動物に市民権はあるか?

ヴェジタリアンの豚肉屋の時代


ブノワ・ブレヴィル(Benoît Bréville)

ジャーナリスト、ル・モンド・ディプロマティーク副編集長


訳:村松恭平


 西欧をはじめとする世界の一部の国々では、動物保護を訴える運動が拡大していると同時にヴェジタリアンの数も増加している。栄養面や環境問題に対する配慮に加え、動物の苦しみへの敏感さが「肉を食べなくても暮らしていける」という考えを広めているようだ。しかし一方で、ヴェジタリアンブームは逆説的にますます人工的な食品を生み出すおそれがあり、一部の多国籍企業による食品サプライチェーンの支配が強化されるかもしれない。[日本語版編集部]

(仏語版2018年7月号より)

Karen Knorr. — « Ledoux’s Reception » (Salon Ledoux), Musée Carnavalet (Paris), de la série « Fables », 2003-2008
© Karen Knorr - Galerie Les Filles Du Calvaire, Paris

 もうじき、フランスの牛は“愉快に”死ぬことができる。今年5月に国民議会で可決された法律に従って、各屠殺場には動物の幸福を担う責任者が配置される。彼らは、家畜を殺す前に「意識を失わせる」 —— すなわち、感電させるか、あるいはガスにさらす —— ように気を配るだろう。いくつかのNGOが各国の法律に応じて点数を付与しているが、今回可決された法律だけでフランスが高い動物保護指数を獲得できるかは定かではない。フランスは平均的な“C”の評価が与えられ、調査された約50カ国のうち真ん中に位置している。動物保護にまったく関心のないベラルーシ、アゼルバイジャン、イランよりはずっと上だが、オーストリアに大きく引き離されている。オーストリアでは、鶏のバタリー式飼育[鳥かごを積み重ねたり並べたりしてまとめた鳥の飼育法]、毛皮の商取引、猿への医学実験、麻酔なしの子豚の去勢、ガチョウの強制肥育などがすべて禁止されている。

 動物の苦しみという問題が生じたのは議会の中だけではない。公開討論会や、活動家、特にエコロジストたちの間でこの問題はますます重要な位置を占めている。インターネット上では[YouTubeのような]バイラルビデオが屠殺や工業型畜産の恐ろしさを広めている。様々な団体からのプレッシャーを受けて、いくつものサーカス興行会社(フランスのJoseph BouglioneやアメリカのBarnumなど)は最近、サーカスショーの中で動物を使うのをやめるようになった。そして、いくつかのスーパーマーケットチェーンもケージで飼育された鶏の卵を商品棚から撤去した。本屋はといえば、肉のない食療法のメリットを並べ立てる書籍を棚いっぱいに並べている。

 フランス、さらにはドイツ、スカンジナビア諸国、カナダ、イスラエル(テルアビブは“世界のヴェジタリアン[菜食主義者]の中心都市”と自認している)では、ヴェジタリアンの数は増え続けている。フランスにおける彼らの割合は、各研究によれば、人口の3〜6%となっている(ドイツでは8〜10%)。そして、自身の生活様式からあらゆる形の動物搾取を —— 蜂蜜を食べることも毛皮を着ることも —— 排除したヴィーガンも、フランスの人口の1%を数えている。さらには、人口の4分の1が“フレクシタリアン”(flexitariens)であるようだ。“フレクシタリアン”は、肉を食べはするものの、その消費を減らしたいと考えている人々のことを指す曖昧な概念だ。動物の苦しみへの敏感さだけが食生活を変える唯一の動機ではないが —— 栄養や環境に関わる動機も食生活の変化を促しうる——、肉を食べなくても暮らしていけるという考えがますます広がっている。

 動物に関する主義主張のここ最近の前進は、とりわけ活動家たちの運動によってもたらされた。彼らは短期的な目標(屠殺場やドルフィナリウム[イルカなどの海獣を主に展示する水族館]の閉鎖)と、より大きな計画(動物の解放)を結びつけ、政治家に対して熱心なロビー活動を行っている。国民議会議員のジル・ルジャンドルは、「私たち(「共和国前進」の国民議会議員)全員、動物への暴力に関するメールを毎日50通も受け取っています」と最近明らかにした(1)。活動家たちはアグロビジネスの中心地に忍び込み、その裏側を撮影したり、ショックな映像によって世論をかき立てようとしている。動物保護派へと転向した多くの人々は、屠殺がより早く進むために生きたまま血を抜かれる牛や、押し潰されるたくさんの雄のヒヨコを映した映像を何本か観た後、一歩を踏み出したと説明している(2)

