社会的連帯経済の効力と限界

フランスの協同組合は雇用を救済するか?


シャルル・マチュー(ペンネーム) (Charles Mathieu)

マルセイユ・プロヴァンス都市圏共同体の組合活動家、公務員


訳:樫山はるか


 会社の倒産を避けるために、賃金労働者たちが会社を協同組合形式で引き継ぐ選択をし、経営に力を尽くしている。それが平坦な道のりではないことは、カルカソンヌやジェムノの象徴的な闘いが物語っている。[日本語版編集部]

(仏語版2017年12月号より)

Laurent Millet. — De la série « La Méthode » (Filigranes, 2001).
www.laurent-millet.com

 「私はかつて緊急医療救助サービス(SAMU)の医師だった。けが人を救うことは出来ても、死んだ人を救うことは出来ない(1)」という見解を示すのは、マルセイユ・プロヴァンス都市圏共同体(MPM)の前副議長ルノー・ミュズリエ氏だ。その一年前の2010年9月、エレファント・ティー社を所有している多国籍企業ユニリーバは、マルセイユ東部の免税区域にある町ジェムノのフラリブ工場を閉鎖しポーランドへ移転すると発表していた。その工場は完璧に採算がとれていて、当時年間3,000トンの紅茶とハーブティーを加工し、15億袋を生産していた。公的機関は、失業の恐れがある182人の従業員を救うためにほとんど努力しなかった。「閉鎖は経済的には説明がつきませんでした。私達は年平均8カ月間、株主に奉仕するためだけに働いていたのです」とフランス労働総同盟(CGT)前代表で企業運営委員会書記のジェラール・カソルラ氏は評する。

 そこから数百キロメートルのカルカソンヌのピルパ(Pilpa)工場も、R & Rアイスクリーム社が2012年7月に工場の閉鎖を決定した時、利益を出していたのに124人の従業員は見捨てられる危機にさらされた。失業率が12%を超える住民4万7,000人の町にとっては厳しい一撃だ。その英国系グループ企業[R & R社]が乳製品協同組合からこのアイスクリーム工場を買収したのはその数カ月前のことだ。「彼らは商標とのれんが欲しかっただけです」と、その当時企業でCGT支部の幹事だったクリストフ・バルビエ氏は総括する。すでに3つのフランスのアイスクリーム会社を所有していたR & R社は、商標ライセンスと特許狩りが専門だった。ところがピルパの後ろ盾には、オアシス、ディズニー、システムU……。

 カルカソンヌでもジェムノの場合と同様、何人かの従業員は彼らの仕事の消滅を受けいれず、労働者協働組合(SCOP)の創設を望んだ。彼らはCGTの支援のもと、いくつかの障害に立ち向かわなければならない――解雇手当について交渉し、資本金をかき集め、工場の建物を買戻し、前の所有者の合意を取りつける……。結局このような状況下では公的機関の支援が大事であることは明らかだ。

 その点では、ピルパの従業員は運がよかった。すべての公的機関が自ら手を下して仕事をしてくれたのだ。都市圏共同体は未来の協同組合のために用地を格安で貸し、ラングドック=ルシヨン地域圏は12万ユーロの補助金を与え、協同組合銀行は優遇金利で貸付けをしてくれた。当時の生産力再建大臣だったアルノー・モントブール氏は、彼の官房のメンバーを現場に派遣するほどだった。2カ月以内にすべての書類が整えられた。R & R社は、協同組合が機械への投資ができるように、資産凍結を解除することには承諾したが、協同組合が大手販売チェーンの商標(2)の製品を製造することは禁じた。生産は2014年4月に再開され、南部製造Scopはラ・ベル・オード(La Belle Aude)アイスクリームを売り出した。

