昨日のエネルギーが支える明日のテクノロジー 

石炭を貪るデジタル通信技術 


セバスチァン・ブロカ(Sébastien Broca)

情報・コミュニケーション科学准教授。
著書にUtopie du logiciel libre. Du bricolage informatique à la réinvention sociale,
Le Passager clandestin, Paris, 2018.  

訳:生野雄一


 デジタル通信技術は環境面でクリーンな技術だというイメージがあるが実はそうではない。発展途上国の環境を犠牲にして得られる資源やエネルギーを大量に消費して成り立っており、先進国との不均衡な利害分配を増幅させている。[日本語版編集部]

(仏語版2020年3月号より)


 MONUSCO(国際連合コンゴ民主共和国ミッション)photoより

2020年6月30日で独立60周年を迎えるコンゴ民主共和国。写真は2014年12月に撮影したもの。

 これは、シェブロンがカザフスタン政府と共同で開発中の同国最大の油田があるアティラウに、マイクロソフトから派遣されたエンジニアの話である。そこで彼は、人工頭脳(AI)やクラウドコンピューティング(1)を使って石油生産をより効率的に行う方法に関するセミナーに登壇した。彼が次々に発する専門用語の意味をたいして理解していない経営幹部たちを前にして、マイクロソフトから指示されていた筋書きを、やや無理をしながら演じた。これは重要なプロジェクトだった。シェブロンは、マイクロソフトからリモートサービスの提供を受けるためにこのビル・ゲイツ氏が創立した会社と2017年に7年間の提携契約を結んだ。それ以来、マイクロソフトはセンサーだらけの油井から毎日吐き出されてくる何テラバイトものデータを蓄積し分析する。しかし、アティラウでのこのセミナーはちょっと予期しない成り行きを辿った。シェブロンの幹部たちがこのエンジニアに対して、現場の労働者の不審な行動をアルゴリズムによって発見したり、彼らの個人メールを調べることができるような精巧な監視装置を設置できないだろうかと聞いてきたのだ! 彼はアメリカに帰国してから、「現実とは思えない経験」をしたように感じた。「そこにいたすべての人々が、なんの屈託もなく、職場に全展望監視システムを設置することを議論していた」のだ。そこで彼は、このアティラウでの経験を長文の記事に書くことを決心した(2)

 ここ数年来、デジタル通信技術業界の主要プレーヤーと大手石油企業の提携が増えている。アマゾンは、AWS Oil and Gas Solutionsというクラウドによる情報処理サービスを創始し、石油業界のさまざまな会合に資金提供を行い、エネルギー分野での応用を専門とするAIのエキスパートを多数採用した。一方、グーグルは、自社の石油・ガス・エネルギー部門をグーグルクラウドに立ち上げると同時に、トタル、アナダルコ、ナイン・エナジー・サービスと契約を結んだ。マイクロソフトはといえば、シェブロンだけではなく、BP、エクイノール[旧スタトイル]、エクソンとも提携を結んだ。

 こうした数々の提携はビッグデータやAIがもたらす将来展望に拠っている。石油業界は、これらの技術によって石油埋蔵地帯をより正確に探知し、オートメーションによってコストを削減しようとしている。一方、デジタル通信技術業界の巨人たちは、そこにデータの保管や処理サービスのみならず、機械学習によるソリューションを売り込むうまみのある市場を見込む。1つだけ不都合があった。彼らの広報部門が再生エネルギーへのシリコンバレーとしての一貫したコミットメントを繰り返し口にしてきたことと辻褄が合わないことだ。一部の社員たちから石油業界との協働は一切止めるべきだとの意見が出たのに対して、アマゾン創始者のジェフ・ベゾス氏は2019年9月に、石油業界が「転換」を実現するための「最良のツール」を是非とも提供したいのだと説明した(3)。石油業界大手の事業の収益向上を支援しながら、化石燃料依存を止めさせるなどという矛盾したことは、本当はよく考えてみるべきだった。

「モノのインターネット」の猛威  

 石油の採掘とデータの収集はコインの裏表だと言うが、実際には、19世紀生まれの化石燃料依存の工業資本主義と、「非物質的」、「脱工業化的」または「環境保護的」だと自称するデジタル通信技術資本主義との矛盾をこそ問題にしなければならいない。コンサルタントのマーク・P・ミルズ氏は、2013年の報告で「クラウドコンピューティングは石炭とともに始まった」と述べている(4)が、その報告は鉱業界から資金提供を受けたものだった。今日のデジタル社会は実のところ2世紀前にイギリスの大規模な石炭採掘から始まる歴史的な道筋を辿っている。それ以来、天然ガス、石油、原子力、太陽光などの一次エネルギー源が次々と開発されていったにもかかわらず、石炭燃料の世界的な消費は増え続けた(5)。国際エネルギー機関(IEA)によると、中国、インド、東南アジアでの石炭利用は、向こう数年間減ることはないだろう(6)

 全体として、世界のエネルギー消費量は増え続けており(2018年は前年比+2.3%)、その80%以上がまだ化石エネルギーに由来する(7)。低質の鉱脈からの採鉱や、オイルサンドなどのいわゆる「非伝統的な」炭化水素の採取が増えるにつれて、エネルギーを生産するために必要なエネルギー量も増えている。つまり、専門家が「エネルギー収支比」と呼ぶものが下がり続けている。「1世紀前には1バレルの石油で100倍のエネルギーを産出できたが、現在は、掘削区域によっては38倍しか産出できない(8)

