中東欧の選挙民に取り憑く「汚職蔓延」イメージの陥穽


べンジャミン・カニンガム(Benjamin Cunningham)

ジャーナリスト、在プラハ

訳:大竹秀子


 2017年秋のチェコの総選挙では、ビジネス界出身で富豪、政治経験の浅い右派のアンドレイ・バビシュ率いる政党「ANO2011」が第1党に選ばれ、バビシュは首相に就任した。既存政治の腐敗がバビシュ得票の動機と言われたが、調査データによると汚職がはびこっているという現実はない。不正がはびこる東中欧という認識がひとり歩きし、ポピュリズム台頭に力を貸している。認識と実際との乖離は、いかにしておきているのか、そのメカニズムと危険性を考察する。[日本語版編集部]

(英語版2018年4月号より)

*本要約文の冒頭を修正したことをお知らせします。

photo credit : Prague Wenceslas Square, The Czech Republic, Govisity.com
1989年のビロード革命の際、市民デモで埋め尽くされたプラハのヴァーツラフ広場。(チェコ、2007年撮影)


 2017年10月のチェコ共和国の総選挙で、農業関連産業の実業家にしてメディア界の大物でもある億万長者のアンドレイ・バビシュが既成政党を打破し、大勝した。2011年に彼が自ら立ち上げた政党の名「ANO」は、「満足できない市民たちの行動 (Akce Nespokojených Občanů)」の略語で、チェコ語で「イエス(はい)」を意味する。バビシュは、党の設立に際し、自分は「政界の外れ者であるうえに成功した実業家だ、これこそ腐敗したエリートに代わる理想的資格なのであり、私の能力、手際の良い仕事ぶり、そして財力の持ち主であること(すでに金持ちなので国の金を盗む必要がない)こそが国にとっての解答だ」と主張した。ニューヨークの前市長マイケル・ブルームバーグが使ったのとそっくりな論法だ。選挙前、筆者との取材インタビューの中で、バビシュとこんなやり取りがあった(1)。「私は不正を働くような輩とは違います」「他の候補者たちはそうなのですか?」「そうですよ」

 バビシュは当地域で既成勢力への反対を唱える他の政治家ほどイデオロギー色が強くないし、公然たる外国人排斥も主張せず、脆弱な連立与党による政権を指揮しているが、ある典型にぴったりあてはまる存在だ。欧州不正対策局(OLAF)の報告によると、バビシュには欧州連合(EU)からプラハ南部の大型ホテル建設への財政援助として受け取った200万ユーロを不正使用した疑惑がかけられている。投票日のほんの数週間前に、議会は、議員だったバビシュへの詐欺罪による告発を可能にすべく、国会議員の刑事免責を撤回した(2)。だが、多くの有権者は、他の候補者に対して強い不信感を抱いており、またこうした申し立てが腐敗したエリート層から出たものであり、さらにブリュッセルのEUから送られた金の流用に関しては犯罪という感覚がないことから、バビシュに対して疑わしきは罰せずの立場を取った。カーネギー国際平和基金のバラージュ・ヤラービックが言うように、チェコの国民は、「あれは我々の金ではない。だから盗んだっていいのだ」と考えたのだ。

 バビシュは説得力に富んでおり、彼に反対する者も確たる証拠を出せず、国民の不満が募っていたため、150万人の有権者がこれらの疑惑を無視した。ANOは票の約30%を獲得した。海賊党は10.8%を得て第3党になった。ネオファシストの「自由と直接民主主義(SPD)」党は4位につけ、旧弊を脱せずあいもかわらぬ共産党は5位だった。つまりチェコの59%近くが、現状維持に異を唱える政党に票を投じたのだ。

 ユーロバロメーターの最新の調査によるとチェコ国民の84%は汚職が蔓延していると考えている(フランスは67%、ドイツは51%、デンマークは22%) (3)。チェコでエリート層は悪者と決めつけるキャンペーンが成功したのも不思議はない。だが、この調査はチェコおよび東欧地域一般で汚職がどのように認識されているかという深刻な問題も提起している。チェコでは汚職は深刻な問題だとみられているが、個人的に汚職行為に直面する人となると数値はずっと少ないし、減少もしている。日々の暮らしが汚職による影響を被っていると考えている人は19%だし、昨年、サービス提供の見返りとして贈与や便宜を求められたという体験をもつ人は13%に過ぎなかった。隣国のオーストリアでは、汚職が日々の暮らしに影響を与えていると感じている人は18%で、最近、被害にあったと考えている人は15%だが、汚職が蔓延していると思う人は50%にとどまっている。オーストリア人の方が汚職に出くわすことが多いのに、それを問題視する人は少ないらしいのだ。

