危機の後にまた危機はやってくるか

スウェーデン、緊急事態宣言なき闘い


ヴィオレット・ゴアラン(Violette Goarant)

ジャーナリスト


訳:福井睦美


 多くのヨーロッパ諸国がCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)を封じ込めるための緊急事態宣言を布告した中、スウェーデンは強制的措置を選ばなかった。政府は国民に移動や接触の制限を奨励したが、外出の全面的な禁止を強いてはいない。果たして本当にその賭けは成功するのだろうか。[日本語版編集部]

(仏語版2020年5月号より)

John Crossley. – « Once More » (Une fois de plus), 2017
© John Crossley - Eames Fine Art Gallery, Londres


 「外に出て、公園で楽しみましょう」。世界中で外出禁止令下にある40億の人々にとって、このストックホルム市内の春を告げる広報ポスターはまるで挑戦状のように映ったかもしれない。だが、3月末のラッシュアワー時に地下鉄のアーブラハムスベーリ駅は閑散としていた。公共交通機関はほとんど変わりなく運行されていたが、利用者は1カ月間で3分の2に減ったようだ。「不要な移動は控えてください」。赤いランプで次の電車の到着を知らせる電光掲示板はCOVID-19対策中のメッセージを流し続けていた。駅向かいにバスが到着し、青いゴム手袋をはめた運転手が、後部ドアから乗車するように指し示す。まばらになった乗客をバックミラー越しに疑い深く眺めた運転手は、後ろの座席列とは、彼の命を守る仕切りで分けられていた。

 スウェーデン公衆衛生局の提言を受け、首都のストックホルムはコロナウイルス拡散に歯止めをかけるために徐々に都市機能のスピードを落とした。3月29日以来、50人以上の集会は禁止になった。テレワークや高校、大学の遠隔授業が「推奨」された。それでも幼稚園や小中学校、図書館、スポーツジムなど、人々が集まる場所は閉鎖されていない。バーやレストランは十分なスペースを確保し、一人ひとりの客に座席を用意しなければならない。プールでは、監視員が常駐しないことは、溺れないよう気をつけたりウイルスの感染を防ぐ責任を個人個人が担うという、一般的なルールの表れだ。

 4月1日、保健社会大臣は公式ルールを再び呼びかけた。「物理的距離を保ち、一人ひとりが責任を持ってください」。この国では普段からこの原則がすっかり定着していて、人々はちょっとした風邪でも礼儀を守って夕食会をキャンセルしたり、自宅に留まって仕事をしたりする。スウェーデン人は公共交通機関や公共の場所で物理的距離を取るのに慣れている。テレワークは社会慣習の一部だ。「オールデジタル化」にまい進しているこの国では、国民の90%が日常的にインターネットを利用していて、それが公衆衛生局による提言の実践と、人の移動に関する匿名データの監視にも役立っている(1)。レジャーから宅配サービス、オンラインによる行政手続きまで、インターネットは自分のことだけ考えればよいという社会を助長する。何もない時には不健全に思われていたことが今、有益に見えている。

国内移動も出国も自由

 自分たちの社会体制を信頼しているスウェーデン人は国の方針を支持している。この国では完全外出禁止措置が取られることはない。全ての国民に「国内を移動し、国外に出る自由」を保証している憲法に反することになりかねないからだ。「自分たちがこれほど大切にしている自由と基本権を尊重し得たかを、将来振り返って検証する時のことを考えるのが重要です」とルンド大学の公法教授、ティッティ・マットソンは強調する(2)。学校を休校にし国境を封鎖した近隣の北欧諸国と違い、スウェーデンでは平時に緊急事態宣言を布く特別措置は講じない。

 それにもかかわらず、政府は2月から既に行動を開始していた。科学者らが「サイエンス」誌上でパンデミックの発生を明言して以来、専門医や警察などの治安、社会福祉サービスの担当者はほぼ毎日のように公衆衛生局の会見で見解を述べている。社会民主労働党の首相ステファン・ロベーンも、科学者の意見に耳を傾け、党首脳部と協議しつつ会見に定期的に参加している。70歳以上の高齢者や呼吸器疾患がある人など、重症化しやすいとみなされている人には、他人との接触を制限し風通しの良いところを散歩するように呼びかけられている。ボランティアにより買い物の手助けが組織されている。高齢者施設への近親者の訪問は禁止されている。3月始めには感染拡大防止対策のための全国グループが形成され、彼らは検査に着手した。実施された検査数(住民1万人に対して95件)はフランスに比べればかなり多いが、他の北欧諸国、特に4月中旬にはすでに住民の10%以上が検査を受けていたアイスランドよりは少ない。

