庶民階層の変容 —— 統計から見える欧州とフランス


セドリック・ユグレー(Cédric Hugrée)
エティエンヌ・ペニッサ(Étienne Penissat)
アレクシス・スピール(Alexis Spire)

社会学者
著書 Les Classes sociales en Europe. Tableau des nouvelles inégalités sur le Vieux Continent
(ヨーロッパの社会階層、旧大陸における新たな不平等の図)がマルセイユのAgone社より9月刊行予定。


訳:福田正知



 溶接工、生活支援員、窓口係、タクシー運転手——ヨーロッパの庶民階層は大きく変動した。ロンドンからブカレストに至るまで、庶民階層は経済危機で甚大な被害をこうむっている。フランスにおける質素な賃金労働者たちの生活は、政治家たちの意識から遠くにあるままだ。政治家にとって、庶民階層とはあくまで陰気な群衆であり、選挙で票を得るべくその運命に同情しなければならないものでしかない。[フランス語版編集部]




 ここ数年、国際的な専門家の間でも特に経済的自由主義を標榜する者たちを驚かせるほど、不平等の増加に関する報告が次々と提出されている。かの世界銀行でさえも、全人口の上位1%に位置する富裕層の収入の増大を悩みの種としている。こうした「グローバル金権政治家たち」——セルビア系アメリカ人の経済学者ブランコ・ミラノヴィッチは彼らをそう呼んでいる(1)——への非難は、中流階層の未来を不安視する言説を伴ってもいる。それに反して庶民階層(定義は下記の補稿を参照)の境遇は、さほど人々に動揺を与えてはいない。彼らこそが、拡大する資本の国際化や賃金労働者間の競争に直面した最大の犠牲者であるのにもかかわらず。

 他のヨーロッパ諸国と比べて、フランスの庶民階層のどんな特徴が他と似ており、あるいは異なっているのだろうか? 目下進行中の統計調査がこの問いに答えてくれる。フランスにおける庶民階層の第一の特徴は、第三次産業、それも特に個人や家庭向けのサービス業の大きさである(2)。多くの准看護師や、託児所での育児補助員、保母または訪問介護士が庶民階層を占めている(庶民階層の16%)。他方、こうした職業の割合はスペイン(7%)やイタリア(5%)ではフランスよりもずっと小さく、さらにドイツ(4%)あるいはギリシャやポーランド(ともに1%)ではほとんど無いに等しい。同様にフランスにおける家政婦の数(庶民階層の15%)も——少なくとも届け出を出して働いている女性に限って言えば——、他国を上回っている。

 たとえこのサービス部門の人々が、多くの場合、他のヨーロッパ諸国よりも多くの給料を受け取り、比較的高い教育水準にあったとしても、彼らの比重の大きさはフランスの庶民階層の形態に多大なる変容をもたらしている。庶民階層における女性の増加もまた、とりわけドイツ(39%)、ポーランド(37%)、ギリシャ(35%)あるいはイタリア(34%)といった他のどの国々よりも、フランス(46%)ではずっと顕著である。これと軌を一にして、(ほとんどの場合に否応なくその立場にならざるを得ない)パート労働者が増加している。これらのサービス業の女性労働者たちの特徴は、彼女たちの若さであり、加えて他の業種の女性たちよりも[サービス業の方が]ずっと外国人の数が多いということである。

 こうして新たなプロレタリアが生まれている一方で、その多くが男性であり、失業と人員整理によってもろに影響をこうむる熟練労働者たちは斜陽の憂き目に合っている。工業における熟練労働者たちの衰退はヨーロッパ全域に関わる事態だが、それが最も顕著に現れている国がフランスである。この国の庶民階層の中に、非熟練労働者や事務職員の数が徐々に増えつつある。1990年代に既に相当増大していた彼らの割合は、2000年においては15歳以上の労働人口の10%を占め、2009年には12%にまで拡大した。[フランスの]労働者の中では熟練労働者がいまだ多数派であるにしても、彼らの全体的な比率は21%から16%へと減少した(3)

