21世紀に復活するロシア宇宙主義


ジュリエット・フォーレ(Juliette Faure)

フランス国立科学センター博士


訳:一ノ倉さやか


 ソヴィエト連邦崩壊後、新たな思想を模索していたロシアのエリートによって見出された「宇宙主義」。キリスト教・合理主義・不死の夢が一体となった19世紀の思想は、昨今再び注目され、新しい擁護者に権力を授けることとなった。一方、多くの芸術家にインスピレーションを与えたこの思想は、ドストエフスキー、スクリャービン、タルコフスキー等の独特な世界観を理解する重要な手がかりとなるに違いない。[日本語版編集部]

(仏語版2018年12月号より)


photo credit: pixelsniper  Wassily Kandinsky - Picture Xvi, The Great Gate Of Kiev Stage Set For Mussorgsky'S Pictures At An Exhibition I


 2018年の夏、モスクワでは、ロシア博覧センター(VDNKh)がかつてソヴィエト連邦黄金時代に誇っていた観光のメッカの趣を取り戻した。ここは国家の威信を示すショーウインドウとしてロシアの権威を明らかにする重要な場所なのだ。1934年に建設されたこの博覧会場は、何よりもまず農業の集団化を称賛した。そして1960年代には、ソヴィエト経済における科学技術と産業の成功を称えた。ソ連邦の崩壊に伴い博覧会場も解体される。エキスポの主役であった宇宙のパヴィリオンは経済民営化に特徴づけられる1990年代の象徴である市場に場所を明け渡した。

 しかし、2014年モスクワ市長の提唱により、37棟のパヴィリオン修復と11棟の博物館新規オープンを含む大規模な開発計画が採択され、会場はかつての威光を取り戻すことになる。4年後、サッカーワールドカップへ訪れた大勢の観光客は、1937年にアーティストのベラ・ムーヒナが考案したボルシェビキ社会のシンボルで、かの有名な「労働者とコルホーズ」の女性像のまわりを散策したり、ロシア正教総大司教の文化政策による企画展示「ロシア、我が国の歴史」を鑑賞する機会を得た。来館者は、ロシア帝政の歴史を検証するホログラムと観客との対話式タッチパネルの映像、また、スラヴ主義思想、ユーラシア思想、キリスト教信奉者の格言で覆われた壁を見て回ることができる。これらの展示は、すべて、プーチン大統領の宣言に基づいた明確なメッセージ「古いロシアを文化・教育・啓蒙の発展、進化へと駆り立て、感化したのは、東方(ギリシア)正教会の教義である」を裏付けるものだ。

 さらに進むと、バーチャルリアリティのアトラクション会場が「あらゆる家族のための現実を超えた感動」を予告する。入口で外国人観光客に順路を訊かれた際には、コンパニオンが予めスマートフォンにセッティングを行い、ヴィクトリア訛りの英語で応答するスマートフォンを観光客に差し出す。「ロボットのパヴィリオンは人類愛の泉に近いところにあります」。観光客は、芸術家のロボットたち――ヴァイオリン弾き、詩を書くプーシキン、肖像画を描く画家――を見物する。出口の「またのご来場をお待ちしています。まもなく、ここは、ロシア発のロボットカフェになる予定です」というポスターは、まるで今流行りの作家ウラディミール・ソローキンが書いた、最新技術に支えられる新しい中世の神権政治を描いたSF小説を彷彿させる(1)

もはや神の救いを待たない

 ロシアにおける科学と宗教の融合は、重要なイデオロギー論争を再浮上させる。それは19世紀における科学技術信奉者・西欧化推進者たちと、スラヴびいき、伝統的ロシアおよびロシア正教擁護者との対立であった。その世紀末は、国家思想、「ロシア的思想」の探求に憑りつかれ、国民のアイデンティティーや運命の定義について積極的であったのにとどまらず、世界の歴史の中でのこの思想の役割や、人類を統合し変革する使命についても責任を感じていた時代であった。革命家ニコライ・チェルヌイシェフスキーの有名な問い「何をするべきか?」が国民を触発し政治行動へと駆り立てた結果、マルクス主義唯物論の信奉者と、国家主義・反西欧主義・キリスト教擁護者との間に溝が生まれる。今日宇宙主義の創始者とみなされているニコライ・フョードロフはこれら2つのイデオロギー路線を融合させる第3の道を提案する。

