ペンダゴンの「役に立つ馬鹿」


セルジュ・アリミ(Serge Halimi)

ル・モンド・ディプロマティーク統括編集長

(仏語版2月号論説)

訳:村松恭平



 ロシアとの戦いとなると、ワシントンでは少なくとも民主党員と共和党員の意見が一致する。彼らによれば、ウラジーミル・プーチン氏は米国に同盟国を守る決意がないとみなし、また、民主主義とリベラリズムの拡大からみずからの独裁体制を守りたがっている、ということだ。それゆえ、プーチン氏は西側を攻撃するという選択をしたのだという。かくして、米軍と両党の議員たちは平和と民主主義を保障するために反撃することを決めた……。

  まず最初に、米軍だ。ペンタゴン[米国国防総省]はホワイトハウスの命令に応じ、より広範な核兵器使用を奨励する研究を仕上げたところだ(1)。その内容は、現在の核兵器は破壊力が大き過ぎるためその使用が想定できず、したがって抑止力としての役割も果たさないため、より多様な攻撃に対抗する手段として使えるように核兵器を小型化する必要がある、というものだ。多様化する攻撃には通信ネットワークの破壊、「化学兵器、生物兵器、サイバー攻撃」など、「非核兵器」も含まれる。

  2016年、核抑止力の基礎理論すらほとんど知らない大統領候補ドナルド・トランプ氏は、彼のブレーンの一人にこう尋ねたという。「もし我々が核兵器を使えないのだとしたら、それは何の役に立つのか(2)?」。ペンダゴンの資料が彼らなりの答えを示している。ロシアの(そしてまた、中国の)「地政学的野望」、すなわち「力ずくでヨーロッパの地図を変え、冷戦終結によって生まれた国際秩序を検討し直そうというロシア政府の欲望に直面し、米国は急いで “[自国の]核兵器の刷新”を進めなければならない」。それは、「自由の忠実な守護者」であり続けるためだ。民主主義へのこうした献身には値段をつけられない。いや、つけられるだろう。核[開発]に費やされる米国の軍事予算は今後3倍に増加する見込みだ[訳注1]。

  新たな軍拡競争を促進するこうした地政学的な不安の広がりは、もし米国の左派を名乗る人たちが一年前から執拗にトランプ氏をモスクワのマリオネット(3)呼ばわりしていなかったならば、この国において反対の声をもっと生み出していただろう。こうした風潮によってトランプ氏はウクライナに武器を送ることを余儀なくされ(彼の前任者[民主党のオバマ氏]はそれを拒否していた)、ロシアに対する制裁を強化しなければならない事態にまで至った。元副大統領のジョー・バイデン氏は、ある記事の中でこうした状況を喜んだばかりだ。この記事のタイトルがすでにその抜け目のなさを明かしている —— 「我々の敵から民主主義を守る。クレムリンにどのように対抗できるか(4)

  時を同じくして、外交問題委員会の民主党上院議員らが「ロシアとヨーロッパにおける民主主義に対するプーチンの非対称攻撃」を分析する報告書を公表した。大人気のジャーナリストで、MSNBC局で反トランプ「レジスタンス」のスポークスマンを務めるレイチェル・マドーはいつもよりもさらに憤慨し、即座にその報告書を取り上げた。「私たちの大統領はこの火事を消すために何もしなかっただけでなく、炎が大きくなるのを見守っていたのよ!」。彼女は静かに眠ることができよう。ペンタゴンが彼女を見守ってくれるだろうから。


(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2018年2月号より)