人智学と秘教主義の見えざる帝国


ジャン=バティスト・マレ(Jean-Baptiste Malet)

『トマト缶の黒い真実』(太田出版、2018)
(L’Empire de l’or rouge.Enquete mondiale sur la tomate d’industrie, Fayard, Paris, 2017)著者


訳:三竿梓


 オーストリア人のルドルフ・シュタイナーが1913年に創始した「人智学(アントロポゾフィー)」。教育や農業分野で良い評判を得ているその思想は、さまざまな分野において世界中に広まっている。化粧品や医薬品の販売、学校や銀行の運営にも浸透している人智学のほとんど触れられない歴史と影響力を取り上げる。[日本語版編集部]

(仏語版2018年7月号より)

photo credit: 080731-1040630 Waifer X

 丘の頂上にそびえ建つ巨大な石造建築がドルナッハ(スイス、ゾロトゥルン州)の町を見下ろしている。ゲーテアヌムと呼ばれるこの建物には、神秘学者であるルドルフ・シュタイナー(1861~1925年)によって1923年に設立された普遍アントロポゾフィー協会の本部がある。哲学者であり神学者、詩人、経済学者、植物学者、栄養学者、芸術家、歴史家、劇作家でもあったシュタイナーは、建築にも大いに関心を抱いていた。この重厚な建物の設計者である彼は、周辺にあるいくつもの巨大な建築物と『人類の代表者』という9メートルの彫刻も手掛けている。これら建物の全てが集まり、12の部門に分かれた秘教主義のキャンパスを構成する。「一般人智学」部門は「転生、カルマ、キリスト論、精神的なヒエラルキーの研究」を行っている。訪問者は、さまざまなサイズのシュタイナーのポートレート写真と彼の全集のうち番号のついた354巻をゲーテアヌムの館内で手に入れることができる(1)

 階段を進むと大きなホールに辿りついた。そこには1000席の座席、ニューエイジ[訳注1]の天井画、ステンドグラス、巨大な彫刻柱、舞台装置があり、扉口の上にはパイプオルガンが備わっていた。この日、2018年3月23日は普遍アントロポゾフィー協会の総会の二日目であった。カーテンが開かれると、オイリュトミー[訳注2]を実演するために衣装をひらひらさせたダンサーたちが参加者の前に現れた。シュタイナーが儀式化したオイリュトミーの実践では、人智学の信奉者が「宇宙的な力」と固く結ばれるための運動が行れる。「みなさんも参加できますよ」と、舞台芸術部門の責任者であるシュテファン・ハスラー氏が呼びかけた。すると突然、着席していた数百人の人智学の関係者たちがドイツ語で詩を暗唱しながら、その身振りを真似しようと腕を伸ばした。「人間の魂よ! おまえは心肺の鼓動の中を生きている。それは、時のリズムにしたがって魂の本質を感じられるよう、おまえを導いていくのだ」

 生前からシュタイナーは、世界観や美学、社会性を獲得するための場所、信仰、医学、農業、食事療法学、学校を自身の精神的な活動に取り入れていた。それから100年後、人智学は帝国を築き上げる。人智学者が設立し、経営しているトリオドス銀行とGLS銀行はそれぞれ140億ユーロと40億ユーロの運用資産を保有する。これらの銀行は、「持続可能な金融」(2)の代表例として存在感を示しており、人智学の影響下にある企業に資金援助を行っている。1850校もの幼稚園と1100校あるシュタイナー=ヴァルドルフ学校(1919年、たばこ工場の経営者が労働者のために学校を創設するようシュタイナーへ依頼し、その工場の名前からこう名付けられた)は65カ国に広がり、このオーストリア人の“なんでも屋”の教育原理を適用している。フランスとドイツにおいてオーガニックコスメの分野で第一位のヴェレダは、ローズマリー油のヘアローションやラタニアエキスの歯磨き粉、フレグモーネに効くカバノキのエッセンシャルオイルを世界中で販売し、2017年には4億100万ユーロの売上を記録した。また、「アントロポゾフィー医薬品」の売上は1億900万ユーロにのぼった。主要株主である普遍アントロポゾフィー協会とゲーテアヌムに近いアルレスハイムにあるアントロポゾフィー・クリニックは、ヴェレダの資本金の33.5%と経営に関する議決権の76.5%を保有している(3)

