コロナウイルスはどこから来たのか 

感染症の大流行に立ち向かう、それは生態系を守ること 


ソニア・シャー(Sonia Shah)

ジャーナリスト。
著作にPandemic : Tracking Contagions, From Cholera to Ebola and Beyond,
Sarah Crichton Books, New York, 2016、
およびThe Next Great Migration : The Beauty and Terror of Life on the Move,
Bloomsbury Publishing, London, 2020年6月出版予定、がある。
本稿は、The Nation 誌に掲載されたものである。

訳:村上好古


 コロナウイルスの脅威に世界中が慄いている。このウイルスの発生源は野生動物だと言われるが、こうしたウイルス性の感染症が繰り返し起こるのはなぜなのか。そこには、人間と動物との関係の変化に関する根源的な理由があるのではないか。[日本語版編集部]

(仏語版2020年3月号より)


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 犯人はセンザンコウ? コウモリ? それとも、確証がないまましばらく噂されていたように、ヘビ? 公式にはSARS-CoV-2と呼ばれるコロナウイルスの発生源となった野生動物の犯人探しに、こうして皆が我先を競い合った。中国やその他の国々で、数億人がこのウイルスのせいで、隔離されたり、防疫のための立入り禁止テープの向こう側に留め置かれる羽目になった。その謎を解明するのが第一だとしても、この種のいたずらな犯人捜しは、感染症の大流行に対し私たちがますます脆弱になったことに、より根本的な原因があるということを覆い隠してしまう。それは、加速する動物の生息環境破壊のことだ。

 1940年以来、何百種類もの病原性微生物が、しばしばそれまで見つかったことのなかったいくつもの地域で新たに、あるいは繰り返し見つかっている。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、西アフリカのエボラウイルス、そしてまたアメリカ大陸のジカウイルスがこれに当たる。これらの多く(60%)は動物がその発生源になっている。家庭で飼われているペットや、飼育されている動物の場合もあるが、大半(3分の2以上)は野生動物に由来する。

 しかし、これらの野生動物に非があるわけではない。猛威を振るう流行性感染症のそもそもの発生源が野生動物だと写真入りで説明している記事もあるが(1)、私たちが感染する恐れのある致死性の病原体にこれらの動物が特に侵されていると考えるのは誤りである。実際には、野生動物の体にいる微生物の大部分は、宿主の動物に全く害を与えることなくそこで生きている。問題は別のところにある。つまりとどまるところを知らない森林伐採、都市化、工業化によって、これらの微生物がヒトの体に到達し、そこにうまく適応する手立てを私たちが提供したのだ。

 生息地の破壊によって多くの種が絶滅の危機に瀕している(2)。その中には、これまでずっと私たちの医薬品の元になってきた動物や薬草が含まれている。今生き残っている種にしてみると、人間の定住地拡大から取り残されたわずかな狭い生息地で生きるしかない。その結果、これらが人間と密着し繰り返し接触する確率が高まり、微生物が私たちの体内に侵入することを許す。微生物はそこで、良性のものから死に至らしめる病原体へと変化して行く。

 エボラ熱がそのことをよく表している。2017年に行われたある調査で、いくつかの種類のコウモリにその発生源を特定されたそのウイルスが、中央あるいは西アフリカの最近森林伐採が行われたばかりの地域で、より頻繁に発生していることが明らかにされた。棲家とする森林が伐採されると、コウモリは仕方なく私たちの庭や農園の樹木にとまるようになる。それ以降どうなったかは容易に想像できる。ある人間がコウモリの唾液が付いた果物をかじりそれを摂取する、あるいはこの邪魔な飛来動物を追い払い殺そうとした時に、その体内に潜んでいた微生物に身をさらすことになる。こうして、コウモリを宿主としそれには特段の害を与えない多数のウイルスが人間社会に入り込んで来る。エボラウイルスの例を引いたが、マレーシア、バングラデシュで特に見られるニパウイルス[豚、ヒトに感染し脳炎を起こす。オオコウモリが宿主と言われる]や、東アフリカに特有のマールブルグウイルス[1967年以降5回発生した出血熱。ミドリザルが関係していると言われたことがある]でも同様である。この現象は「種の壁を越える」と形容されるが、頻繁に発生するうちに、動物から移った微生物が私たちの生体組織に適応し病原となるまでに進化することがあるのだ。

