進歩主義はポピュリズムへの解毒剤か? 

大都市が国を見捨てる時 


ブノワ・ブレヴィル(Benoît Bréville)

ル・モンド・ディプロマティーク編集長

訳:福井睦美


 先進諸国では、進歩主義、開放主義、イノベーションをキーワードに、首都や大都市がグリーン資本主義を発展させ、富と繁栄を謳歌している。一方でその他の地域、小さな町村や過疎の進む地方は、経済が停滞し住民は未来に光を見いだせずにいる。そこに目を付けて台頭する極右やポピュリズム勢力により、国は都市と地方との分断を深めている。大都市はそれを救うことができるのか?[日本語版編集部]

(仏語版2020年4月号より)


John Brosio. — « Bar 2 », 2018
Arcadia Contemporary, Pasadena

 2020年にフランスの大都市の市長の座を本気で勝ち取りたければ、どの候補者もいくつかのルールに従わなければならない。それは例えば、植樹を公約することだ。パリでは、アンヌ・イダルゴ氏が6年間で17万本を植える提案をした。一方、対立候補のセドリック・ヴィラニは2019年7月、カルティエ現代美術財団の「樹々の夕べ」で司会を務め、プロムナード・プランテ[緑の遊歩道]を建設する大規模な計画を支持した。マルセイユでは共和党のマルティーヌ・ヴァサル候補が、生まれる子どもの数だけ木を増やしたいと言う。同市の出生率が前回の市長任期期間と変わらなければそれは約7万本で、社会党の対立候補で上院議員のサミア・ガリ氏の提案の3倍にあたる。リールの候補者たちは「都会の森」と「緑化広場」計画で競い合っている。

 しかし、庭仕事への情熱だけでは足りない。緑化ビルの建設、自転車やカーシェアの利用促進、有機食材を使った学校給食、文化の奨励、エネルギーシフト助成、街の魅力の開発も約束しなければだめだ。そして選挙公約は「イノベーション」、「透明性」、「参加型民主主義」といった用語で飾り、「持続可能な」という形容詞をできるだけ頻繁に入れ込まなければいけない。「持続可能な開発」、「持続可能な都市」、「持続可能な地域」、「持続可能な観光」、「持続可能な建物」などだ。

 候補者すべてが同じ用語、同じプラン、同じアイデアを繰り返し話題にする。彼らの選挙プログラムは、どの都市でも、どの国でさえも複製して使える「グッドプラクティス」のカタログから取り出したかのようだ。シアトルでもモントリオールでもベルリンでも、自治体の提案はちっとも違わないのだから。まるで地方政治というものが、「具体的な問題に対する実用的な解答と常識的な解決策」の一束でしかなくなったかのようだ。

 元ニューヨーク市長(2002年~2013年)で、世界大都市気候先導グループ(略称「C40」、気候変動対策に取り組む世界で最も大きな94都市を集めた影響力の強いフォーラム)の議長だったマイケル・ブルームバーグ氏は、在任当時、「国がしゃべっている間に都市は行動する」という言葉を好んで繰り返していた。それ以来、この考え方は広まった。多くの都市の政策決定者にしてみると、国はイデオロギー間や各党間の対立の中で身動きが取れなくなり、効果的に立ち回れない。そこで、都市が団結しその対応にあたる。都市に関する専門書の中で自明の理とされているこの考え方が「都市外交」の基盤をなしている。この基本原則は第二次世界大戦後のフランスとドイツの姉妹都市協定にルーツを持っているが(本紙記事Faire aimer l’Europe参照)、今や無数の提携、公開討論会、世界の都市を結ぶネットワークの着想の元になっていて、その数と影響力はこの30年間増え続けている。1985年に55を数えたネットワークは、今ではC40をはじめとして、ユーロシティーズ、世界気候エネルギー首長誓約、国際環境自治体協議会(ICLEI)、都市・自治体連合(UCLG)、ユネスコ・クリエイティブシティーズ・ネットワーク、平和首長会議、健康都市連合など、世界で200以上にもなっている (1)。「不平等、移民、保健、安全、ガバナンス、人権、その他いくつもの非常に重要な課題について、都市はますます自国政府を避けて、自分たちで組織化し解決策を見出そうとしている」とバラク・オバマ氏の元顧問で政治学者のアイヴォ・ダールダーは満足げに話す(2)

