経済成長の陰で犠牲になったエチオピアの湖


クリステル・ジェラン(Christelle Gérand)

ジャーナリスト

訳:三竿 梓


 世界各地で水不足が深刻化しているが、エチオピアでは政府による外国人投資家や海外企業の誘致もこの問題に関係している。フランスの飲料メーカーやオランダの多国籍企業は現地で優遇され、水をはじめとするインフラを安く利用しているが、特に地元の湖に相当の影響が出ている。しかし、ここ最近は改善への様々な取り組みが始まっているようだ。[日本語版編集部]

(仏語版2019年4月号より)


 エチオピアのアビジャタ湖畔沿いを散歩する人たちの足元で、まるでポテトチップスで覆われたかのような地面が乾いた音を立てている。数百羽のオオフラミンゴのすぐ傍まで近づくには、ひび割れ、水が噴き出している地面を目にすることになるが、これはもっともな話なのだ。塩分によって白くなったこの場所はかつて湖だったのだから。湖の規模はこの30年で半分になっている。研究者のデベレ・ジェベサ・ワコ(1)が収集したサテライト映像によると、面積は1973年から2006年の間に197平方キロメートルから88平方キロメートルに減少した。水深は1970年から1989年の間に13メートルから7メートルに減った(2)。水量の減少に伴って塩分濃度が上昇したため魚は死に、姿を消した。同様の脅威は、グレートリフトバレーの中心部にある他の湖(ジウェイ、シャラ、ランガノ)にも迫っている。

 この問題は、主要な経済学者らが称賛した「奇跡の成長」の裏側にある「エチオピア流の開発」に起因する(3)。世界銀行によって高く評価された(2004年から2014年の)10年間の2桁成長は、主に「農業、建設、サービス部門の拡充」を土台としている(4)。内陸国であるエチオピアは外国人投資家を呼び込むために、水と電気をほぼ無料にし、家賃は市場価格の10分の1の値段に設定するなどして、大盤振る舞いをした――とりわけ繊維産業を優遇している(本紙フランス語版4月号、クリステル・ジェラン、Le nouvel atelier du monde ?[世界の繊維産業の新たな生産地?]参照)。大きな損失を被ったのは、農村に住む人々と自然環境である。

 アビジャタ湖からほど近い、首都アディス=アベバから南200キロメートルにある町、ジウェイは第一次産業の活力によって成長を遂げた町だ。アフリカでビールと炭酸飲料のナンバー2メーカーとなったフランス企業カステル(5)は、現地でブドウを栽培した。オランダの多国籍企業 Afriflora Sher は世界で最も巨大なバラ園を造り、平均75ユーロの月給で1,500人の従業員を雇用している。この二つの企業は、アビジャタ湖に流れ込むブルブラ川の水を無料で汲み上げている。地元の農家はといえば、明らかに違法だが水揚げポンプを設置しており、その数は水源に応じて5,000~6,000個あるようだ。要するに、農家は企業よりもはるかに多くの水を汲み上げていることになる。

 しかしながら、1970年以降、アビジャタ=シャラ湖国立公園が設立されてから、帯水層は表向きには保護されている。以前はアカシアの森だった887平方キロメートルのこの地区には、現在70,000人が暮らしている。住民の畑は保護区内にあり、そこで彼らは家畜に草を食べさせている。ある者たちは収入を補うために木を切って木炭を作り、街道沿いで売っている。この行為は禁固5年に当たるが管理の目は行き届いていない。パトロールカーが2台では効果的な警備はできないのだ。また、建設業者に売るためにトラック何杯分もの砂を盗みに来る者たちもいる。公園の管理者であるバンキ・ブダモ氏は途方にくれた様子でこう言った。「2年前、窃盗行為を止めようとして警備員が1人殺されてしまった。あとの7人は重傷を負ったよ」