 蚊から移る病気についても同様で、流行性感染症の勃発と森林伐採との間には関連性が認められている(3)。ただし、生息地の消失というよりもその変容に関係しているという点が異なる。樹がなくなると落葉の層や根もなくなる。すると、むき出しになって陽の光にさらされる土壌の上を水と堆積物が流れやすくなり、マラリアを媒介する蚊の繁殖に適した水たまりができる。12カ国を対象にしたある調査によると、ヒトの病原体を媒介する蚊の種類は、森林が伐採された地域では、自然のまま残されている地域の2倍になっている。

工場化した飼育による危険 

 生息地の破壊は、同様に様々な種の個体数の変化にもつながり、特定の病原体の拡散リスクを高めることがある。西ナイルウイルス[1999年にニューヨーク周辺で流行し、熱・脳炎を発症。従来からアフリカ、ヨーロッパ、西アジアで感染例があったという]の例を示そう。これは渡り鳥によって運ばれるものだが、生息地が消滅あるいは破壊された影響で、北アメリカではここ50年間で鳥の個体数が25%以上減少した(4)。だがすべての種が同じように影響を受けたわけではなかった。限られた場所にしか棲みつかず生息地の「スペシャリスト」と呼ばれる種類の鳥たち、すなわちキツツキ、クイナといった種類の鳥が受けた打撃は、コマドリ、カラスなど棲む場所をあまり選ばない「ジェネラリスト」よりも大きかった。前者の西ナイルウイルスを媒介する力は弱いが、後者では絶大である。したがって、この地域の家庭で飼われるペットなど家禽類の周りにウイルスが蔓延することになり、感染した鳥を蚊が刺し、次いでヒトを刺すという確率が高まる(5)

 マダニによって媒介される病気についても同様の現象が見られる。都市の拡大によりアメリカ北東部の森林は少しずつ減少し、マダニの数を抑えるのに役立っているオポッサムのような動物が追い出され、さほどそうした働きをしないシカであるとかシロアシネズミだとかが優勢になった。その結果として、マダニによって運ばれる病気がより広がりやすくなったのだ。その中には、アメリカで1975年に初めて発生したライム病[細菌性の感染症。マダニに噛まれて感染し、関節炎や各種の神経症などを発症する。日本でも症例が見られる]があり、最近20年間で、マダニによって媒介される病原体7種類が新たに特定された(6)

 病気発生のリスクは、生息地の単なる消滅だけではなく、人間が動物の生息地を他の動物用のものに置き換える場合にも、その態様次第で高くなる。肉食の欲求を満たすため、人間はアフリカ大陸に相当する面積の土地を切り拓き(7)、食肉用家畜の生産と飼育に充ててきた。こうした家畜の中には、やがて闇ルートに流れたり生きたままの動物が取引される市場(ウエットマーケット)で売られたりするものもある。そこでは、自然の中ではおそらく互いに出会うことのない種類の動物が柵に押しこめられ体を寄せ合っており、微生物は活発に次々といろいろな動物に移って行ける。この類型の展開が、すでに2002-2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)流行の原因となったコロナウイルスの発生を引き起しており、今回私たちに迫ってきている新たなコロナウイルスの起源でもあるだろう。

 だが、工場化された飼育システムの中で育つ動物の方がその数ははるかに多い。何十万頭もの家畜が、畜殺場に引き入れられる順番を待ちながら、ひしめきあっている。これは微生物が致死性のある病原体に変化する絶好の環境だ。たとえば鳥インフルエンザウイルスは野生の水鳥を宿主にしているが、小屋いっぱいに詰め込んで飼育する養鶏場で猛威を振るう。微生物はそこで変異し毒性を強めるのだ。その過程は研究室で再現できるぐらい予見可能である。その「株」のひとつH5N1はヒトへの感染力があり、感染者の半分以上が死に至る。2014年に北アメリカでは、これらの「株」の別の一種が拡散するのを防ぐため、数千万羽の鶏の処分を強いられた(8)

