北朝鮮の非核化に向けた狭き道

韓国、文在寅大統領の太陽政策


マルティーヌ・ビュラール(Martine Bulard)

ジャーナリスト、本紙特派員

スン・イル=クォン(Sung Il–Kwon)

ル・モンド・ディプロマティーク韓国版責任者


訳:村上好古


 トランプ大統領と金正恩(キム・ジョンウン)氏の会談が2018年6月12日に行われ、両国の外交交渉が始まった。当記事は、一旦同会談の中止が表明された直後に掲載されたものであるが(1)、関係各国の交渉姿勢について引続き示唆に富む内容になっている。半島の非核化に向けた方法に関する米朝両国の食い違い、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領のねらい、そして中国の立場、これらの関係について問題を解き明かす。[日本語版編集部]

(仏語版2018年6月号より)

SubDude. — Affiches dans le quartier Shoreditch, à Londres, 2017.

 全世界が彼のことを恐ろしい独裁者、精神薄弱、悪者だと思っていた。ところが、彼はにこやかで愛想よく、オープンな印象で現れた。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の指導者は、アメリカのトランプ大統領が辛辣に揶揄した「小さなロケットマン」から、韓国大統領と同列の責任ある国家首脳へと、数日のうちにその評価を改めたのだ。去る2018年4月27日、文在寅氏と手を携え軍事境界線を越えた金正恩氏の「魅力攻勢」は、完全に成功した。韓国の一部エリートは、「金マニア」と言ってもいいぐらいになり、彼らの間で北の指導者は「のけ者」ではなくなった。そして交渉を行うにはやはりその方が都合が好い。

 2018年冬の平昌(ピョンチャン)オリンピック以来、外交上の駆け引きが加速した。38度線のある板門店で行われたこの会談の後、アメリカと北朝鮮それぞれの指導者の歴史的な首脳会談が、結局中止されたものの、6月12日にシンガポールで行われるはずだった。[実際には、一旦中止が発表されたのち、予定どおり実施された。]

 この急展開がどれほど大きな意味を持つかについては、金氏がここ1年足らずの間に太平洋に幾度もミサイルを打ち込み、核兵器の実験を行ったのに対し、アメリカの大統領は繰返し彼にツイッターで報復攻撃を加え、国連の安全保障理事会は制裁を強化してきたということを思い起こす必要がある。この変化はどう説明したらよいのだろうか。

 驚くには当たらない。トランプ氏と彼の仲間は、彼らの強硬路線(ツイート攻撃を含む)が成功し、お気に入りのスローガンとして常に口にする「力による平和」の正当性が証明されたと考えたのだ。ほかでもなく北朝鮮を火の海にするという脅威を与えたことが、この国の指導者を屈服させた、ということらしい。寓話としては面白い。しかし、もしそれが正しいのであれば、金王朝はずっと前に交渉の場に出てきていたであろう。実際はその反対だ。1993年に北朝鮮が初めてミサイルを発射したのは、祖父の金日成(キム・イルソン)との会談をアメリカが拒否した後だった。また2002年から2003年にかけ、ジョージ・W・ブッシュ大統領(小ブッシュ)が北朝鮮を「ならず者国家」に貶め、禁輸措置を強化する決定を下したことは、父である金正日(キム・ジョンイル)を核計画の強化に走らせることになったのだ。

 息子はそのペースを早めた。その一方で韓国は、保守政権(李明博〈イ・ミョンバク〉、次いで現在汚職容疑で服役中の朴槿恵〈パク・クネ〉、両大統領の政権)がすべての扉を閉ざし続けた。これは、核の放棄を前提条件とするアメリカのバラク・オバマ大統領に同調したものであり、このアメリカの政策は、誤った言い方で「忍耐戦略」と呼ばれた。つまり、韓国の丁世鉉(チョン・セヒョン)元統一相が説明しているように、「これは政治のやり方ではなかった。北朝鮮がいかなる見返りもなく進んで核兵器を放棄するのを待つことなどあり得なかった」。さらに彼は言葉を続け、「皮肉にも、このことが北朝鮮に核技術を完成させてゆく時間を与えることになった」と言う(2)

