持続可能な社会の構築に向けたコペンハーゲンの成功例 

自転車で、まちを走ろう! 


フィリップ・デカン(Philippe Descamps)

本紙記者 

訳:清田智代


 コペンハーゲンの市民は、通勤・通学、子どもの送迎、商売、そして自らの人生を顧みるときにも自転車を利用する。自転車は、このまちの景観に欠かせないものとなり、また、人々の生活に根づいている。こうした自転車文化には、利用者目線で整備された確固たる都市計画が背景にある。[日本語版編集部]

(仏語版2020年2月号より)

筆者撮影による写真のモンタージュ。

 フリーホイルのカチカチ音、人々のはじけるような話し声、カモメの鳴き声……コペンハーゲンでは、風変わりな音が鳴り響いている。他の大都会では車のエンジン音にかき消され、聞こえなくなった音だ。ランゲ橋(Langebro)の自転車専用レーンでは、スーツにネクタイ姿の50代の男性がマウンテンバイクで疾走する。年老いた男性は、ゆったりとペダルをこぎながら、荷台に積んだ杖を運ぶのに気を配っている。擦り切れたデニムを履いた青年は、ビールが入った段ボール箱を運んでおり、上品なワンピースにヒールを履いた若い女性を追い抜こうとしている。デンマークの首都には自転車の社会学など存在しない。というのもコペンハーゲン市民の全員、もしくはほとんど(5人中4人の住民)が、あらゆる場面で自転車を利用しているのだ。カーゴバイクの荷台に4人の子どもたちを運んでいるあの女性がそのことを物語っている[画像参照]。自転車に乗った元国連総会議長のモーエンス・リュッケトフト(Mogens Lykketoft)氏とすれ違うことだってあるかもしれない。彼は自転車が、国連が定めた2030年までに達成すべき17の「持続可能な開発目標(SDGs)」のうち11番目の目標[包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現すること]を達成するための最良の手段と擁護する人物だ。

子どもたちを荷台に乗せて自転車移動する女性

 「サイクルスネーク」と呼ばれる全長235mの自転車専用橋が2014年6月に開通し、それ以降、世界中のテレビ局が取材しにやってくる。この道路はフィスケトルベット(Fisketorvet)[市内最大級のショッピングモール]の屋外プール上を通過する[画像参照]。実用的かつエレガントなこの道路は、デンマーク流のスタイルと同時に、自動車道のおまけではなく、自転車それ自体の専用道路の誕生を実現している。1日に1万9,000人の往来という頻度は、あらゆる予測を上回った。コペンハーゲンは、2025年時点の通勤・通学者の半数が自転車を利用するという野望を掲げた。そしてすでにそれは達成されつつある。2018年の日常生活における自転車利用の割合(「モーダル・シェア」)は49%を占めているが、これに対し、徒歩が6%、公共交通機関が18%、そして車が27%となっている(1)

フィスケトルベット付近を通過する「サイクルスネーク」

 これに比べ、パリでの自転車利用の割合は4%にすぎない。フランスの都市で最も対応が進んでいるボルドー、グルノーブル、ストラスブールでも12%から16%程度だ(2)

 この成功をひとつの数値で端的に示すとすれば、最新の世論調査を挙げることができるだろう。これはコペンハーゲン市民の77%が、自転車で走ることを安全だと感じているというものだ。「自転車は快適で機能的だと評価されています。費用があまりかからないところも好まれています」とコペンハーゲン市の自転車プログラムチームのリーダー、マリ・カストラップ(Marie Kåstrup)氏は説明する。「自転車は自由と健康の象徴であり、また、すべての人が感じることができる素朴な喜びなのです。自転車には、こうした民主的な一面もあるのです」。自転車への情熱は、とりわけ環境への配慮からというわけではなく(このテーマについて毎年行われている調査では、環境配慮という回答の割合は16%にすぎなかった)、費用が安いからというわけでもなく(26%)、運動の必要からでもなく(46%)、まず速く移動できるから、さらには扱いやすいからということだ(回答の55%)。風が強いことが多いが、勾配がなく平らな地形で、人口密度がパリよりずっと低いコペンハーゲンならではの回答だ。これは途切れることなく素早い移動ができて保護されており、専らサイクリストの動きやニーズを踏まえて作られた交通基盤によるものだ。