 家畜の排泄物の山も、動物起源の微生物がヒトに感染する場になる。排泄物は、肥料として農地が取り込める量をはるかに上回るので、止水工事の施されていない穴に貯蔵されることがしばしばある。これは、大腸菌にとって格好の棲家だ。アメリカの肥育場に閉じ込められた動物の半数以上はこれを保菌しているが、菌は害を及ぼさない(9)。しかし、ヒトの場合のこの菌[原注9にあるように、腸管出血性大腸菌の場合を指している]は、出血性の下痢、発熱を引き起し、急性腎不全を起こすことがある。さらにこの動物の排泄物が飲料水や食物に入り込むことも少なくなく、毎年9万人のアメリカ人が感染している。

 動物を宿主としていた微生物が変異を起こしてヒトの病原体になる現象は、近年ますます頻繁に起こるようになっているが、新しいことではない。その出現は新石器時代の文明の変革期にさかのぼり、人類が耕地を広げるために野生生物の生息地を破壊し、労役用に動物を飼いならし始めた時のことだ。そして動物は、その見返りとして私たちに毒入りの贈り物をくれた。雌牛からはしかと結核を、ブタからは百日咳を、カモからはインフルエンザを私たちはもらったのだ。

 この変異のプロセスは、続いてヨーロッパの植民地拡大の際に起こった。コンゴでは、ベルギー人植民者が建設した街や鉄道のせいで、現地に棲息するサルを宿主とするレンチウイルス[ヒトおよび哺乳類に慢性、致命的な疾患を引き起こすと言われる。潜伏期間が長いのが特徴で、エイズの原因となるHIVがこの属分類に含まれる]がヒトの体に完全に適応するのを許してしまった。ベンガルでは、広大なシュンドルボン湿地帯にイギリス人が稲作を進めるため踏み入り、住民を塩水に生息する細菌類の危険にさらした。この植民地的侵入により引き起こされた疫病の広範な流行は今なお続いている。サルのレンチウイルスはHIVになったし、シュンドルボンの水生細菌はそれ以降コレラとして知られ、ハイチで勃発した最近の流行の例を含め、これまですでに7度の大流行を起こした。

 皮肉にも、私たちがこのプロセスに対し何の責任もなく被害者になった訳ではないことを考えあわせると、これらの微生物が姿を現すリスクを減らすために私たちが行えることもまた数多くある。動物が、体に棲みついている微生物を私たちに移すのではなく、そこに留まらせておくことができるよう、野生動物の生息地を守ることもそのひとつである。これには[ヒトと動物、両者の健康維持を一体として実現することを目的とする]ワンヘルス(One Health)運動(10)が取り組んでいる。

 動物に棲みついた微生物が最もヒトの病原体に変化しやすい場所を厳しく監視することも考えられる。微生物が私たちの生体に適応するほんの僅かな兆候でも見せれば、流行を起こす前にそれを除去するという試みだ。これはまさにアメリカ国際開発庁(USAID)の経済的支援のもとプレディクト計画の研究者たちが10年来取組んでいることである。これにより、地球上での人間の活動範囲拡大に関係づけられる900以上の新たなウイルスがすでに特定されており、その中には、SARSに似たそれまで知られていなかったコロナウイルスの「株」も含まれている(11)

 今日、新たな大流行が私たちを待ち構えている。それはCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)のせいだけではない。アメリカでトランプ政権が、採掘業、またその他すべての企業活動からあらゆる規制を取り払おうとしていることは、動物の生息地の消滅問題を深刻にしないはずがない。これは動物からヒトへの微生物の移転を助長するだろう。アメリカ政府はまた、拡散する前に次の微生物を見つけ出すチャンスを私たちから奪おうとしている。2019年10月、プレディクト計画の中止を決めたのだ。さらに2020年2月初めには、世界保健機構(WHO)の予算への拠出を53%減らす意向を表明した。

 疫学者のラリー・ブリリアントが明言したように、「ウイルスの出現は避けられない、だが感染症の流行は避けられる」。しかしながら、私たちが、これまで自然と動物の生態をかき乱すのに躍起になってきたことに匹敵するくらいの決意を持って自然との関係を変えるのでなければ、こうした感染症の流行から逃れることはできないだろう。



*本紙HPの修正にならい、第1段落2行目の「COVID-19」を「SARS-CoV-2」に修正しました。(2020年5月21日)

(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2020年3月号より)