 現代を象徴するこうした職業の構造変化は、賃金労働者の中でも最も立場の弱い少数派の人々に国際競争の帳尻を負担させようとする一連の政策に起因している。特殊な技術を必要としない、中品質の製品が多いフランスの産業がこうした国際競争に晒されることによって、この構造変化は一層激しいものになる。例えば自動車部門では、メーカーは生産設備全体を、中欧(ルノー向けの、スロヴェニアのノヴォ・メスト工場)と南欧(PSAプジョー・シトロエン向けの、ポルトガルのマングァルデ工場)へ移すことに決めた。競争相手であるドイツのダイムラーやBMWは、部品の工場のみを他国へ移転し、組立て工場は国内に維持した。

 社会保障費削減のための非熟練労働の奨励や賃金抑制の推進、個人サービス業を活用するために家政婦に適応された様々な税制優遇措置——これらの政策によっていくつかの結果がもたらされた。フランスの庶民階層の構造は、職業の第三次産業化、地位や契約の不安定化、そして労働時間のフレキシブル化によって、今やドイツよりもイギリスに近付いている。

不安定雇用の政策

 経済自由主義論者たちが、他国に比べて少ないフランス人の労働時間については決まって不満を漏らしているとはいえ、彼らは他国以上に困難な労働条件については言及し損ねている。この視点から見ると、フランスはイギリスよりギリシャに近い。フランスの庶民階層の79%が重い荷物を運び(ギリシャ78%、イギリス67%)、79%が立ち仕事で(ギリシャ82%、イギリス75%)、45%が煙や粉塵の中で働き(ギリシャ43%、イギリス33%)、そして59%が騒音の中で働いている(ギリシャ61%、イギリス47%)。

 安定した労働者よりも待遇が劣り、「権利を要求しない」移民の急激な出現を以ってこの特異性を説明しようとしても無駄であろう。フランスでは、庶民階層に占める外国人の割合(9%)は欧州の他の国よりも小さい(ドイツ14%、スペイン22%、ギリシャ16%、イギリス12%、イタリア19%)。理由は別のところにある。経営者側は、ここ20年の間に生産性を高めるべく仕事を著しく増やすことを選んだ。しかしそれは、雇用だけでなく新技術分野への投資と労働条件の改善をも犠牲にしてのことであった。フランスの庶民階層の特徴は、まさしくスペインやポルトガルのように、非熟練かつ不安定で、将来のキャリア展望を描くことができない労働者の多さにある(4)。確かに、南ヨーロッパでは非公式経済のウェイトが高く、こうした比較には限界がある。しかし、正規職に従事する賃金労働者だけをとっても、フランスの庶民階層は比較可能な欧州諸国と比べ、より不安定で劣悪な労働環境に晒されている。

 だが、フランスの庶民階層はスペインやギリシャ、イタリアよりも学位取得者率が高く、イギリスと同程度である。相応の学識水準と、とても望ましいとは言えない労働環境という組み合わせは、政治面において危険をはらんだものとなりうる。2006年には既に、生活環境調査観察研究所(Crédoc)は、抜本的な改革を求める人の比率が、パート労働者と失業者の方が正社員よりも高いことを明らかにしていた(5)。もちろん、統計と現実の間には隔たりがある。選挙人名簿に登録されていない人は、企業の管理職や高度専門職従事者に比べると、失業者とパート労働者では3倍もの数に及ぶ。さら、より多くの棄権票の影響も考慮しなければなるまい。

 安定を失い、労働強化と経営者の横暴にすり減らされたものの、フランスの庶民階層にはいくつかのセーフティーネットがある。この福祉社会は、庶民階層や中流階層のために、経済危機に対する防壁を築き上げてきた。収入や生活環境に関するヨーロッパの調査によると、賃金抑制のためにフランスの庶民階層の72%は「月末にやりくりに困る」と答えているが(イギリスの55%、ドイツの31%よりも高いが、ギリシャの95%よりは低い)、その反面、彼らの間で貧困ラインを下回る人々の数は明らかに少ない。ドイツが23%、スペインとギリシャが30%なのに対し、フランスでは17%である。ドイツとイギリスの指導者たちは、失業を減らすという口実の下に給与の上限を抑えることを決定した。低賃金労働者の割合は、2014年時点で英独では20%以上だったが、フランスではせいぜい9%だった(6)