 都市工学者でデザイナー、そして都市での自転車復活の第一人者でもあるミカエル・コルヴィル=アンデルセン(Mikael Colville-Andersen)氏は、我々に重要な通りをいくつか紹介してくれた。彼はソトルヴェト(Søtorvet)の交差点で足を止めた。「ここは市で最も危険だった場所で、毎年重傷者や死者が15人も出ていました。多くのサイクリストは交通ルールを守りませんでした。しかし彼らこそが事情に通じる専門家です。毎日自転車で移動しているのですから! 彼らの声に耳を傾けるべきだったのです。信号はサイクリストが車よりも4秒早く進めるよう、時間上の間隔が設けられ[画像参照]、また彼らが車に邪魔されないよう、空間上の間隔も設けられました。サイクリストが衝突を避けるために通らざるをえなかった歩道は、自転車専用レーンになりました。そして、事故はもはやほとんど起こらなくなりました」

自動車と自転車に分かれた信号

 徒歩や自転車のような活動的な移動手段は、車よりも場所を取らないという利点がある。こうした移動手段に便宜を図るためには、1950年代にいたるところで実施されてきたこととは反対の道を歩むことになる。たとえば車の交通をより複雑にし、歩行者やサイクリストの交通をよりシンプルにするといったことだ。コルヴィル=アンデルセン氏は「こうした都市計画に専心する必要があります」と話を続ける。「コペンハーゲンの交通ネットワークの素晴らしさは、インフラがシンプルで統一感があり、そして途切れないというコンセプトによるものです。インフラはたった4つのタイプしか存在しません。車の制限速度によって、最も適切なものを選ぶのです。このモデルは国内の、そして世界各都市のあらゆる道路で応用できるでしょう」。制限速度が時速30kmで住居が近接する地帯においては、車と自転車は同一の車道を走る。これはデンマークではうまくいく。というのも速度は遵守され、このタイプの道路は抜け道に利用されることはないからだ。制限速度が時速40kmの道路には常に右側に[デンマークの車両は右側通行]、あるいは駐車スペースがある場合はその右側に自転車専用レーンが並ぶ。制限速度が時速60kmの大通り沿いには、自転車専用レーンが少なくとも縁石か、たいていは駐車スペースで隔てられている。これは最も画期的な整備形式だ。そして自転車専用レーンの幅は、自転車の利用頻度に適応すべくますます広くなっている。2011年に採用されたPLUSnetという基準は、会話しながら並行する2人のサイクリストを別のサイクリストが追い抜くことができるよう、自転車専用レーンの幅を両側とも3mまで広げることが可能だ。そして制限速度が時速60km以上の場合、自転車専用レーンは車道とは完全に切り離された経路を通ることになる。

街路に優先して除雪が行われる自転車専用レーン 

 こうした原則のおかげでサイクリストがどこを通るかが常に判断がつくので、道路を通るすべての人が安心で安全と感じることができる。世論調査によると、歩行者も非常に満足している。歩行者の大部分はサイクリストでもあり、まれにある歩行者とサイクリストの共用道路では、自転車は速度を緩めるとわかっているので、すれ違う時に誰も立ち止まる必要がない。コルヴィル=アンデルセン氏は、野心的な自転車政策の原理となるべきことをはっきりと述べる。「サイクリストがどう動くかを理解する必要があります。彼らが最も嫌がることは、走行中に停止しなければならないことです。もっと悪いのは、サドルから降りなければならないことです!」。しっかり調節されたサドルに乗っていると、立ち止まるには自転車を降りなければならず、走り出すときに大きなエネルギーを費やさなければならない。

 それでは、交差点の問題はどのように解決すればよいのだろうか? 幹線道路のウスタブロ通り(Østerbrogade)とノアブロ通り(Nørrebrogade)に戻ってその答えを見つけだそう。町の中心部から離れれば、3kmをノンストップで走ることができる。時速20kmの「グリーンウェイブ」で調整された信号は、サイクリストの流れに沿って青に変わる。それから、自転車を止めざるを得ない場合でも、手すりにつかまり右足を足台にたよることで、サイクリストはサドルから降りずに済む[画像参照]。さらに、各交差点には正確な路面表示が引かれていて、それらはよく守られている。青い車線はサイクリスト専用であり、車に割り込まれずにすむ。車の方は、特に右折するときに順番を待たなければならない(これは信号で示されることが多い)。

