遺伝子組み換え作物に対する中国のジレンマ


チャン・チューリン(Zhang Zhulin)

ジャーナリスト


訳:大津乃子


 農業大国中国が、遺伝子組み換え作物(GMO)をめぐって揺れている。2018年1月、中国の研究者によって開発された遺伝子組み換え米の安全性が、初めてアメリカ食品医薬品局によって承認された。しかし、この遺伝子組み換え米を中国国内で生産することはできない。中国政府は、GMOの研究は奨励するが、懐疑的な世論に配慮して、公式にはGMOの栽培を制限するといった、矛盾する対応を取っている。[日本語版編集部]

(仏語版2018年2月号より)

photo credit: leniners, Rice


 2017年5月。午前中ずっとタクシーを走らせて、寿山の曲がりくねった道を走り回り、ようやく遺伝子組み換えの米を栽培する試験場を見つけた。(中国南東部に位置する)福建省の省都である福州市から約20キロ離れた、亜熱帯植物が繁茂した山の中にある人口1万6,000人のこの町では、私がインタビューをした住人の中に「遺伝子組み換え作物」(GMO)という言葉を知っている人はいなかった。

 しかし、行き止まりの道の奥に、検査なしで通れる金属製の小扉が大きく開いていて、そこにかかっているプレートには「国立遺伝子組み換え米の中間試験および製品化センター」と書かれている。2009年以来、中央政府からの600万元(76万9,000ユーロ)の資金提供と地方政府からの400万元(51万2,000ユーロ)の出資を受けて、中国におけるGMO研究の第一人者の1人である研究者、ヂュ・ヂォン氏の北京チームと協力した福建省農業科学院が170畝(ムー)(11.33ヘクタール)の土地を管理している。8つの温室にある普通の米の水田の中のセメントでできた100程度の容器には、数千の遺伝子組み換え米の若い苗が生えている。一つひとつの容器には土に挿したラベルがあり、植付の日にちと管理しているチームの名前が書いてある。

有名なテレビ番組で明かされた新事実

 この遺伝子組み換え米の存在は、2010年11月26日、福建省当局のプレスリリースによって誤って知られることとなった。食品局、食料安全保障部、農業および農業の商品化と産業化機関がサインをした「遺伝子組み換え米の検査と管理強化に関する情報」と題されたこの発表によると、福建省の市場では遺伝子組み換え米の販売は禁止されていた。そのプレスリリースが政府のウェブサイトに載っていたのは数日だけだったが、それ以降、GMOが存在するという疑念が湧き上がった。

 中国はGMO開発における先駆的な国の1つで、1988年からウイルスに耐性があるタバコの生産さえしている(1)。しかし現在、中国が商業目的での遺伝子組み換え栽培を許可しているのは2品目だけで、それは綿とパパイヤだ。農業省は数え切れないくらい何度も、他の作物は存在しないと公式に断言してきた。しかし、中国の中央部に位置する湖北省の省都である武漢市で2014年7月に最初の大きなスキャンダルが巻き起こった。中国の中央テレビ(CCTV)の有名な調査番組「新聞調査」のおかげで、GMOの栽培に関する論争が全国に拡がった。ジャーナリストたちは、彼らが街のスーパーで買った5つの米袋のうち3つに、苗木を害するメイガを駆除するCry1Acという毒素を作り出すよう遺伝子コードが組み替えらた米「Bt63」が含まれていたと指摘した。Bt63は中国科学院のヂャン・チーファ氏のチームによって導入された。同氏は武漢市の華中農業大学の教授で、遺伝子組み換え米の研究プログラムの責任者だった。

 中国ではよくあることだが、そのニュースは外国から入ってきたもので、そこでは10年前から知られていることだったが、中国国内では大スクープとなった。確かに2004年12月、ヂャン・チーファ氏はアメリカの雑誌ニューズウィークで、武漢市の種子企業が遺伝子組み換え米の種子を販売しているとはっきり認めていた。彼は100ヘクタール以上にわたって栽培が行われているとまで詳しく述べていた(2)

 グリーンピース・チャイナは当時、2カ月間の現地調査を行っていた。2005年4月に発表された「違法な遺伝子組み換え米に汚染される中国米」と題した調査報告によると、既に950から1,200トンの遺伝子組み換え米が湖北省の市場に流通していた。その作付面積は1,333から1,666ヘクタールに及び、グリーンピースはその栽培の拡大リスクについて警告していた。非政府組織(NGO)が当局に厳しく監視されているこの国では(3)、グリーンピースは現地で調査をできるほぼ唯一の組織だ。彼らの調査の一つひとつが、厳しく統制されているはずの中国のメディアで大きく報道されている。このことは、国の指導者たちの意見が割れていることを示している。