 北朝鮮の指導者を交渉の席に着くよう仕向けたのは、脅しが効いたのではなく、「全てか、無か」という戦略を捨てたからなのだ。好戦家のようにふるまうことの多いトランプ氏ではあるが、その前任者の政策に異常なほど背を向けたがり、少しずつ歩を進めるやり方を嫌がったりしない。マイケル・ポンペオ国務長官は、「ひとつひとつの段階が重要である」と明言している。「目標は、完全で検証可能、不可逆的な非核化ということで不変であり、これは現政府の目的なのだ」と続ける(3)。つまり「目的」であって、前提条件ではないのだ。彼は、幾分誇張しながら、これは「歴史の流れを変えるかつてない機会」を意味すると説明する。遺憾に思う人もいるだろうが、明らかに、北朝鮮が核兵器庫を持つようになっていなければ、この(期待されてきた)アメリカの方針転換は起こらなかっただろう。

 いずれにしろ、オバマ氏との違いを示し歴史に名を刻みたいという思いは、おそらくトランプ氏の急変に大きな意味を持っていた。アメリカ領土内に到達し得る弾道ミサイルの破壊を速やかに実現することを彼が期しているだけに、なおさらそうだった。しかも「アメリカがもはや危険にさらされてはいないということを保証する平和的な解決方法、これを見出すための議論を我々は始める必要があるのだ」とポンペオ氏は説明している(4)

 1953年以来初めて、北朝鮮とアメリカの指導者の間の会談が実現するかもしれない。そのことの重要性を軽視するわけではないが、太平洋をはさむ米朝の姿勢の変化はなんと言っても韓国大統領のひるむことのない強い意志に発している。彼は、昨夏、トランプ氏のツイッターで、「宥和政策は戦略上何の役にも立たない」(2017年9月3日)(5)とたしなめられたが、すでにそれに先立つ春、「キャンドル革命」――朴氏を罷免に追い込んだ大規模抗議運動(6)――に引き続いた大統領選挙の際、文氏は南北対話の再開を支持する姿勢を見せていた。彼がいかに多くの障害を乗り越えなければならなかったかということは言うまでもない。

 大統領就任1カ月後、彼は明確な声明を発した。「我々は、もし北朝鮮が挑発行動をやめるなら、条件なしで対話に入る決意である(7)」と。無駄に終わった。そして2017年7月6日、同じことをより詳細に、ベルリンでのある会議で繰り返した。冷戦期間中分断されていたこのドイツの首都が選ばれたのは、単なる思い付きによるものではない。17年前、金大中(キム・デジュン)大統領(1998年~2003年)はここで「ベルリン・ドクトリン」を明示し、北朝鮮の指導者金正日と2000年6月、歴史的な握手を交わしたのだった。そしてその後ほぼ10年に及ぶ対話と交易の時代が始まったのだが、この「太陽政策」は、アメリカの非妥協政策と衝突し、2008年に韓国に保守政権が復帰するとともに影が薄くなっていた(8)

 金大中、廬武鉉(ノ・ムヒョン)という二人の民主党大統領の親密な協力者であった文氏は、それゆえベルリンで、その志を継いだのだ。北朝鮮が新たに弾道ミサイルを発射して2日後のことだった。彼は、「韓国政府主導のもと朝鮮半島に平和体制を構築する挑戦の旅に乗り出して行く」と意欲を語った。その言葉は入念に選ばれていた。「旅」とは、複数の行程があることを意味し、アメリカに対する自律性を示していた。さらに「我々は北朝鮮の崩壊を求めてはいない。北を南が吸収するというかたちでの統一にはどんなものであっても力を傾けるつもりはない」(9)と説明した。北朝鮮と、自国民――非常に高くつく恐れのある統一には消極的だった――を同時に安心させるための配慮だった。