手すりと足台ににつかまり信号を待つ女性

 ノアブロ通りはヨーロッパで最もサイクリストの多い大通りとなった。車の交通規制が2007年に決定されたが、この決定を擁護するのは容易なことではなかったと、当時技術サービス・環境担当の市長補佐を務めていたクラウス・ボンダム(Klaus Bondam)氏は回顧する。「私は憎しみに満ちたメールや、雑誌や新聞では批判をとても多く受けました。人々は怒りを感じていたのです。なぜなら私たちは歩行者やサイクリスト、そして公共交通機関に優先権を与えてしまい、人々の習慣を変えてしまったのですから。商売人の多くは、ドライバーだけが衣服や食品などを買うものと思っているようでした。ところが今のノアブロ通りには新しい店舗がオープンし、魅力のある通りになりました」

 細部への配慮は通りから見てとることができる。オストバンゲ通り(Ostbangegade)では、ごみ箱がサイクリストにとって使いやすい角度に傾いており、ニガーズバイ通り(Nygardsvej)では、大規模工事中でも頑丈なバリケードがサイクリストの通行と安全を守っている。通行量が優先順位を覆したのだ。というのは冬になると、市の技術部門は最大多数の市民を満足させるべく、自転車専用レーンの除雪から取り組むといった具合だ。

 このような成功はジャーナリストや政治家たちを惹きつけている。フランスのエマニュエル・マクロン大統領が2019年8月29日にコペンハーゲンを訪問したときにも、自転車で町を視察することを忘れなかった。しかし、町を訪れる多くの人がこの成功要因の核心部分まで関心をもたず、このため厄介なことになっている。パリの「ムッシュ・ヴェロ[ムッシュ自転車]」でおなじみのクリストフ・ナジョフスキ氏とグルノーブルのヤン・モンガブル氏の2人のエコロジスト議員が、フランス帰国後にフランスの一般誌に投稿した記事や彼らの政策選択がそれを物語っている。

 たとえば、2014年末の『パリ、自転車の都』という文献に出てくる協議では、5タイプのインフラがパリ市民に提示された。コペンハーゲンで真価を発揮したモデルは、フランスの技術部門では「歩道と車道に挟まれた自転車専用レーン」と名付けられていたが、なんとこの5タイプの中には含まれていなかった。他の例を見てみよう。議員たちは「自転車専用高速道路」(パリのリヴォリ通りやセバストポル大通り)や「クロノヴェロ[グルノーブル市の自転車専用レーン]」(グルノーブルのアグット=サンバ通り)の建設を主張している。これらは多くの交差点がある大通りに対面通行の自転車専用レーンを導入することを意味するが、コペンハーゲンではこのような道路は20年以上前から禁じられている。このタイプの道路は、車道と並行する自転車専用レーンより2倍も危険であることが明らかになった。ちなみにロンドンのトリントン・プレイス[ロンドンの通りのひとつでトッテナム・コート・ロード大通りに通じる]にあったこのような道路では、事故が多発したため取り壊され、コペンハーゲンのモデルが採用された。反対に、対面通行の自転車専用レーンは川岸や運河、鉄道沿いや、交差点のない都市近郊で採用されている。フランスの他の都市では、「自転車専用レーン」の大部分は路上に自転車専用レーンであることが表示されているにすぎず、その上には車が停まっているのだ。「車のドアと車道のあいだなんて、自転車で走るには最もばかげた場所ではないか」とコルヴィル=アンデルセン氏は自身の著書の中で怒りをあらわしている(3)

自転車シェアリングサービスは副次的なツールにすぎない 

 パリは結局、他の多くの都市と同じように、財源の大部分を自転車シェアリングサービス[ヴェリブ]に充てることとした。ヴェリブの新規契約は15年間で公的資金の6億ユーロに相当する。これに対し、アンヌ・イダルゴ市長(在任2014年から2020年現在)による「自転車」事業[自転車専用レーンの整備や駐輪場の設置など]への費用はたった1億5,000万ユーロにすぎない。コペンハーゲンでは、このようなサービスで提供される自転車は2,000台程度に限定されており、主として市内に600ある自転車専門店でより高性能な自転車を借りる時間がない短期間滞在の観光客向けのものだ。著名なデンマーク人建築家で近代都市工学者のヤン・ゲール(Jan Gehl)氏は、2010年に出版された自身の著書の中で、この手段の脇役としての性質を強調していた。「自転車シェアリングサービスは自転車文化の発展戦略の一つの要素にすぎず、最優先ではありません(4)