 ヴェレダと同様に「アントロポゾフィー医薬品」市場とコスメティック市場に進出しているヴァラ社は、ドクターハウシュカという商標を保有し、1000人近くを雇用して年間1億3000万ユーロの売上を達成している。免許を持った3700人以上もの医師が世界中で「アントロポゾフィー医学」を実践しているが、多くの医療従事者はこの学説を疑似科学とみなしている。年間予算3800万ユーロのヴィッテン・ヘァデッケ大学は、人智学者によって創設されたドイツで最初の私立大学であり、数多くの「オルタナティブな」精神療法医たちがこの大学で養成された。人智学者であることを公表しているドイツ人の億万長者、ゲッツ・ヴェルナーはドラッグストアチェーン業界でヨーロッパ第一位のデーエム(DM)を創業した。薬局を3500店展開し、5万9000人の従業員を抱えるこのグループは年間100億円以上の売上を達成しており、2018年2月にはデメターと提携を結んだ。デメターとはバイオダイナミック農法の認証マークを付与する団体のことで、世界中に1875平方キロメートルの専用農地を保有している。

 ブリュッセルでは、人智学者たちはEU機関に対して自分たちの利益を主張するために、人智学の実践のための自主的行動欧州連合(Eliant)というロビー団体を置いている。この圧力団体の数多くのパートナーの中には、シュタイナー・ヴァルドルフ教育のためのヨーロッパ委員会(ECSWE)、国際アントロポゾフィー医学協会連盟(IVAA)、デメターインターナショナルの支部、ルドルフ・シュタイナー基金が存在する。これら5つの機関は同じ一つの住所を共有している。

 ゲーテアヌムの内部は独特な美学に覆われている。ドアや窓、壁、家具、照明器具には直角がなく、パステルトーンとアシンメトリーを用いることが義務付けられている。この独自の様式は世界中のシュタイナー・ヴァルドルフ学校やアントロポゾフィー・クリニック、普遍アントロポゾフィー協会の各国支部の事務所にも見られる。この様式とともに一つのグラフィック規約が存在し、そこから作られたデザインは、ヴェレダ製品のパッケージやデメターのロゴ、木のおもちゃのドイツブランドであるオストハイマ―のロゴの他、人智学関連のインターネットサイト、クリニックのパンフレット、シュタイナー学校で使用される蜜ろうクレヨンの箱、ゲーテアヌムの案内標識やシュタイナーの墓石まで、あちこちで見ることができる。

 人智学は時代の空気に合っているかのように見えるが、それはパラドックスのごとく現代性への反発から誕生した。19世紀末のドイツにおいて、伝道者たちは神話化されたドイツの過去を蘇らせ、技術と科学の進歩、都市、啓蒙思想を痛烈に非難していた。有機的で、農村に住み、変わることのない生活を営む民族(Volk)が持っていた中世の強い絆やその性質を彼らは称揚した。1880年代には、シュタイナーはウィーンで技術と哲学を学び、汎ゲルマン主義の新聞に数十本の記事を発表した(4)。短い間ではあるがウィーンの週刊誌Deutsche Wochenschriftの編集部にも入った。そのサブタイトルには「ドイツ人の国益のための機関紙」と、はっきり書かれている。1902年、神秘主義に熱中したシュタイナーは神智学協会に加入し、ドイツ支部の事務長に就任する。1913年にはその組織を分裂させてアントロポゾフィー協会を設立した。この協会は、秘教主義、観念論哲学、キリスト教神秘主義、“フェルキッシュ[訳注3]”な異教徒(トール、オーディン、ロキといった北欧の神殿に住む神たち)、科学性の要求――当時のヨーロッパ社会に浸透していた――が合わさったものだ。シュタイナーはドイツロマン主義の伝統を受けて、真実の識別と人々の贖罪への道は感覚と芸術によって開かれると主張した。人智学は「宗教」と称されることを否定し、みずからを「精神の科学」と主張して、その探求方法の厳密さを守っているのである。

