ドナルド・トランプが観る世界


マイケル・T・クレア(Michael T. Clare)

マサチューセッツ州アムハーストのハンプシャー・カレッジ 平和と安全保障学教授
近著はThe Race for What’s Left(Picador, 2012)


訳:大竹秀子


 トランプの世界観では、アメリカが第一。他は皆、有益な資産、でなければ邪魔者だ。ロシアとは短期的に関係が改善しそうだし、中国は北朝鮮へのお目付役を期待される。だが、ヨーロッパの注目度は、この2カ国より低いのだ。[英語版編集部]



 ドナルド・トランプの外交政策を理解するのは、容易ではない。他の次期大統領とは異なり、自分の方針について詳細に述べた政策方針書を出していないし、長い演説も行っていない。理解の手立てとして、我々がやる必要のあることといえば、いくつかのインタビューと選挙戦で登壇した時の様子をチェックすることだけ。いまではこれに、政権トップの閣僚の人選が加わった。こうしたことから、トランプの外交政策とは、おおむね、ニュース記事の見出しと世界中を飛び歩いてきた実業家としての自らの体験から導き出されたもので、素朴で一貫性を欠いていると観る人たちもいる。しかし、子細に観ていくと、特徴的なパターンが浮かびあがってくる。ドナルド・トランプは、明敏な世界観の持ち主で、アメリカをその中に位置づけている。そして、いくつかの点においては、その認識は評判の高い評論家やワシントンの政策立案者たちより世界の現実に、はるかに良く当てはまるのだ。

 首都ワシントンでしばらく過ごせば、ひとは一定の方法で世界を観るようになる。それは、ホワイトハウスを中心に同心円状に外へといくつかの円をなして広がる世界だ。最初の輪には、カナダ、英国、および英語圏の同盟国がいる。2番目の輪には、残りのNATO勢力プラス日本、韓国、イスラエル。3番目の輪には、台湾、フィリピン、サウジアラビアなど、長年にわたる経済的・軍事的提携国がおり、以上の依存関係のシステムの外にいるのが、アメリカのライバルおよび敵対国のロシア、中国、イラン、北朝鮮だ。何十年もの間、アメリカの外交政策とは、アメリカに友好的な国との、そして友好国諸国同士のつながりを強化し、輪の外にいる国々を弱体化し孤立化させることだった。これは、時に、内側の輪にいる国が危険にさらされる事態にならないよう、外側の輪にいる同盟諸国のネットワークを守るため武力に訴えることを意味した。

 トランプはこれまで「ベルトウェイ(アメリカの政治中心部)」で多くの時を過ごしたことはなく、アメリカの政策立案者の大半が持っているアメリカ中心の世界観を共有していない。ニューヨーク市の実業家である彼は世界各地に利害関係を持ち、同盟国、友好国、敵対国というあらかじめ決められた構造的概念とは、まったく無縁だ。この点でトランプは、国務長官に指名したエクソンモービル社最高経営責任者のレックス・W・ティラーソンと、よく似ている。このふたりにとって世界とは、その地の政府がワシントンに忠誠とみえるか、あるいは敵対的とみえるかを問わず、いたるところに機会と危険を備え、激しい競争が繰り広げられる広大なジャングルなのだ。

 トランプが観る世界では、アメリカは、自らが保護の義務を負っているアメリカに依存する諸国で構成される拡大家族の中核ではなく、グローバルな激しい競争が展開されるチェス盤の上で、富と優越性をめぐってしのぎを削る数多くの勢力中枢地のひとつにすぎない。こうした環境におけるアメリカの外交政策の目標は、アメリカの利益を他の何よりも上に置き、アメリカの負担で優位に立とうとする他国のあらゆるもくろみをくじくことである。すべての外国政府は、アメリカの利益を促進するために、あるいは、アメリカの発展を邪魔だてするために何をするか、という一点のみで評価される。この激しい競争の環境で、トランプは手にはいるあらゆる道具立てを駆使して、パートナーには報償を与え、反対者は罰するだろう。進んで協力する政府は、ホワイトハウスへの公式訪問、良好な通商協定、人権上の問題からの免除を期待できる。敵対的な政府は、高い輸入関税、外交的孤立、そして、場合によっては、極端な挑発、軍事行動に直面することになる。トランプはこのテーマについてほんのわずかしか発言していないため、その措置がどのような形態を取るのか予測できないが、力を誇示する性質のもの(おそらくは、即刻勝利につながるような目標に向けた空爆とミサイル攻撃)になりそうだ。

