民営化、終わりなき幻想


マチアス・レイモン(Mathias Reymond)

モンペリエ大学経済学准教授、
Économie des transports urbains(La Découverte, Paris, 2013)共著者、
Au nom de la démocratie, votez bien ! (Agone, Marseille, 2019)著者


訳:嶋谷園加


 我が国でも水道法が改正され、水道事業へフランスの民間企業が参入してきたことは記憶に新しいが、フランス本国やイギリスでも、公共サービスの民営化が数多く行われてきた。コンセッション方式といわれる運営権を民間企業に売却するシステムを採用しているが、その実態はどのようなものだろうか。また、過度に利益を得ている者たちが存在する一方、一般の人々にその利益は還元されているのだろうか。[日本語版編集部]

(仏語版2019年6月号より)

Eliza Douglas
Your Face Just Like the Devil
2016
oil on canvas
210 x 165 cm
© photo Marc Domage courtesy Air de Paris, Paris.


 それは万能薬のはずだった。1980年代から1990年代にかけ、メディアや専門家、政治家たちは、公共サービスにおける競争原理の導入と民営化で継承した資産によって利用者が低料金の恩恵を受け、企業がイノベーションを実現し、社会が豊かになると予言した。30年後、結果はあまり芳しくない。すなわち民営化は、公共部門により財政的に支えられてきた会社の株を民間部門が安値で買い取ることを可能にし(1)、激しい競争が新たな社会的費用[訳注1]を生み出した。

 経済に関して歴史上に起きたことは、民営化を弁護する材料とはならない。第二次世界大戦後に国営化が行われた企業は、市場の弱点を修正し経済活動を立て直して、公共サービスの使命を確かにし、とりわけ国の経済・産業政策の手本を示すことを可能にしていた。

 シカゴ学派のネオリベラル経済学者らの影響を受けたフランスは、マーガレット・サッチャー(首相在任1979年-1990年)の英国と、ロナルド・レーガン(1981年-1989年)の米国を模倣し、支出削減と公企業の資本公開のプログラムを実施した。「伝家の宝刀」を売り、当局は経済介入のための確実な手段を放棄した。当時の首相ジャック・シラク氏によって初の民営化に取り組んだフランスは、こうして約1500の国営会社を売却し、1986年から100万人以上の労働者を民間部門へ移した。教育、行政、病院などの公務員を除く、賃金生活者の雇用全体における公共部門の割合は、30年間で10.5%から3.1%に下がった。

 1946年憲法の前文で「すべての財産、すべての企業で、その事業が、全国的な公役務または事実上の独占の性格を有し、あるいはその性格を取得したものは、公共の所有に属さなければならない」[訳注2]と、宣言しているにもかかわらず、20世紀の終わりには、同じく激しい競争の展開が商工業的公共サービス(SPIC)において顕著となった。初めは、フランス電力公社(EDF)、フランスガス公社(GDF)、フランス・テレコム、あるいはまたフランス国有鉄道(SNCF)がその分野の活動すべてを管理していた。製造から販売まで、そしてネットワークの管理、アフターサービスについても、これらの企業は競争相手を持たず国に属し、利用者の唯一の交渉相手だった。今や、欧州連合においては、「自由かつ公正な競争」のルールによって、それらの政府は運営とSPICのインフラ管理を分離するように導かれ、SPICは徐々に株式会社へ転換され、新規参入者たちに、それまで担っていた企業と競争することを可能にした。例えばスウェーデンでは、約30社がひとつの鉄道路線を共同で運営している(2)

 しかしながら、自由主義者たちは長い間、自然独占[訳注3]の中に競争原理を持ち込まない考えで一致していた。これらの鉄道輸送、通信ケーブル、鉄鋼管、水道管製造事業、トラック輸送の部門においては、規模の経済性[訳注4]が相当強く働く……。これらの部門は極めて高い投資を必要としているので、全体的な視点からしても、同じルートにネットワークを2倍3倍に増やしても、そこに収益機会は認められないだろう。競争は製造部門と販売部門には存在し得るが、ネットワーク管理の中には存在し得ない。