 この「科学」は、真実性の最も根本的な性質は精神に依拠するという前提に基づいている。人智学の農業部門長であるジャン=ミシェル・フロラン氏は、机の上に置かれたブーケを指さしながら「この花の後ろにも、この花の前にも、その花の概念が存在します」と説明する(5)。人智学者にとって、数学的な合理性と近代科学はこの世界の物質的な側面、すなわち「目に見える」側面しか説明していない。彼らいわく、精神と超自然的な力は目に見えない世界の中で作用する。「この超感覚的な世界が遥か遠くにあり、拡散していると想像してはなりません」とフロラン氏は『バイオダイナミックに関する小論文』(Amyris、2016)の中で書いている。人智学は、精神を通じてこの神秘的世界の謎を解明する「科学」なのだという。「加入儀式のプロセスは人間を変化させ、日々の意識の標準形から霊的知覚を得るために特別な器官を自由に使える精神活動へと導きます」とシュタイナーは述べている。彼は死者と意思疎通することは可能だ、と断言していた(6)

 シュタイナーは6000回の講演の中で、カール・マルクスはある強盗——それはフリードリヒ・エンゲルスだという——の略奪によって農奴となった、中世の領主の生まれ変わりであると述べていた(7)。「彼らが自分たちの間で解決しなければならなかったことは、死と新たな生の間にある長い道のりにおいて、彼らが互いに働いていた悪事を償いたいという願望に変化した」とシュタイナーは明確に述べている。人間の魂は25920年、すなわち「プラトン年」のサイクルによって、数千年をかけて絶え間なく前進すると彼は考えている(8)

 シュタイナーいわく、火星は液状の惑星であり、地球は巨大な頭蓋骨で、月はガラス化した角の堆積物であり、編みものをすることで歯が健康になるそうだ。また、島と大陸は海に浮かび、星々の力によってその場に留まっているという。惑星は魂を持ち、鉱物は植物から作られた。無神論者は当然、病気であるため洞察力のある人間は彼らを見抜くことができるだろうとした。初めは動いていなかった地球は、人間の「私」によって自転しているそうだ(9)。「宇宙の二つの側面から、すなわち、一つはキリストから、もう一つは聖母マリアから、朝の力と夜の力がどのように人間の役に立つことができたかを発見することは、“善”と言えるだろう」(10)と、この雑文家は述べている。彼の考え方は今日、教師や銀行家、農民にインスピレーションを与えている。「実のところ、奇妙できわどく、さらには妄想的だと思われかねない言葉があちこちに見られます」とイヴリーヌ県シャトゥーのルドルフ・シュタイナー学院の責任者であるレイモン・ビュルロット氏はシュタイナー=ヴァルドルフ教育連盟のサイトに書いている。「しかし、驚くほど未来を予知した発言が見られるのは、多くの場合、唐突に発せられたこうした言葉の中なのです」……。

 しばしば有機農業と混同されるバイオダイナミック農法という名称は、畑で行われる秘教主義的な儀式に由来する。瞑想や典礼、超自然的な力を持つとされる道具類によって、土壌や植物、宇宙を精神的に活性化させることがこの儀式の目的である。1924年、シュタイナーは自身の教義をいくつか表明した。フロラン氏は「バイオダイナミック農法は単なる儀式ではありません。しかし、それは確かに儀式なのです」と説明する。デメターはバイオダイナミック農法で栽培された農産物の商標であるが、このガイドラインに従うことを受け入れたフロラン氏は有機果物や有機野菜を生産するだけではなく、[バイオダイナミック農法という]一種のドルイド教による、牛糞が詰まった角や鹿の膀胱の使用、コズミックカレンダーの遵守を課されている。イスラムやユダヤの法に適った肉と同じように、バイオダイナミック農法で作られたワインやにんじんには、それらが体系化された生産方式に従ったものであることが表示されている。さまざまな種類の農作物に対して行われた科学実験によれば、バイオダイナミック農法は有機農業と比較した場合、生産量も収穫物の品質も改善するものではない(11)とされている。にもかかわらず、この農法は特にブドウ栽培の分野で良い評判を得ている。しばしばナチュラルワインと結びつけられ、時に混同されるこの製品は愛好家たちを楽しませており、こうした愛好家は増加傾向にある。