 経費の抜本的な削減に苦しめられつつも、社会保障制度のおかげで、庶民階層で仕事に就いている人々はある程度の手当てを享受できている。フランスで経済的な理由により病気の治療を諦めたと打ち明けたのは、庶民階層のうち僅か7%である。しかし、休業中または無職の人々を考慮に入れれば、格差は拡大する。コモンウェルス財団の調査によれば、収入が平均を下回る人々のうち17%が治療を諦めざるを得なかったと告白した。オランダではこの割合は13%であり、ドイツでは27%である。大統領選の候補者数人が確約した医療費の削減は、全国抵抗評議会[訳註1]の綱領から引き継がれてきたわずかに残る社会保障をさらに脆くする。

 公共部門と準公共部門が大きければ、それが別のセーフティーネットを形成する。これらの部門は、フランスでは(定義は補稿参照)庶民階層の16%から26%を占めており、イギリス(15%から22%)や、とりわけドイツ又はスペイン(7%から12%)と比べてずっと大きい。公務員が徐々に下請けや臨時労働者に依存するようになりつつあるにしても、これらの部門の雇用の安定は民間企業よりもずっと堅固である。それは特に、病院の准看護師や託児所での育児補助員、地方自治体での食堂係や工員に関して言えることだが、家政婦やごみ収集員、郵便配達員も同様に雇用は安定している。このグループの存在が、社会的不安定の感覚がさほど強まっていない理由でもある。庶民階層の中で、半年以内に職を失うのではないかと危惧しているのはわずか12%だけである。この状況はドイツやイギリスと似ているが、ヨーロッパの平均よりはずっと低い。

 このように、公共部門に勤める庶民階層は、経済危機とグローバリゼーションによって安定した構造が大きく失われた世界の中で、安定を維持するための最後の砦であるかにみえる。だが、この砦にすら希望が見出せなくなりつつある。公務員になる夢は、事務職員と労働者らの子どもにとって、長らく社会的昇進の可能性を象徴していたが、就職競争の激化とポストの減少とともに、この夢は薄らぎつつある。

 公的機関で働く庶民階層はまた、民間の第三次産業における非熟練労働者に比べて、権利を要求するのに有利な立場にある。病院の准看護師であれ、行政機関の職員であれ、そこでは組合加入やデモへの動員がより活発である。「幸福な負け組」の輪郭をそれ以上明らかにすることもなしに、公共部門と民間部門との間にある地位の「不平等」に焦点を当てて、フランソワ・フィヨンとエマニュエル・マクロンは公務員ポストの大規模な削減を約束した。彼らが攻撃目標に定めた対象は、今なお持ちこたえているそうした少数派である。

 社会的階層の下部にいる人々を競争に晒すという1980年代半ばから多かれ少なかれ意図的に実施されたこの政策は、社会の内的断裂を深め、地位、性別、出自、文化、あるいは世代の対立を悪化させた。政策の影響によるこうした深刻な社会の分裂は、次のようなことを理解する糸口になるだろう。なぜ庶民階層のあるグループは彼ら自身の力による労働者たちの解放を信じなくなったのか、なぜ他のグループは、愛国主義的で保護貿易主義を掲げる経営者と結託し、移民を彼らの競争者と見做して敵対するのか、あるいはまた、なぜ別のグループは未だに中流階層との同盟という観念に取り付かれているのか。しかし共通する将来像を持つことができなければ、庶民階層が[社会の方向性に関わる]決定権を他の者に委ね、政治活動から身を引いてしまうというリスクは残り続ける。