上下の格差を抑えた給与体系

 一方、フラリブ工場の労働者たちは、1336日間の闘争をたたかい抜くことで、ユニリーバとの合意を取り付け、事業再開の権利を獲得した。マルセイユ都市圏共同体は2012年に2年に及ぶ話し合いの末、工場を買い戻すことを承認したものの、賃貸契約には賃料の段階的引き上げが定められている。2015年には7万ユーロだったものが2017年には21万8千ユーロ――創設したばかりの協同組合を締め付ける総額――になる。それはこの工場が、浸水しやすい地区にあり、土地建物の評価額の低下を招いていたにもかかわらずである。「まるで全ての事が、我々の計画の持続性を危うくするような事業再開の条件を揃えるために起こっているかのようでした」と、[フラリブ工場の]協同組合代表になったカソルラ氏は嘆く。ユニリーバは賃金労働者の疲労と士気の低下を見越して、さらに交渉期間を追加で2年延長した。そして、この多国籍企業[ユニリーバ]は、形式的な1ユーロで機械の譲渡を承諾したものの、マルセイユ植民地経済の遺産のひとつであるエレファント・ティーの商標を、協同組合が使用することに関しては頑なな姿勢を守り続けた。Scop Ti(紅茶とハーブティーのプロヴァンス労働者協同組合協会)は彼らの製品を『1336』と銘銘することを決定する。

 この2つのケースでは、協同組合による事業再開には厳しい人員削減が伴っている。ピルパはその工場閉鎖の時分、9つの生産ラインを持っており、124人の労働者を雇用し、年間2千5百万リットルのアイスクリームをさばいていた。自分たちの解雇手当を南部製造Scopに出資することを選んだ労働者は総人員のうちほんの5分の1だったが、その25人の組合員のうち雇用もされたのは19人だ。「閉鎖の発表後、場の空気はとてもいいとはいえず、何人かは早く退職するために解雇手当や小切手を欲しがっていました。でも、私が欲しかったのは仕事です」とセバスティアナ・ロペズ夫人は打ち明ける。彼女はマシンの運転資格を持ち、今は協同組合員だ。ジェムノでも人員の離散は甚だしく、フラリブ工場で昔から働いていた182人の労働者のうち57人が解雇手当をScop Tiに投資したが、Scop Tiに雇用されたのは当初28人だった。そして現在は41人となっている。

 2つの協同組合は上下の格差を大幅に抑えた給与体系を選択した。南部製造Scopでは、工場労働者は手取りで1350ユーロ、チーフクラスは1450ユーロから1560ユーロ、管理職では1450ユーロから1560ユーロを受け取っている。Scop Tiでの年間12回+1回(ボーナス)支給された給与は、工場労働者で手取り1600ユーロ、チーフクラスで1670ユーロ、管理職で2000ユーロまで上昇した。

Laurent Millet. — De la série « La Méthode » (Filigranes, 2001).
www.laurent-millet.com

 さらに、組合員たちはかつて彼らの会社で幅を利かせていたヒエラルキーを廃止する方策を採用した。例外があるとすれば――倉庫係は専門的知識を身につけているためScopTiでは経理に移したように、生産と管理の境界は概して仕切りが高い。しかし、この2つの協同組合は、タイムレコーダを廃止し、いくつかの業務においてローテーション制の兼務システムを確立した。「私たちは管理運営の検討と、生産や配送を交替で実施することができます。総務係の組合員が指揮運営から、経理や物流担当に替わることもできるのです」とマキシム・ジャルヌ氏は説明する。彼は南部製造Scopの総務部と財務部の部長で、ピルパには1993年に生産ラインの責任者として入った。一方ジェムノでは、Scop Tiのトップが「仕切りも、ヒエラルキー的関係も、上からの強制もない」組織であると大いに宣伝している。

 協同組合規定に従えば、経営戦略は、「一人一票」の原則どおり、全組合員が集まる総会で決定されるのだが、人数の多いScop Ti では組合員は理事会と経営委員会に委託する。両方とも総会で選出される。これらは一般企業の形態を踏襲している。南部製造Scopのほうでは、「私たちは毎月、組合員の集会を開き、現状分析と今後の展望について根拠となる数字をあげて実施しています」と、チーフであり企画部門と生産ラインの責任者でもあるヴェロニク・アンサン夫人は説明する。「意思決定はこの手続きに沿って共同で行います」。組織の体制、Scop内で地位のローテーション、意思決定の方法、仕事の分担、賃金の諸問題など、すべてをこの集会で決めるのだ。