 シュタイナーの活動にはさらに暗い側面がある。彼は1910年以降、ゲルマン人と北欧人がアーリア人種(12)という同じ民族グループに属していると主張し、「黒人のヨーロッパ移住は恐ろしい文化的蛮行であり、(それは)フランス人を人種として衰退させるものだ(13)」と非難した。数年後、多くの人智学者たちがナチ親衛隊(SS)や突撃隊(SA)といったナチス党のメンバーになる。歴史家であり、ウィスコンシン州マーケット大学教授のピーター・ストーデンマイアーは「組織レベル、また個人レベルでも人智学協会と国家社会主義ドイツ労働党(NSDAP)の間には複雑な絡み合いがあり、その規模はナチスの反秘教主義的な分派に属する人たちを悩ませるほどでした」と言う(14)。彼は、ナチズムと人智学という「この二つの教義は、時期によって相互補完的であったり、互いに協力し合ったり、ライバル関係を保ったりしていました」と詳しく説明する。人智学の編纂史は、人智学のメンバーが戦争中に耐え忍んだ苦難だけにしか触れていない。しかし、ナチス党の幹部だったルドルフ・ヘスが人智学を支持し、1941年5月に彼がスコットランドへ飛び立つまで人智学の信奉者たちは迫害を被らなかったことがストーデンマイアーの研究では示されている。ナチ親衛隊は、占領地域と強制収容所においてバイオダイナミック農業プログラムを導入しさえしていた。ヴェレダは「医療テスト」と称してダッハウの捕虜たちに凍結防止クリームを供給した(15)。「戦後、人智学者たちは難なく自分たちの事業に復帰し、過去の最も暗い側面に関するあらゆる議論を抹消したのです。大勢の旧ナチス党員たちは1945年以降、人智学においてキャリアを築きました」とストーデンマイアーは言う。

 イタリア人智学協会の事務局長であるステファノ・ガスペリ医師は、2018年3月にゲーテアヌムの大ホールで開催された総会の際、自身の医療行為に関する信条を語るために演壇に立った。「医学的観点から言いますと、病は我々と世界の間にある悪い関係性から生じます。ルドルフ・シュタイナーはこう教えています。私たちは、神が姿を消して死の思想しか生み出さない死の世界を見ている、と。したがって私の闘いは果てしなく大きなものです。なぜなら、私たちが患者の心臓を聴診するとき、私たちは患者の心の中にいるのですから。つまり私は大学で学んだことから解放されなければならないのです」と彼は説明する。シュタイナーいわく、病は因果応報による宿命から生じるもので、それは複数あるうちの一つの前世においてその人が犯した罪や失敗と切り離すことができない。

 1917年、シュタイナーはヤドリギが癌の治癒に効くだろうと考えた。2017年にピーター・セルグ医師は、“人智学が広める医療のための団体”が発行した「ヤドリギの力。ヤドリギによる癌治療の100年」というタイトルの小冊子にこう書いている。「ルドルフ・シュタイナーの指示によると、ヤドリギが癌の“治癒の真の力”を発揮するのは、夏季と冬季のヤドリギの抽出物の適切な配合によってのみ可能である」。ヤドリギの抽出物(Viscum album)は「抗癌治療薬」とみなされている。ヴェレダとイスカドールAGが製造し、6アンプル34ユーロ以上で販売されているイスカドールは、「ヤドリギの抽出物のアントロポゾフィー医薬品」として、ドイツとスイスで「腫瘍の病気の補完的治療法」に広く用いられている。臨床試験によってイスカドールは癌の治療には全く効果がないと証明された時(16)、人智学者たちは研究は継続されなければならないと回答した。「癌に対する全体的アプローチ」という小冊子の中でアルレスハイム病院は独自の治療方法を提案している。「ヤドリギをベースとした治療は我々の治療の中で最も重要なものです(......)。ヤドリギをベースとした癌に対する治療が有効であることは、もはや疑いようがありません。イスカドール製剤はここ10年来、成果を上げています。また、さらなる開発の対象となっています。(......)イスカドールを用いた治療を始めるのに早すぎることなど決してありません」