 5年後、北京の雑誌チャイナニューズウィークリーのルポルタージュでは、再度調査を行い、湖北省において遺伝子組み換え米の大規模な栽培が行われていることが示された。許可はされていないが、「商品化を目的とした遺伝子組み換え米の栽培は紛れもない現実である」と同誌は認めていた。2010年のグリーンピースの新しい報告によると、遺伝子組み換え米は(その派生商品とともに)中国の南東部にある3つの省(広東省、福建省、湖南省)で商品化されていた。さらに2年後、中国科学院植物学研究所の主席研究員であるジィァン・ガオミン氏は自身のブログで、南東部の別の省である浙江省で850万人の住民が既にそれとはまったく知らずに遺伝子組み換え米を食べただろうと推定していた。

 農業省はわれわれの問い合わせには答えず、「GMOの無認可での栽培は存在しない」と公式に繰り返すにとどめている。しかしながら、中国の外でそれは見つかっている。欧州委員会の欧州食品安全機関によると2006年から2013年の間、委員会は中国と香港からの「遺伝子組み換え」の表示がないGMOを含んだ製品に対して197件の警告を発したが、そのうち194件は米に関するものだった。(入手可能な直近の数字である)2014年から2016年にかけては、警告の件数は減少傾向にあり、米が19件、パパイヤが1件だった。

 2016年の初め、中国の穀物生産における戦略的地域の1つである(東北部の)遼寧省での8カ月間に及ぶ調査の後、グリーンピースはもう1つ(別の)大スクープを放った。すなわちトウモロコシの種子の市場で採取された7つのサンプルのうち6つは遺伝子組み換えだった、というものだ。畑では、5つの地区でグリーンピースがランダムに採取したサンプルのうち93%がGMOだった。これらはアメリカ企業のモンサント社、スイス企業のシンジェンタ社(2017年に中国の化学系コングロマリットのケムチャイナに買収された)、およびアメリカの種子企業であるパイオニアハイブレッド社とダウ・ケミカル社からのものだ。「これらの遺伝子組み換えトウモロコシのうち、中国で商業目的の栽培が許可されているものはない」とグリーンピース・チャイナはウェブサイトで公開している報告の中で強調している。政府は、それは例外的な事例だと断言している。

 良質な穀物栽培で知られている近隣の黒竜江省でも同様のことが起こっている。北京の経済誌チャイナビジネスジャーナルがこう主張している。「黒竜江省の農民は遺伝子組み換え大豆を栽培している(2013年から2014年の収穫の時に発覚した)。種子がどこから来たのかは謎だ」。3,000キロ西にある新疆ウイグル自治区にも同じ謎がある。2016年5月、アルタイ地区のブルルトカイ県の農業庁は、違法に遺伝子組み換えトウモロコシを栽培している133ヘクタールの畑をつぶした。しかしながら、疑いをかけられた農業従事者のリィゥ・ヨンジュン氏は財新誌の記者に対して自分は無実だと誓った。「問題の原因は種子企業です。私は知らなかったのですから」と彼は断言した。

 公式には、GMOの栽培を可能にするには、5つの段階を踏まなければならない。すなわち研究室での研究、面積が0.2ヘクタール以下の半閉鎖式の場所での1年から2年間の中間試験、1年から2年に及ぶ2ヘクタールまでの水田における栽培の後の環境試験、1年から2年間の商品化前の試験、バイオセキュリティの証明(安全証明書)の交付による許可である。中国政府は7品目にしか安全の証明を認めていない。それはトマト、ペチュニア、唐辛子、米、トウモロコシ、パパイヤと綿である。そのうち最後の2品目のみが栽培し、商品化できる。

 「中国政府は紙の上では多くの条件が必要だという態度をとっています。実際には問題があるのです」と、グリーンピース・チャイナの農業と食品計画の責任者であるリー・イーファン氏は慎重だ。北京の中央民族大学生命科学学院の教授であるシュェ・ダーユェン氏によると、「これらの遺伝子組み換え種子は中国の研究者がもたらしたもの」で、彼らはそれを輸入するかあるいは作っている。彼は2005年に栽培が許可されていなかった田圃が差し押さえられたことを指摘する。すなわち公式には湖北省の農業庁の命令で666ヘクタール以上の農地がつぶされたというものだ。「実際に破壊されたのは6.66ヘクタールだけです」と彼は推定する。「誰が中国で666ヘクタールの耕作地をつぶせるでしょうか?」。特に「何人かの研究者は自分たちの研究の成果を売り込み、自分たちの生産物をテストするためにまさにそれを利用したいと思っているのです」