 浮世離れし、禁欲的なフョードロフはモスクワ中央図書館の職員として一ヵ月数ルーブルの生活を送っていた。彼はマルクス思想に共鳴する。すなわち哲学者や知識人はこの世界を充分解釈してきた。今や世界を変革する時だ、というのだ。フョードロフは科学・技術の領域において同時代の実証主義者と信条を共有している。しかしながら、進歩という概念には背を向けていた。彼によれば、進歩はより良き未来のために過去の世代を犠牲にすることを厭わない。「進歩とは 死にゆくものを生産すること。それは生きている人々を排斥することに等しい。それはまさしく地獄と呼ぶべきものだ」(2)

 進歩礼賛とは逆に、フョードロフは先祖崇拝を信奉する。未だかつてない方法で、ある唯一の「共同事業」に向けて科学技術の利用を促す。死者の復活、それを彼は社会における至高の道徳的任務だと考える。「死者をよみがえらせるための人類の連帯は兄弟・魂・生命を創造する行為であり、反対に息子たちが先祖の遺灰を遠ざけるのは、生命も魂も宿らない社会を生むことを意味する」。彼は、祖先のバラバラになった粒子を結合し、復活させることを極めて具体的に提案する。この地球は滅びることのない者にとっては余りに小さ過ぎるので、フョードロフは宇宙空間の征服およびそこでの居住を目指す。そうすることにより自然の蒙昧(もうまい)を統御し、自然を集団的理性と個人及び集団的意志の手段とするために最新技術を駆使しようとする。

 実証主義者かつ時代に先駆けてトランスヒューマニストの立場を示したフョードロフは同時に宗教的な思想家でもある。彼の人間=神という思想、人間自身の救済の原因と動因は、復活したキリストの姿という古典的解釈と自然の奇跡的変容としてのキリストという彼独自の発想から着想を得ている。彼の社会モデルは復活をメインテーマに設計される。それは、「肉体の必要に対する道徳律の完全な勝利」であり三位一体にならった死者と生者の世代を超えた結びつきの構築である。彼は自然に対する道徳的で技術的な働きかけを要求する科学的なキリスト教を唱道する。救済はもはや神を待つという奇跡ではなく、人類が成すべき事業なのだ。人間は地球外にまで活動を拡大することで宇宙への責任も担っている。

 フョードロフはたちまち同時代人の関心を集め賞賛の的となった。ドストエフスキーは彼の思想を称え、トルストイは聖人と奉り、神学者ウラディミール・ソロヴィヨフは師と仰いだ。後に、1922年、ソ連邦を追放されたニコライ・ベルジャーエフはフョードロフの思想について執筆を行う。「キリスト信仰と科学技術の力に対する信仰が入り混じって」いるが「考慮すべき、ロシア思想に取り込むに値する多くの要素」を含んでいる。「私はこれほどまでにロシア的な思想家を知らない」と。(3)


photo credit: Maia Valenzuela  Kandinsky


 フョードロフのみならず、多くの知識人やアーティストが精神世界の探求と宇宙規模の瞑想のために革新的な技術を取り入れる。帝政期とソ連邦の移行期に出現したロシア前衛芸術のケースがそれだ。アレクサンドル・スクリャービン(1871-1915)は交響曲第5番『プロメテウス』において、象徴主義的且つ不協和音を用いた音楽表現を探求する。それは調性というくびきから解放され神秘的で総合的な調和を目指す試みだった。彼は音を色と光に結びつけ、非物質的で宇宙的な無重力という特徴をそなえた輝くようなハーモニーを研究する。『神秘劇』と題する未完のプロジェクトを思索する中で、総合芸術の構想に着手する。その上演は、観客の感覚(五感)を開かせ、法悦の最中人々と宇宙を忘我の境地に至るまで融合させるものだった。重力と物質から自由になることと同様、宇宙の創造と起源についての省察はワシリー・カンディンスキー(1866-1944)の絵画や幾何学的抽象へと向かう新たな様式にもインスピレーションを与えた。文学では、アンドレイ・プラト―ノフ(1899-1951)が人間工学により征服され、人間化した宇宙を想像している。