 この調査結果の数値は、ヨーロッパのいたるところで、西欧に遅れをとった未熟な東欧という使い古された常套句と矛盾している。誰かが賄賂を受け取ったことを知っている人の割合は、ギリシャ(32%)とスウェーデン(17%)の方がルーマニア(13%)よりも大きいが、不正行為が国民的問題であると考える人は、ルーマニアが80%なのに対しスウェーデンでは37%にとどまった。過去1年間に誰かが賄賂を受け取ったことを知っている人はポーランドではわずか14%で、ベルギー(15%)、ルクセンブルグ(18%)、フランス(16%)より少ない。ということは、中欧や東欧の人々は、実際に不正行為に出くわすことは少ないにもかかわらず、不正が大きな問題だと考えている。彼らは、ビジネスを行ったり公共サービスを受けるには不正行為を避けて通れないとみており、政府が十分な対抗措置を取っていないと考えるのだ。

問題ありのデータ

 不正行為の計量化は難しい。「不正行為の分析は、問題のあるデータによって攪乱されていると、サセックス大学の[社会現象の]測定方法論の専門家、ダン・ハウは述べている。認識と実体験が合致することは珍しく、そのギャップのおかげで、多くのことが公衆の目から隠されているという印象が生まれ、陰謀論に火をつける。現実の不正行為より、不正行為の歪曲化された認識が東欧と中欧において不安定を引き起こす主要な要因となり、政治システムに破局的な効果をもたらしている可能性がある。

 1980年から2016年まで有権者が誰を支援しているのかを追跡したある調査研究によると、右派ポピュリストへの支持と「移民問題」との間には首尾一貫したつながりが見出されず、またポピュリズムを経済で説明する強力な証拠も見つからなかった。だが、この調査結果が独裁的ポピュリストの出現を予測する単一にして最大の要因としたのは、不正行為に関する認識だった(4)。以前なら政治的アウトサイダーだったハンガリーのヴィクトル・オルバーンやポーランドのヤロスワフ・カチンスキなどの人物は、不正の蔓延という人々の認識を利用して有権者に食い入った。

 最近の多くのスキャンダルを思えば、スウェーデンはルーマニアより不正行為が少ないと考えがちだ。だがユーロバロメーターの調査によれば、軽微な不正行為はスウェーデンの方が多いし、このことは概して重篤な不正行為の頻度に一致する(警察官が賄賂を受け取るところでは、国家レベルの(高級)官僚も受け取るのが常だ)。だが、集合的な認識に基づく、こうした食い違いからは何も証明されず疑惑ばかりが募るため、認識をいかに計量化するかに関する論議が生じている。また、認識と実際に起きている不正行為の頻度とのこの乖離は、不正行為の度合いに関する認識が個人的な体験以上にメディア報道やNGOの運動を基にして生まれていることをも示唆している。「どう認識されているかが大事なのだ。もし部屋の隅に虎が1頭いると思ったら、あなたはその場にとどまろうとはしないだろう。実際の現実がどうであるかは問題ではない」とハウは述べている。

 不正行為の認識が現実をしのぐことに関してはいくつかの説明がなされている。ポーランドで2015年に保守ナショナリストの「法と正義(PiS)」党が議会の過半数を握る勝利を得られたのには、ウェイターゲイト・スキャンダルが一役買った。ワルシャワのいくつかのレストランで働くウェイターたちが、当時の政権党だった「市民プラットフォーム(PO)」党の政治家たちが数百ユーロもする食事をしながら語った会話を録音したのだ。録音のひとつでは、閣僚の一人が中央銀行の頭取に向かって(辛辣なことばを用いて)選挙でPO党が有利になる経済刺激策を取るよう要求していた。[このような録音は]ワルシャワのシンクタンク「ポリティカ・インサイト(Polityka Insight)」のウカシュ・リピンスキが言うように世間一般の人たちの神経を逆なでにする。メディアが新しい録音テープを日々、公開する中、PiS党は有権者たちに「政治・経済エリート全員が国の生き血を吸う腐敗した輩」なのだと思い込ませることに成功したのだ。

人々が追いつくまでには時間がかかる

 この策略がうまくいったのは、これが人々に1990年代に国の資産が隠密裏に民間の手に渡されていった民営化のショック療法を思い起こさせたためだ。利己的なエリートたちがこっそりと国の将来を決めているという見方が2015年にも信じるに足るものとなったのは、それが1991年に現実として起きていたからだ。こうした文化的タイムラグ、実際のできごとから時を経て生まれる怒りによって、過去が現在の認識を捻じ曲げている。「すでに起こった出来事に人々が追いつくまでにはしばらく時間がかかる」とハウは述べる。