仕事とは闘いか、それとも奉仕か

 元の所有者である農工巨大企業と一線を画するために、これら協同組合は品質を選ぶ。『1336』のお茶はナチュラルアロマを元に作られる。周辺地域優遇のため、ハーブティーは近隣地方で栽培されたビオ農作物を使用している。ラ・ベル・オード・アイスクリームは粉ミルクではなくオート=ロワール県産の全乳と、マダガスカル産の本バニラ、コートジボワールやベネズエラ原産のチョコレートを使用している。

 これら協同組合は活路を見出すため、大規模な流通に目を向ける。必要不可欠のようなひとつの選択について、「アイスクリームはニッチな製品ではなく、もっと多くの人向けのものです。この協同組合の持続性、私たちの発展と組合員の昇給は、さらなる生産能力とそれゆえの流通拡大にかかっているのです。私たちの知るかぎり、それを保証してくれるのは大手販売チェーンの看板だけです」とジャルヌ氏は言う。「もし私たちのアイスクリームを大きく流通させるための解決策が他にあるなら知らせてください、買いますよ!」。Scop Tiの方では、大手販売チェーン(E・ルクレール、システムU……)の商標の製品も生産しているが、それとは別に、Scop Ti商標の商品もスーパーマーケットに置いてある。「我々が大勢の消費者を相手にしたければ、それを可能にしてくれるのは大手販売チェーンである」と考えるカソルラ氏にとって、複数の商品名で出荷することはやむを得ない。協同組合も進出しているビオの販売チェーン――Ethiquable(真の倫理)、ビオcoop、Satoriz(悟り)やLe Temps des cerises(さくらんぼの実る頃)など――だけでは、組合員全員の生計を立てるのは難しいのだ。2016年、ジェムノ工場では複数の大手販売チェーン商標の製品として、80トンの紅茶と26トンのハーブティーをScop Tiラベルの箱に詰めて出荷した。

 資本主義の大海に出て活動する協同組合はいくつかの妥協を覚悟しなければならない。最近Scop Tiでは非組合員の営業幹部をこの協同組合の給与体系を上回る報酬で――組合員らによれば、「2000ユーロちょっと」で雇い入れた。「確かに我々は営業責任者を募集しました。内部に専門の有識者がいない時、ええ、そうです、問題となっている仕事に対応するため経験豊富な人材を抜擢します」とカソルラ氏は釈明する。南部製造Scopのほうでは、夏場の生産ピーク時は非正規雇用や臨時雇いに頼らなければならない。「その他の解決策としては、労働時間を年間制にするか、ピルパ工場でやっていたように夏場の就業時間数を増やすかでしょうが、疲労とストレスを引き起こすので、私たちはその選択はしませんでした」とジャルヌ氏は私たちに話す。

 カルカソンヌでもジェムノでも、組合員たちがみずからの仕事の状況について不満を口にすることはめったにない。共同で行われる意思決定、株主のためではなく自分のための仕事という思い、確固たるヒエラルキーの不在、これらはよく協同労働の特性を強調するために言及される。時には、それが仕事なのか、闘いなのか、はたまた奉仕活動なのか境界が曖昧に思われる。「もちろん、私たちの就業時間外の労働ですが、他人からの強要ではありません」と自発的販売員の一人は言う「私たちが販売促進をしている時、闘争精神は私たちを活気づかせます」。Scop Tiや南部製造Scopの労働者たちは彼らの生産品を認知してもらおうと、自分たちの労働時間のことは考えなかった。職業見本市やスーパーマーケットでの販売推進を経て、フェスティバルから人気のある祝祭まで、彼らは疲れを知らず自分たちの生産品の促進をした、そこにはウィークエンドも含まれている。



  • (1) La Provence, Marseille, 2011年9月24日
  • (2) 大手販売チェーンが作り使用している商標。ピルパは主に カルフール、 E・ルクレール、 オーシャンなどと取引があった。

(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2017年12月号より)