ワシントン vs 北京


セルジュ・アリミ(Serge Halimi)

ル・モンド・ディプロマティーク統括編集長

(仏語版10月号論説)

訳:土田 修



 米国は今や、中国とロシアに同時に立ち向かうのは無理だと考えているようだ。数十年後には、地政学的なライバルは中国政府になっているだろう。来年の大統領選挙で激しく対立することになるドナルド・トランプ氏の共和党政権と民主党の間でさえこの点については一致している。今や中国は米政府の一番の敵対者として、「悪の帝国」の旧ソヴィエトと「急進イスラムのテロリズム」の後継者になった。だが、旧ソヴィエト連邦と違って、中国は圧倒的な経済を手にし、米国に計り知れぬ貿易赤字を負わせている。特に、軍事力は旧メソポタミア(西南アジア)の砂漠地帯やアフガニスタンの山岳地帯を転戦している数万の原理主義戦闘員のものと比べようもなく、はるかに堂々としている。

 バラク・オバマ氏は以前、アジア太平洋地域に軸足を置く米外交政策を構想していた。よくあることだが、彼の後継者であるトランプ氏は上品さも繊細さも感じさせないあの新戦略を発表した。というのも、トランプ氏の頭の中では協力は常に罠、あるいはゼロサムゲームでしかないので、アジアのライバル国である中国の経済的な飛躍は間違いなく米国の発展を阻害する脅威になるからだ。逆に、トランプ氏は昨夏、「対中国貿易は上向いている。中国は半世紀来、最悪の年を迎えたばかりだ。それは私のおかげだ。私はそれに満足していない」と胸を張った。

 「満足していない」、この言葉はトランプに似つかわしくない……。1年とちょっと前、彼は政府の会議を生中継することに許可を出した。そしてすべてが放映された。閣僚の1人が中国経済の減速に得意になった。別の閣僚は米国でのモルヒネの流行を中国のフェンタニル[麻薬性鎮痛剤]の輸出のせいにした。3人目の閣僚は米国の農業の苦境は中国貿易の報復措置が原因だと語った。というわけで、トランプ氏に残されていたのは、北朝鮮が核開発にこだわり続けるのは中国政府が同盟国(北朝鮮)に対して寛容だからだと言い募ることだけだった。

 だから、米政府が中国に対し、トウモロコシや電子機器をもう少したくさん売りつけることで満足することはない。過去17年でGDPが9倍に拡大したライバル国を孤立させ、その勢いをそぎ、影響力が大きくなって米国の戦略的対等国になることを阻止しなければならない。中国は急速に繁栄してもアメリカ化したり米国に従順になることはなかったのだから、米国はもはや中国に対する攻撃に手心を加えることはないであろう。

 2018年10月4日、米国の副大統マイク・ペンスは[ワシントンのハドソン研究所での]演説で、極度に威圧的な言葉を使って、中国の「[人間のあらゆる側面を管理する]オーウェル的社会システム」、「十字架を破壊し、聖書を燃やし、クリスチャンを投獄する当局」、米国の企業、映画、大学、シンクタンク、研究者、ジャーナリストに対する「強制措置」を厳しく批判した。彼は「中国は2020年の米大統領選挙に影響を与えようとしている」とも明かした。「ロシアンゲート」の次は、トランプ氏の敗北を狙った「チャイナゲート」なのか? 米国はいかにも脆弱な国家になってしまった。



(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2019年10月号より)