 スロバキアでは、48%が不正行為が悪化していると考えている。これが右派ポピュリストへの追い風となり、2016年の総選挙では初めて投票した人のうち22%を含め、投票者の8%がホロコーストを否定する「人民党―我らがスロバキア(ĽSNS)」党に票を投じた(5)。財政の透明性が増している時期であったにもかかわらず、有権者たちは、不正行為への批判が同党への投票の動機だったと語った。2011年に成立した法律により、スロバキア政府は国家契約のオンライン公開を義務づけられており、「トランスペアレンシー・インターナショナル・スロバキア支部(Transparency International Slovakia)」の調査によるとこの法律の施行後、公的調達に焦点を当てた記事が主要メディアで25%増加していた(6)

 ということは、透明性は改善し、公共の監視の目も強まっているのだが、それにもかかわらず(毎年、人口の8%がオンラインで契約を点検している)、人々はその逆だと思い込んでいる。不正行為は減少したのに、監視の強化が疑念を強めているのだ。トランスペアレンシー・インターナショナルのスロバキア支部長、ガブリエル・シーポシュの話では、メディアがむやみに疑惑をかきたてたがっており、疑惑報道が増す一方で、不正行為の徹底調査の実施は減っている。有権者は、リークに基づく公人へのはなばなしい攻撃に動揺するが、それ以上に彼らを当惑させるのは、自分たちが過去の投票でお墨付きを与えた社会経済制度への挑戦だ。ブルガリアの政治学者イヴァン・クラステフはこれを「政財界の不正行為スキャンダル暴露が生む論議」と呼び、「不正行為がメディアの想像力を虜にしており、不正行為報道の過多により汚職が公共生活に圧倒的にはびこっているという印象が生まれ、世論形成に寄与している」と書いた。

 そのような報道が国内の論調と政治を煽っているが、その根は共産主義崩壊後の腐敗した東欧と中欧というより広範なナラティブに基づいている。概して善意から出た国外からの介入が火に油を注いでいる。米国務省は、2015年から2017年の間にチェコの不正防止非営利団体に10万ドルを贈与したが、オーストリアにはそのような支援金は存在しない。こうした助成金の存在は、金額的にはたいしたものではなくても、東欧と中欧の特徴をなすアイデンティティとされてしまう。それはまた現地非営利団体の資金ともなり、ごく小規模な不正防止関係者がメディアと共働してさらに多くの不正防止レトリックを公的な議論の領域に注入し、社会は腐敗しているという世間の確信をますます強めている。

 今や、国際的な取り組みの影響が甚大なウクライナでは、このパターンが茶番の域にまで達してしまった。最近の調査によると、ウクライナ人の69% は、同国が直面している最重要な問題は不正行為だと考えているが、自分自身の暮らしにおいて不正が最も差し迫った問題のひとつだと考える人は、29%にすぎない(7)。カーネギー基金のヤラービックに言わせると、こういった齟齬は「国際非営利団体、とりわけ欧州連合の団体による不正行為に対する絶えざるキャンペーン活動に起因している」

見て見ぬふりをするヨーロッパ

 だが欧州連合は、欧州の残りの地域に対しては、見て見ぬふりをしている。2014年に欧州委員会は不正行為に関する初のEU規模の報告書を出し、2017年に更新版の発表を計画していた。この新しい報告書は完成したものの、発表されずに終わった。欧州委員会副議長のフランス・ティメルマンスが出した、報告書の棚上げとプロジェクト解散を告げる書簡は、不正行為は「加盟国のうち数カ国において主要な問題であった」としたうえで、「初回の報告書は、分析的概要を提供し、その後の作業の基盤を構築するために有益であったが、そのことは必ずしも今後、同様な報告書の発行継続が取るべき最良の方法だということを意味するものではなかった」(8)とした。

 筆者がブリュッセルのある事情通から聞いた話では、2回目の報告書は、フランスをはじめ、当時、選挙を控えていた西欧の数カ国が公表に反対するロビー活動を行った末に、葬り去られた。これら諸国は、報告書を読むと自国が驚くほど腐敗しているように見えるため、国内で政治的大混乱が生じかねないことを恐れたのだ。こうしたことすべてが積み重なり、腐敗した東欧と中欧、清廉潔白な北欧と西欧という真実性を欠いた分断を強化している。

 こうした作り話をいつまでも続けていくためには、不正行為の解釈を著しく狭める必要がある。東欧と中欧では、西欧の民間部門が自分たちの地域を低賃金労働の供給源であり文句を言わない顧客とみているという認識とこの解釈が重なる(9)。ある著名な研究によると、東欧と中欧の地域的特徴は、海外企業がひしめきあっていることで、その企業者の多くはドイツ人だ(10)。現地の人々には、こうした企業は現地住民のことなどほとんど意に介さず、地域から金を吸い上げていると信じられている。たとえ彼らが公的資金を自らの利益のために直接流用してはいないにしても、そのやり方は不正行為に関する東欧と中欧の人々の認識に多大な影響を及ぼしている。