「トレンド発信都市」になる 

 皆の波長が合ったこれらの組織は、世界銀行や国際連合、多くの多国籍企業の支援を受けている。前回のC40世界市長会議のスポンサーには、イケア、マイクロソフト、グーグル、ベルックス、デル・テクノロジーズなどが名を連ねていた。彼らはイノベーション信仰に地方行政と企業を集結させる、大都市の強力な福音伝道団だ。しかも、民間企業は「都市外交」をとても気に入っていて、大手IT企業のシスコは「シティー・プロトコール」を立ち上げ、ロックフェラー財団は「100のレジリエントシティ」を創設するなど、自らグループを立ち上げている。

 国際的な都市ネットワークは、グリーン資本主義のリサイクル促進に加え、「グッドプラクティス」の定義づけにも決定的な役割を担っており、その定義が都市から都市に伝わっていく。自治体の職員団は外交活動の名のもとに、会議、見本市、展示会を荒らして回り、視察旅行を重ねている。彼らはお互いに自分の都市での実施方法や経験を発表し合った後、それぞれが自分の持ち場にすぐにも使える解決策を持ち帰る、というシナリオになっている。「他の都市での実践を手本にすれば、彼らは2つの相対する目的を実現することができます。つまり、その実施方法が他所で成功したとの保証を持ちつつ、新しい経験を生み出すのです」とアラン・ブルダンとジョエル・イットは分析する(3)。C40は、2012年~2018年の間に1万4千以上の気候変動対策の具体的な活動を後援したと誇っている。例えば昌原(韓国)、東京、ニューヨークは太陽光線を反射させて建物を冷却する屋根用塗装の新技術を共有した。バルセロナ、シンガポール、オークランド(ニュージーランド)、ワルシャワは電動バスの知識を交換した。パリのメトロ、コペンハーゲンの自転車のように、ある分野で最先端をいく都市は、経験の少ない都市に技術的サポートをもたらした。

 C40は毎年、最も優れたアイデアを表彰する「C40ブルームバーグ・フィランソロピーズ・アワード」を実施している。2019年の授賞式では、メデジン(コロンビア)の緑の回廊、ソウルのソーラーパネル、サンフランシスコのグリーンエネルギー支援プログラム、広州の電気バスなどが評価された。式の中でC40議長のイダルゴ氏は、「これらのプロジェクトには世界中の都市のリーダーたちが学ぶべき価値があります」と宣言した。国際的地位の向上を望む都市にとって、このような受賞は素晴らしい武器になる。各種の団体、雑誌、さまざまなレベルの政府組織がそれぞれに優秀な生徒を選出しているので、そんな賞はたくさんあるのだ。欧州委員会は毎年「ヨーロッパの首都」(環境、文化、青少年、イノベーションの各分野で)を選び、アクセス・シティ・アワード(高齢者や障がい者への思いやりに対する賞)を与えている。フランスでは経済省が、外国投資家を惹きつける「技術的模範」を振興する目的で「フレンチ・テック」認証を授与している。

 受賞する都市はもれなく専門誌で褒めたたえられ、時には「モデル都市」というステータスを与えられることさえある。そうなればその都市は立派な実践と結びつけられて歴史に名を残し、世界中で手本どころか模倣の対象になる。そこはトレンドを決める都市、「トレンド発信都市」(4)になるのだ。ポルト・アレグレは市民参加型予算で、シンガポールは都市道路課金システムで、ビルバオは文化による経済活性化戦略(有名な「グッゲンハイム美術館効果」)で、ハンブルグは洪水リスク管理策で、シアトルはスタートアップ企業の養成で、ロンドンは巨大スポーツイベント運営で、バンクーバーは持続可能開発モデルで、と、多くの都市がトレンドを発信している。

