解体されるフランスの公益

“不安の市場”にさらされた学生たち


アナベル・アルシュ (Annabelle Allouch)

ピカルディ・ジュール・ヴェルヌ大学 助教授(社会学)


訳:村松恭平


 2017年末、フランスでは中等教育と高等教育の「改革」がマクロン政権によって打ち出された。バカロレア改革と大学の入学選抜基準の導入は教育の機会均等の原則に反するとして、3月末以降、多くの学生がデモに繰り出し、いくつかの大学を一時占拠した。この「改革」はこの国の社会にとって、あるいは学生にとって一体何を意味するのだろうか? 筆者のアナベル・アルシュ氏は「選抜試験の社会」を強く批判し、今後もたらされる影響について深く懸念する。[日本語版編集部]

(仏語版2018年4月号より)

Fernando Costa. – « École », 2017
www.atelier-costa.com - Galerie Art Jingle, Paris

 1986年にアラン・ドゥヴァケ高等教育大臣が大学入学選抜の導入を目論んだ際、数十万人の大学生・高校生が街頭に繰り出してデモを行い、政府は引き下がった。そうした選抜は、今の政府によって入念に準備されている「進路と学生の成功に関する法」(ORE法、あるいは「学生計画」“plan étudiants”とも呼ばれる)とともに現実のものとなった。多くの教員=研究者の動員が呼びかけられたにもかかわらず、デモは —— 今のところ —— 数カ所で行われているだけで、いかなる抵抗も組織されていないようだ[訳注1]。このことをどう説明したらいいものか?

 その答えの一部は、教育機関におけるパワーバランスの変化にある。学生側では、左派に分類される組合の勢力が弱まっている。フランス全国学生団体連盟(FAGE)は今回の改革を支持しており、様々な組織や委員会において勢力を増し続けている。教員側は、2007年に「大学の自治」に反対して行われた長期のデモが失敗に終わり、今もなおこの記憶がある種の失望感を募らせている。その一方で、労働条件の悪化(超満員の大教室での講義、さらに多くの非常勤講師の採用、管理事務の作業負担の増加など)が時折、彼らを諦めの状態にさせる。

 こうした労働条件の悪化には、国が大きく関与している。学生数が増えるにつれて、国は大学への投資を減らしているのだ。2009年から2015年にかけて学生数は28万人増えたが、正教授のポストは7,147も減らされた(1)。政府は今回の法案を通すために、抽選方式の拒否を[その理由として]利用した。抽選はフランソワ・オランド氏が大統領だった時から引き継がれた最終手段だったが、2017年にその対象となったのは、大学入学志願者のうちのたった0.9%だ。成績に基づいた選抜は運よりも公平ではなかろうか、というのが政府の考えだ。

 ORE法は、エマニュエル・マクロン大統領が表明した公約 ——「私たちは、“大学がすべての人にとっての解決策である”と皆に信じ込ませないようにします」(ル・ポワン紙、2017年8月31日) —— を実現したものだ。大学の選抜基準の導入、バカロレアと高校の改革という二つの側面に基づいた今回の法案は、優秀な賃金労働者を増やそうと1960年代から行われてきた、高等教育への進学を大衆化させる政策の終わりを告げている。

 今回の改革は「チューブ型」の進路構想を促進している。それは、ときに“Bac−3〜Bac+3”[訳注2]と呼ばれるアプローチに従い、選抜試験と「合理的な」進路選択が途切れることなく行われる中で、高校1年から労働市場までを直接結びつける。高校は今後自由選択方式となり、科学系・人文系・経済系といった系列はなくなり、大学進学を望む生徒は高校1年から早くも、「専門分野」と選択する科目が行きたい大学の選抜基準(大学側が「求めるもの」)に合致しているかどうか気をつけなければならなくなる。そこでは、大学で受けられる教育を明確に把握しているのみならず、自らの進路選択に関して確信を持っていることもまた前提とされている。[15歳という年齢は]新しいことを発見する年齢であって、まだ将来を計画する年齢ではないのだが。間違った道を選び、にっちもさっちも行かない状況に陥るおそれがある。

 したがってこの法律は、生徒自身に —— そして、15歳か16歳でなされる選択に —— 彼(彼女)の成功と失敗の責任を負わせることになる。旧来のシステムは、[生徒が]判断に迷ったり試行錯誤することをある程度は可能にしていたが、それももうできなくなる。今後は、生徒それぞれが将来において社会の中で担いたい立場を見通さなければならない。他人からそれが押し付けられないように。もちろん、この観点からみれば、今回の改革はまったく初めてのものではない。教育界においてすでに提示されていた考え方、中でもピエール・ブルデューが1964年からすでに「早熟の文化」と名付けていたものをこの改革は強化しているのだ。それはすなわち、[成功するための]真っ直ぐな道筋と、「最も確実な方法」に与えられる特典だ(2)