 ワシントンがこうした敵と味方、両方のバランスを取る駆け引きを巧みにやり遂げることができるよう、トランプは上級リーダーシップ・チームを結成している。このチームを構成するのは、おいしい取引で協力者たちに報いるノウハウを熟知している人々(国務長官にティラーソンを指名)と、アメリカの敵に対して力を振りかざした経験をもつ人々(国家安全保障補佐官にマイケル・T・フリン将軍を、国防長官にジェイムズ・N・マティス将軍を指名した)だ。そして配下の将軍たちが、軍の出動を選択した場合に備えて全兵備、——特に武力の誇示と急襲作戦に最適な海軍——の大幅な拡充を求めている(1)

ISISに対する闘い

 こうしたこと一切は、特定の地域や諸国とアメリカとの関係において、どのような役割を果たすのだろうか? まず、中東、そしてISIS(いわゆるイスラーム国)との闘いを観てみよう。一番初めから、トランプは海外での最優先目標は、「ISISの殲滅」と「過激なイスラーム・テロリズム」のその他の示威的行為をつぶすことだと明言していた。「就任後ただちに、ISISを殲滅する計画を30日以内に私に提出するよう、将軍たちに要請する」と2016年9月7日、彼はフィラデルフィアで宣言した(2)

 アメリカのISISとの闘いは、かなりの程度、外交問題というよりも国内問題だ。ISISを殲滅するというトランプの決意表明は、ISISが本拠地から遠く離れた場所でも起こす国際的な行動範囲の広さに対するトランプ支持者の恐怖、そしてイスラーム過激派に対する彼らの強い嫌悪によるところが大きい。ISISに対する反撃においては、「生半可なものは一切無い」とトランプは約束した。殲滅のための徹底した作戦においては、軍が持てるあらゆる手立てが解き放たれる。たとえISISの家族や民間人の仲間が、作戦の戦禍にまきこまれたとしても、構うことはない。

 だが、ISISに対する作戦は、おおむね軍にゆだねられるとはいえ、外交政策への重要な考慮も生じる。まず第一に、ISIS との最後の決戦において誰に支援を求めるかという問題だ。最も注目に値するのは、トランプがウラジミール・プーチンのことを、同盟の可能性がある相手として語ったことだ。「我々がロシアと一緒になってISISをたたきのめせたら、すごいじゃないか」と、彼は、2016年7月に、ノースカロライナでの集会で述べた(3)。トランプはまた、シリアのバシャール・アル・アサド大統領との協働関係も示唆したことがある。 「アサドはまったく私の好みではない。だが、アサドはISISをやっつけている」と、10月9日のヒラリー・クリントンとの2回目の討論の中で述べた。両国の指導者たちは、当然ながら、見返りを期待する。ロシアは、クリミア併合の承認と経済制裁の停止、アサドは、反政府抵抗軍への一切の支援の中止を求めるだろう。

 トランプはまた他にも、大きな影響力を持つ地域の主要プレイヤーたちとの調整を求めるだろう。トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領との早々の合意が予想されるが、これによりトルコは、シリア北部のクルド武装勢力へのアメリカの支援減少を見返りに——この勢力はISISに対する地上戦においては最も効果的な戦力であることが証明済みなのだが——ISISへの圧力を強めるだろう。エルドアンは、トランプの大統領当選後、真っ先に祝辞を述べた外国首脳のひとりで、ふたりは反テロ活動での協力関係の改善を話し合ったと報じられている。2016年7月のクーデター未遂事件を起こしたとしてトルコ政府に訴追され、亡命状態にあるトルコ人のフェトフッラー・ギュレン師の送還に、トランプが合意する可能性もある(4)

 ワシントンとサウジアラビアとの関係は、アメリカのISISに対する取り組みが強化される結果、悪化する可能性がある。ISISのリーダーたちは、サウジアラビアの指導者たちと同じく主にスンニ派で構成されており、ISISの拠点へのアメリカの空爆の増加で苦しむことになる人々の多くは、スンニ派の市民なのだ。これに対して、ISISと地上で戦っている勢力の多くは、イラク国内にいるイランの支援を受けた武装勢力とシリアにいるアラウィ派およびその同盟者たちだが、いずれもシーア派だ。こうした武装勢力の勝利とアサドの存続は、サウジアラビアからすれば、拡大ペルシャ湾岸地域での覇権争いで同国の最大のライバルであるイランの勝利とみざるをえない。アメリカとサウジアラビア政府との緊迫した関係は、特に「サウジアラビアはアメリカから受けている保護に見合う高額の負担を行うべきだ」とトランプが主張することで、修復がとりわけ困難になりかねない。

