家系情報の資本化

先祖を取引する


イサベラ・ディ・レナルド&フレデリック・カプラン
(Isabella Di Lenardo & Frédéric Kaplan)

スイス連邦工科大学ローザンヌ校デジタルヒューマン研究所員


訳:清田智代


 世界に散在していた家系の記録は、集約され、デジタル化され、今や我々はワンクリックでこれらのデータにアクセスすることができるようになった。図像においても同様の傾向がみられる。しかしその一方で、世界の共通財産とみなされるべきこれらの記録は、ほんの一握りの企業によって独占される経済資本へと姿を変えつつある。[日本語版編集部]

photo credit: Thomas Hawk One of These Days


 [アメリカ合衆国]ユタ州ソルトレイクシティから数キロ南にあるグラナイト・マウンテン。モルモン教会とも呼ばれる末日聖徒イエス・キリスト教会は、この山の中で、彼らの財宝としてマイクロフィルム等の媒体に収められた35億点もの家系記録の画像を保管庫で厳重に管理している。これらのデータから、100か国以上の身分登録簿等を用いて集められた50億人以上の家系情報を得ることができる。1894年に非営利団体として創立された「ユタ系図協会」は、後にファミリーサーチ(「家族の調査」)と改名されたが、根気よく集められたこの貴重な財産へのアクセスを無料で提供する。

 系譜を辿ることはモルモン教の教義と宗教的実践の中核をなす。モルモン教の信者は、この世に生を受けたすべての人間の復活を願って、しかるべく特定された[結果、モルモン教の洗礼を受けずに亡くなったことが判明した]先祖一人ひとりに洗礼を授けることができるよう、何世代にもにわたる系譜を辿っていく。彼らの信仰において、アダムにいたるまで途絶えることのない先祖とのつながりを追い求めることは、いわば人類を救うことを意味する。このような理由から、ファミリーサーチは他の家系調査組織と、時に営利目的で情報交換を行っている。

 グラナイト・マウンテンにある別の保管庫からは、アンセストリーという企業が、ファミリーサーチと同様ではあるが、今般有償で膨大なデータベースへのアクセスを提供する。この2社は2014年から緊密に協力し合っている。しかしアンセストリーは、ビジネスとして140億件もの家系記録へのアクセスを提供しており、既に200万人以上の会員を獲得している。会員は平均して年に200ドルを支払う。さらにこの企業はDNA鑑定サービスを提供しており、100ドルもしない価格で他の人や土地との新たな家族的「つながり」を発見できる。また、既に保有する数百万人分の遺伝子情報に基づき、より精度の高い調査が可能である。フランスでは、生命倫理法によってDNA鑑定の商業化が禁止され、用途が科学的、法的もしくは医学的な目的に限られているが、このようなDNA鑑定は世界的な成功を収めている。イスラエルでは、MyHeritageという企業が10年ほどでめざましい成長を遂げた。この企業は立て続けに家系情報関連企業を買収し、2017年には9100万人以上の登録ユーザーに83億件の家系情報へのアクセスを提供した。2013年にはファミリーサーチと、次いで2014年には一般大衆向け遺伝子検査の分野を先駆ける23andMeと協定を締結した。23andMeは、2013年以降はアメリカ当局から規制を受け、セールスポイントにしていた疾患予測に関わる事業の大部分を断念せざるを得なくなったことから、世界最大規模を誇る自社の遺伝子情報データベースの発展を目指し家系情報ビジネスに力を入れた。

ひと握りの世界的プレイヤー

 これらの家系情報関連企業は年々、家系資本という新しいタイプの資本を蓄積してきた。その特徴とは? 一つひとつの家系図が、他の家系図に結びつけられればそれだけ、その価値が上がることだ。MyHeritageは、ローカルな家系情報データベースを持つ企業を買収することで、[各企業が]もともと保有していたデータベースの価値を合わせたものをはるかに超える価値を持つデータベースを築き上げた。利益を追求する資本のエネルギーはさらに強化されていく。各企業が家系情報を提供すればするほど彼らのサービスはユーザーを惹きつけることになり、そして、デジタル化の促進あるいは同業他社の買収を通じてますます利益を上げ資本を増やしていくことになる。このような論理によって、この数年でひと握りの世界規模のプレイヤーによる支配がもたらされた。この分野には法規制がないため、これらのプレイヤーは企業間のタイアップを通じて独占的な地位を強化することができるのだ。

 公的な古文書を用いて作業する何千人もの学者や愛好家の情熱によって根気よく復元された膨大な家系図のコレクションは、もはや歴史的共有財産ではなく、いくつかの企業が所有する経済的資本に変わった。多くの家系学者や愛好家にとっては、この情報集約は進歩を意味している。というのは、サーチエンジンのおかげで、膨大なデータベース上を非常に効率よく検索することができるからだ。我々は今や簡単に自分の先祖に関する記録にあたることができるが、つい数年前までは、このような調査は何か月にも及ぶアーカイブ作業を要しただろう。

 しかし家系情報のあり方の変化はまた、今やグローバル資本主義の支配下にある巨大な情報システムの行く末についても疑問を投げかける。「人類の大いなる家系図」はいくつかの企業によって独占され、全人類が継承すべき財産としての保護も、特定の所有者の資本としての認識もなされていない。また、今のところは政治の道具としてみなされていないものの、既に国際経済市場の対象となっている(1)。この「人類の大いなる家系図」の所有者は、かつてない情報資源に魅せられて最高値をつける者に対し、情報へのアクセス権を売って儲けることができるのだ。23andMeの顧客はこのようにして、この企業の保有データが10カ所以上に及ぶ製薬会社の研究所に既に売り出されていたことを知るのだった......。

 この現象は家系情報の分野にとどまらない。もともとは芸術関連の歴史家や研究機関によって収集されてきた多くの写真のコレクションが、家系情報と同じような方法で、商業目的で図像データベースという形で集められてきた。これらのデータベースは、市場原理に従い徐々に集約され、今日ではごく一握りのプレイヤーに管理されるにいたっている。オットー・ベットマンによる写真のデータバンクは、美術館の学芸員でもあった彼自身が撮影した2万5000点の写真をもとに1936年に創設されたものだが、それがこうした集約の力学を如実に物語っている。このデータバンクはビル・ゲイツ氏が創設したCorbisに買収された。この企業は1億点もの図像データを蓄積して、人間の存在を全般的に網羅するという遠大な目的を持っていた。そしてCorbisは2016年にVisual China Groupに買収された。Visual China GroupはGetty Imagesと共同でこのコレクションを営利目的で管理している。

 これらの家系情報及び図像の事例は、「継承される財産の資本化」というさらに大きな現象における個別のケースにすぎない。継承される財産のデータそれぞれにおいては限られた有用性しか持たないものの、統合されると価値の高いデジタル資本に姿を変えていく。したがって、我々はデータの保存やアクセス方法、再利用に関して、それらが独占されることのリスクを検討する必要がある。

 こうした新しい集約の力学に直面し、継承される財産の概念そのものに世界の共通財産という新たな価値を付す必要がある。過去に関する膨大なデータベースは、今やたった一国もしくは一つのコミュニティーの文化的利益にとどまらない。このデータベースは時空を網羅する性質上、世界的な規模を得てきたことから、我々の将来に備えるためにも欠かせない資源として考慮されなければならないだろう。



(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2018年1月号より)