生物多様性の危機のシグナル

ミツバチが私たちの耳にささやきかけること


ラウル・ギレン(Raúl Guillén)

ジャーナリスト、養蜂家


訳:三竿 梓


 自然環境の開発や集約農業の大規模な広がりがミツバチの生態と養蜂の営みに変化をもたらしている。世界中で繁殖やダニの寄生の問題が生じ、人間の世話がなければハチが生きられない地域もある。ミツバチの生態の変化と養蜂のあり方から生物多様性の破壊を考察する。[日本語版編集部]


Matt McKee. — « Honey Doo », 2016
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 春に先立って陽光が満ち溢れる日からすでにセイヨウミツバチ(Apis mellifera)は外に出ていく。広範な地域(ヨーロッパ、近東、アフリカ)を原産地とするこの種(しゅ)が他の群性や単独性のミツバチと異なるのは、多数の地方亜種と共に、世界中で飼育されるようになった点だ。巣箱の中で身を寄せ合った働きバチは、自分たちで蓄えた蜜だけを頼りに最も寒い時期を乗り越える。その時、養蜂家は初めてそこを訪れる。しかし、彼らが目にしたものは……多数の死んだミツバチであった。

 「養蜂を始めた当初、ミツバチの冬季の死亡率は5%でした。それが今は30%になったのです!」と、ヴァルゴードマール渓谷(オート=ザルプ県)で35年間、養蜂を営んでいるベルナール・ティロン氏は語る。1980年代以降、ミツバチの死亡率は地球上の大部分の温帯地域(ヨーロッパ、日本、南アメリカ、北アメリカ)で一気に高くなった。たとえば、カナダ人の養蜂家は自国の状況を「死亡率が約25%という現状の数字は異例であり、もしこれが中期的に続くなら経済的には大打撃だ(1)」と案じている。ティロン氏は「こうした状況を見れば、もし今から養蜂を始めろと言われても、私にはとてもできません」と話し、これまで被ってきた数々の困難を並べ立てながら吐き捨てるようにこう言った。「草原にはもう花は咲いていません。わずかな牧草を確保して牛に食べさせるために開花の時期より前に刈られてしまうのです。牛の乳の出をできるだけ良くするためにやっていることです。生垣もなくなってしまいました」。ミツバチが蜜を集めにやってくる畑では何かがどうもおかしいようだ。ティロン氏は「現在栽培されているナタネやヒマワリの品種にはさほど蜜がありません」と言う。「ラベンダーに関しては、3週間から1カ月続くはずの開花期が今はたったの8日間しか続きません。花の摘み取りはもっと早い時期から始まっていたし、こんなに短期間で全ての作物が収穫されることもなかったのです。手や鎌で刈り取ったので、ミツバチには蜜を集めたり、農民たちが来ても逃げる時間がありました。それが今では、機械が花とミツバチを一緒に吸い込んでしまうのです!」ミツバチ自体にも影響が及んでいるように見えるとティロン氏は結論づける。「群れのハチの数は減ってしまったし、女王バチはさほど長く生きられません。私も以前は一匹の女王バチで3、4年ハチミツができる巣箱を持っていましたが、今、女王バチは2年生きるのがせいぜいです」

 こうした状況悪化には様々な理由があるが、それらは全て、金もうけのために生態系にますます大きな負担を強いていることと関係している。まず初めに、ミツバチヘギイタダニが群れの大半に寄生した。このダニは蜂児(卵、幼虫、さなぎ)に繁殖して血リンパ(無脊椎動物の「血」に相当)を吸う。この東洋種の外部寄生虫は、ミツバチが東南アジアに持ち込まれたのを契機に、1950年代にはヨーロッパのセイヨウミツバチに寄生した。そして世界的な商品の交易経路を辿りながら、急激に広まったのである。ここ数年はモンスズメバチというミツバチの捕食者が同じ経路を辿って広まり、すでに養蜂家に困難を強いている。

 このようなグローバル化の結果に、殺虫剤の影響が付け加わる。タバコの発がん性の危険を認知させるための長い闘い以来よく知られているように、多国籍企業が広範囲に販売する製品を問題にするとき、その危険性を証明するのに乗り越えなければならない困難は大きい——これは科学者にとっても同じことが言える。しかしながら、いくつもの研究はネオニコチノイドの影響力を明らかにする方向で一致する。最近のある研究はネオニコチノイドのせいで野生のミツバチの死亡率が3倍になるだろうと指摘し(2)、他の研究ではセイヨウミツバチの群れの衰弱と雄ミツバチの精子の生存能力の低下には関連があることを明らかにした(3)

 1960年代以降、巣箱の数はアメリカでは半分に、ヨーロッパでは三分の一に減った。たとえその数がここ10年の間はヨーロッパで1700万個、アメリカで260万個あたりで安定しているにしても、養蜂家の数自体は減少し続けている(4)。したがって消えずに残った農場はより多くの巣箱を保有することになり、費用と仕事量は増加した。今日ではハチミツの生産量の問題よりも繁殖の問題の方が深刻で、農場は繁殖専門の養蜂家から頻繁に分封群[訳注1]を買わざるを得なくなっている。ニュージーランドは分封群をカナダに空輸している(2015年には35トン)が、ヨーロッパにおいてはイタリアがまったく同じように分封群の重要な供給者となった(5)。また、養蜂家は女王バチを育てるか、あるいは専門業者の元でそれを入手する必要もある。ほとんど活動していない巣箱の女王バチと取り替えて、ハチミツの生産を促進するためだ。