 全ての主要都市がモデルになるのを夢見ている。なにしろ、フランスでは珍しい都市外交の専門家イーヴ・ヴィルターが強調するように、大都市間の経済戦争は「魅力的なブランドイメージ作りをする競争を伴っている(5)」。C40などのフォーラムに参加するのは、都市のイメージを磨き、ブランドとしての知名度を高めるのに絶好の手段であり、都市間の競争を巧みに勝ち抜いて投資家や企業、高学歴労働者、学生を惹き寄せ、経済効果の高い大きなイベントを誘致するための絶対不可欠な条件なのだ。2011年から2019年にシカゴ市長を務めたラーム・エマニュエル氏は「世界には知的、文化的、経済的原動力となっている都市が50から100ほどあります。その全ての都市が同じ目的のために努力しています、持っているチャンスはみな同じですから。我々は自分の都市の競争力を引き上げねばなりません。(我々が惹きつけたい)雇用と企業は世界的なだけでなく、場所を変えることもできるのです(6)」とまとめる。

 投資家に気に入ってもらおうと、自治体は今はやりの都市コンサルタント事務所に助けを求める。コンサルタントは独自の標準化された用語を使い、各種の賞や認証へのエントリー書類、革新的な都市プロジェクトに資金提供しているフィランソロピー基金に助成金を申請するための分厚い申込書の記入を助けてくれる。また彼らは、人目を引くロゴや、はっとさせるスローガンも考え出す。それは英語が好まれ(「Only Lyon」、「So Toulouse」、「My Rodez」)、全ての宣伝媒体に刷り込まれ、大きなイベントの際に掲げられる。都市間の競争により、都市は「ベンチマーキングの論理」に巻き込まれる(7)。それは、国、大陸、世界のどのレベルで競うにせよ、より革新的でモダンで流行に乗っている方が勝つ、という「ゴールのない徒競走」だ。エク=サン=プロバンスが投資家に対し、まるでサンフランシスコのような自己宣伝をするに至ってしまったのはこのような訳だった。「著名な画家ポール・セザンヌの街は、今ではプロジェクトオーナーや起業家に魅力あるエコシステムを提供する「フレンチ・テック」の認証を携える街として変貌することができました(……)。ハイテクで管理し、常時インターネットで繋がり、市をあげてデジタル革命と国際化を推進する都市、エク=サン=プロバンスは、現代的で、多人種、文化的、行動的、そして世界に開かれた都市なのです」と市の「魅力と国際協力」局のパンフレットは自分の街をほめちぎっている。

地域的分断 

 競争の一方で、主要都市はしばしば共通の利益を守るために同盟を結び、ロビー活動の目的で「都市外交」を使う術も知っている。ユーロシティーズ・ネットワークは「政策策定に大都市の意見が確かに採り入れられるよう、ヨーロッパの政界に影響を及ぼす」ことをその使命としている。UCLGは「『都市外交』のためのヨーロッパ基金の設置」を勝ち取るため、EUに対して(世界銀行や国際連合に対しても)「ロビー活動」を行っていると自負している。ICLEIは、都市が地球温暖化対策の中心的役割を担うべきだということを強調するよう、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)に集中的に圧力をかけている。C40はといえば、2017年、G20サミットの議論に参加する閣僚たちに影響を及ぼそうと、Urban20を立ち上げた(8)

 こうして悪循環ができあがった。付加価値の著しく高い活動と富とを大都市に集中させることで、グローバル化はその経済的、政治的、文化的重要度を増している。同じように裕福で高学歴の人口を擁し、同様の問題に直面している都市はその姿が似かよってきた。ニューヨークでも北京でも、似たような高層ビルが建ち、個性のないショッピングセンターができ、いわゆる「クリエイティブ・クラスター」が存在する。そしてそれらの都市が集結していく。共通の利益を守るために団結した都市は、今や世界銀行から欧州委員会まで、政策決定の中枢機関に影響を及ぼしている。地方や小さな市町村を置き去りにするような地域差のある開発モデルをエスカレートさせながら、都市の有利になるように公共政策を方向付けていく。

