欧州で加速する鉄道民営化

36の運営会社からどれを選ぶ?


ジュリアン・ミッシ(Julien Mischi)

社会学者
著書にLe Bourg et l’Atelier. Sociologie du combat syndical (Agone, Marseille, 2016)


ヴァレリー・ソラノ(Valérie Solano)

スイス運輸業従業員組合(SEV)幹事


訳:出岡良彦


 フランス国鉄SNCFの職員は、将来の労使協定交渉に影響を及ぼそうとして、3カ月前からストライキを繰り返している。今議論された内容は、2020年に予定されている市場開放時、鉄道部門を左右することになるだろう。ヨーロッパの多くの国で進められている鉄道民営化により、すでに15年にわたる効率競争で弱体化しているローカル路線の衰退が加速される可能性がある。[フランス語版編集部]



 建物は閉鎖、落書きされ、時刻表にはバスの乗り継ぎ案内だけ。ドイツ北部の人口20,000人の街、パルヒムの駅は売りに出されている。アッシントン(英国北部)の赤れんがの駅舎では、木の板でふさがれた切符売り場に貼り紙が斜めに貼られ、「線路に近づかないこと」と書いてある。エディンバラ急行が1時間に3本通過する。「電車ならニューキャッスルまで30分だけど、もう電車はないんだ」と28,000人が住むこの町の住民は残念そうに言う。「高速道路はニューキャッスル市の入口で渋滞するから、時間通りに着かないんじゃないかといつもハラハラしている。でも、他に道はないからバスもそこを行くしかない」。ニューキャッスルまで、渋滞がなければバスで55分、車では30分くらい見ておかなければならない。

 身近な駅の閉鎖は、この四半世紀来、欧州規模で進められた鉄道部門の民営化による具体的な影響の一つだ。そして、反対運動も起きている。2014年5月3日、フィンランドの街ハウキブオリの住民が集まり、街の駅の閉鎖に反対の声をあげた。「コウボラ・クオピオ間の所要時間を3分縮めるために、125年前からある駅をなくすなんて信じられない! VRグループ(フィンランドの昔からの鉄道会社)には12,000人以上の住民が見えなくなったようね。すべては鉄道を飛行機みたいにするためよ!」と住民のリーサ・プリアイネンさんは嘆いている。民営化は二つの異なるスピードで進んでいる。恵まれた乗客が利用する「レールを走る飛行機」のような高速路線が注目を集める一方、ローカル路線と日常的な公共サービスの要求は脇に押しやられている(1)

 今では21の会社からなるグループを構成するVRは、2015年9月、EU本部の勧告にしたがって、200あった駅のうちの28駅を廃止し、非主力路線の乗客に対するサービスのいくつかを取りやめた。2016年3月には、政府が鉄道事業市場を開放する意向を示した。数日後、VRは運転士を200人削減すると発表し、これが24時間ストの引き金となる。この争議の際、スト参加者が特に告発したのは、競争によるサービスの低下であった。確かに、駅や車内で情報を得たり、手荷物を運んでもらったり、乗換の案内をしてもらうことはできなくなっている。乗客は自分でなんとかし、インターネットで切符を買うしかない。

 場所が変わっても事態は同じだ。ストックホルム中央駅では、いくつもの鉄道運営会社が競い合っているため、乗客にとっての分かりやすさは二の次になっている。ストックホルムからマルメへ行くのに、鉄道利用者はスウェーデン国内に路線をもつ36の会社からどれかを見つけ出さなくてはならない。どの会社を使うのか? 値段は? 前もって、あるいは当日のある時間帯に予約すると安い切符があるが、乗り遅れると次の列車には無効になる。窓口の係員は自分の会社のことしか教えてくれないので、インターネットで時間をかけて調べなければならない。

 1991年以来、欧州議会で採択されている大胆な達成基準と、中でも2001年から導入された「鉄道改革パッケージ」の目標ははっきりしている。ヨーロッパの鉄道輸送を簡略化し、競争を刺激し、利用者のために値段を下げることである。ゆくゆくは透明な運賃体系の統一窓口を作り、各国共通の運行体制(電力供給、レール間隔、信号機、安全規準)を構築し、超高速列車を増発する。机上では魅力的に映るが、これらの目標にはある要請が伴っていた。それは国営の鉄道会社を解体することであり、インフラ(レール)と営業(輸送サービス)を分離し、そして機能(販売、清掃、維持整備、運行、制御)を分割して競争にさらすことである。