 こうした損害を減らすために63人の警備員たちが今までになかったやり方を試みている。「うまく働きかけて、住民に関心をもってもらえるように努めています」とそのうちの一人アマヌ・ゲマシュ氏は言う。ミリタリージーンズを穿いた彼女が若い村人たちと遊んだり、年配者たちと語り合う姿を見ると、彼女はこのアプローチに向いているようだ。彼女が雇用された5年前、湖は「1キロメートルは大きかった」。彼女は、Abijata-Shalla Soda Ash Share Company(Assasc)を問題視している。この企業は重炭酸ソーダを製造しており、アビジャタ湖から直接水を汲み上げている。彼女は、エチオピア政府が45パーセントの株を保有するこの企業が大量に流す液体も魚の絶滅の原因であるという。Assascの社長であるベラヌ・アメディ氏はこの非難をきっぱりとはねつけ、「私たちはどんな化学製品も使ってはいません!」とまばたきもせずに断言した。

 アメディ氏は私たちをアディス=アベバにある本社の立派なオフィスに招き入れ、エンジニアのウォーク・シルファウ氏を紹介してくれた。彼はシャラ湖の水を汲み上げるための工場の建設を監督した人物である。「アビジャタ工場はパイロットプラントです。さらに大きな工場をもう一つ建設する構想が常にありました。シャラ湖は他と比べてはるかに深いので、蒸発しにくいのです」。この企業は生産量を現在の3,000トンから20万トン、さらには100万トンにまで拡大したいと意気込んでいる。アメディ氏は「私たちは年間で1億5,000万ドル(1億3,200万ユーロ)の売上を期待しています」と、この事業に執心する重要な理由をすぐさま述べた。重炭酸ソーダはガラス瓶製造や洗浄用品に使われ、地元のなめし革工場ではことに使用されている。この規模の新工場は、特にアジア圏に向けて輸出を可能にし、「ドル建ての利益」をもたらすのであろう。

 エチオピアの輸入額は輸出額の5倍であり、2017年は155億9,000万ドル(137億ユーロ)の輸入に対して輸出は32億3,000万ドル(28億ユーロ)であった(6)。ゆえに、外貨が不足している。ドル建ての融資を得るには1年かかると見込まれ、その間企業は事業に必要な素材や機械を輸入することができないため、輸出向けのあらゆる投資が政府により優遇されているのだ。こうしたことから政府委託の報告書が、環境問題の観点からすると工場の拡大計画は「奨励できない(7)」としていても、シルファウ氏にはほとんど影響を与えなかった。エンジニアの彼は、「1年後には工事に取り掛かりますよ。生産は4、5年のうちに始めます」とまで言っている。

 水を大量に消費する部門を他に挙げるとすれば、「成長と変革」の5カ年計画が促進する「園芸」がある。2000年には最初のバラ園が造られ、エチオピアはすぐさまケニアに次いでアフリカで2番目のバラの輸出国となった。「2005年にエチオピア政府は私たちをケニアまで迎えに来ました。私たちの評判は良かったですよ」とAfriflora Sherの経理部長であるミシェル・ヴァン・デン・ボガール氏は回想する。このオランダの多国籍企業は、例えばジウェイで病院や小学校、中学校、高校に資金援助を行ない、援助先の職員の給与を支払っている。「ここに来た当初はジウェイ湖から水を汲み上げていましたが、その後はコンピューターで水を一滴残らず管理するシステムや使用済みの水のリサイクル、雨水の回収を行うことで、水の使用量を半分に減らしました」と彼は断言する。「エチオピアではオランダと同じくらい雨が降りますが、そのすべての量が3カ月で降るのです!」

 200万人の人々がこの国で唯一の淡水の人工池、ジウェイ湖に依存しているが、その水位はいやおうなく下がっている。生物学者のカトリーン・リー=フラワーは、この湖が[外洋に注がない]内陸流域になるのを恐れている。つまり、もうブルブラ川には流れこまず、その結果アビジャタ湖にも水は流れ出ないだろう、ということだ。首都アディス=アベバの東500キロメートルにあるハラールの近くでは、カート(地元の嗜好品である覚醒植物で、アフリカの角とアラビア半島に輸出される)の商業栽培やハラールのビール工場、過放牧が原因で、2011年にはすでに一面の水が干上がっていた。今ではサボテンが周囲16キロメートルにわたり、かつては水があった場所、アルマヤ湖を浸食している。また、水質も悪くなり、浄水費用の上昇を招いた。「この調子では、10年後に水は飲めなくなるでしょう」と非営利団体「エチオピア国際湿地保全連合」の代表者、アムデマイケル・ムルゲタ氏は心配している。「この湖は50~70年後には消滅するでしょう。以前はジウェイの町はジウェイ湖の水を使っていましたが、ちょっと処理すればそれでよかった。今、水の浄化はこの地域にとっては複雑すぎますし、なんといっても高すぎるのです。結果、私たちは水を町から46キロメートルの場所で汲み上げています……」