 このテーマについてルポルタージュのシリーズを制作した、匿名希望の広州の記者によると、「(ある研究者たちの)目的は、既成事実を作り上げること」だ。現在のところ、種子企業も小売業者も研究チームも農民もこれらの種子の違法な流通の責任を認めていない。

種子企業の影響を受けた研究調査

 消極的な人々を納得させるため、逆キャンペーンを張る研究者もいる。2013年5月と6月に、約20の町で遺伝子組み換え米の試食会がおこなわれ、数千人が参加した。これらのイベントは部分的に華中農業大学によって主催されたもので、やはりある疑いを呼び起こすものであった。「なぜヂャン・チーファ教授は私たちにこの試食会の場面を見せたのでしょう? 科学教育目的のほかにどんな魂胆があるのでしょう?」と広州の記者は自問する。その答えはおそらくヂャン・チーファ教授が作成し、61人の研究者が署名した公開書簡の中にある。そこには「遺伝子組み換え米の産業化を遅らせるべきではない。さもなければ、国に害をなす恐れがある(4)」とある。

 フランスではフランス国立農学研究所(INRA)のチームが、研究者と種子企業の密接なつながりによる影響を明らかにした。すなわち「利益相反関係は研究成果の結論に明らかに作用を及ぼしている。利益相反があると[利益相反がない場合よりも]49%高い確率で種子企業に有利な結論が出る(5)」。研究者と種子企業が切っても切れない関係にある中国では、必然的な現実だ。かくして、2004年12月2日、種子企業のLeFengが公式発表で「昆虫に耐性がある遺伝子組み換えのハイブリッド米の新種を研究開発するために、Fengleグループ、中国科学院遺伝・発育生物学研究所および福建省の農業科学院とバイオテクノロジーの企業を創設することを決定した」と伝えたとき、同社の株価は株式市場で高騰した。この会社の時価総額は3,000万元(380万ユーロ)だった。上述の2つの研究機関は同社株のそれぞれ18%、17%を保有し、お互いのノウハウと知名度を交換したのだった(6)。福建省の農業科学院の研究者であるスー・ジュン氏は、少なくとも3年前から同科学院はこのバイオテクノロジーの会社の株を保有していないと、現在では断言している。

 中国のGMOの大家であるヂャン・チーファ氏はといえば、利益相反の疑惑から逃げられない。中国科学院のメンバーでBt63米の研究の責任者である彼は、同時にモンサント社の奨学金評価委員会の委員長でもある(7)。さらに同氏は2001年2月に創設された武漢市の遺伝子組み換え米専業のKeni社の社長でもあった。この会社は4年後には解散した。

巨額の投資をしている政府

 より一般的にいえば、安全証明書を交付する委員会の3分の2の委員(セッションによって58人から75人になる)は、GMO専門の研究者である。その中の複数の研究者は、公にはしていないにしろ、証明書を持っているか、あるいは申請手続き中だ。環境や食品安全性の研究の専門家はほとんどいない。ジャ・シーロン氏はその完璧な例だ。中国農業科学院のバイオテクノロジー研究所の研究者、深圳市にある種子企業の研究責任者で重役である彼は、2002年から2013年にかけて安全委員会の第1セッションから第3セッションの委員だった。「委員会による評価は公正で公平なのでしょうか?」とシュェ・ダーユェン氏はいぶかる。

 研究者と企業のこうした不透明な関係に加えて、何人かの研究者の職業倫理の欠如には背筋が凍る思いだ。2008年、湖南省で6歳から8歳の25人の子どものグループが、ベータカロチンの含有量を増やすために遺伝子組み換えをした「金の米」のためのモルモット代わりに使われた。5月20日から6月23日まで、子どもたちは毎日昼食に60gの米を食べていた。彼らは遺伝子組み換え米を食べていることを知らなかったし、親たちも知らされていなかった。この調査は生物学の研究者でアメリカのタフツ大学の健康安全研究室の責任者であるタン・グゥァンウェン氏によって行われ、アメリカ農務省の支援を受けていた。4年後にこの事実が発覚したとき(8)、中国全土で抗議が巻き起こった。

 中国の指導者たちはしばしば同国が抱えるジレンマを引き合いに出す。中国は地球上の耕作可能地の7%を所有しているが、それで世界の人口の20%に近い人々を養わなければならないのだ。2006年に発表された国家中長期科学技術発展計画(2006年-2020年)において、遺伝子組み換え品種の研究には油田やガス田の開発、あるいは航空宇宙計画における大型飛行機事業と同じ優先度が与えられた。2年後には、中央政府はGMOの研究に対して2020年までに200億元(25億6,000万ユーロ)の投資を行うとした。