 シュタイナー教義を学び始めるにも、早すぎることは決してないということだ……。グレゴワール・ペッラ氏は9歳の時に人智学に出会い、ヴェリエール=ル=ビュイッソン(エソンヌ県)のシュタイナー学校で教育を受けた後、30年間この世界に関わり続けた。癌を患った人智学者たちを知る彼はこう回想する。「彼らはフランスで治療を受けることを拒み、外国のアントロポゾフィー・クリニックを選びました。彼らはそこで、治療としてイスカドールを注射され、ホメオパシーを受け、芸術療法に参加しました。誰ひとりとして戻ってきたひとはいません。何人かは人智学に全財産を遺贈しました」。シャトゥーのルドルフ・シュタイナー学院で教育を受けたペッラ氏はシュタイナー学校で教鞭を執っていた。現在は「シュタイナー=ヴァルドルフ学校の真実」という批判的なインターネットサイトを運営している(17)。組織と関わりを持たなくなった後、ペッラ氏は「セクトによって被害を被った個人と家族の保護団体(Unadfi)」が発行する新聞に「シュタイナー=ヴァルドルフ学校の人智学教育」と題してある証言を発表した。シュタイナー=ヴァルドルフ学校連盟はすぐさま抗議し、彼を名誉棄損で訴え、5万ユーロの損害賠償を要求した。しかし、この訴訟手続きは却下された。

 人智学者たちは大抵の場合、シュタイナーの著作のあちこちに見られる人種的偏見や奇妙な考えの数々を巧みに避けている。そのため、シュタイナー学校の生徒の両親やアントロポゾフィー銀行の顧客、バイオダイナミック農法を実践する農民は、その歴史や秘教的原理、さらには人智学の元信者が証言したセクト的偏向の危険性さえも理解していない精神的潮流に結びつけられた状態にある(18)

 その当初からアントロポゾフィー協会の使命は、熱心な勧誘によって大衆に運動を広めることではなく――人智学者は世界中で4万4000人しかいないという――、対抗社会が芽生えるような拠点を各地に作ることだった(19)。教育、医療、経済、農業のどの分野であろうとも、これらの拠点は各人を「精神的に生まれ変わらせる」ことに力を注いでいる。社会全体に影響を与えるには意識を変えるのだ、とシュタイナーは考えていた。彼は、社会主義者のヴィルヘルム・リープクネヒトが創設したベルリン市民大学で教えるために1899年からそこに招かれ、労働組合の聴衆に対してこう述べていた。「力を授けるものは知そのものではなく、不正を抑止し、世界を変えることを可能にする精神力と確固たる意思だ」。たとえ「世界を変える」ことが重要だとしても「私たちの在り方が変わるかどうかは私たち次第だ」。この見解に怒りを表明した社会党員たちは労働運動からシュタイナーを排除していた。それから1世紀以上が経った今、反近代的、汎神論的、そして厳格なシュタイナーのカウンターカルチャーは「公式の社会« société officielle »」において確固たる支持を得ている。

 2018年の総会に参加した900人の中には、緑の党の共同設立者で1987年〜2002年にドイツの下院議員、2009年〜2014年には欧州議会議員に選出されたゲラルド・ヘフナー氏がいた。2002年〜2005年までドイツ・アントロポゾフィー協会の重役会のメンバーだったへフナー氏は人間科学部門を統括している。彼に近しい人物の中には普遍アントロポゾフィー協会のビジネスネットワークにおいて最も影響力のあるポール・マッケイ氏がいる。1946年に香港で生まれた彼は、ロッテルダムで経済学を、フォンテーヌブローでは経営学を学んだ。

