フォン・デア・ライエン氏を選んだのは誰か?


セルジュ・アリミ(Serge Halimi)

ル・モンド・ディプロマティーク統括編集長

(仏語版9月号論説)

訳:村松恭平



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 2019年7月の猛暑は思いがけない幸運だった! この猛暑のおかげで現在生じているいくつかの変調、特に民主主義の変調を示したある出来事が覆い隠された。ヨーロッパの人々は暑さでまともな判断ができなくなり、少なくとも3年前から聞かされてきた政治言説が崩れ去ったことにほとんどの人が気付かなかった。メディアは他のさまざまな「調査(investigations)」に忙殺され、そのことをヨーロッパの人々に知らせる努力を行わなかった。

 それまで何億人ものヨーロッパの有権者は、善悪二元論的で大仰な話にだまされていた。欧州連合(EU)の政治も今年5月に行われた欧州議会選挙も、自由主義者 vs「ポピュリスト」という2つの陣営の対立に要約される——有権者たちはそう聞かされてきた(1)。7月2日、各国と欧州連合の首脳によるEU首脳会議は、ドイツキリスト教民主同盟所属のウルズラ・フォン・デア・ライエン大臣を欧州委員長に推薦した。この考えはエマニュエル・マクロン氏によって提示されたようだ。当然、彼の提案にアンゲラ・メルケル独首相も同調したが、なんと⋯⋯ハンガリーのオルバーン・ヴィクトル首相もそれに同調したのだ。

 だが、マクロン氏はフランス大統領に選出されて以降、「悲しき熱情」と「ヨーロッパを滅ぼすかもしれなかった猛火を幾度もかき立てた観念」を持つナショナリストや「ポピュリスト」に対して妥協しない態度を貫くことを常に断言してきた。ナショナリストや「ポピュリスト」は「人々に嘘をつき」、「必ずや憎しみを広げる」と発言していた(2)。マクロン氏はこうした“放火犯”のうちの2人、すなわち、オルバーン氏とイタリア極右のリーダーであるマッテオ・サルヴィーニ氏に対抗するために、その非の打ち所のなかった慎み深さすら捨て去った——「彼らが私を主要な敵とみなしたがっているのならば、彼らは間違っていない」

 今年の7月16日、欧州議会議員たちが各国元首とEU首脳による選択を確認した時、「進歩主義者」vs ナショナリストというキャンペーンスローガンは、それまでとはまったく違った新たな政治勢力の図式に取って代わられた。社会主義陣営の議員はフォン・デア・ライエン氏に反対する側(とりわけフランスとドイツの議員)と賛成する側(スペインとポルトガルの議員)に分かれた。そして後者側の議員は、ポーランドのナショナリストやオルバーン氏の追従者たち、すなわち、マリーヌ・ルペンが数日前にストラスブール[欧州議会]で共通グループを一緒に形成するために接近したまさにその議員たちと立場を共にしたのだ⋯⋯。最終的に、マクロン氏が推薦したフォン・デア・ライエン氏の得票数は過半数をわずか9票しか上回らず、そのうえオルバーン氏に忠実なハンガリー人議員13名および当時サルヴィーニ氏と手を結んでいた五つ星運動の「ポピュリスト」議員14名を含むごった煮の議員連合のおかげで欧州委員長に選ばれた。

 このような投票の図式は、聞き分けが良く礼儀正しいヨーロッパの子どもたちに毎朝語り聞かせているさまざまな話から間違いなく私たちを遠ざける。しかし、断言しよう。ヨーロッパ大陸において気温が通常に戻ったとしても、大部分のジャーナリストは、マクロン氏が彼らのために念入りに作りあげた偽りの政治勢力図を繰り返し使い続けるに違いない。(2)



  • (1) Lire Serge Halimi et Pierre Rimbert, « Libéraux contre populistes, un clivage trompeur », Le Monde diplomatique, septembre 2018.
  • (2) 2017年9月26日にパリのソルボンヌで行われた演説より。

(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2019年9月号より)