 ボルシェビキ革命の直後、宇宙主義は、人類を宇宙の積極的統治や技術による人体の改良という新たな局面への進化を促す哲学として、新たなソヴィエトの社会の楽観主義と、科学至上主義に根付いていく。1920年代の生物工学実験では技術的に改良された超人の実現を追求する。血液注入によって死者を蘇生させる研究を通して医師アレクサンドル・ボグダーノフはフョードロフの信念――科学は人間の本性を改善するという思想――を共有する。

 我々は科学によって人間の在り方を完成・変容させるという意志をコンスタンティン・ツィオルコフスキーにも見出す。近代宇宙工学の創始者にして、ソヴィエト宇宙開発計画の父である彼は、宇宙の住人となって人間としての肉体性と個別性を失い、「時空を超越した生命と広がりをもった」「放射」状態(4)へと進化していくことを予測する。不死のユートピア思想は建築家コンスタンチン・メルニコフの設計方針も導いた。彼はレーニンの最初の棺(5)の考案者だ。フョードロフの思想は政界にまでも浸透する。1928年、当時の政治局員で将来の国家元首、ミハイル・カリーニンの演説の中でも引用された。

 20世紀初頭の科学革命の波に乗り、宇宙主義は国境を超えて広がる。フランスでは司祭であり、かつ古生物学者のピエール・テイヤール・ド・シャルダンが、ソルボンヌ大学で連続講義を行ったロシア人地球化学者ヴラディミール・ヴェルナツキとの出会いを切っ掛けにその影響を受ける。宇宙主義的キリスト像を出発点として、シャルダンは科学的発見と人間の能力の技術的改良を目的とした神学体系を作り上げる。彼は宣言する。「超越存在と超人という来るべき二つの構成要素を統合しているキリスト教信仰に心酔し、満足している」(6)。それは生物学者で優生学理論家のジュリアン・ハクスレイにより提唱された「トランスヒューマン」の概念を予見するものであった。

 スターリニズムは1920年代におけるソ連の創造的活動の隆盛に終止符を打った。しかし、宇宙主義的ユートピアニズムは宇宙征服黄金期に完全に専門技術的な装いで蘇る。それは1957年初の人工衛星打ち上げと、続く1961年ユーリ・ガガーリンが実行した宇宙空間への初飛行のことだ。フョードロフの哲学は検閲があったにもかかわらず革命による断絶を乗り越えた数少ない思想の一つとして生き残っている。彼はソ連時代には最もマイナーな宗教哲学者だったが、1970年代以降は誰よりもはやく著作の刊行を期待された哲学者でもあった。同じ頃、学者や知識人は宇宙主義という思想のもと、フョードロフの作品に共鳴した芸術家、科学者、神学者という異質のグループを結束させた。(7)

 ソ連崩壊以降宇宙主義はロシアにおける新しい思想の探求の対象となり、 再び注目されることになる。1990年代、ユーラシア思想もしくはスラヴ主義と同様に、宇宙主義は共産主義の後に続く国家思想を再構築するために担ぎ出されるのだ。フョードロフの専門家であるドイツ人学者、ミヒャエル・ハーゲマイスターは、そもそもイデオロギーをご都合主義的に利用する意図があると告発する。「ソ連邦ではフョードロフを純粋な唯物論者と見なしていたが、いまでは彼の支持者は彼を宗教思想家になぞらえ、その教えを旧約聖書と新約聖書に続く3番目のステージ―能動的なキリスト教—を開いたと見なしている」(8)

 宇宙主義者の言説はロシア国家権力に対しても強い影響力をもたらしている。1994年、防衛省は「宇宙の階層秩序」また「高次の理性」、つまり宇宙の意味と目的を研究する役割を担うヌーコスモロジー研究所を軍事大学校内部に設立した。1995年、大統領直属の諮問機関であるソビエト連邦安全保障委員会のあるメンバーは宇宙主義をロシアのナショナルアイデンティティーの土台に位置付けることを提案する。(9)

 今日、何人かの愛国的民族主義者は、宇宙主義に直接言及することなく科学技術の発展を道徳的かつ宗教的伝統と結び付けようとしている。イズボルスククラブというシンクタンクが進める「動的保守主義」という流れだ。このクラブのメンバーには、インテリ国粋主義のアレクサンドル・ドゥーギン(10)、大統領の助言者であるセルゲイ・グラジエフ、そしてパリの正教会寄りの研究所の設立者で元議員のナタリア・ナロティニツカイヤがいる。「この思想および改革案の目的は、正教と経済イノベーション、すなわち高い精神性と高次の技術をもとに、一種の合体生物(ケンタウロス)を創造することだ。」とクラブ副会長ヴィタリ・アヴェリアノフも記述している。「そのケンタウロスは21世紀ロシアの新しいイコンだ」(11)

