。しかしながらこの月は、平均気温が10カ月続けて平年を上回ることになった月として特筆されるだろう。1900年以降の記録を保有するフランス気象台は、「国単位で見て、10カ月も『暑い』状態が続くなどということは、かつてなかった」と指摘する。昨冬は、12月と1月の気温が平年を2℃、2月は3℃上回り、記録という記録が更新された。ほっとすることがあるとすれば、一方で大気の透明度が驚くほど改善されたことだった。北インドのいくつもの街の地平線にヒマラヤが再び見られるようになり、リヨンの平地からモンブランが望めるようになったこと、それが小さな希望の光だった。

 生産活動の相当部分が停止されることで、今年、温室効果ガス(GES)の排出量がかつてないほど低下するのは間違いないだろう(1)。しかしながら、これで歴史的にも低下傾向が始まろうとしていると本当に言えるだろうか? COVID-19は、私たちの文明のひ弱さ、つまりグローバル経済の成長モデルに付随する数々の脆弱性――これらは超分業化や人と商品、資本の絶え間ない流れに起因している――を露わにしたが、「健全な電気ショック」を引き起こす起爆剤になるのだろうか。2008年の金融・経済危機もまた温室効果ガス排出量の著しい低下をもたらしたが、この後すぐに記録ずくめの増加が始まったのだった。

 公衆衛生が今危殆に瀕している状況は、将来起こり得るより重大な危機の前触れだ。同時にその姿は、迫りくる気候上の混乱状況(カオス)の縮図であり、早送りで見せる実験でもあり得る。またそもそも公衆衛生上の問題となる以前に、病原体となるウイルスの増殖は人間の自然支配という生態系の問題と関係している(2)。とどまるところを知らない新たな土地利用が野生の世界の均衡を崩し、その一方で、飼育場における動物の密集状態は、感染症を流行させやすい。

 このウイルスは当初先進国で広まった。その拡散の速さが海上あるいは特に航空交通網に強く依存しているからであるが、これらの発達はまた、温室効果ガスの排出増加要因のひとつでもある。予防的な施策を考慮しない短期的な論理では、[ウイルスの拡散と温室効果ガス排出に関する]このふたつの分野において、個人の所得の大きさ、また比較優位や競争原理に応じた「優位性」が、人類を自滅させる力を持つことが示されている。たとえば、ある国の住民あるいは地域で感染症が他よりも拡散しやすいと明らかになる、するとその流行が順々に世界全体に広がって行く。これと同様に、温暖化は二酸化炭素排出量の最も多い国に止まっていたりなどしない。

 したがって国際的な協力が極めて重要になる。ウイルスを、また温室効果ガスの排出を地域レベルで食い止めても、隣国が同じことをするのでなければ意味がないだろう。

 目の前に分析データを積み上げられると、知らぬふりをするのはむつかしい。ウイルス学においても気候学においても活発に研究が行われており、利用可能な情報は絶えず正確性を高めている。COVID-19の場合は、幾人もの専門家が何年も警告を発し続けており、中でもコレージュ・ド・フランスのフィリップ・サンソネッティ教授は、21世紀の重大な脅威として感染症の勃発を挙げていた。明白な警鐘となった例は、枚挙にいとまがない。1997年のH5N1、2009年のH1N1といったインフルエンザウイルスや、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS-CoV-1)、そして2012年の中東呼吸器症候群(MERS-CoV)などのコロナウイルスがそうだ。同様に、40年前にアメリカの上院に提出されたチャーニーレポートはすでに、大気中における温室効果ガス濃度の上昇がもたらし得る気候への影響について警告している。知見を共有し共同行動をとるための多国間の枠組みも30年ほど前に出来上がっており、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)、気候変動枠組条約(UNFCCC)がある。また、科学者は、高まる温暖化の脅威に直面する政策決定者や社会に情報を提供するため、労を惜しまずにいる。