 フランスで「実質的に」自然独占であるといわれる事業は、私的な利権とならないように、通常は公企業によって管理される、例えば国の鉄道網の所有者で管理者である、 SNCF Réseau[SNCFインフラ部門子会社]または、RTE[EDF送電系統管理部門の子会社]のケースだ。しかし新たな寡頭資本家らの欲望には限りがないように、民間の企業グループは新たな市場の開放を要求し続けた。投資をする、またはその負債を減らす必要があるという口実で、フランス国家は、民間業者が[民営化後に]顧客となる利用者を犠牲にして金儲けできる道を拓いた。2004年当時、首相を務めていたジャン=ピエール・ラファラン氏は、「民間部門に可能なすべての事業は民営化するべきだ(3)」とさえ明言していた。

 もっとも決定的な、もっとも公正を欠く事例は高速道路だ。わずかばかりの仕事が公共部門の中に残されてはいるが、収益性のある部分のほとんどは、欲深い民間業者へ譲渡されている。ただし、優越的状況を残したままの民営化では、エコノミストや、ことに強硬に自由主義経済を支持する者たちから、他に選択肢を持たない需要者に対して私的独占を許容することは最善策ではないとして遠ざけられた。それは世界から隔絶した島にある食料品店が、法外な値段で食品を売るのと似た状況が作り出されるからだ。

 国は財政を立て直すどころか、高速道路を売り、収入源を自ら手放した。会計検査院が譲渡価格を240億ユーロと見積もっていたが、高速道路は総額148億ユーロで譲渡され、100億ユーロ近く儲け損なっていることになる。2006年から2011年の金融危機の際、金融を除く全法人企業の総利益が停滞し2008年には減少すらしているにもかかわらず、高速道路会社の総利益は年5.1%の増益だった。これらの利益は、企業には投資されず、直に所有者らの懐に入った。2006年から9000キロメートルの高速道路の管理がヴァンシグループ、エファージュグループとアベルティスグループへ移った。これらのグループは、すでに株主へ270億ユーロの分配金を配当しており、国はこの収入源を取り逃がした(4)。一方で、通行料金はインフレ率を上回り上昇し続けた……。

 2013年に会計検査院が指摘したように、こうした民間部門へのおいしい贈り物が、社会への厚生や一番の基本事項である透明性を軽視させたのだ(5)。したがって通行料金徴収所は、裕福な人々の既得権益の象徴となり、すでに「黄色いベスト」運動の発端としてデモ参加者の標的となっていたことは驚くようなことではない。

 英国では、独占状態にある民間の水道管理会社は利益の95%を株主へ還元し、必要となる水道システムへの再投資をなおざりにしたせいで、今や民営化は破たんしている。数十年間かけてその経済の大部分を民営化した後、英国はそこから苦い結論を導き出した……。そして、民営化した企業を再国営化することを選択した。2011年からバーミンガム刑務所の運営を行っていたG4S[民間の警備会社]に始まりイーストコーストメインライン鉄道にわたって、公営領域への回帰が始まっている。

 フランスや他の国の例は、国務院とコペルニクス財団の会員であるイヴ・サレス氏が強調するように、「公共サービスの使命が尊重されるようにコントロールすることができる、という規制当局の言い訳は経験により否定されました。その規制当局は、多国籍企業の行動を持続的に制御する手段を持ち合わせていないのです(6)」と強調している。

 ここ20年間の、エネルギーや通信の料金の変遷を客観的に評価するには(7)、多くの消費の形態が変わったこともあり難しいが(特に通信)、期待された効果よりも競争による社会的費用が上回っていることを認めざるを得ない。利益は民間に移行されるが、国が手を引いたことで生じた社会的損失は会計報告書には反映されない。

 こうして、以前競争に閉鎖的だった部門へ新規参入者が現れ、競争が始まったことで費用が生じた。マーケティングや広告費、またはロビー活動への出費など、競争が始まる以前にはなかったこれらの費用は、ときには研究や開発費を上回ることもあり、サービス料金に跳ね返っている。2017年にオレンジは3億2900万ユーロをメディアでの宣伝に費やし、EDFは1億2600万ユーロ、エンジーは9900万ユーロ、SNCFは7200万ユーロを使用した。EDFは同様に年200万ユーロを支出し、欧州議会でロビー活動をするための人員を10名フルタイムで雇っている(8)。これほどの大金が公共サービスの改善のために使われることはない……。