 国の首脳部は、科学技術の進歩の促進と伝統的価値の保護をたやすく両立させることができた。一方で、プーチン大統領は「伝統的宗教」や「伝統的な性区分」(12)を奨励する。そして同時に、科学技術の超近代化も呼び掛ける。2018年3月1日、第4期の施政方針演説の中で、「ロボット、人工知能、無人運転、ネット上の商取引、ビッグデータ管理の広範囲な使用と発展に対する障害の撤廃」を発表していた。政府は国の科学技術発展を推進するための主導権を拡大させた。例えば、スールクボやアカデムゴロドク等の科学技術拠点の創設、ロスナノやロステックのような新しい技術の発展を担った国家の精鋭機関や連邦のメガサイエンス計画の一環で行われる研究用巨大インフラの創設支援である。


photo credit: clemitchel  Kandinsky_-_Jaune_Rouge_Bleu


 科学技術の近代化という課題は、1990年代政治的なエリートの後継者で、リベラルかつ高級官僚である一部の人々によってもたらされた。エリツィン政権下でソ連崩壊後の経済民営化計画を担当していたかつての副大統領で現在ロスナノ社長であるアナトリー・チュバイス がその例であろう。しかし、科学技術の発展は、特に国家的な産業=軍事産業や宇宙征服という領域においてロマン主義的愛国主義のレトリックと結びつく。「国家が誕生して以来、我が国は宇宙大国となる運命にあった」と宇宙開発担当の国営企業ロスコスモスの取締役会長で愛国的保守派を代表するドミトリ・ロゴ―ジンは断言する。そして「全世界規模の包括的思考に慣れ、ある思想のためには命を差し出すことも躊躇わないロシア国民性故の宿命であった。宇宙はロシアの同義語なのだ。当然、ロシアは宇宙無しでは、宇宙と無関係では生きられない。ロシア人の魂を惹きつけてやまない未知なるものの征服という夢から逃れられないのだ。」(13)と言う。

 大規模な宇宙開発計画の復活を物語る2018年春のロシア博覧センターでの宇宙パヴィリオン開設の背景には、このような思想が存在していた。2016年から2025年の間には、太陽活動と宇宙気象の調査を目的とした宇宙施設の建設、新世代の有人輸送用宇宙船の製造、そして月面居住プログラムの第一ステージの始まりとなる自動スペースシャトル5基の打ち上げを目指している。パヴィリオン内部は思想家で宇宙物理学者であるツィオルコフスキーの引用で溢れ、著者の合理主義と精神主義という両義性に敬意を表している。「初めに、思想と幻想とおとぎ話が、その後論理的な科学が到来する」

 技術の近代化と宗教的伝統の融合は、宇宙飛行士訓練センターである「星の街」の中央に最近建てられたロシア正教の教会によって象徴される。2010年の献堂式の際、ロシア正教会のモスクワ総主教キリル1世は宇宙の宗教的意義を明確に説明した。「神は、我々がこの惑星と全宇宙を住処とし征服するよう招いた。星へ到達しようとする人類の野望は気まぐれでも幻想でも一時的流行でもない。神によって人類に組み込まれた一つのプログラムなのだ」(14)

 宇宙飛行がニキータ・フルシチョフ下における国家の無神論の開始を告げる先鋒であったとしても、それは実際にはこれ以降宗教指導者によって準備される科学と信仰の融合なのだ。「神はいなかった」と宣言し宇宙から帰還したガガーリンは、スターリンのもとで破壊された救世主大聖堂(ハリストス)の再建を提案したとされ、今日では信仰者とみなされている。「宇宙を研究し、その法則と構造を知りたいと願った全ての偉大な科学者たちは、概して非常に敬虔な信者か、あるいは結局信仰に立ち戻り、地球は知性的な創造主によって創られたとしか考えられないと確信する。ソ連の宇宙開発計画を創始したエンジニアであるセルゲイ・コロリョフは信者だった、と我々は言い切ることができる」と星の街の教会の司祭であるイオフ神父もまた述べる。(15)

