検疫警戒線


セルジュ・アリミ(Serge Halimi)

ル・モンド・ディプロマティーク統括編集長

(仏語版4月号論説)

訳:土田 修



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 この数十年間、極右が選挙に強いことが、左右のネオリベ派にとって保険の役割を果たしてきた。すなわちいかなる石頭の中道派であっても、受け入れがたく、付き合いきれず、息苦しい極右政党にひとたび反対を表明すれば、難なく当選することができた。2002年のフランス大統領選挙でジャン=マリ・ルペン氏の得票数は第1回投票と第2回投票で16.8%から17.8%と大きな変化がなかった。一方、ライバルのジャック・シラク氏は第1回投票から第2回投票で19.8%から82.2%へと飛躍した。2017年、エマニュエル・マクロン氏は、それほど派手な差は生じなかったが同じような形で勝利した。

 ネオリベは、極右に対してうまくいったことが、左翼に対してもうまくいくと期待している。彼らはそれゆえ、左翼が伸びてきた場合にそれを食い止めるために、今度は彼らはまやかしの価値観の持ち主だと言い立てようとする。かくして、最も強力な反対勢力は卑劣な存在だとして政府の政策にもはや我慢できない人びとにもそれを仕方なく受け入れさせる。

 偶然にも、フランス、英国、米国で同時に、反ユダヤ主義だとする中傷が噴出してきた。ひとたびターゲットが決められると、フェイスブックやツイッター上で、攻撃したいと思う政治運動のメンバーたちの場違いかつ常軌を逸し、低劣な書き込みを探し出せば十分だ(英国労働党には党員が50万人以上いる)。次いでメディアがそれを引き継ぐ。対立候補が寡頭政治やメディア、銀行を批判するやいなや、民主主義もジャーナリズムも金融セクターもユダヤ人に支配されているといったたぐいの反ユダヤ主義的妄想を言い立てて、それと無関係の相手でもそれにことよせて対立候補を打ち破ることができる。

 そしてそれは既に始まっている。「もしコービンがダウニング街[首相官邸]に入るようなことになれば、ヒトラー以来初めて反ユダヤ主義者が欧州の国を統治することになるだろう」とアカデミー・フランセーズ会員のアラン・フィンケルクロートは主張している(1)。米国においてもまったくもって状況は差し迫っている。というのも何人かの左寄りの議員が国会選挙に出馬するというのでドナルド・トランプ大統領は「民主党は反イスラエル党、反ユダヤ党になった」と言っているのだ。「民主党員はユダヤ民族を嫌っている」とも付け加えた。一方、ベルナール=アンリ・レヴィは国会議員でジャーナリストのフランソワ・リュファンを、反ユダヤ主義のパンフレット『残骸Les Decombres』を書いたリュシアン・ルバテ、ヴィシー政権下でユダヤ人問題委員長を務めたグザビエ・ヴァラ、ナチの協力者でフランス解放時に処刑されたロベール・ブラジヤックになぞらえている。(様々な)メディアがひいきにしているこのでっち上げ屋は、「グランゴワールの文体との意識的あるいは無意識的なつながり(2)」をリュファンに見いだしたようだ。グランゴワールは反ユダヤ主義の憎しみに満ちあふれた週刊誌だ。この週刊誌が展開した最も悪名高い反ユダヤキャンペーンの一つは、[両大戦間に政権を担った]人民戦線の大臣を自殺に追いやっている。

 フランスと米国でユダヤ人は反ユダヤ主義者によって殺害された。こうした惨劇はイデオロギーの武器としてトランプ氏やイスラエル政府、偽物の知識人に利用されるべきではないだろう。 検疫警戒線をもうける必要があるとしたら、それはむしろ、対立する相手に対して潔白と知りつつ破廉恥な言動を浴びせる人たちからわれわれを守るようにするべきだ。



  • (1) « Alain Finkielkraut : “Ich bin kein Opfer” », Die Zeit, Hambourg, 21 février 2019.
  • (2) Bernard-Henri Lévy, « Il faut franchir le “point Godwin” », Le Point, Paris, 7 mars 2019.

(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2019年4月号より)