 その上、かつて公企業で生まれた利益は、公共部門に(収益にせよ、投資にせよ)残存していた。民間の運営によって、利益は株主らのためだけの配当金へ姿を変えた。さらに競争に耐えるためのコスト削減は、賃金労働者や利用者に犠牲を強いることが明らかになっている。2013年にオレンジに変わったフランス・テレコム、SNCF、フランス郵政公社に至るまで、民営化されたもの、まだされていないものも含め、あらゆる企業がリストラを経験し(SNCFは、1985年以来10万人の雇用を削減した)、あるいは労働条件は悪化し(2000年から2011年までのフランス・テレコムでの自殺の激増がそれを示している)、サービスの致命的な悪化を招いている。さらにこの部門の公共企業の民営化と競争への新規参入を正当化している。おまけに、利用者は公共サービスを利用するために、[民営化後の細分化された企業形態によって]、数多くの係員と対峙せねばならず、カフカ的世界の迷宮に迷い込んだことに気付く。たとえば、トタル・ディレクト・エネルジーの客は、EDFもしくはエンジーが生産し、RTEが送電し、エネディスが配電する電気を消費するのだ……。

 自由化と民営化が市民に混乱を広げるが、寡頭資本家らや彼らの操り人形たちの欲望を掻き立てる。国を我が物にするということは、もはやただイデオロギー的な計画を実施するという目的のためだけではない、と経済学者のジェームズ・ガルブレイス氏が説明するように、「彼ら個々人、あるいは彼らが利益を同じくするグループが一番儲かり、彼らの権力をまったく傷つけず、もし何らかの不調が生じた場合には他の誰よりも財政援助のチャンスが与えられるような方法で管理(9)」できるようにするためなのだ。



  • (1) Lire Serge Halimi, « La flambée des privatisations », Le Monde diplomatique,février 1994.
  • (2) ジュリアン・ミッシ&ヴァレリー・ソラノ「36の運営会社からどれを選ぶ?――欧州で加速する鉄道民営化」、ル・モンド・ディプロマティーク2016年6月号参照。
  • (3) Cité dans Marc Landré et Gilles Tanguy, « Les onze réformes qui mettent notre État sous pression », L’Expansion, Paris, 1er avril 2004.
  • (4) Grégoire Allix, « La privatisation des autoroutes, un traumatisme originel », Le Monde, 8 avril 2019.
  • (5) Lire Philippe Descamps, « De l’autoroute publique aux péages privés », Le Monde diplomatique, juillet 2012. Cf. aussi Martine Orange, « Autoroutes : les dessous des relations entre l’État et les concessionnaires », Mediapart, 13 janvier 2019.
  • (6) Yves Salesse, « Service public et marché », Regards croisés sur l’économie, n° 2, La Découverte, Paris, septembre 2007.
  • (7) Lire Aurélien Bernier, « Électricité, le prix de la concurrence », Le Monde diplomatique, mai 2019.
  • (8) Source : Transparency International.
  • (9) James K. Galbraith, L’État prédateur. Comment la droite a renoncé au marché libre et pourquoi la gauche devrait en faire autant, Seuil, Paris, 2009.

  • 訳注1]企業などによる私的経済活動の結果、第三者または社会全体が負担させられ、それを引き起こした経済主体には計上されない損失。社会原価。(出典 デジタル大辞泉)
  • 訳注2]引用文献『フランス憲法入門』辻村みよ子・糠塚康江(三省堂2012年)
  • 訳注3]産業全体の生産量を複数の企業で生産するより1社で生産した方が、全体の総費用が少なく効率的な場合、競争が成り立たず、独占状態になること。(出典 デジタル大辞泉)
  • 訳注4]生産量の増加に伴って、平均費用が低下し、収益性が向上すること。スケールメリット。(出典 デジタル大辞泉)

(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2019年6月号より)