 一見したところ、トランプの「ホワイトハウス入り」でイランは多くの心配のタネを抱えそうだ。選挙戦を通して、彼はイランとの核交渉——公式名称は、「共同包括的行動計画」——を「史上最悪の取引」と呼び、就任したら「破棄する」と公約した。国家安全保障担当補佐官に指名されたフリンは、きわめて強硬な発言をしてきた反イラン派で、この公約を貫くようトランプに圧力をかけ続けると予測しうる(5)。しかし、ISIS打倒が、イランの孤立化推進に優先される可能性がある。いまはISISと戦うことが緊急課題であり、ほかの問題は後まわしにするという暗黙の了解に、トランプが利点を見いだすかもしれないのだ。

米露のハネムーン

 もしトランプ政権のごく初期に変化が起きるとしたら、それは米露関係だろう。トランプは、ウラジミール・プーチンへの称賛を何度か口にし、両国関係の改善に取り組むため、会談を提案した。大統領当選後にプーチンと電話で会談した後、出した声明で、ロシア政府は両首脳が「正常化に向けて努力し、可能な限り広い範囲で建設的な協力関係を進める」ことで意見の一致をみたと述べた(6)。また、トランプが国務長官にティラーソンを選んだ理由として、彼が北極海とサハリン島で行われているエクソン社とロシアの企業との入念な合弁事業を通して培った、エネルギーをめぐるクレムリンとの長期的つながりがある程度ものをいったとみる観測筋も多い。

 しかし、米露関係が長続きするとプーチンが考えるとしたら、間違いだ。トランプは、アメリカの利益が何よりも優先すると明確に述べており、グローバルなチェス盤の上でアメリカの支配的地位を貶めるとみられるような協議には一切、応じないだろう。東欧でのロシアの強引な行動が、この立ち位置にいつぶつかり揺さぶりをかけるかは予測できないが、こうした対決において、「アメリカは決断力がない」、あるいは「意志薄弱だ」、などという烙印を押されることをトランプが許すはずがない。ロシアがこっそり、バルト諸国やバルカン諸国に干渉してもトランプの憤りを買うことはないが、アメリカの同盟国へのあからさまな攻撃が厳しい反応を引き起こすことに疑いの余地はない。

 プーチン政権は、米軍を再活性化しようとするトランプの意図も懸念しなければならない。海軍の大規模な拡充などトランプの提案の多くは、主に中国を標的にしているようにみえるが、中にはロシアを当惑させるものもありそうだ。アメリカの戦略爆撃艦隊の新鋭化および「最先端ミサイル防衛システム」の導入をトランプが求めていることなどだ。こうしたイニシアティヴは、中国に脅威を与える一方で、西側による軍事行動への抑止力として核兵器に大きく依存しているロシアにとっては、とりわけ頭痛のタネになるだろう。こうした提案に関しては、プーチン自身が、12月1日の年次教書演説で次のように表明している。「戦略的パワーバランスを崩そうとする試みはきわめて危険であり、世界の破滅に導きかねないことを強調しておきたい」(7)

 選挙戦を通してトランプは、中国がアメリカに対して不公正な貿易慣行を用いており、南シナ海で恥知らずな基地建設活動を行ってオバマ大統領を軽んじていると激しく非難した。3月26日付のニューヨーク・タイムズ紙で、「中国は、我々を弄んでいる。……南シナ海での建設を進めている。我が国への尊敬も、我が国の大統領への尊敬も皆無だ」と述べている。