 週を追うごとに、商店のレジ前には薄いアクリル樹脂製の防護パネルが設置され、その床や売り場には列に並ぶ人に距離を示す目印が付けられた。消毒ジェル、トイレットペーパー、米、ドライイーストが品薄状態になった。文化的なイベントは中止になったり、オンラインバージョンに生まれ変わったりした。散歩道では誰かが咳をすれば人々が振り向くようになった。給料日後の土曜の夜には外に繰り出す習慣だったストックホルムの人々は、家から出なくなった。

コンセンサスの精神が試されている

 3月初め以来、約6万人が解雇され、約10万人が一時帰休の状態にある。これほど短期にこれだけ失職者が増加したのは1992年以来初めてだ。政府は今年の失業率が6.8%から9%に、悪くすれば13%にまで上昇するかもしれないと見積もっている(3)

 スウェーデンは全てが秩序正しく素晴らしい特別な国ではない。ロベーン首相は「我が国は準備体制が整っていませんでした。冷戦終了後、戦略的備蓄は徐々に使い果たされていたのです」と認めている。医療システムもまた、30年間にじわじわと進んだ民営化と予算削減の影響を受け、住民1000人に対して病床数2.2にまで落ち込んでいる(4)。それはドイツの4分の1、日本の6分の1だ。病院や診療所、老人ホームは物資と訓練を受けた看護スタッフの不足に悩んでいる。ヨーロッパ各国と同様、国の対コロナウイルス戦略は医療施設の飽和を避けることで、軍と予備役はストックホルムに野戦病院を設置したが、4月半ばの時点でそれはまだ使用されていない。

 他の北欧諸国の状況を基に外出禁止措置を求める声も、少数ではあったが上がっていた。しかし、スウェーデンは多くの国と違い、老人ホーム、自宅、病院での死者をまとめて計上している。「スウェーデンのような集計方法を取れば、我が国は恐らくもっと多くの死者数を記録することになるでしょう」とノルウェー当局も認めた。しかも、4月10日以降新規の感染者数は減少し、集中治療室に入る患者数もやはり減少している(5)

 「違います。スウェーデンの戦略は集団免疫ではありません」。4月4日の公衆衛生局の記者会見で主席疫学者アンデシュ・テグネルは、近隣諸国との結果の違いについて質問攻めに会い、それは進行段階の違いによるものだと説明した。しかし、フィンランドのテレビジャーナリストの取材にはこう打ち明けている。「全ての国が集団免疫を望んでいると思います。それは、一定数の人が免疫を獲得してはじめて、感染率が自然に持続的に減少するからです(6)

 コロナ対策という持久走によって、スウェーデンのコンセンサス精神が試されている。社会民主労働党と環境党に左翼党が閣外協力する少数派政府に、史上初となる3カ月間の権力強化が与えられた。4月18日以来、政府は随時COVID-19危機対策のための規制措置を発動することができ、議会には事後審査の権利しかない。もっとも、この権力強化モードとて全能ではない。ロベーン首相は「ウイルスを法律で撃退することはできません。危機は長く厳しいものになるでしょう」と明言し、国民に引き続き常識的な行動を取るよう訴える。くだんのポスター「外に出て、公園で楽しみましょう」は4月初め以来、街から消えている。



  • (1) « Folkhälsomyndigheten tar hjälp av mobildata », 公衆衛生局ウェブサイト, 2020年4月8日
  • (2) « Därför kan Sverige inte utfärda utegångsförbud », SVT Nyheter, Stockholm, 2 avril 2020.
  • (3) Svenska Dagbladet, Stockholm, 15 avril 2020.
  • (4) OECDの2018年のデータ。
  • (5) スウェーデン公衆衛生局の公式統計。
  • (6) Yle, Helsinki, 4 avril 2020.

(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2020年5月号より)