多言語主義、学校教育における頭痛の種 


フィリップ・デカン(Philippe Descamps)

本紙記者 

グザヴィエ・モンテアール(Xavier Monthéard)

本紙特派員 

訳:福井睦美


(仏語版2020年1月号より)


 「このおもちゃカタログの中で、男の子と女の子を決めつけた考え方で見せているものを示してみて」と先生が尋ねる。彼女に向かってUの字型に並べられた机の順に答えが出てくる。順番が来ると生徒一人ひとりが自分のタブレット端末の画面から例を選び、全体用の大スクリーンに投映する。医師や整備士ごっこをする男の子、ピンクの服を着て、楽しそうにアイロンかけをしたり料理をする女の子など。約10カ国の国籍を持つ13歳児が集まるこの「ヨーロピアン教育」の「セクション2」の新しさは、言語を除くすべての授業がフランス語で行われていることだ。ルクセンブルク北部に2018年度に開校したエドワード=スタイケン・ド・クレルヴォー学校は磨きコンクリートの超近代的な校舎と、森を望む巨大なガラス窓、そして最新設備の整った教室を備えている。ここは、新しい教育課程を採用している4つの公立校の1つだ。ヨーロピアン・バカロレアート[EU各国の大学入学資格及び成績証明書を得られる教育課程]はフランスやドイツのシステムに近く、ルクセンブルク大公国の言語的に独自性のある教育と一線を画している。

 ルクセンブルクでは19世紀半ば以来、読み書きの学習は6歳からドイツ語で始められている。フランス語はまず話し言葉、次いで書き言葉が8歳からというように徐々に導入される。大学進学希望者の王道とされる「クラシック課程」では、15歳からすべての教科においてフランス語が必須となる[12~18歳の中高等学校教育には『クラシック課程』と『一般課程』の2種類がある]。技術系および職業訓練系教育をまとめた「一般課程」(中高等学校生の60%が選択)では、フランス語の比重は増えつつあるものの、ドイツ語が主要言語のままだ。

 これら2か国語による学習に、英語と、日々の課外活動で使われるルクセンブルク語が加わり、「子ども達にとって大きなチャレンジ」になっているとクレルヴォー学校長ジョン・ビラ氏は説明する。これは遠まわしな表現だ。国内および国際的な調査では落第生の多さが明らかにされている。小学生の3分の2以上が外国人または外国にルーツを持つ児童だが、彼らの落第率はドイツ語やルクセンブルク語を母語とする児童よりもはるかに高い(1)。「ポルトガル人、旧ユーゴスラヴィア人、カーボ・ヴェルデ人の子どもにとって、置かれた状況を考えるとドイツ語習得はほぼ不可能です」と社会言語学者のクリストフ・プルシュケは説明する。「ルクセンブルクがとても裕福で、学校を資金面で十分サポートできたとしてもやはり難しいです。言語は落第の重要な要因になっています」。この仕組みは、エリート階級の再生産を助長する傾向があり、彼らは落とし穴だらけの教育課程をくぐり抜けて、3カ国語、更には4カ国語を身に付けて社会に出て行く。そしてまた、一部のドイツ語系家庭の子ども達のやる気を失わせている。彼らはフランス語が優勢なクラシック課程で苦労しているのだ。

 落第の要因となる言語問題に対応するため、現政府はまず保育園と読み書き教育前の幼稚園クラス(義務教育就学年齢は4歳)でフランス語とルクセンブルク語を同時に導入することを一般化した。「なるべく小さいうちから複数言語に精神的、聴覚的、頭脳的に慣れさせるため、多言語環境を作ることが求められています」とクロード・マイシュ教育大臣は主張する。特にクレルヴォーを含む4つの公立学校では2018年度からヨーロピアン・バカロレアと国際バカロレア課程[世界共通の大学入学資格及び成績証明書を得られる教育課程]を開始した。これらの課程では、生徒一人ひとりがメインとなる1言語と、その他の言語については到達したいレベルを選択できる。

 政府はこの取り組みを通して、高校生が隣国や私立校へ流出するのも防ごうとしている。同じ理由から、右派勢力の民主改革党(ADR)や、反対側の左派連合(デイ・レンク)も要求しているルクセンブルク語の「読み書き教育」を開始することは控えている。会話が中心の週2時間に限ったルクセンブルク語の授業はうまく公式見解を均衡させている。「ルクセンブルク語の奨励と学校教育の多様化の間には何の矛盾もないと思います」とマイシュ大臣は反論する。「国として機能してゆくためには多言語主義は非常に重要だと信じています。国としてのまとまりを持ち、ヨーロッパの一国であるというアイデンティティを持つためには、ルクセンブルク語は非常に重要です。ですから、両方が必要なのです」

 新たな公立教育課程の生徒たちは一年に一学年の普通のリズムで進んでいくが、立ち上げ初期の選択傾向は驚くべきものだった。どれか1つの言語を主要言語として選択できるようにしたことは、特にフランス語に有利に働いた。2019年度に小学校一年生に入学した児童は、英語、ドイツ語、そしてポルトガル語を大きく引き離して、約半数がフランス語を選択したのだ。


  • (1) « Rapport national sur l’éducation au Luxembourg », Service de coordination de la recherche et de l’innovation pédagogiques et technologiques, Luxembourg, 2018.


(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2020年1月号より)