中国をめぐるジレンマ

 トランプは中国政府との間で、物議をさらにかもす関係を予測している。「中国はアメリカに対して自己利益中心で尊敬を欠いたスタンスを取っている」とトランプは観ており、これを押し返そうとする。その結果、完全な対立関係、あるいは軍事紛争さえ導かれることになるのだろうか? 南シナ海の基地を撤去させるために、中国に対して武力を使う意志があるのかという質問を受け、トランプは「ことによれば……だが、我々は中国に対して大きな経済的パワー……通商パワーを持っている」と答えた。詳しく論を展開することはなかったが、中国の行動を変えさせるために、関税、その他の通商メカニズムを使う方が好ましいと示唆したのだ。12月1日にトランプは台湾の蔡英文総統と電話で会談したが、アメリカの大統領もしくは次期大統領が台湾の首脳と話すのは、1979年にアメリカが台湾との外交関係を断絶して以来、知られる限り初めてのことだった。そして、これもまた、もし中国がアメリカの望む通商協議に従わなければ、より強硬な措置を執るという警告と観ることができる。ことばに出さずとも、中国の指導者たちは、さらなるショックが来るかも知れないことを十分に理解した。それはたとえば、台湾の承認かもしれないし、南シナ海の中国の基地への軍事攻撃になるかもしれない。

 とはいうものの、トランプは特定の主要な問題に関して中国の支援を確保せざるを得ないことを理解している。就任後、直面する最も急を要する国家安全保障問題のひとつである、北朝鮮が引き起こしている脅威に関しては、特にそうだ。世界の大半から閉め出されているにもかかわらず、北朝鮮は核兵器備蓄を拡大し、日本、そして太平洋にあるアメリカの領土を攻撃することが可能な弾道ミサイルの開発にどうやら成功したらしい。北朝鮮政権が崩壊すれば、絶望した難民が中国北部にあふれるし、アメリカの後見を受けた統一朝鮮が生まれる怖れがあるため、中国は崩壊を怖れて、北朝鮮に必要不可欠な物質的支援を提供してきた。

 トランプは、中国から北朝鮮との通商を大幅に減少するという約束を取り付けることなくしては、北朝鮮政府に核計画の放棄を強要することは不可能であることを認識している。「我々のために、中国が問題を解決すべきだ」と彼はクリントンとの1回目の討論会で表明した。だが、もちろん、これには中国政府との複雑な交渉が伴い、見返りが必要とされる。通商など、分野によっては中国の後退を期待しつつ、他の分野では中国の協力が必要であり、こちら側も譲歩を覚悟せざるを得ないことを、彼は十分に理解している。

ヨーロッパとNATO

 しかし、トランプと歴代大統領の考えとの乖離が特に歴然としているのは、ヨーロッパとNATO加盟国に対してトランプが取ると思われるアプローチだ。これまでのアメリカの大統領は全員、NATOをアメリカの安全保障政策の基軸とみなし、ヨーロッパを自由主義世界秩序の防波堤とみていた。これに対して、トランプはそのような確信を持っていない。彼にとっては、大西洋同盟は、現在の最も重要な戦闘であるイスラーム過激派のテロに対する戦いの中でいわば「行方不明」になった存在なのだ。そして、集合体としてのヨーロッパは、アメリカの死活にかかわる利益を推進する執行能力を欠き、それ故、ロシアと中国のようなより積極的な姿勢の他の国よりも注目を引く価値が低いとされる。

 11月18日に行われたNATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長との電話会談で、トランプはNATOが「不朽の重要性」を持つとの認識を確認した。だがそれ以降、彼はNATOへの積極的関与を確認する発言を一度もしていないし、軍上級職への指名からみてヨーロッパが作戦展開の場として強調されているようにもみえない。実をいうと、トランプのNATOへの関心はたったふたつの基本的な命題に要約される。ひとつは、NATO加盟国は共同防衛にもっと金を払わなければならないということ。もうひとつは、NATOはISISとの戦いにもっと精力的に参加しなければならないということだ。ロシアによる攻撃の可能性に対する「東の脇腹」の防衛など、その他の主要なすべての問題に関しては、トランプはほんのわずかな関心しか示していない——もっとも、すでに述べたように、アメリカの名誉と決断に異議を唱えるようなロシア政府の一切の動きに対しては、必ずや強力に反応することだろう。

 現時点でのヨーロッパは、グローバルなチェス盤上での勢力争いの場としては二次的な存在だ。アメリカの主要な関心との接点が無い限り、無視されることになりそうだ。そしてこのことはもちろん、トランプの外交政策のより大きなパターンと合致している。アメリカが第一、他のすべてはアメリカが設定する根本の目的達成にとって有益か、邪魔になるかということだけが、問われるのだ。




(ル・モンド・ディプロマティーク2017年1月号)