 「自転車専用高速道路(supercykelstier)」のコンセプトは、確かにデンマークにもあるが、都市部にはない。27の自治体に170万人の住民を擁するデンマーク首都地域の当局は、特に人口60万人のコペンハーゲンで、人々の自転車への回帰を認めている。真の自転車の高速道路ネットワークを築くため、都市近郊区域の交通網が建設されているところだ。初期に整備された自転車ネットワークは既にサイクリング初心者を惹きつけており、そのうち4分の1はかつての車のドライバーだ。特筆すべきは、街の中心へ行くのにいつも渋滞に遭ってきた彼らにとって、この「自転車専用スーパーレーン」では、今までとは全く異なる体験ができることだ。例えば北西部から街に入る場合、ヴェストコヴェン(Vestkoven)の森を通過する[画像参照]。この森は車の往来から離れたところにある。レーンの幅は広くしっかり手入れされており、日陰があり、そして隣接する歩道と衝突することはない。驚くのは、数キロ先で大通りと交差するとき、信号が素早く青に変わることだ。車道の下に設置されたセンサーが、サイクリストの到着を感知するのだ。

ヴェストコヴェンの森を抜ける自転車専用スーパーレーン

 このプログラムによると、この10年(2012年から2022年)で750kmにわたる自転車専用スーパーレーンの建設が予定されている。3億ユーロという費用は決して少なくはないが、現在建設中の18kmにわたる自動車専用トンネルで、コペンハーゲンがあるシェラトン島とドイツのフェールマン島を結ぶフェールマンプロジェクトにかかる費用の20分の1程度だ。自転車の日常的な利用を促す投資は、経済効果だけでなく健康増進による医療費の節減も考慮した場合、費用対効果が非常に高いとコペンハーゲンの交通問題の責任者シゼル・ビルク・ジュラー(Sidsel Birk Hjuler)氏は説明する。「私たちは2018年5月に、国の交付金を活用する際に遵守すべき基準に沿って、自転車専用高速道路に関する社会経済分析を行いました(5)。自転車インフラに関する社会・経済効果は11%に達し、他の交通手段をはるかに超えていました。地下鉄で3%、フェールマントンネルで5.4%ですから」

「単なるデンマークの娯楽やにわかの流行ではなく…」 

 コペンハーゲンは、多くの橋や歩道橋の建設においてもこの計算方法を根拠としている。「運動をしないと女性は7歳、男性は6.9歳も平均余命が下がります。この15年来、我々はまたがんとの関係についても確認しています。さらに、療養中の患者が運動をすると、回復がより早くなるのです」と国立がん協会で運動・食事プロジェクトチーム担当のギッテ・ラウプ・ハンセン(Gitte Laub Hansen)氏は説明する。「公衆衛生上の利益は、事故での損失を20倍も上回っています。事故を心配するのも大事ですが、それでも自転車を普及させていくことが必要です」とカストラップ氏は補足する。

 最新の調査によれば、デンマークのサイクリストの交通違反はドライバーよりも少ない。適切な自転車インフラが整備されていればなおのことだ。(6)。コペンハーゲンの自転車走行距離は、1995年から2016年のあいだで2倍に増えたが、自転車事故の犠牲者は2分の1になり、そのうち重傷者がでるのは570万kmにつき1件程度だ。つまり危険度は急激に下がっており、このことは世界で行われている様々な研究結果と一致している。つまり、自転車数が多いほど、事故は少なくなるのだ(7)

 どうしても走行距離が長くなる郊外の自転車通行量を増やすため、デンマーク議会は2018年6月、電動自転車に速度制限を設けないことを決定した。なお、フランスでは制限速度が時速25kmに設定されている。議員らはサイクリストを信用することにした。つまりサイクリストは人気のないところでは最大時速45kmまで速度を上げることができるものの、歩行者がいるところではゆっくり走行することが求められる。都市部から離れたところに住む者や悪天候を懸念する者はまた、電車や地方高速交通網(S-tog)、そしてピーク時を除く時間帯であれば地下鉄といった公共交通機関に自転車を載せることができる。このサービスが無料になってから、公共交通ネットワークの利用者数はかなり増えている。「自転車の利用が実利的でもあることを、真剣に考えなければなりません」とジュラー氏は熱を込めて語る。「自転車は単なるこの国の娯楽やにわかの流行なんかではありません。ヨーロッパ諸国の多くはなかなか踏み出せずにいますが、それはこの移動手段が十分に検討されていないからです」