 危機時のシナリオもある。COVID-19が出現すると、何人もの研究者や公衆衛生当局がいちはやく、大流行に至る危険性を警告した(3)。皮肉なことに、2020年4月中旬時点で、最も影響を免れている地域は中国に最も近い国々になっている。台湾では死者6人、香港では4人、マカオ、ベトナムではゼロだ(4)。2003年のSARS禍で痛手を受け感染症流行の危険に敏感であることから、これらの国々はただちに、そのリスクを引き下げるために必要な手段を講じたのだ。公衆衛生上の入国制限、大量検査の実施、罹患者の隔離、感染の可能性のある者に対する検疫、広範なマスク着用、などだ。

 ヨーロッパの各国政府は、自ら重要度がより高いと考える施策にそれぞれ取り組んできた。フランスでは年金改革、イギリスではBrexit、イタリアでは殆ど終わりの見えない政治の混乱……。それが今度は、もっと早く数カ月前に講じておかなければならなかった方策や行動を、これから数週間のうちに実現する、と約束したのだ! これまで等閑視していたせいで彼らは、いつか適当な時期に行っていればこれほどではなかっただろう、極めて過酷な方策をとることを余儀なくされた。経済、社会の面でも、国民の自由の面でも甚大な影響なしでは済まされない。こんな有様の国家が、気候変動に関する2015年のパリ協定の枠組みの中で約束したことの実現を常に先に延ばし、あるいはアメリカ大統領のように各国間で署名したものを否認し、時間稼ぎをしようとしている。いや、彼らはその時間を失っているのだ!

影響発現の遅行性と「正のフィードバック」が環境負債を深刻化する

 外出禁止令の前のヨーロッパでウイルスの拡散が突然その勢いを強めたことは、記憶に留めておかなければなるまい。自然の体系というものは、大きな変動に会うと、その後これまでの延長線で発展を続けることはまずない。こういった事態に対しては、制御不能になって後戻りできなくなるくらい問題が大きくなる前に、自然が均衡を失っていることの最初の兆候を察知し考慮に入れることができるようでなければならない。要介護高齢者施設(EHPAD)の職員や介護スタッフ自身が、防護手段もなく検査も受けないまま放置され、ウイルスの保菌者になると、非常に感染しやすい集団の中に、公衆衛生システムそのものの崩壊を招きかねないクラスターが生まれる。そして広く一般に外出禁止措置が命じられることになる。気候変動問題に関しても同じように、影響が遅れて出てくること、また「正のフィードバック」(当初の原因が増幅されて次の作用<フィードバック>が起こること)が、私たちの「環境に対する負債」を深刻化させる。これは資金に窮した債務者が過去の債務を返済するために新たな借金をすると、そのたびに一段高い金利を契約で求められるのと同じだ。雪原が後退し氷河が解けると、太陽光を自然に反射する地表が消えることになり、その地域の気温上昇を加速する要因になる。そして一層解氷が進み、そのこと自体が温暖化を促進する。同様に、ヨーロッパの2倍の面積の地表を覆う北極圏の永久凍土が解けると、強力な温室効果ガスである大量のメタンが放出される可能性があり、これがさらに地球の温暖化を亢進させかねない。

 行動することが急務だと考える人が増えている。自分でマスクを作ったり、高齢者支援に取り組んだりしている。しかし、化石燃料に頼る動きに今なお補助金が出され、その採掘が生産設備を動かし「成長」率を押し上げているときに、自転車に乗り、自分が出したごみを肥料にし、またエネルギーの消費を減らしていったい何の役に立つのか? 危機が繰り返す状況を政治メディアの論調は大げさに伝えるが、どうすればそこから抜け出すことができるのだろう。無視することからはじめ、不安に思い、脅威を感じ、そして最後に忘れてしまえばそれで済むのか?