 ポール・マッケイ氏は1977年から2012年にかけて、人智学の銀行部門の共同設立者、それから部長として働き、後にオランダのトリオドス銀行の取締役となった。1997年にオランダの日刊紙Trouwで彼はこう打ち明けている。「このような言い方はひどいでしょうが、1986年のチェルノブイリの大惨事が私たちにとって思わぬ幸運となりました。この部門が始まったばかりの頃に私たちは、風力エネルギーに投資することを決めました。私は緑の投資のために税制上の優遇措置の促進に尽力しました。免税措置が実行された後、私たちの緑の基金は並外れた発展を遂げました」。2012年以降、マッケイ氏はヴェレダの取締役会の議長を務めている。彼は1996年から2018年まで、ずっと普遍アントロポゾフィー協会――ヴェレダの主要株主――の取締役会の一員でもあった。緑の党のもう一人の共同設立者であるルーカス・ベックマン氏は1994年から2010年までドイツ連邦議会のエコロジストグループの事務総長を務め、彼もまた人智学の金融部門を発展させた。2011年から引退した2017年まで彼はこの銀行の財団であるGLS Treuhandの執行役員を務めた。

 カフェのテラス席で、かつてトリオドス銀行のマネージャーだった人物がこの銀行の支店長として過ごした10年間を匿名で語ってくれた。「私は倫理的な金融を信じていたので、トリオドス銀行に入社しました」と彼は話し始めた。「着任後、シュタイナーを読みましたが、私は彼を夢想家のように思いました。私は人智学を支持しない珍しい幹部の一人でしたが、そうした幹部の存在を認めない従業員たちからは疑問を抱かれました」。オルタナティブなカフェの支配人であるペーター・ブロム氏が創設したトリオドス銀行は1980年にアムステルダム証券取引所で初めてグリーンファンドを上場した。2000年代にこの銀行は人智学のメンバー以外からも幹部人員を雇わなければならないほどの成長を経験する。この元幹部はドラゴンに関する詩を読む会議への出席や、施設内のいたるところに人智学が存在することにうんざりした幹部が辞任するのも目撃した。「トリオドス銀行は、ドイツのGLSやフランスのLa Nefと比べると教義を厳密に守っていない人智学の銀行ではありますが、人智学的な思想は経営と切り離せません。私はとりわけある側面に異常さを感じました。それは、“運命”に関する側面です。誰かが幹部ポストに就くとそれは運命であるとされ、その決定を問題にしてはならないということです。トリオドスは“左派の銀行”ではありません。この銀行は、太陽光エネルギーやビオ食品のようなかつて誰も信用していなかったビジネスで大きな利益を上げています」

 構造的なことには異議を唱えないながら一般的なやり方とは一線を画して信用を得ようとすること。それは、教育分野における人智学の方向性でもある。2015年に創設された非契約私立学校[訳注4]「アルルの可能性の世界」は自然の中に建てられた。この学校は週3回の園芸や有機作物の食事、乗馬の授業を提供し、生徒を採点評価せず、宿題も与えていない。高額な授業料――子供一人につき、年間4200~6200ユーロ――を支払うことができる生徒の両親の中には、ニューヨークの銀行家やゴンクール賞受賞者、映画スターがいる。

 2018年4月21日の一般公開日にはオーケストラがラモーを演奏し、両親が感動して見守るなか馬に乗った子供たちが障害物を飛び越えていた。この学校を運営するアントロポゾフィー協会の重要な二人の人物、プラクセドとアンリ・ダアンの横でフランソワーズ・ニッセン氏(2017年5月、文化大臣に就任)がこの光景を写真に収めていた。ニッセン氏はActes Sud出版のジャン=ポール・キャピタニ氏と共にこの学校を設立した。彼女は「フランスのアントロポゾフィー協会ニュース」という新聞で「私は常に一種の合理主義の中にいました。突如として真実が現れ、精神的生活が私の人生の中心になるためにはショックと劇的な変化が必要だったのです」と打ち明けている(20)