 大学入学選抜の原則への賛同 —— あるいは、少なくともその承諾 —— は多くの点で、現代社会の至るところに見られるランク付けと選抜の様々な形態をより広い範囲で認めることにつながる。そこでは、選抜が不平等を生むとしても問題ないとされている。大学と比べると、[グランド・ゼコールなど]選抜制のコースにおいては庶民階級の生徒はより少ない。すなわち、選抜は純然たる能力主義社会の理想をもたらすものであり、それはプラトン主義の、最も優れた人間たちによる統治の概念に基づいている。このプロセスにおいては、就学人口の増大が完璧に作用する。教育を受けている間、彼らは学校間のヒエラルキーに浸かるほど、それを受け入れることになる(3)。こうして、義務教育、またそれが中等教育へと広がったことは[訳注3]、高等教育の卒業証書を切望する学生数が増加するにつれて、自己評価と他者との比較の制度的形態への賛同と信頼を彼らの間で加速させる結果をもたらしたとされる(4)

 このような「能力による」選抜型に順応することは、政治エリートたちが大学に関して無知であることと呼応している。大抵の場合、彼らはグランド・ゼコールやエリート学校の選抜コースの道を通ってきている。すなわち、彼らの経歴には競争の経験が刻まれているのだ。1958年から2016年までに歴任してきた25人の国民教育・高等教育大臣のうち、たった10人しか大学を卒業してはいなかった。また、全員が少なくとも一度は競争試験を受けて(そして受かって)いた(5)。フランス共和国大統領に関していえば、サン・シール陸軍士官学校で教育を受けたシャルル・ド・ゴールから、国立行政学院(ENA)を卒業したヴァレリー・ジスカール・デスタン、ジャック・シラク、フランソワ・オランド、エマニュエル・マクロン、そして文学教授資格者のジョルジュ・ポンピドゥー、自由政治科学学院を卒業したフランソワ・ミッテラン、弁護士のニコラ・サルコジまで、彼らはみな選抜試験の経験を共有している。「学生計画」に対して抵抗がないのは、個々人の成果に絶え間ない賛辞を送る世の中において、共有されたランク付けという経験を“民主主義の模範”に仕立て上げたこの「選抜試験の社会」の結果のように思われる。

 バカロレア合格者と彼らの家族にとって今回の改革は、大学入学への道が閉ざされることにとどまらない。この改革は“不安の市場”の条件を作り出している。高校生たちは[2018年]1月末にスタートしたインターネット上のプラットフォームParcoursupに、3月13日までに自分の希望進学先を入力しなければならなかった[訳注4]。大学志願の準備段階での手続きが突然増えたせいで、多くの家庭は大きなストレスを感じることとなった。10の志望大学それぞれに出願するためには、各大学毎に履歴書(CV)や志望動機書、それに加えて、学校のすべての成績をまとめた書類を提出する必要があったからだ。高等教育への進学準備段階の不安は多くの映画や教養小説の主題にもなっているように、新しいものではまったくない。だが、今ではどの課程を選ぼうが、誰しもが避けられないものとしてこの不安は広がっている。家族たちのこうした不快感を和らげるための市場がすでに登場している。560ユーロを支払えば、Tonavenir.netという会社が「心の平穏コース」を提案してくれる。進路相談や志望動機書の書き方指導、さらには、プラットフォーム上での希望進学先への書類提出手続きもそこには含まれている......。

 今回の改革は、大学の人員(教員=研究者、非常勤講師など)にも直接影響を与えるだろう。志願者からの書類を選別するという新たな業務を彼らは担うことになる。それは、彼らの仕事の意味そのものを変えることになり、調査や指導、授業準備といった、生徒たちを成功に導くための日常の仕事から彼らを遠ざけるだろう。書類を選り分ける —— それは実際、志願者全員に入学を許す可能性を排除する —— のは、選抜委員会に参加する教員たちだとこの法律の施行令には規定されている。

 こうした変化は、中等教育の教師たちにも悪影響を及ぼす。彼らは高校生たちの10の進路計画一つ一つに意見を述べなければならない。学級委員会は、大学の選抜対策委員会へと形を変えるだろう。その上、これらすべてにより、教育機関の間の不平等が続くのは必至だ。同じ成績で同じ進路の場合、都市中心部にある名門高校からの意見書は、田舎や大都市周辺のより庶民的な学校から出された意見書とは違ったように受け止められるだろう。

 事務スタッフにとって選抜は追加業務でもあり、それもかなり大きな負担となる仕事だ。グランド・ゼコールから海外の「優秀な」大学まで、選抜制を採用するすべての教育機関では志願者の選抜作業によって学科全体が忙殺されているが、彼らは書類を受理したり検討したりするのに十分な数の職員を抱えているし、資力も持っている。いくつかのグランド・ゼコールは昨今、不合格の理由を生徒の家族に知らせるためのコールセンターまで開設した。だが、フランス政府はこれまでのところ、この新たな業務に見合った資金を提供する約束はしていない。

