“ディープ・ステート” —— 権力構造の深い闇


セルジュ・アリミ(Serge Halimi)


訳:村松恭平





 言動が不規則で、自分が知らないことを学ぼうとしない大統領が世界で最も強力な軍隊を指揮するようになった今、「歯止め」は多くあった方がいい。ところが、ドナルド・トランプ氏が将官たちに対し、シリアへの爆撃とアジアにおける海軍の軍事演習の開始を命令した際、彼は米国の共和党員からも民主党員からも熱烈な喝采を浴びた。さらには、ほとんどすべてのメディアからもだ。そこには欧州のメディアも含まれる。フランスのある日刊全国紙は「シリアに対するこうした攻撃」には[この地域にとって]「救世者のような役割」があったとさえみなした(1)。こうして、中東の空軍基地に向けて放たれた59発のミサイルによって、アマチュアであることと身内の優遇[にそのイメージが染まった]不人気の大統領は、毅然とした態度をとり、繊細で、「非常に残虐な攻撃がなされた時に無残に殺された美しい赤ん坊たち」の写真の前では人情を抑えることのできない男のごとく変貌した。トランプ氏自身が褒めそやされることが大好きなだけに、重い緊張感を伴った今の国際情勢において、このように一斉に沸き上がった賞賛には不安を感じさせられる。

 その権力の座を降りる3日前の1961年1月、共和党に所属する大統領だったドワイト・アイゼンハワー氏は自国民に対し、「軍産複合体」に注意するよう警告していた。「その影響力 —— 経済的、政治的、さらには精神的な影響力すらもたらす —— がどの街にも、どの州にも、どの行政機関でも感じられる」と。現在の米国大統領の度重なる方針転換から判断すれば、この「軍産複合体」はこの数週間、活発に行動したようだ。1月15日にはトランプ氏は「北大西洋条約機構(NATO)はもはやすたれた」と考えていたが、4月13日には「NATOはすたれていない」と述べた。彼は数カ月前に、ロシアが「盟友」になると見込んでいたが、4月12日には米国とロシア政府の信頼関係が「かつてないほど低いところ」にまで落ちたと結論づけた。

 ロシアの首相ドミトリー・メドヴェージェフは、「選挙にかかった最後の霧が晴れて」すぐ、トランプ氏はワシントンの「権力システムによって砕かれた」とそこから推論した。要するに、大統領官邸の居住者が誰に変わろうと、戦略的優先事項は決して阻まれることはないというディープ・ステートの手の内にあるというわけだ。米国帝国に最も執着している共和党員と民主党員は喜んでいることだろう。たとえトランプ氏が操り人形のような人物だとしても、もはや「ロシア政府のマリオネット(2)」ではない……。この点において、ディープ・ステートが勝利した。

 アイゼンハワーがもし生き返ったとすれば、彼はきっとこの「軍産複合体」に「メディア界の共犯」を付け加えることだろう。緊張を生じさせることばかりに熱中する24時間のニュース放送局は戦争が好きだからだ。それに惹きつけられた解説者たちも、こうした武力紛争で命を落とすのはもはや彼らの息子のような徴兵に適齢の若者ではなく、貧しい労働者階級の「志願者」たちであるだけに、誇張した主張ばかりを並べている。米国の主要メディアは、シリアにおけるこの国の「攻撃」に関する論説を47本掲載した。それに反対の主張をしたのは、1本だけだった(3)……。




(ル・モンド・ディプロマティーク2017年5月号)