 この学校はアントワーヌ・キャピタニ基金と財政上の繋がりがある。この名前は2012年に亡くなった、ニッセン氏とキャピタニ氏の息子に由来する。この悲劇から1年後、ニッセン氏は当時、普遍アントロポゾフィー協会の委員会のメンバーであったボド・フォン・プラト氏と知り合った。フォン・プラト氏(21)はゲーテアヌムのオフィスでこう嘆いている。「人智学はフランスでセクトと見なされています。(......)フランソワーズ・ニッセンは幸いなことに精神が開かれている女性です。私たちは友人になりました。彼女が文化大臣に任命された時、とても嬉しく思いました。彼女にショートメッセージを送り、“たぶん、今は連絡を取り合わないほうがいいね”と伝えると、彼女はすぐにハートの絵文字つきでこう返信してきました。“ちょっと、馬鹿なこと言わないで!”」

 「アルルの可能性の世界」の教室内で、私たちはシュタイナー教育に関する本やオイリュトミーの授業の時間割表、シュタイナー学校に関するドイツの雑誌、「アントロポゾフィー医薬品」が並んだキャビネット、シュタイナー教育に合致した中世の神話と神が描かれた書き取り用ノートを見ることができる。「ここはシュタイナー学校ではありませんと先生は言いますが、100%シュタイナーの学校です」とリセの一年生の生徒が打ち明けた。「私は8歳からシュタイナー学校にいます。両親はここに申し込むために引っ越しました。そして、率直に言って、シュタイナー学校と同じ精神的高揚があります。ここではまさにシュタイナー学校と同じことが行われています」。それならば、なぜこの学校はシュタイナー=ヴァルドルフ学校として認可されていないのか? キャピタニ氏は「フランスではスピリチュアリズム、特にシュタイナーに対してとても多くの偏見があるからです」とゲーテアヌムの教育部門が発行する新聞で回答した(22)

 毎年12月、世界中の全てのシュタイナー学校で生徒たちは「アドヴェントスパイラル」という子どものための行事に参加する。この儀式は、全体が暗闇に包まれた大きな部屋で行われる。床には松の枝が螺旋状に置かれ、中心には火のついた大きな蝋燭が立っている。儀式では最年長の生徒が最年少の生徒へろうそくを手渡す。暗闇の中、生徒と教師が信心深く歌う一方で――時にドイツ語圏ではない国においてもドイツ語で歌われる――、ろうそくを持った子どもは皆に囲まれる中、一人でその螺旋の内側へ進む。中央にたどり着くと手に持ったろうそくに火をつけて戻る。「子供の頃にこのような神秘的な雰囲気を感じると、深く感動します」と元生徒が打ち明ける。「この儀式は冬の間の魂の内面化の動き、そして世界の外側へ向けた魂の広がりを象徴しています」とペッラ氏は説明する。「自分自身の中心へ向かうことはクリスマスに誕生するキリストの発見を意味しています」。2017年12月には、生徒の親に事前告知がないままこの儀式が「アルルの可能性の世界」で行われた。その創設者であり文化大臣であるニッセン氏は一般公開日に、この学校を「とても誇りに感じている」とはっきり述べた。「未来が創られるのはこのようなオルタナティブな学校の中なのです」と彼女は断言する。