 それにはすべての関係者が協力することを求められている。都市部から5km南に離れたオレスタッド(Ørestad)地区にあるランボール(Rambøll)という企業の例をみてみよう。高速道路や電車、地下鉄の便が良いものの、この企業は従業員の自転車通勤を全力で推し進めている。会社へは、車の往来から離れた「緑の道」を利用することができる。職場に着けば十分な数の駐輪スペースがあり、晴れていれば屋外へ、雨であれば屋内に自転車を停めることができる。スロープの先には200の駐輪場と、衣服を収納するキャビネットやシューズスタンド、シャワー、そして自転車洗浄機が用意されている。

 この成功を完璧なものにするために、現在多くの工事が行われている。とりわけ駐輪スペースをより多く準備し、駅の周りに自転車が所狭しと置かれる状態を避けるためだ[画像参照]。全国的にみれば、自転車インフラがほとんど整備されていない地方では、自転車の利用は低下している。子どもたちに対して特段の注意が払われているが、国全体としては、他のあらゆる欧州諸国と同様、子どもたちの自転車利用も減っている。アイビュー(Ejby)などの新興地区では、自動車道とは完全に切り離された自転車ネットワークが住宅地区と教育施設のあいだに整備される予定だ。

駐輪スペースが整備されたオレスタッド地区のDR Byen駅

 この強い政策的意向の実行の主な担い手は、なにより最先端の技術を持ち、有能で、そして利用者の声に耳を傾ける技術部門だ。しかしコペンハーゲンでこうしたチームのリーダーに抜てきされたのは、文系出身者でエンジニアではなかった。デンマークの自転車文化と国民的なアイデンティティに関する論文を書き終えたばかりのカストラップ氏がリーダーに指名されたことに、[コペンハーゲンがもつ]総合的なものの見方がみてとれる。「自転車専用レーンの敷設は、ただ単に自転車専用レーンのためだけに行っているのではありません」と彼女は説明する。「私は文系科目を学ぶことで、多くの人々のためのよりよいまちづくりという普遍的な観点を身につけることができました。自転車は単なるツールにすぎません。人々がよりよい選択をすれば、非常に効果的です。公共交通機関や都市開発、文化的な慣習など、市のあらゆる活動に溶け込ませていくことが必要です」

 歴史地区のクリスチャニア(Christiania)とオペラ(Opera)河岸を訪れるため、我々は3つの車輪がついた一風変わった乗り物にまたがった。前方には乗り心地の良い2つの座席があり、雨よけの引き出し式の幌と、寒さ除けのカバーがついている。ペアニレ・ビュッソン(Pernille Bussone)氏は、この荷台付き電動三輪車に乗って、足の不自由なフィン・ビッケ(Finn Vikke)氏と彼が住む老人ホームの前で定期的に待ち合わせをする。1、2時間の「散走」の始まりだ[画像参照]。ビッケ氏にとっては、地面すれすれの高さで窓ガラスもない荷台に乗れば、「髪を風になびかせる権利」を取り戻した気持ちになれるのだ。

オペラ地区を散走

 彼らをつなぐ「年齢を問わないサイクリング」という協会(8)は、2012年にオレ・カソウ(Ole Kassow)氏が、人生の節目となった場所をもう一度訪れたいと思っていた84歳の女性と出会ったことで誕生した。「ツアーの後、彼女は再び語りはじめました」と彼は話す。「数日後、リーダーが私を呼びました。私は、彼が何か悪い知らせでもあるのかと怯えたものです。しかし、違いました! 彼女は散歩のことを他の居住者に話していたのです。そして、彼らも同じ体験をしたがっていたのです!」。街の中心にいながら、自転車はまた、都市部の移動問題を乗り越える希望の乗り物かもしれない。

 散走はカルヴボー(Kalvebod)に新しくできた、木製の遊歩道沿いのレストランで終わる。正確にいえばサイクルレストランだ[画像参照]。冷蔵庫とコンロ、そして立食形式で20人ほどに提供できるだけの装備を備えた三輪車だ。食事が終われば、今度は客たちは夏の美しいこの日を存分に楽しむのだ。多くの人々は、水がきれいな旧港に飛び込み、街の中心で泳ぐ。つまるところ、コペンハーゲンでは、人々は素朴な楽しみに喜びを感じているのだ。

カルヴボーの遊歩道のサイクルレストラン



(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2020年2月号より)