  • (1) Branko Milanović, Global Inequality: A New Approach for the Age of Globalization, Harvard University Press, Cambridge (Massachusetts), 2016.
  • (2) Christelle Avril, Les Aides à domicile, Un autre monde populaire, La Dispute, Paris, 2014.
  • (3) Cécile Bousse et Françôis Gleizes, «Les transformations du paysage social européen de 2000 à 2009», Insee Références - Emploi et salaires, Paris, 2011.
  • (4) Thomas Amossé, «Les conditions du travail en Europe dans les années 2000 : de fortes inégalités sociales», dans Annie Thébaud-Mony, Philippe Davezies, Laurent Vogel et Serge Volkoff (sous la dir. de), Les Risques du travail. Pour ne pas perdre sa vie à la gagner, La Découverte, Paris, 2015.
  • (5) David Alibert, Régis Bigot et David Foucaud, «Les effets de l’instabilité professionnelle sur certaines attitudes et opinions des Français, depuis le début des années 1980», Cahier de recherche, n°225, Crédoc, Paris, 2006.
  • (6) Eurostat, «Enquête sur la structure des salaires», Luxembourg, 8 décembre 2016.

    [訳註1] 全国抵抗評議会:1943年に、政治的に分裂していたレジスタンス運動を統一化すべく設立された組織。ジャン・ムーラン、ジョルジュ・ビドーらが議長を務めた。


⚫︎補稿⚫︎

七つのグループによる社会構成

 国際的な規模で社会階層を定義するにはどうすればよいか? 経済学者は収入の差でグループ分けをし、社会学者はそれ以上に職業別社会階層における地位に重点を置く。だが分類の仕方は国によって多様である。社会集団やその現れ方の歴史にも影響される。たとえば、フランスの「管理職」(cadres)というカテゴリーは、イギリスでは正確に対応しない。イギリスでは「経営者」(managers)と「専門家」(professionals)は区別される。ヨーロッパ規模で完全に合意できる階層図が存在しないために、[職業カテゴリーの]こうした特異性による国際的な比較は慎重なものとなる。最近までヨーロッパの統計局Eurostatは、ヨーロッパ人の社会的職能の地位に応じて調整された図表を発表してこなかったし、職業の分野(公共/民間部門)に応じたものも相変わらず作成されていない。このことによって、我々のヨーロッパについての知識は国家間の不平等ばかりに焦点があてられることとなり、それにしたがって社会階層間の不平等、および彼らそれぞれの内部にある不平等が見えなくなっている(7)

 近年、研究者たちはヨーロッパ社会経済分類群(ESeG)と呼ばれる分類法を作り上げた(8)。これを用いれば七つの社会的職能グループを作ることができる。すなわち管理職、高度な知的専門家、中間レベルの専門家、自営業者、熟練の従業員、熟練労働者そして低熟練もしくは非熟練の賃金労働者である(上記の図を参照)。より細かいレベルではこの分類法は30のサブグループを区別しており、そしてそこから私たちは3つに分けられたヨーロッパ社会空間を構想した。すなわち庶民階層、中流階層そして上流階層である。

 ヨーロッパ社会の底辺層では、非熟練の賃金労働者(オフィスの清掃員、農業労働者、販売員など)や熟練労働者(運転手、職人仕事や建設業、生産業における熟練労働者など)は、准看護師や職人、農家と同じくヨーロッパの庶民階層に属するものとして規定される。次に、商人や熟練の従業員(オフィスワーカーや警察官)、看護師やプログラマー、エンジニアといった中間レベルの専門家、教員などは、ホテルやレストランの独立した経営者、支配人と同じく中流階層として分類される。その上位に位置付けられる上流階層として挙げられるのは、高度な知識が必要な自由業の大部分(医者、エンジニア、弁護士、行政官など)や上級管理職、雇用者である。

(C・ユグレー、É・ペニッサ、A・スピール)


  • (7) Étienne Penissat et Jay Rowell, «Note de recherche sur la fabrique de la nomenclature socio-économique européenne ESeC», Actes de la recherche en sciences sociales, n°191-192, Paris, 2012.
  • (8) Michel Amar, François Gleizes et Monique Meron, «Les Européens au travail en sept catégories socio-économique», Insee Références - La France dans l’Union européenne, Paris, 2014.


(ル・モンド・ディプロマティーク2017年5月号)