  • (1) シュタイナーから引用する際には“GA”(全集)と示し、それらは彼の全著作の公式番号と一致している。約260作がフランス語に翻訳され、その大部分はÉditions anthroposophiques romandesあるいはÉditions Triadesから出版されている。特記なき限り、そこからシュタイナーを引用している。
  • (2) Geoffrey Jones, Profits and Sustainability. A History of Green Entrepreneurship, Oxford University Press, 2017 ; « Comment la banque GLS est anthroposophique » (PDF), entretien avec Thomas Jorberg, directeur de GLS Bank, Info3, 2013 ; « Ist die GLS Bank eine anthroposophische Bank ? », gls.de ; « Que finance Triodos ? », www.triodos.fr
  • (3) « Diversity as a source of inspiration » (PDF), rapport annuel de Weleda, 2016.
  • (4) GA 29, 30, 31 et 32.
  • (5) 2018年3月23日、フロラン氏との対話において
  • (6) GA 13, « La science de l’occulte » ; et 261, « Nos morts ».
  • (7) GA 236, « Le karma. Considérations ésotériques ».
  • (8) GA 13, « La science de l’occulte ».
  • (9) GA 354, « Création du monde et de l’homme » ; 347, « Les processus physiques et l’alimentation » ; 354, « Création du monde et de l’homme » ; 300a, « Conseils : réunions avec les professeurs de l’école Waldorf de Stuttgart » ; 349, « La vie de l’homme et de la Terre » ; 136, « Les entités spirituelles dans les corps célestes et dans les règnes de la nature » ; 98, « Êtres naturels et spirituels » ; 182, « Comment puis-je trouver le Christ ? » ; et 107, « Le Moi, son origine spirituelle, son évolution, son environnement ».
  • (10) GA 178, « Derrière le voile des événements ».
  • (11) Linda Chalker-Scott, « The science behind biodynamic preparations : A literature review », American Society for Horticultural Science, décembre 2013.
  • (12) GA 121, « mes des peuples. La mission des âmes de quelques peuples dans ses rapports avec la mythologie germano-nordique ».
  • (13) GA 300b, « Conférences avec les enseignants de l’école gratuite Waldorf à Stuttgart ».
  • (14) Peter Staudenmaier, Between Occultism and Nazism : Anthroposophy and the Politics of Race in the Fascist Era, Brill, Leyde-Boston, 2014.
  • (15) Peter Staudenmaier, « Anthroposophy and ecofascism », Institute for Social Ecology, janvier 2009.
  • (16) Edzard Ernst, Katja Schmidt et Miriam Katharina Steuer-Vogt, « Mistletoe for cancer ? A systematic review of randomised clinical trials », International Journal of Cancer, no 107, Heidelberg, 2003.
  • (17) « La Vérité sur les écoles Steiner-Waldorf ».
  • (18) « Waldorf Watch ».
  • (19) Paul Ariès, Anthroposophie : enquête sur un pouvoir occulte, Golias, Villeurbanne, 2001.
  • (20) Nouvelles de la Société anthroposophique en France, Paris, septembre-octobre 2015.
  • (21) 2018年3月23日、フォン・プラト氏との対話において
  • (22) Pädagogische Sektion Rundbrief, Dornach (Suisse), no 58, 2016.

  • 訳注1]「個人の意識変容による人間社会の究極的な文化的発展という信念に基盤を置くイデオロギー運動」のこと。(日本大百科全書)

  • 訳注2]ルドルフ=シュタイナーが1911年ごろ創出した教育法。音楽・言葉のリズムに合わせた身体表現を行う(大辞泉)

  • 訳注3]ドイツ語の völkisch という形容詞は、国粋主義、民族主義、民族至上主義、急進民族主義、ゲルマン主義等、様々な日本語に訳されてきた。この言葉は民族主義のみならず、人種主義の意味も強く帯びているため、一義的に訳す事は難しい。(齋藤正樹『ヴィルヘルム期ドイツにおけるフェルキッシュ運動と宗教―― 雑誌『ハイムダル』における人種と宗教 ――』)

  • 訳注4]国との契約に拘束されない非契約の私立教育機関は、子供に一定水準の共通の基礎知識を習得させる義務があるが、その範囲内で教育内容や時間割を自由に選択することができる。(安藤 英梨香、「【フランス】非契約私立教育機関の設立規制の強化」、外国の立法 No.276-1(2018.7)

(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2018年7月号より)