 ORE法に関する議論が行われる際、多くの大学生が白けた様子で自分には関係ないと感じていた。彼らはすでに大学に入学しているからだ。しかし、そんな彼らに対して、高校生たちとの連帯の必要性を投げかけることだけが唯一の説得手段というわけではない。Parcoursupは最も優秀な学生を集めようとする大学間の競争を促進させ、生徒たちを、教育内容の比較を余儀なくされた消費者に変えている。こうした困難な選択を手助けするために、メディアは最良のコースランキングをすぐに作り上げるだろう。それは、[グランド・ゼコールである]商業学校やエンジニア学校、修士課程についてはすでに彼らがやっていることだ。体系的でない一連の基準(学士号の取得率、[学生一人あたりの]指導スタッフ率など)は、教育機関の価値、ひいてはその学校の学位の価値までも決めることになる評点へと転換されるだろう。すでに卒業していても、仕事を見つけるためにCVを送る際、彼らはそうした学校のランクに関して間違いなく苦しむことになるだろう。

 エドゥアール・フィリップ氏が率いる政権は、中等教育と高等教育の間のアーティキュレーション[進学の接続関係]をあっという間に根本から揺るがせた。この速さをみれば、学士号の改革や大学登録料の値上げ、教員=研究者の地位変更といった新たなイニシアティブが打ち出されることが予測される。こうした観点から、「学生計画」は大学を、公務員みなが今後直面するであろう改革の実験場にしている。



  • (1) « La réforme de l’accès à l’université. Faits et chiffres », Syndicat national de l’enseignement supérieur - Fédération syndicale unitaire (Snesup-FSU), Paris, février 2018.
  • (2) Pierre Bourdieu et Jean-Claude Passeron, Les Héritiers. Les étudiants et la culture, Éditions de Minuit, coll. « Le sens commun », Paris, 1964.
  • (3) Pierre Bourdieu et Jean-Claude Passeron, La Reproduction. Éléments d’une théorie du système d’enseignement, Éditions de Minuit, coll. « Le sens commun », 1970.
  • (4) Sur cette hypothèse, cf. La Société du concours. L’empire des classements scolaires, Seuil, coll. « La République des idées », Paris, 2017.
  • (5) Christophe Charle, « Élites politiques et enseignement supérieur. Sociologie historique d’un divorce et d’un échec (1968-2012) », « La France et ses élites », Pouvoirs, no 161, Seuil, 2017.

  • 訳注1]本記事が執筆されたのは2018年3月中旬頃で、その頃の状況を説明している。その後、3月末から4月上旬にかけて、デモや抗議運動は急速に拡大した。

  • 訳注2]高校1年(Bac-3)から学士号取得(Bac+3)までを一本の道として言い表していると解釈できる。

  • 訳注3
    ■中等教育
    「前期中等教育は,コレージュ(4年制)で行われる。このコレージュでの4年間の観察・進路指導の結果に基づいて,生徒は後期中等教育の諸学校・課程に振り分けられる(いわゆる高校入試はない)。後期中等教育は,リセ(3年制)及び職業リセ(2年制。職業バカロレア取得を目指す場合は2年修了後さらに2年の計4年)等で行われる。」(文部科学省のHPより

    ■高等教育
    「高等教育は,国立大学(学士課程3年,2年制の技術短期大学部等を付置している),私立大学(学位授与権がない。年限も多様),3~5年制の各種のグランゼコール(高等専門大学校),リセ付設のグランゼコール準備級及び中級技術者養成課程(いずれも標準2年)等で行われる。これらの高等教育機関に入学するためには,原則として「バカロレア」(中等教育修了と高等教育入学資格を併せて認定する国家資格)取得試験に合格し,同資格を取得しなければならない。グランゼコールへの入学に当たっては,バカロレアを取得後,通常,グランゼコール準備級を経て各学校の入学者選抜試験に合格しなければならない(バカロレア取得後に,準備級を経ずに直接入学できる学校も一部にある)。なお,教員養成機関として,主として大学3年修了後に進む教員教育大学センター(2年制)がある。」(同上)

  • 訳注4
    インターネット上で出願するこの新たなプラットフォーム(https://www.parcoursup.fr)で各生徒は志望大学を10校入力する必要があるが、志望順位は指定できない。「行きたい大学に行けるか分からない」という不安が生徒たちの間でその後急激に高まることとなった。(PARCOURSUP ET L’AVENIR DES JEUNES, N°61 - 8 au 14 juin 2018, Le P’tit Libé)

(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2018年4月号より)