 こうした事情は、COVID-19による危機と気候の変調との間に根本的な違いがあることに由来する。一方は、受けたショックを制御できるかどうか、という問題であるが、もう一方は、私たちがそれに適応できるかどうか、という問題なのだ。COVID-19 では、集団免疫が形成されれば感染症の広がりが自然に抑制され、人類の存在に関る脅威にはならない。人類にはすでに、ペスト、コレラ、スペイン風邪といった禍を、はるかに困難な衛生環境の中で凌いだ経験がある。致死率がおそらく1%を下回る(他の感染症に比べて相当に低い)程度であることから、このウイルスは、地球上の人口が消滅するような脅威にはならない。さらに各国政府は、その端緒を軽視してしまいはしたが、もともと自律抑制的でもあるそのショックを弱める適切な知見と手段を有している。

 相対的にみてCOVID-19による危機はその影響力に限度があり、その拡散力については、2019年のオーストラリアの森林火災に比べることができる。いつ終わるかの見極めがしばらくは困難で、感染症が季節とともにぶり返すことが避けられないとしても、それには始めと終わりがある。対応策として取られた数々の措置についても、一時的なものと受け止められている限りは、国民の多数におおむね受け容れられている。

 これとは異なり、気候問題について何もしないでいると、私たちは体系的な制御メカニズムの埒外に置かれ、損害は甚大かつ取り返しのつかないものになる。まず様々なショックが相次ぎ、それもだんだん強く、またその間隔がますます短くなることが予想される。猛暑、旱魃、洪水、台風、病気の勃発、などだ。これらのショックそれぞれへの対処方法は、COVID-19のような公衆衛生上の危機の場合と大きな違いはない。しかしこれらのショックが繰り返されると、私たちは、小康状態を保っているうちに元に復するということの最早ない新たな局面を迎えるだろう。世界の人口の大半が住んでいる広大な地域が、海水面上昇の影響を受け、居住不能となり、あるいは全く消え失せてしまう。私たちの社会が構築したあらゆるものが、崩壊の危機に瀕している。大気中に温室効果ガスが蓄積されている状態は、中でも最も広く拡散している二酸化炭素が極めて緩慢にしか消滅しない――100年で40%、1000年経っても20%が大気中に残る――だけに一層、私たちの存在にとって危険なものだ。化石燃料への依存を減らせないまま一日一日が失われて行くと、こうして、後になって取られる行動が一層多くの犠牲を伴うものになる。ある日「困難」だとして意思決定を拒むと、そのたびに、明日はもっと「困難」な諸決定を求められることになる。「元に戻ること」は望み難く、新しい環境に何とか順応してゆく選択しかないが、その環境条件を統御することは困難であろう。

 それでは世界の終末を待ちながら絶望に暮れていなければならないのだろうか? COVID-19 による危機は、反対に、国家による緊急行動の有用性、そしてまた従来の路線からの訣別が必要だということを教えてくれている。他者を犠牲にしながらテクノロジーや金融が加速度的に発展したあと迎えたこの小休止は、集団意識を自覚し、私たちの生活スタイルや思考方法を見直す機会となる。SARS-CoV-2ウイルスも二酸化炭素の分子CO2もナノメートル世界の物体であり、人間の眼には見えない。しかしながら、これらの存在とその影響(一方は病原体であり、もう一方は温室効果の元になっている)は、政策決定者にも市民にも広く認められている。政府の奨めることが一貫性を欠いているにもかかわらず、大多数の国民は、何が問題であり、また一定の用心が必要であることをすぐに理解した。科学は、こうした状況の中で、論証と反証を必要としない宗教に転ずるのでなければ、決定を下すための貴重な指南役となる。そして合理性が、かつてないほど、個別の利益を斥けるよう導いてくれるに違いない。

景気の後退と、持続不可能な生産活動の縮小を混同しないこと

 どこの国でも石油の戦略的備蓄を行っている。しかし、感染防止用のマスクなどはそうではない。今回の公衆衛生上の危機を機に、生存のために必要な事項の優先度を高めることが最重要課題になった。食糧、健康、住居、環境、文化といった事項だ。そしてまた、大多数の者がしばしば政策決定者よりも早く今何が起こっているか理解する力を持っているのだということ、そのことが思い知らされた。手作りの最初のマスクが登場したのは、まさしく政府のシベット・ンディアイ報道官がまだ、その着用が役に立たない、と言っているときだった。もっとも私たちは、身近にあって具体的な脅威に対して反応することには長けているが、これとは逆に、遠くにあって未だその影響が感じられないようなリスクを回避するための戦略を構築することにはそれほどでもないように思われる(5)。そこに、専ら全体の利益を考える共同体組織と、何が必要であるかを明確にした計画性を持つことの重要性がある(本紙5月号L’heure de la planification écologique 参照)。