 世間の人々の目には、税負担最適化などの合法的とされるビジネス慣行と非合法な措置との間に違いはない。東欧や中欧の人々が不法行為と考える多くのことが西欧の民間企業では通常の措置とされている。チェコ共和国では、バビシュが運営するコングロマリット「アグロフェルト(Agrofert)」は、2014年には売上高で国内第3位となった大企業だが、売上の21.86%にあたる約6300万ユーロを法人税として支払っている(11)。一方、ドイツのディスカウント・スーパーマーケット・チェーン「リドル(Lidl)」社のチェコ部門は、チェコで売り上げ第10位の会社だが、法人税を一切、払っていない。リドルは、通常は建築家や弁護士など、小規模な組織のために留保されている一般事業パートナーシップ条項を利用し、利益に対する課税をどこが払うかを選択可能にし、利益の99%はドイツのパートナーが得たことにしているからだ。

 バビシュには欧州連合から200万ユーロの補助金を不正取得したという疑惑がかけられているが、アグロフェルトが払っている税率を基に計算すると、リドル社が利益の迂回によりチェコから合法的に奪い去っている税収入は2200万ユーロにのぼる。チェコの有権者にとってどちらがよりひどい不正行為に見えるだろうか。というわけだから、地域の不正行為に関する誇張された立論には国外の関係者が関与しており、世論が不正行為とみなす行為の一部についての責任は彼らにある。これと同じパターンや認識はドイツや、オーストリア、スウェーデンでは生じない。企業の利益が国から絞り取られるよりも、本国に還流されるのが常だからだ。

 東欧と中欧では、不正行為は理解しがたい何事かを説明するために使われているが、その説明はそれを口にする人にも影響を与える。トランスペアレンシー・インターナショナルのシーポシュは、「私は、中欧で、不正行為との闘いが重要だと強く信じてはいるが、それと同等に、政治家を判断する際に有権者は汚職スキャンダルに過剰な重きを置き、政治家の実行力の無さを過小評価しているとも見ている」と述べている。不正行為を過度に認識することは、西欧のダブル・スタンダードへの怒りに火をつけ、有権者を右翼の独裁的ポピュリストへと向かわせる。急進的な政治決定がますます虚偽に基づいて行われるようになっており、みかけほど破綻していない政治機構を徹底的に洗い直すという公約をかざすポピュリストたちを政権に押し上げている。誤解が政治的混乱を掻き立て、不正利得を減少させるどころか、増大へと向かわせているのだ。


  • (1) Benjamin Cunningham, ‘Babiš: I am not a crook, read the story of Chirac or Berlusconi’, The Slovak Spectator, Bratislava, 19 October 2017.
  • (2) バビシュは2017年9月に刑事免責を撤回されたが、選挙後の審議会で免責は復活された。2018年1月、国会議員たちは再度、採決を行い、免責を再度、撤回した。.
  • (3) Special Eurobarometer report no 470 on corruption, European Commission, Brussels, October 2017.
  • (4) Dalibor Rohac, Sahana Kumar and Andreas Johansson Heino, ‘The Wisdom of Demagogues: institutions, corruption and support for authoritarian populists’, Economic Affairs, vol 37, issue 3, Institute of Economic Affairs, London, 18 October 2017.
  • (5) Benjamin Cunningham, ‘5 takeaways from Slovakia’s election’, Politico, 6 March 2016.
  • (6) Gabriel Šípoš, Samuel Spáč and Martin Kollárik, ‘Not in Force Until Published Online: what the radical transparency regime of public contracts achieved in Slovakia’, [PDF] Transparency International Slovakia, 2015.
  • (7) ‘Public Opinion Survey of Residents of Ukraine, November 15-December 14, 2017’, International Republican Institute Centre for Insights in Survey Research, Washington DC.
  • (8) 2017年1月25日付フランス・ティメルマンスからの書簡による。
  • (9) 東欧と中欧では、同じ食品に質の低い食材が使われているという食の品質の二重構造に関する最近の論議を参照のこと。
  • (10) Filip Novokmet, Thomas Piketty and Gabriel Zucman, ‘From Soviets to Oligarchs: inequality and property in Russia, 1905-2016’, working paper series, National Bureau of Economic Research, Cambridge (Massachusetts), August 2017.
  • (11) ‘Runaway Taxes: who pays tax in central and eastern Europe?’ Glopolis, Prague, 2017.

謝辞:チェコや周辺国の人名、固有名詞の呼称については、チェコ語翻訳家の木村有子氏およびカレル大学日本語科出身翻訳家のイジー・シェボル氏から教えを受けた。その協力に感謝します。


(ル・モンド・ディプロマティーク 英語版2018年4月号より)