 もちろん、デジタル経済だけがその原因ではないが、この不吉な趨勢が続くことに大いに与(あずか)っている。最近の2つの報告によると、デジタル経済は全世界の一次エネルギーの4%以上を消費しているが、新興国でデジタル化が進みその利用が広がるにつれて、消費量は年率9%で増えている(9)。その最たるものがネットワークのターミナルとインフラの構築であり、機器、ネットワーク、データセンターの電力消費がそれに次ぐ。たとえば、ノートパソコンを1台作るのに、膨大な量の水とパラジウム、コバルト、レアアースといった原料を必要とし、約330kg相当のCO2を排出する。データセンターを稼働させるだけでデジタル経済全体の19%のエネルギー消費が発生している。

 インターネットでビデオをみるだけでも、そのビデオは巨大なハードインフラに格納されており、スペイン規模の1カ国の排出量に相当する温室効果ガスを2018年に発生させたと言われる。実際、アップルとグーグルがそのエネルギー消費の100%を再生エネルギーで賄っていると自慢する一方で、クラウドコンピューティングの主役であるアマゾンはそれとは程遠い。グリーンピースの報告によれば、バージニア州にあるアマゾンの巨大なデータ処理センターでは、世界のインターネットトラフィックの約70%がここを経由しているが、再生エネルギー使用率は12%に止まっている。ここではとりわけアパラチア山脈の石炭による低廉な電力を享受しているが、その石炭は近隣の山々の頂きを爆破して切り崩したりしながら採掘したものだ。中国では、データセンターのエネルギー消費の73%は依然として石炭由来のものだ(10)。これは気がかりな数字だ。というのも、この数年のうちに、インターネット接続されたモノが急増する結果として、データ量の爆発的増加が予想されるからだ。

 より根本的には、デジタル資本主義が拠って立つテクノロジーは、環境保護の必要性を考慮することなく生み出されたものだ。AIの分野がその典型例だ。アマースト大学(マサチューセッツ州)の研究では、機械学習の標準的なプロジェクトは、その開発のサイクル全体で、現状約284トン相当のCO2を排出していて、これは1台の自動車の製造から廃車に至るCO2排出量の5倍に相当すると論証している(11)。研究者カルロス・ゴメス=ロドリゲスが指摘するように、「最近のAI研究の大多数はエネルギー効率を無視している。というのも、多様なタスクを成し遂げるためには極めて大きな(より多くエネルギーを消費する)ニューロンのネットワークが有用で、豊富なITリソースにアクセスできる企業や機関はそれによって競争優位を得ているという認識があるからだ(12)」。別な言い方をすれば、先端技術分野の巨大企業は、エネルギーを少しでも節約する方法を開発することにほとんど関心がないのだ。

 彼らは、取引先の環境保護の姿勢にも関心がない。彼らが今後成功するためには、人々がただのスイッチを押す代わりにインターネット接続されたスマートスピーカーに話しかけて照明を点灯するのに慣れることが必要なのだ。ところで、スマートスピーカーとスイッチという2つの方法のエコロジーコストは全く違う。前者は音声アシスタント付きの精密な電子機器を必要とし、その開発には膨大な原料とエネルギーおよび労働が費やされている(13)。「モノのインターネット」と気候危機との闘いを同時に推進するのはナンセンスだ。すなわち、インターネット接続された機器が増えるということは端的に言って環境破壊に繋がる。そして、今後5年の間に、5Gネットワークは携帯電話事業者のエネルギー消費量を2倍か3倍に増やすに違いない。

 環境保護の観点からみれば、デジタル通信技術資本主義は単なるシリコンバレーの巨大企業群でも、スタートアップ企業群でもない。それは、寧ろ、歴史学者フェルナン・ブローデルが定義した意味で「世界=経済」なのだ。すなわち、中心部と周辺部に構造的に分かれた関係にある経済主体の不可分のひとまとまりだ。サンフランシスコ湾が中心地で、その繁栄は、支配地域、アフリカのコルタン鉱山、ガーナの電子ゴミの廃棄場からアジアの組立工場に至るまで同地域が取り結ぶ不均衡な関係から広く由来している。この仕組みにおいては、さまざまの生産プロセスが不平等に割り振られたエコロジーコストを発生させている。つまり、環境に対する不当な行為が環境保護の面で不平等な交換の形で行われている。これは、1960年代にマルクス主義経済学者アルギリ・エマニュエルが理論化した「不等価交換」の一形態であり、外見上は金銭価値の等価交換に見えるが、実は、「世界=経済」資本主義は中心部と周辺部との天然資源の不均衡な移転に依存しているのだ(14)。北のある企業が1000ドルで原料を購入し、南のある企業が知的財産権に1000ドル支払うという場合、金銭価値は等しいが、自然に与えるインパクトは等しくない。なぜなら、中心部である北は、彼らの資源開発が環境におよぼす影響を南にアウトソースしているからだ。

 デジタル通信技術資本主義は、この論理を完璧に例証している。コンピュータや携帯電話の製造は、それだけでコバルトの世界生産量の23%とレアメタルの19%を費消している(15)。ところで、コバルトは大部分がコンゴ民主共和国産で、現地ではしばしば、人権や環境保護を無視して紛争地域で子供たちに採掘させている(16)。レアアースに関しては、中国が世界の生産量を独占しているが、酸性雨や、耕作地と貯水池の重金属汚染という代償を払っている。ジャーナリストのギヨーム・ピトロンはその状況を次のように締めくくる。「中国と西洋はまったくもって将来のエネルギー革命とデジタル革命の役割を分業しただけだ。つまり、中国は環境保全技術の部品を生産するために手を汚し、一方で西洋は、それを彼らから購入することで環境保全の善行を行っていると自慢できるのだろう(17)」。ITの「世界=経済」はエコロジーの限界をなくすわけではない。その限界を移動させるだけだ。



(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2020年3月号より)