アメリカの民主主義について


セルジュ・アリミ(Serge Halimi)

ル・モンド・ディプロマティーク統括編集長

(仏語版10月号論説)

訳:土田 修



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 世界はいまだ米国政治との関係を断ち切っていない……。議会で与野党の逆転が起きた時でさえ、アメリカの中間選挙がその後の政情にとって決定的な要因になることはめったになかった。たとえば1994年の中間選挙で共和党が圧勝したことで、民主党の大統領による厳しい刑事政策と自由貿易的な戦略に対する同党[左派]の抵抗勢力は一掃された。2010年の中間選挙では保守派のティーパーティー運動が躍進し、バラク・オバマ氏を立ち往生させた。だが、時すでにオバマ氏の選挙スローガン「イエス、ウィ・キャン」は賞味期限が切れた後だった(1)

 反対に、来たる11月6日の中間選挙は、この2年間、国際秩序をますます不安定にしてきた旋風のような米国の政治的分極化の新しい段階を迎えることだろう。この中間選挙の結果はトランプ大統領の命運を大きく左右するからだ[訳注]。民主・共和両陣営は2020年の再出馬を決心しているトランプ氏によって随分困惑させられてしまい、両者とも知性を食い尽くされてしまったかのようだ。トランプ氏の政敵は、彼を北大西洋条約機構(NATO)と西側世界の民主主義の価値を根底から覆そうとする裏切り者だとして批判している。反対にトランプ氏は、彼の批判者たちを米国に恐怖を振りまく中米のギャングMS-13の手下だとやり返している。こうした双方の誇大妄想的発作はSNSによって増幅されるので、BGMのように選挙後も途切れることなく流れてくることだろう。結果として、両党は誇大妄想の発作によって対立のルールをめぐる合意を破棄した。この「米国流民主主義」は、両党が大変誇りに思い、全世界にモデルとして見せびらかしてきたものなのだ。

 民主党員の多くはトランプ氏を正面切ってファシストと呼ぶことはないが、「プーチンのプードル犬」だとみなしている。また、大統領選挙でトランプ氏が勝利できたのは、民主党に不利な投票方法(それは間違いではない)と、ロシア政府が入念に準備したフェイクニュース(それは妄想にまで高められた誇張なのだが)のお陰だと考えている。民主党が議会の多数派を取り戻した場合、調査委員会を何度も開催し、トランプ大統領弾劾の手続きに入ることになるだろう(2)

 こうした見通しは、相変わらず数が多く熱烈で自分たちは迫害されていると思い込んでいるトランプ氏支持者の怒りを増大させる。彼らは、トランプ氏の経済政策が良好なのに、メディアや知的エリート、「闇の国家(Etat profond、ディープ・ステート)」がトランプ大統領の罷免に躍起になっていると思っている。来たる11月の中間選挙で[共和党が]敗北しても、それは彼らを打ちのめすどころか、敗北の原因がこうした陰謀や選挙違反、不法移民の投票によるものだとますます信じ込ませることになるであろう。

 3分の2の有権者はいまやこう確信している。「選挙制度は中流アメリカ人に不利になるように細工されている」と。共和党員も民主党員も少なくともこの点については意見が一致している(3)。有権者にはそう信じるだけの理由がある。というのも寡頭政治が両党員に共通したシステムだからだ。だが、極端に個人攻撃に走った現在の両党の対立の様相から窺えることは、中流アメリカ人が救われる日はまだ先だということだ。


  • (1) Lire Eric Alterman, « Le procès de M. Barack Obama », Le Monde diplomatique, octobre 2011.

  • (2) 大統領を罷免するには上院議員の3分の2の賛成投票が必要。

  • (3) 民主党員の75パーセントと共和党員の60パーセント近くがそう考えている。
    Gerald Seib, « The dangers of losing faith in democracy », The Wall Street Journal, New York, 4 juillet 2018.


  • [訳注] 上院は与党・共和党が多数派を維持したが、下院は野党・民主党が多数派を奪還し、上院と下院で多数派が異なる「ねじれ」状態となり、トランプ大統領は厳しい政権運営を迫られることになった。

(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2018年10月号より)