 このような地域間の溝は今に始まったものではないが、それが今や歴然としてきた。都市で建物を緑化したり、バスを電動化している時に、地方では住む人がいなくなり放置される住居のことを心配し、夜間や祝日、週末には運行しないバスの不便さに悪戦苦闘している。西側諸国の大部分が直面しているこの分断は、2008年のリーマンショック以降目に見えて広がった。フランスでは、パリ都市圏の国民一人当たりの国内総生産(GDP)は2008年から2016年の間に3%上昇したが、それ以外の地域では停滞したままだ。同時期のアメリカでは大都市圏の雇用率が4.8ポイント上昇しているが、地方では2.4%減少した。イギリスではその差は更に著しく、2008年以降国内で創出された雇用のうち35%をロンドンが享受した(9)。パリ、ニューヨーク、ロンドンをはじめ、アムステルダムやトロントでも、経済危機は一過性のエピソードに過ぎなかった。10年経ってみると、雇用は堅調で、不動産価格はピーク高となり、投資があふれ、社会福祉住宅地区にこそまだ貧困層は残っているものの、上流階級はかつてないほど都市に集中している。

 一方で、より人口密度が低く庶民層の多い地域は、経済危機の影響を被り続けている。これらの地域は産業雇用と非熟練者雇用の消滅が人口減少を招き、それが不動産価格の下落と、地域経済の危機を呼ぶという泥沼にはまり込んだ。住民が減り、雇用が減り、住宅価格が下がれば、地方自治体の収入も減ることになる。それは公共サービスとインフラの整備に影響を及ぼす……。地方は更に魅力を失い、人口は更に減り、それに歯止めがかからない。

 極右政党や、もっと広く「ポピュリスト」と呼ばれる政党(グローバル化とモノや人の自由移動に反対する党)が一番良く根づいているのはこのような地帯だ。2016年のアメリカ大統領選挙では、収入の伸びが最も低く、人口が減少し死亡率の上昇している選挙区でドナルド・トランプ氏が圧勝した。フランスとイギリスでは、不動産価格下落の最も激しい地方で国民連合とブレグジットを支持する政治家が最多の票を獲得している(10)。反対に、「進歩主義」を自称している政党(自由貿易、グリーン資本主義、開放政策、イノベーションを支持する党)はその支持票の大部分を大都市で獲得している。2016年、アメリカの民主党候補ヒラリー・クリントンは、最も人口密度の高い100の選挙区(大都市圏)のうち88までを制覇した。しかも場所によっては対立候補にほとんど票を残さなかった。その例がワシントンで、トランプ氏を支持したのはわずか4%だった。

 ハンガリーでもこの状況が見られる。ブタペストを2019年10月から率いているのは、ヴィクトール・オルバン首相を激しく弾劾する環境保護派の市長だ。チェコ共和国では、プラハ市民は2018年11月、8年間で100万本の植樹を約束し、難民を保護する海賊党の候補を市長に選んだ。彼はヨーロッパへの「移民の入植」を非難するアンドレイ・バビシュ首相に反対している。イスラム保守派のトルコ大統領レジェップ・タイイップ・エルドアンが25年前に頭角を現す踏み台となったイスタンブールも、昨年、世俗派で社会民主主義の野党の手に渡った。「世俗化した都市の住民、経済界、若者、女性、少数民族の連携が積極的に行われた。(……)トルコ人、クルド人、ウズベク人がセネガル人、カタール人、シリア人と生活の場を共有している。何代も住み続けている古くからのイスタンブール市民たちが、移民や外国人や難民と一緒にこの都市で生きている。同じ場所を共有しているというより、人生を共有しているともいえるこの莫大な数の市民は、共通の都会的マナーで繋がっている」と、アマゾンのオーナー、ジェフ・ベゾス氏所有の日刊紙、ワシントンポストは称賛した。

「価値観」の防衛 

 このおめでたい見方は10年ほど前から広く拡散している。「世界の他の大都市と同じように、ニューヨークの価値観は、我々皆があこがれるに違いない楽観主義と多様性と、粘り強さの価値観だ」とガーディアン紙(2016年10月31日付け)は評価している。ダボスで行われた世界経済フォーラムは特に熱心で、主要都市を「ポピュリズムへの解毒剤」とまでみる。「世界の大多数の都市は、政治、経済、環境活動を市民主導で再考している。彼らが前向きで包括的で多次元的な未来像を構築している一方、国家主義の指導者たちは市民に恐怖を植え付け、壁を建設して国境を封鎖している」。「都会と地方の住民が価値観と優先課題に関してますます分断されている」ことに気づきつつも、億万長者たちの催すシンポジウムでは、主要都市が「都市外交」を組織し強化するよう勧めている(11)。オバマ氏の元顧問アイヴォ・ダールダーは、重要な利益が絡む都市同士には、万が一政府が障壁となってもそれを乗り越えられるように「ミニ大使館」を設置してはどうか、というようなことまで勧めている。サンパウロ、ロンドン、トロントは既にそのような試みを行ったが、それは公的資金の無駄使いだとみる住民の激しい怒りを買った。「官民パートナーシップが解決策になるかもしれません」とこの戦略家は提案している。