ボタン戦争の影で

 もちろん韓国の大統領はアメリカの決定的とも言える重要性を忘れてはいないし、1カ月前に凍結したサード(THAAD、高高度ミサイル防衛システムのこと)の配備を今しもアメリカに認めたところだった。しかし、2000年代に交渉の糸口を何度も頓挫させたような的外れな介入をアメリカがしてくることを恐れていた。彼は蘆大統領内閣の中でいくつもの役割を担い北朝鮮との交渉に当たっていただけに、そのことを苦々しく思っていたのだ。そこでアメリカの承認を待たず、北朝鮮を冬のオリンピックに参加するよう招致した。

 一方ベルリンでは、「タンゴは二人でなければ踊れない」と強調した。実際、金正恩氏の変化がなければ、何事も進まなかっただろう。確かに2018年の新年の辞で、彼はこれまでどおりのやり方でアメリカを酷評した。「核のボタンは常時私の執務室で手の届くところにある」。こう宣言したことは、今や伝説的ともなったトランプ氏のこのツイート発言を呼び起した。「私だって核のボタンを持っている。それに、それは彼のものよりもずっと大きく、はるかに強力だ」(2018年1月3日)

 しかし、こうしたボタン戦争の裏側では変化が起こっていた。金正恩氏はもはや韓国をワシントンの手中にある「操り人形」とは見ていなかった。そして特に、「2017年は大いなる勝利の年であった。我々は不滅の一歩を標したのだ(10)」と、北朝鮮が核兵器を手にし、今や大国の仲間として振る舞えることを告げた。次いでオリンピックへの招きを受け容れ、彼の妹である金与正(キム・ヨジョン)氏[訳注]が率いる代表団を派遣した。4月27日、彼は軍事境界線を越えたが、世界の中での自分の位置づけを意識していた。「今日新しい歴史が始まる、平和の時代だ」と彼は「平和の家」の芳名録に書きしるした。これに引き続き、2006年以降6度の核実験を行った豊渓里(ブンゲリ)核実験場の破壊を大々的に通知し、5月24日、外国人記者の目の前でこの施設は消滅した。もっともこの際外国人の専門家は招かれず、これらの坑道の内部で行われていた活動の実際を検証することは阻まれた。

 北朝鮮がもはや地下核実験を必要とせず、核技術を手にしたことは今や明らかである(11)。したがってその指導者はアメリカと対等の交渉――それは金王朝の大いなる夢であった――を期待できるのであり、彼が権力の座に就いた時に約束したとおり、「人民がひもじい思いをしないですむ」ための政策の第二の柱、すなわち経済発展へと歩を進めることができる。そして当面、皆がそれに従う。金正日体制下では絶対的権力を持っていた軍も同じだ。朝鮮半島に関するフランスの専門家でその大家の一人であるパトリック・モリュス氏の言葉を借りれば、金正恩氏が「兵舎に戻した」のだ。新しい富裕層はどうかというと、彼らはすでに緊縮経済政策緩和の恩恵を受けており(12)、禁輸措置の強化による景気後退予測を憎々しく思い、おそらくこの戦略転換を促した。

 平和への道のりには障害が少なくないように見える。半島の非核化には誰もが同意している。しかし、その中身についてはどの当事者も意見が同じではない。アメリカの内部からして、そうなのだ。ポンペオ氏は1953年来の停戦協定に代わるものとして平和条約の締結を目指し、禁輸措置の部分的解除の展望を可能ならしめる「北朝鮮の具体的な行動」によって「非核化の本当のチャンス」になることを想定している(13)。しかし、大統領が同じように耳を傾けるジョン・ボルトン国家安全保障担当補佐官は、2003年に核兵器と化学兵器のすべてをあきらめたムアマール・カダフィ元革命評議会議長に倣った「リビア方式のシナリオ」をむしろ想定している。金氏はリビアの指導者と違って、もし必要が生じれば核への道に戻ることを可能にする技術を持っているが、政権から追われ8年後には殺されたカダフィ氏の運命は、彼にこの道をとる気にさせることはまずない。そうは言っても二人のアメリカの交渉担当者は、最終目標については互いに理解しあっている。すなわち、北朝鮮からすべての核爆弾、ミサイル、化学兵器を排除することだ。