 国家的英雄で若手宇宙飛行士の飛行訓練の現役の指導者であるワァレリー・コルズンにしてみても、ガガーリンがもたらした神の死という判定を覆す同様の言説を持ち込む。「宇宙を旅しながら神が見えないとか神の存在を感じないなどということは信じ難い」と、コルズンは正教会のある雑誌の中で見解を述べている(16)。ロスコスモスと正教会の関係は順調だ、とコルズンは語っている。宇宙部門の担当という役割を与えられたイオフ神父はバイコヌール宇宙基地でのロケット打ち上げを祝福するため何度も立ち会った。

 技術革新と宗教の統合は核の領域でも同様に起こっている。保守派イデオローグのイゴール・コルモゴロフによって考案された原子力の正当性のことであり、それは過去にプーチン大統領が宣言したもの(17)を凌いでいる。2007年2月の記者会見の際、プーチン大統領はロシア正教と国の核政策は切り離せない、と断言したのだった。というのも「ソ連の伝統的な宗教と(ロシアの)核による防衛とはロシアという国を強固なものとする要素であり、国内外の安全保障に必須な環境を作り出す」からだ。

信仰と科学の同盟

 この統合は、帝政ロシア時代に最後の列聖式が行われた正教徒の聖地であり、さらにソ連の核開発プログラムの秘密基地でもあるサロフで実現することになる。2012年、キリル1世と、当時核開発会社ロスアトムの社長であり今や大統領府の第1副長官であるセルゲイ・キリエンコは、サロフに精神と科学に関する施設を造っていたが、科学者、大学教員、ロシア正教の代表者、政府関係者、実業家を集め、科学、技術及び宗教の関係について議論を行うことを目的としていた。2016年、その施設では宇宙主義に焦点を当てた「信仰と科学の結合:ロシアに利益をもたらす相互作用」という議題の円卓会議が開催された。キリル1世がそこで宣言していた。「世界を宗教的および科学的観点から理解することは矛盾しない」(18)と。同様にコンコルディズムの精神において連邦核研究センターの顧問は1990年代の核開発計画に対する教会の本質的な支持を求め、宗教機関と科学は戦略的パートナーであり続けることを確認していた。それ以外に「ロシアの未来はあり得ない」と。(19)

 宗教と科学の協調は高等教育の課程でも見受けられる。50以上の一般の大学に神学部が設置されている。最も象徴的なのは 2013年の名誉あるモスクワ科物理研究所(MIFI)内の神学部開設であり、それはロシア正教会の渉外局長イラリオン総司教の管理下にある。開設式典の演説で彼は問いかける。「神学と原子力研究との関係は? MIFIの独自性とロシアの教育システムが果たすユニークな機能により、私はこの特殊な大学に設置された神学部が宗教と科学の間の対話を促すべく重要かつ革新的な役目を果たすことを信じている。今やこのような対話は先端科学の信奉者と伝統的宗教の信者たち両者にとって必要なのだから」(20)。教育におけるこの複合的状況は、教会の側でも見られる。ある世代の聖職者はソ連の科学技術系大学で教育を受けている。

 宇宙主義思想と共に、信仰と科学間の断絶を否定することに共感はできても、ロシア正教の教義は、宇宙主義思想と同様に信仰と科学間の断絶を否定しているとしても、「人間が神という創造主の代わりになり得る」 というフョードロフのラディカルな人間中心主義を告発し続ける。ロシア正教信者のフョードロフへの非難の矛先は、同じく宇宙主義に由来するトランスヒューマニストが推し進めるロシア思想の科学礼賛的な解釈に向かう。たとえばドミトリ・イツコフが提案した活動イニシアティブ2045である。この運動は寿命を延ばし、また人間の脳に接続し意識を有するアンドロイドのアバター創造を目的として、分子遺伝学・神経科学・神経プロテーゼの研究に資金提供を行うものだ。宇宙主義との明白なつながりにおいて「科学と精神の発展の相乗作用」あるいは「精神圏(ヌースフィア)という巨大な集合的意識に合体する」能力により特徴づけられる新しい人類の到来を期待している。精神性、科学、新しい技術は未来志向の新しい現実の根拠として援用されたのだ。2011年、メドベージェフ大統領に宛てた手紙で、イツコフは自身の計画のメリットをこのように賞賛した。「不死こそ我々の国家的思想となるに違いない(21)



(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2018年12月号より)