 農業省の目には、農業大国である中国が遺伝子組み換え技術において地位を獲得するのは至極当然に映るようだ。ハン・チャンフー大臣は2014年3月6日の北京での記者会見で、「大豆油のようなGMOを原材料にした食品を」食べるとさえ宣言した。しかし立て続けに食品に関するスキャンダルを経験したこの国では、年を追うごとに食品の安全性に関して政府は全く信頼を失っており、ますます高まる人々の不信感に直面して、政府の態度ははっきりしないままだ。かくして2014年、習近平国家主席は、GMOは「新しいテクノロジー」であり、「社会で論争と疑念を引き起こしているが、それは当然だ」と認めた。「われわれは研究においては大胆でなければならないが、商品化においては慎重でなければならない」。そして「外国企業に市場を独占させるわけにはいかない」と明言した(9)

反対意見は70%以上

 それ以降、既に不利な状況にあった反対派は、よりいっそう立場が弱くなったようだ。CCTVで花形の司会者だったツイ・ヨンユェン氏は、GMO反対運動における中心人物の1人になった。政府に「助言を与える」ために年に1度開催される中国人民政治協商会議のメンバーだが、彼には他のメンバーよりも効果的な手段があるわけではない。「最初は、指導者たちはGMOの問題点に関する私の提案を検討するふりをするが、それ以降の会議では彼らはそれを完全に無視する」と彼は残念そうに言う。彼は中国でもっとも影響力があるSNSであるウェイボーで、検査を強化することと食品安全の表示と独立した評価システムの創設を提案した。しかし、その投稿記事はなんと彼のアカウントから消えてしまった。

 中国科学技術発展戦略研究院と科学技術ジャーナルが実施した世論調査を発表した「中国社会の分析と長期的見通し2017年版」という白書によれば、中国人の70%以上が明確にGMOに反対の態度を示している(10)。国際アグリバイオ事業団(Isaaa)の調査が正しいとするならば、GMOの耕作面積は減少している。つまり、2016年には世界8番目の280万ヘクタールだったのが、1年足らずで90万ヘクタール減少したのだ。中国の小麦の主要生産地である黒竜江省の立法議会は、2016年末に同省におけるGMOの耕作を完全に禁止する法律を発布した。同地方政府によって13の町で行われた世論調査に対する明確な回答である。その調査で調査対象者の90%以上がこれらの製品に反対していることがわかった……。

 外部からの圧力も無視できない役割を果たしている。2017年3月28日に国際大豆生産者同盟によって開催された、アメリカにおける持続的な生産と中国との貿易に関するフォーラムで、農家組合代表のペドロ・マニュエル・ヴィニョー氏はこう告白した。「もし適当なときに、中国で遺伝子組み換えに関するある技術が認可されなければ、われわれはこの遺伝子組み換え大豆をアルゼンチンで栽培できなくなるでしょう(11)」。福州市にある福建省の農業科学院の事務所では、研究者のスー・ジュン氏はときが来るのを待っている。「ひとたびアメリカ合衆国が遺伝子組み換えの小麦の商品化を許可したら、あるいは干ばつのような深刻な自然災害が起きれば、中国で遺伝子組み換え米は商品化されるでしょう」。2016年の時点で既に、中国はその大部分が遺伝子組み換えの大豆8,391万トンを輸入している。


  • (1) Cf. Zhang Tao et Zhou Shundong, « L’impact économique et social de l’utilisation d’organismes génétiquement modifiés en Chine », Perspectives chinoises, Hongkong, mars-avril 2003.
  • (2) Craig Simons, «Of rice and men», Newsweek, New York, 20 décembre 2004.
  • (3) ギヨーム・ピトロン「環境保護運動を阻む中国の『レッドライン』」(ル・モンド・ディプロマティーク日本語版2017年7月号)参照
  • (4) Nanfang Dushi bao, Canton, 20 octobre 2013.
  • (5) Thomas Guillemaud, Éric Lombaert et Denis Bourguet, «Conflicts of interest in GM Bt crop efficacy and durability studies », Plos One, 15 décembre 2016, http://journals.plos.org
  • (6) Nanfang Zhoumo, Canton, 9 décembre 2014.
  • (7) 2009年2月13日に設立されたモンサント社の奨学金制度では、毎年、華中農業大学の学生25人に奨学金を給付する。奨学金の金額は5年で、160,000ドル。
  • (8) The Beijing News, 7 décembre 2012.
  • (9) Chuin-Wei Yap, « Xi’s remarks on GMO signal caution », China real time report, 9 octobre 2014.
  • (10) フランスでは10人に8人が反対の意見を示している。 IFOP- Dimanche Ouest-France, 27 septembre 2013.
  • (11) Caixin, Pékin, 29 mars 2017.


(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2018年2月号より)