 アメリカは北朝鮮の非核化だけを問題にしている。しかし、北朝鮮は韓国と軌を一にし朝鮮半島全体の非核化を語っている。4月27日の板門店の共同宣言はこの点を明確にしている。「北と南は、核兵器の存在しない半島を実現することが共通の目的であることを確認する」……したがって、アメリカの核の傘なしにということだ。問題はまだ残っている。それは、一体どのようにして北朝鮮が実際に核を放棄するのか明らかでないからだ。世界で6番目の軍事力を有し28,500人の米軍兵士が最新鋭の兵器とともに駐留している南への対抗上、北は核を生命線と考えているのだ(14)

 北朝鮮が展望しているのはどちらかというと、一連の「段階的で、同時に履行される手続き」にある。北の譲歩、すなわち核施設の破棄や国際的な管理の受け入れ等のことは、南とアメリカの譲歩のあとに続いて行われるものということになる。それはたとえば、正式の手続きを踏んだ平和条約の締結、アメリカとの関係正常化、制裁の解除、南とアメリカとの間の共同軍事訓練の縮小とその後の終了、といった譲歩のことだ。韓国のスタンスもほぼ同様だ。

 韓国の大統領には、歴史を経たアメリカとの同盟関係を損なう意図はない。彼はアメリカの交渉担当者が熱意に駆られ高圧的になるのを、中国に寄り添うことで抑制することを期した。「半島に平和を樹立するために中国の役割は不可欠」であることを再確認した方がよいと韓国大統領府のある高官は考えていた(15)。こう明かしたことは、板門店でのコミュニケが、平和条約締結への交渉は「南北朝鮮とアメリカの3者、あるいは中国を加えた4者」で行われるだろうと述べているだけに、一層意味深い。「北朝鮮のアメリカ寄りの勢力」によってあいまいな表現が取り入れられたのだ、とソウルでは言われている。彼らは、自分たちの祖先が独立を守るため、当時兄弟のようでありながら互いに反目しあっていたロシアと中国を時に応じ二股にかけたように、アメリカに近寄ることで中国の経済的保護から(いくらか)逃れ出ることを期待しているのだ。少なくともここに、地域における中国の覇権を抑えたいというアメリカの指導者たちと、彼らとの間に一致する点がある。中国は驚いて、非常に政府寄りのグローバルタイムス紙の社説で激しく喧伝した。「中国は、半島の非核化にとって不可欠の存在である(16)」と。金氏は数日後、習近平氏を安心させに自ら足を運んだ。

 文大統領の方は、中国に政治的な支持だけでなく、現実的な経済支援を期待している。両国はすでに、平壌(ピョンヤン)と鴨緑江(ヤールー川)の対岸にある北朝鮮の港湾都市、新義州(シンイチュ)を経由し、ソウルと中国の港湾都市、丹東(ダンドン)を結ぶ鉄道の建設について合意した。彼は、雇用の創出(若者の失業率は11.5%を超えている)につながる新たな成長のエンジンを求めており、自ら唱えている「半島の新たな経済ベルト」に期待しているのだ。この構想には、東海[韓国側の主張する呼称。日本海のこと]でのエネルギー開発(石油埋蔵の可能性がある)、さらに国境の両側における、大規模インフラ整備計画や広大な観光ゾーンの発展が含まれている。

 国内では、文氏はその基盤を強化してきている。オリンピックの前、質問を受けた韓国人の70%は、彼が決めたアイスホッケ―女子の南北混成チームについて不満を表明していたが、板門店会談の翌日には、78.3%が彼の行動に賛成し、64.7%(会談以前は14.7%であった)は平和維持に関し北朝鮮を信頼すると表明した(17)

 韓国人は、同国の何人かの専門家が指摘するように、楽観的過ぎるのだろうか。トランプ氏と金氏の会談が仮に行われたとしても、行程表作りを行う本交渉への道が開けるかどうかは不透明だ。いずれにしろそれを仕上げるのはとても困難に思われるし、そのことは、思いもよらぬ挑発行動を太平洋の両側で自由に行うことを許すことになる。



*本記事中の「朝鮮人民共和国」→「朝鮮民主主義人民共和国」に修正いたしました。(2018年9月9日)


(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2018年6月号より)