 動物に関する主義主張はその他に、メディアで大きな反響を得るために大勢の国民的スター(フランスではジャーナリストのフランツ=オリヴィエ・ジズベール、エイメリック・キャロン、歌手のミレーヌ・ファルメール、僧侶のマチウ・リカールなど)と国際的スターの協力に頼ることもある。レオナルド・ディカプリオは象の保護に支援金を出し、アンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットはナミビアで野生動物の保護に取り組んでいる。俳優のペネロペ・クルス、パメラ・アンダーソン、ナタリー・ポートマン、そして歌手のジャスティン・ビーバー、モリッシー、ポール・マッカートニー、ブライアン・アダムス、モービーに関しても、彼らはみな「動物の倫理的扱いを求める人々の会」(PETA)の運動に参加している。PETAは動物保護運動を展開する最も強力な団体の一つで、ヌードの女性が扇情的なポーズで登場する宣伝キャンペーンを好んでいる。

 ハリウッドがこうして動物に関する主義主張の要所の一つになったことは非常に逆説的だ。1970年代に動物解放運動が英国で広がった時には、この運動はパンクスタイルの美学から着想を得て、カウンターカルチャー[既存の文化や体制を否定し、それに敵対する文化]と一体化していた。活動家たちはしばしば「エコ戦士」(écoguerriers)と呼ばれ、そのうち何人かは直接行動、すなわち交通機関の妨害、食品産業や製薬グループの建物の破壊を実行し、投獄されるに至った。彼らの第一の標的は、猟犬狩猟やドッグレースといった動物搾取のブルジョワ的な表れだった。彼らによれば、それらの慣行は社会的支配と「種差別的」(spéciste)支配の絡み合いを示していた(3)

 「人種差別」や「性差別」という言葉にならって作り出された「種差別」という新語は、1970年代の初めに登場し、すぐに動物解放運動のイデオロギー的基盤となった。1991年に創刊された Cahiers antispécistes(タイトルの意味は「反種差別研究手帳」)というフランスの雑誌によると、「人種差別が“人種”、性差別が“性”に関するものであるように、種差別は“生物種”に関するものだ。すなわち、種に基づく差別は、ほとんどいつも人類の構成員を優遇するものになっている」。したがって、奴隷や女性をかつて解放したように、動物も解放する必要があるという —— 主な当事者である動物が解放の闘いに参加することはほとんどない、という顕著な違いはあるが。

 ヴェジタリスム[完全菜食主義]を勧め、動物を殺すことを拒む声は過去にも数多くあった。紀元前6世紀、数学者のピタゴラスとその弟子たちは、非暴力を重んじる気持ちから、そして霊魂の輪廻転生を信じていたことから、肉を食べることを拒んでいた。それから2,000年以上が経っても、福音主義と清教徒の各宗派は肉製品を排除し続けていた。彼らはそうして「肉体を征服し、精神が優位に立つ(4)」ことを望んでいた。1960〜70年代からは“生物種の間の平等”により、ヴェジタリスムが正当化された。すべての生物種は痛みを感じる性質を持っており、考えることも意思を伝達することもできるとされてきた。

 動物解放の闘いの象徴は、猟犬狩猟や毛皮から“食肉産業”へと少しずつ移っていった。食肉産業というテーマには実際、人々を運動のために結集させる理由がある。国連食糧農業機関(FAO)によれば、毎週、10億頭以上の陸上動物と、約200億匹の魚や甲殻類が人間の胃袋を満たすために殺されている(5)。とりわけ南半球の国々で増え続けている需要に応えるには、できる限り早く低コストで生産し、殺さなければならない。したがって、畜産学 —— 家畜生産の科学 —— が、牧畜の要望に合うように家畜を“改造”した。家畜がより早く成長すること、牛の乳が搾乳機により良く適合することなどがその目的だった。社会学者であり農学者でもあるジョスリーヌ・ポルシェ氏は、「それに伴って、家畜は“動物資源”を開発するための産業プロジェクトの役に立つ“動物機械”になった」と分析する(6)。いくつかの観点から、動物は農産物加工業にとって手のかかるものにもなっている —— 住まいを提供し、餌を与え、面倒を見なければならない……。農産物加工業は、より収益性のある原料が他に見つかれば、全くためらうことなくそちらに移行するだろう。