 ポピュリズムに対する征伐隊を組織し始めた都市もある。東欧では、プラハ、ブラチスラバ、ワルシャワ、ブダペストの市長らが2019年12月に「自由都市同盟」を締結した。彼らはそれぞれの政府について「前世紀にヨーロッパを2度の大戦に陥れた外国人排除の国家主義の一種」を拡散しようとしていると非難し、それに負けまいとしている。「我々は主権とアイデンティティの概念の時代遅れな捉え方に固執しない。我々は自由、人間の尊厳、民主主義、持続可能性、公平性、法治国家、社会的正義、寛容さ、文化的多様性についての貴重な共通の価値観を基盤とした、開かれた社会の可能性を信じている」と4人の市長は主張し、都市どうしが「資源を共有化し、アイデアを交換し合って協働すること」を奨励した。

 アメリカでも、主要都市は大統領の反対派の先頭に立っていることを公言している。2017年1月、トランプ氏がホワイトハウスに着任するやいなや、サンフランシスコ、ロサンジェルス、シアトル、ボストン、ニューヨーク、ワシントン、デトロイト、シカゴが、不法移民に対する取り締まり強化を目論むトランプ氏の大統領令を適用しないと発表した。ボストン市長はこれを、「破壊的」で「反アメリカ的」であり、「ボストン市民とボストンの強み、価値観に対する攻撃」だと告発した。彼の同僚であるワシントン市長は、「我々の街と価値観は大統領選挙によって変わりはしない(……)。我々は連邦政府の手先ではない」とトランプ氏に一撃を加えた(12)。数カ月後、トランプ氏による撤退決定にも関わらずいくつもの主要都市が気候に関するパリ協定の合意内容を尊重する意向を宣言し、大統領批判は環境問題に向けられた。

 イギリスでは、ブレグジットが市民の怒りを爆発させた。2016年6月のEU離脱是非を問う国民投票の直後、ロンドンの独立を叫ぶ署名運動が巻き起こり、数週間で18万の署名が集まった。首都の分離までは訴えないものの、サディク・カーン市長自身も国とは運命を分かつことを願っている。投票の4日後、彼はイダルゴ・パリ市長と共同でファイナンシャル・タイムズとル・パリジャン紙に公開書簡を発表した。「我々の街は、市民一人ひとりが出身地に関係なく自分の街だと感じられるところです。我々はパリとロンドンの市長として、ヨーロッパや世界の都市とのもっと強い連携を築き上げていくために、より緊密に協力して歩んでいく決心でいます。両市が力を合わせれば、国家の麻痺状態とロビー活動の影響に対して強力な対抗勢力になり得ます。我々は協力して来たる世紀を形成してゆくのです」

 カーン市長は観光客と投資家を安心させようと、ハッシュタグ「♯LondonIsOpen」(「ロンドンは開かれています」)を使ったコミュニケーション・キャンペーンも立ち上げた。商工会議所、シティ・オブ・ロンドン自治区、複数のシンクタンクと多国籍企業の支持を得て、彼はロンドンのみで有効な労働ビザの創設と、EU市場との関係で首都をイギリスの他の地域と別扱いにすることを要求した。これらの要求は実現しなかったが、この猛烈な反対活動によりカーン氏は一市長としては望外の国際的な地位を獲得した。以来、彼は大臣や外国の国家元首(カナダのジャスティン・トルドー、アルゼンチンのマウリシオ・マクリ、フランスのエマニュエル・マクロンなど)とともに演壇に立っている(13)