 人里離れた数少ない地域を除いて、養蜂はもはや採取経済ではなく、ずっと以前から自然環境の開発と改良の過程に組み込まれている。ミツバチの言葉を解読したカール=フォン・フリッシュは1963年の時点ですでにこう説明していた。「養蜂家はいつもミツバチの群れからあまりにも多くのハチミツを搾り取るので、巣箱に残された蜜はミツバチの越冬にはもはや十分ではない。したがって秋に、ミツバチの群れひとつひとつに2~5キロの砂糖水を与える。砂糖水はミツバチに完全に適しているし、砂糖はハチミツより安価なのでこれは養蜂家にとって都合の良いやり方である(6)」。フォン・フリッシュが推奨するこの飼育法は議論を呼んでいる。しかし、一部の人々が砂糖の使用を最小限に減らそうとしても、養蜂家の大半は値段が多少高くつくにも関わらず、ミツバチに与えるのに最良のタイプの糖液を追求している。また、ミツバチヘギイタダニとの闘いには1年に1~2回の処置が必要で、それにはアミトラーゼのような人工のダニ駆除剤かシュウ酸やギ酸、清油が使用される。

 ヨーロッパと北アメリカにおいて、養蜂は徐々に副次的な仕事ではなくなり、次第にフルタイムの仕事へと変わっていったが、それとともに経済的にもこの仕事に依存するようになった。この二つの地域の養蜂家は、他の農業従事者と同じいくつかの選択肢と諸問題(労働・資材等の投入の仕方、設備コスト、衛生管理、生産方法、収益など)に直面している。確かに彼らは仲間の農業従事者によるいくつかの実践から生じた悪影響を自覚するには良い立場にいるのだが、似たような制約を受けて結局は、同じようにグローバル化した商品流通網を頼るのである。こうして養蜂用資材業者が提供した輸送用木箱は食品用プラスチック容器に替わり始め、砂糖はたいていの場合ブラジル産となり、中国の巨大な化学工場がミツバチヘギイタダニを駆除するためにアミトラーゼやイミダクロプリドを製造しているのだ。イミダクロプリドは、ネオニコチノイド系殺虫剤で、ミツバチへの影響を考慮して使用禁止が求められている化合物である。

 温帯地域に住む大多数の養蜂家は、問題の表面化の仕方は様々ながら同様の困難に遭遇している。しかし、これは今のところどこででも生じるケースではない。特にヨーロッパに起源を持つ様々な亜種のセイヨウミツバチが持ち込まれたオーストラリアにおいては事情が異なる。動植物種の税関検査において厳しい政策を採ったおかげで、この国の巣箱にはミツバチヘギイタダニは侵入せず、さらにそこでミツバチは自然の広大なスペースを確保した。その結果、養蜂家が特別大きな損失を被ることはなく、一方でミツバチの群れは野生に帰り、いくつかの地域に棲みついて、今や侵入種とみなされるほどになったのである。ミツバチの巣作りが現地の動物を脅かしているが、これを防ぐためにいくつかの自然保護公園では、ミツバチの撲滅計画が実施されている。

 温帯以外の地域で巣箱の数はここ50年で2倍以上になった。その結果、1961年には地球全体で4900万個だったのが今では8300万個になっている(7)。野生の土地を破壊するペースは衰えないにしても、サハラ以南のアフリカと熱帯アメリカでは、自然の生息地を破壊する工業的集約農業が温帯地域ほど大々的には広まっていない。また、熱帯アフリカに生息するセイヨウミツバチの亜種はミツバチヘギイタダニに対する抵抗力が強く、生息場所が好ましい条件でなくなった時にはそこから移動することができる。こうして、アフリカミツバチの亜種の一つ(Apis mellifera scutelatta)が偶発的に熱帯アメリカへ侵入した。その後、この種は原産地域におけると同じくらい繁殖して、植民地時代に持ち込まれたヨーロッパ種に取って代わったのである。

 これらの地域には野生の群れも多く存在する。たとえば南アフリカでは、ヨーロッパの森と比べるとセイヨウミツバチに適さず、養蜂も行われていないある地域で、1平方キロメートルあたり12.4から17.6群の生息密度が確認された。この研究では、養蜂が十分に広がったドイツでもその密度は1平方キロメートルあたり2.4から3.2群と報告されており、それらは(原注の研究に基づく)養蜂家が所有する巣箱の密度(8)やヨーロッパの平均密度(9)に対応している。反対に、アメリカ、特にカリフォルニア州のいくつかの地域では野生の群れがほぼ消滅しているのが観察されている(10)。そこに唯一生き残っているセイヨウミツバチが飼い馴らしのプロセスを経て人間の世話にすっかり依存しているのはほぼ確実だ。少なくとも温帯地域の大部分においては野生種のミツバチは消滅した。また、人間なしには生きられない人工飼育の動物へと変質してきている。これらの事象は、開発や集約農業の工業化によって引き起こされた生物多様性の破壊、そして前例のない速さで絶えず自然環境が破壊されている熱帯地方において今後起こるであろうことを如実に物語っている。


(ル・モンド・ディプロマティーク 仏語版2017年12月号より)