 外国人投資家を呼び込むという強迫観念に捉われたエチオピア政府は、地元の農家を犠牲にして土地を安く売り払っている。2016年から2018年の間には大規模なデモが起き、首相のハイレマリアム・デサレンは辞任に追い込まれた。長い間、エチオピアの独裁政権は経済成長の実現に喝采を送る海外の関係筋から一定の好評を得ており、人権侵害や社会問題に関するお粗末な実績は見過ごされた。特に、相当高いはずの貧困率は意図的に低く見積もられた。政府統計局は貧困ラインを1日当たり19.7ビル(約0.60ユーロ)として計算しているが、世界銀行は同ラインを1.9ドル(1.70ユーロ)に設定している……。

 2018年の政権発足以来(8)、新首相のアビィ・アハメドは前政権が行った優遇措置に対し、表向きには歯止めをかけた。例えば、Metals and Engineering Corporation(Metec)への多くの公的発注を取り消すなどした。この企業は軍が管理する98の企業によるコングロマリットで、現在そのうちの26人の経営者は汚職で訴追されている。

 ジウェイ地方の湖をめぐる状況は徐々に変化している。「以前、私たちはこの場所を訪れることをめったに許されませんでした。特に園芸用地に関しては、ここのことはあれこれ熟知しているから、と管理者が繰り返すのを聞くばかりでした。そんな彼らも今では交渉の席に着かざるを得ません」とアムデマイケル氏は言う。国際湿地保全連合は、ブルブラ川において、アビジャタ湖の水位に影響を及ぼさない範囲で汲み上げることのできる水量の調査を監督している。その数字が決まるとすぐに、NGOは貯水湖の使用者それぞれに対し利用可能な水の量を設定することを検討した。このアイディアは後々、使用者に水道代金を払わせようとするものなのだろう。同時に、所得が非常に限られている地元の小農家に対して不利な条件を課さないよう、国際湿地保全連合は彼らの耕作技術を改善しようと努めている。この200ヘクタールに及ぶパイロットプロジェクトは、まるで園芸用地化したことによる損失を補うかのように、オランダの外務省により融資されている。他方、Afriflora Sherは、特別にヨーロッパから持ち込まれた昆虫を使って殺虫剤の使用量を減らしている。スパチュラを用いてこの虫を虫害を受けた木に付着させると、バラの葉に危害を加える赤蜘蛛を食べてくれるのだ。羚羊[オリックス、インパラなど]やアビシニアオオカミに関しては、時すでに遅く、この公園ではもう見られない。渡り鳥はどこかほかの地に行ってしまった。



  • (1) Debelle Jebessa Wako, « Settlement expansion and natural resource management problems in the Abijata-Shalla lakes national park », Walia, n° 26, Addis- Abeba, 2009.

  • (2) Dagnachew Legesse (sous la dir. de), « A review of the current status and an outline of a future management plan for lakes Abijiata and Ziway », rapport non publié, Oromia Environmental Protection Office, Addis-Abeba, 2005.

  • (3) Cf. « Ethiopia : A growth miracle », Deloitte, Johannesburg, 2014.

  • (4) « Ethiopia’s great run : The growth acceleration and how to pace it. 2004-2014 », Banque mondiale, Washington, DC, février 2016.

  • (5) Lire Olivier Blamangin, « Castel, l’empire qui fait trinquer l’Afrique », Le Monde diplomatique, octobre 2018.

  • (6) « The world factbook », Central Intelligence Agency, www.cia.gov 

  • (7) Kathleen Reaugh Flower, « Abijata-Shalla lakes national park : Assessment of factors driving environmental change for management decision-making », The Sustainable Development of the Protected Area System of Ethiopia Program and the Ethiopian Wildlife Conservation Authority, Addis-Abeba, 2011. 

  • (8) Lire Gérard Prunier, « Éthiopie-Érythrée, fin des hostilités », Le Monde diplomatique, novembre 2018.


(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2019年4月号より)