 気候問題の脅威は、COVID-19 にもはるかにまして、私たちの社会・経済システムの見直しを求めている。社会と個人双方におよぶ、こんなにも根本的な変革は、どうしたら受容可能になるのだろうか。第一に、「悪いこと」とされる現実の景気後退と、持続不可能な生産活動の「有益な」縮小とを混同しないことである。外国製の産品、エネルギーの浪費、トラック、乗用車、保険などを減らし、鉄道、自転車、農業従事者、看護師、研究者、詩人、等を増やすのだ。こうした生産活動の縮小に伴う具体的な結果が大多数の者に受け入れられるようになるには、「社会的な正しさ」があらゆる分野の最重要課題となり、集団としての自律性がすべてのレベルで優先されるようでなければならないだろう。

 政府が過去のドグマを打破できるかどうかの非常に具体的かつ簡明な試金石は、「エネルギー憲章に関する条約」に対する姿勢であろう。この条約は1998年に発効し、2017年11月から再交渉に入っているが、世界53カ国間のエネルギーの「自由」な国際市場がこれによってかたちづくられている。民間投資家を安心させる目的でこの条約は、彼ら投資家が、その利益保護に反する決定をする恐れのあるどんな国家をも、極端に強い権限を持つ仲裁裁判所に訴えることを可能にしている。たとえば、原子力発電の停止(ドイツ)や、海底ボーリングの延期(イタリア)、石炭火力発電所の閉鎖(オランダ)などの決定に係るものだ。彼らは遠慮などしない。2020年3月末時点で少なくとも、自由貿易に関する条約としては最多となる129のこの種の事案が「紛争解決」の対象事案となっており(6)、複数の国家に対し全体で510億ドル(460億ユーロ)以上の賠償金支払いが命じられている(7)。2019年の12月には、278の労働組合と非営利団体がEUにこの条約から脱退するよう要求したが、これは、気候変動に関するパリ協定の実現とは相容れないと彼らが考えたからだ(8)

 公衆衛生上の危機から抜け出すとき、先進国では、これまでのような経済再生策というよりも、生態系を危機に陥れることなく各人がそれなりの生活をして行けるそんな社会への転換を図る計画が必要になるだろう。公的資金への要請は不可避であり、私たちがこれまで経験した以上の額に増大するだろうが、これは絶好のチャンスになる。――要請の内容が気候変動を弱めることに役立つか、または気候変動に適合したものかどうか、それを援助と投資の条件とするのだ。



  • (1) Cf. Christian de Perthuis, « Comment le Covid 19 modifie les perspectives de l’action climatique », Information et débats, n° 63, Paris, avril 2020.
  • (2) Lire Sonia Shah, « Contre les pandémies, l’écologie », Le Monde diplomatique, mars 2020.(本紙日本語版2020年4月号、『感染症の大流行に立ち向かう、それは生態系を守ること』)
  • (3) Cf. Pascal Marichalar, « Savoir et prévoir, première chronologie de l’émergence du Covid 19 », La vie des idées, 25 mars 2020.
  • (4) Site de l’université Johns Hopkins, 17 avril 2020, www.arcgis.com
  • (5) Cf. Daniel Gilbert, « If only gay sex caused global warming », Los Angeles Times, 2 juillet 2006.
  • (6) Site du traité sur la charte de l’énergie.
  • (7) « One treaty to rule them all » (PDF), Corporate Europe Observatory - Transnational Institute, Bruxelles-Amsterdam, juin 2018.
  • (8) « Lettre ouverte sur le traité sur la charte de l’énergie » (PDF), 9 décembre 2019

(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2020年5月号より)