 左派メディアはこの抵抗運動を熱烈に歓迎している。フランスの月刊誌「Regards」は「権力を握る都市」(2020年第1四半期)特集で、例えばアメリカの主要都市の反乱は「トランプ大統領の抑圧的政治に抵抗する余地が存在する」証拠だと指摘している。だがこれらの都市は、国の残りの地域がどうなろうがもう関係ないという考えを推し進めることで、地域間の分断を深める一因となっている。大都市は社会地理学的な溝を「価値観」(絶え間なく繰り返される言葉だ)の対立に変換するのにも関与している。分断の境界線はもう、グローバル化や自由貿易、頭脳循環、安価な移民労働力の恩恵を受ける地域とそれらの被害を受ける地域の間に引かれるのではない。未来志向で開かれた地域と、伝統に固執した閉じられた地域との間を分かつのだ。

 成功した政治アナリストでビル・クリントン大統領の元顧問、ベンジャミン・バーバーは「もし市長が世界を統治したら」と題した本を出版した(14)。市長たちに広く支持されたこの本のお陰で、彼は多くのインタビュー、招待、公演依頼を受けた。その中でバーバーが組み立てているのは、都会のエリートが同胞市民を風刺的に描く類型論だ。彼は主要都市や大都市には「オープン」、「クリエイティブ」、「国際的」、「可動」、「変化する」、「未来」、「革新的」、「世俗主義」、「進歩主義」、「自由」、「洗練」、「交流」というような言葉を結びつける。田舎や地方は「閉ざされた」、「儀礼的」、「小教区」、「不動」、「安定」、「過去」、「反復」、「宗教的」、「保守主義」、「伝統」、「単純」、「自給自足経済体制」というような単語で形容している。

 政治科学の教授ローランス・R・ヤコブスは、これらの常套句の先に踏み込んでこの分断を理解しようと、自らが教鞭を取るミネソタ州でアンケート調査を実施した。同州では、2008年と2012年にオバマ氏を選んだ20近い選挙区で2016年にトランプ氏が勝利している(15)。ヤコブス教授はまず、州都ミネアポリスとそれ以外の地域の間に大きな賃金格差があるという分断要素を明るみに出した。2017年、ミネアポリスは最低時給を段階的に15ドルにまで上げていくことを決定した。これは不動産価格の高騰する大都市で、非熟練労働者が何とか生活場所を確保するために良く採用される施策だ。ミネソタ州の州都以外の地域では、最低賃金は大企業でも10ドル、小さい企業では8.15ドル止まりで、それも、仕事を見つけられたらの場合だ。教授がインタビューを行った住民らは、このような賃金格差を社会的締め出しと捉えている。「ミネアポリス市のあちこちに建設工事のクレーンが立ち、時給15ドルからの職種で“募集中”と書かれた看板があります」と、小さな町の仕事に困っていそうな住民がコメントしている。

 ヤコブス教授はまた、ミネアポリスの「進歩主義者」の陣営が、上流階級の市民に取り入ろうとして、州内の他の地域の住民にとっては的外れな演説や修辞的表現やコンセプトをどんなにたくさん使ったかを強調している。特に、大学の社会科学部で流行しており、ミネアポリスの政治家や地元の民主党員がでたらめに使っている(緑地保護のために戦っている住民に関する警察署での銃撃事件の後)「白人性の特権」の考え方を取り上げた。ミネソタ州の最も貧しい選挙区の中には住民の95%までが白人のところもある。低賃金と不安定な生活を余儀なくされている住民たちは、特にミネアポリスを眺めたときに、全く特権など感じてはいない。彼らが問題だと言いたいのは「白人性の特権」ではなく、むしろ、少数民族にも両足をデスクの下に置いたままで生活費が稼げる「ホワイトカラー」にも同じように繋がる「大都市の特権」なのだ(16)

 大都市とその政策決定者たちは、世界中の同じ境遇の人々と更に意見交換を重ねているが、自分の国の一部の地域とは絶縁状態だ。彼らの演説は一様に革新的で、オープンで、持続可能で、クリエイティブで、聡明だが、自分たちがかつてない富を操り、それをまんまと手に入れていることは隠しきれない。そんな彼らが「ポピュリズムへの解毒剤」を推進するのに最も適しているのだろうか?



(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2020年4月号より)