 “模倣肉”産業は年金基金と「フードテック」のスタートアップ企業から投資を受け、めざましく発展している。アメリカの科学者たちはグーグルからの資金によって、幹細胞から“実験室のステーキ”を育てようと熱心に取り組んでいる —— PETAが熱烈に歓迎しているプロジェクトだ。ヴェジタリアンフードに対する関心が高まる中、食料品店では新しい製品が登場している —— エンドウ豆をベースにしたソーセージ、「肉は入っていないがタンパク質に富んでいる」ハムなど……。[本物を思わせるような]見た目、物質組織、そして彼らが言うところの“肉の味”をミックスさせたこうした製品は大抵の場合、食肉業や食肉加工業の多国籍企業によって作り出されている。たとえば、Fleury-Michonは2016年に“Côté végétal”というシリーズを生み出し、Hertaは“Le bon végétal”、Aosteは“Le végétarien”、Le Gauloisは“Le Gaulois végétal”をスタートした。そして、これらの混合製品はそれほど自然なものでもない。たとえば、家禽商のLe Gauloisは「植物性の」コルドン・ブルー[訳注1]を開発するために(有名なブランド名を使用し、肉が入っている同製品よりも67%高い値段で売られる)、40もの原料を混ぜ合わせている。その中にはマルトデキストリン(芳香添加物、食料品の量を増やすことができる増量剤)、ポロネギ、粉末状の卵白、キサンタンガム(ゲル化剤)、カラゲーニン(濃化剤・安定剤)、再水和された大豆タンパク、クエン酸ナトリウム(酸味を調整する防腐剤、香料)などが入っている。ヴェジタリアンブームは逆説的にますます人工的な食品を生み出す可能性があり、それに伴い、アグロインダストリーによる食品サプライチェーンの支配も強化されるだろう。

 数世紀の間上流階級の専有物だった肉は、「社会学的に正反対の陣営に移った」、すなわち、今では工場労働者や高等教育を受けていない人々のほうが、経営者や高等教育修了者よりもたくさんの肉を消費しているとTerra Novaは強調する。この財団は「肉を控える食事をチャンスとして捉える」よう促すことで、また、「フードテックの最も成功が見込まれる部門に頼ることで、「進歩的左派の知的な改革」に貢献するつもりだとしている(7)。今では、最も裕福な人々は動物に関する主義主張に敏感で、健康にも気遣い、肉を断つことで他の社会階級と区別される。そして、ヴェジタリスムは彼らの旗印となっている。週刊誌Le Pointによれば、「流行の新しい食療法」(2015年6月13日)ということだ。雑誌Elleも「動物抜きで美味しく食べることがこれほど流行になったことはない」(2016年7月1日)として、Le Point誌と同意見だ。ファッションデザイナーのロリータ・レンピカはと言えば、高価だが100%植物性の繊維だけを利用し、「魅力に溢れたヴィーガンなビジネス」を大いに宣伝している(8)。肉に反対する闘いは、階級間闘争の新たなエピソードの幕開けとなるのだろうか?

 ヴェジタリアンのレストランはすでに、かつて庶民街だった界隈がブルジョワ化したことを示すシンボルとなった。[フランスの動物愛護団体]L214が発信した動画は、アグロインダストリーの現実に対する人々の意識を目覚めさせ、屠殺場の労働者たちに汚名を着せるのに役立った。コメンテーターたちは、彼らに動物への感情移入が欠けていると論じては楽しんでいる。だが、600万〜900万頭の家畜が次々と自分の手元を通過していくのを見ている25年のキャリアを持つ屠殺人に、思いやりを持ちながらそれぞれの家畜を扱うことなど本当に期待できるのだろうか(9)? こうした観点からすると、屠殺場内に監視カメラを導入することは、すでに地獄のような作業ペースに従わざるを得ない労働者たちへのコントロールを強化するだけではなかろうか? 家畜の幸福は、この産業に従事する労働者たちの幸福にも関わっている。そしてそのどちらの実現も、生産ラインを減速させることができるかどうかにかかっているのだ。



  • (1) 2018年5月23日に国民議会で行われた記者会見。
  • (2) ショーン・モンソン監督によって制作され、ホアキン・フェニックスがナレーションを務めた映画『アースリングス』(2005年、原題:Earthlings)は、インターネット上の巨大プラットフォームと同じように、こうした映像を提供している。
  • (3) Marianne Celka, Vegan Order. Des éco-warriors au business de la radicalité, Arkhê, Paris, 2018.
  • (4) 17世紀のあるヴェジタリアン理論家の言葉を引用。cité dans Arouna P. Ouédraogo, « De la secte religieuse à l’utopie philanthropique. Genèse sociale du végétarisme occidental  », Annales, vol. 55, no 4, Paris, juillet-août 2000.
  • (5) « Livestock primary », www.fao.org
  • (6) Jocelyne Porcher, « Ne libérez pas les animaux ! Plaidoyer contre un conformisme “analphabête” », La Revue du Mauss, no 29, Paris, premier semestre 2007.
  • (7)  « La viande au menu de la transition alimentaire », 23 novembre 2017.
  • (8) Cité dans Patrick Piro, « Nouveau REV pour l’écologie », Politis, Paris, 17 mai 2018.
  • (9) ジョスリーヌ・ポルシェ氏が行った計算による。Cf. Vivre avec les animaux. Une utopie pour le XXIe siècle, La Découverte, Paris, 2014.

  • [訳注1] 肉を薄く叩き、ハムまたはプロシュートとスイスチーズ等のチーズを包み、油で揚げるか焼いた肉のカツレツ。


(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2018年7月号より)