 最初の「改革パッケージ」は貨物輸送に関するものだった。この分野での規制緩和は幅広く、今日、鉄道輸送会社は他の鉄道会社だけではなく、トラック輸送とも競争を繰り広げている。この競争では、フランス国鉄(SNCF)とその系列会社ジオディスのように、鉄道会社がトラック輸送会社にもなっている。結果、ヨーロッパの貨物輸送量は比較的安定していたが、鉄道による輸送量はシェアを伸ばすどころか、トラックによる輸送量が増加したため縮小した。トラック輸送は、鉄道が運行しなくなった所もカバーし、輸送セクターにおけるヨーロッパ市場の開放による低コスト化の恩恵を受けた。しかしそれは、きれいな空気を代償としている。なぜなら、トラック輸送による大気汚染物質と温室効果ガスの排出量は極めて高いからである。競争は環境問題に対する取り組みにとって有害であると同時に、賃金にも悪影響を及ぼしている。南北の交通の要衝ともいえるスイスで、その事実を確認できる。市場開放の一環としてスイス国内の鉄道網の利用を許可された鉄道会社クロスレールは、イタリアの法律に基づいて整備士の給料を払っていた。月3,600スイス・フラン(約3,270ユーロ)の給与は、国営企業であるスイス国鉄(CCF)の給与より2,000スイス・フラン少なかった。2016年、スイス連邦行政裁判所は、クロスレールの給与が鉄道法を侵害しているとした運輸業従業員組合(SEV)の主張を認めた。鉄道法によると、スイスの鉄道網を利用する条件として、鉄道部門の現行の雇用条件を適用することが課せられている。

 2014年、スウェーデンではヴェオリアが雇用契約の内容と給料について、2週間以上のストライキに直面させられた。フランスのグループ企業であり、スウェーデン南部の営業権を委託されたヴェオリアが、250名の鉄道員のフルタイムの契約を解除し、臨時あるいはパートタイム契約で再雇用しようとしたためだ。ジャーナリストのミカエル・ナイバーグは、かつてはヨーロッパで一、二を争うほど信頼され社会的といわれた国有鉄道のシステム崩壊を、「大略奪(2)」と形容している。調査によると、70%のスウェーデン人が国有鉄道による独占の復活に賛成だといっている(3)。スウェーデンでは2001年から民営化が始まったが、利用者に約束されていた競争による効果は得られなかった。運賃は高く、路線は複雑で、時間通りに来ない。運行本数が増えたことにより、列車の詰まりがひどくなり、混乱が繰り返し発生する。単線区間が70%を占める路線インフラは、自慢の高速列車を展開する上で障害となっている。貨物列車や停車駅の多いローカル列車により減速され、ダイヤの乱れはすぐに路線全体に影響を及ぼす。解決策は、現在の路線網を使いこなすことより、第二の路線の建設だろう。ストックホルム、ヨーテボリ、マルメ間ではその計画がある。しかし、会社間の競争が路線網を改善したことはめったになかった。収益の「刈り取り」を目標にする民間企業は、収益にならないインフラへの投資には無関心である。これはスウェーデンに限ったことではない。

繰り返される事故

 投資が不十分になったことを背景として、2000年のハットフィールド(死者4人、重軽傷者70人)、2002年のポッターズ・バー(死者7人、重軽傷者76人)以来、ヨーロッパ全域で鉄道事故が多発している。この2件の事故はどちらも鉄道民営化の先駆者である英国で発生した。ハットフィールドの脱線の原因について調べるうちに、英国の路線全体の状態が良くないということが明らかになった。これは慢性的な投資不足によるもので、英国鉄道網の所有、管理会社であるレイルトラック社は利益を使わずに蓄えていたこともわかった。この会社は、傷んだレールを交換するために政府に補助金を要求したが、その一部は株主配当の支払いに充てられた(4)。フランスでは、経費削減とメンテナンス作業を下請けに任せることにより路線が荒廃している。2013年7月12日にブレティニィ=シュル=オルジュで起きた脱線事故は、2本のレールを接続する金属部品の破損によるものであった。この事故では7人が死亡し、70人が重軽傷を負った。このような安全性の問題は、線路の整備不良の結果であるが、特に運転士を始めとする人員育成の欠陥にも起因している。2013年3月8日、スイスの貨物操車駅パンタラで、スピードを出し過ぎていた操車機関車がレール終端の車止めを壊して川に転落した。転轍手の証言によると、「運転士はわたしの言うことを理解していなかった。いや、機関車のことは何もわかっていなかったようだ。というのも、運転席に乗るときに開いた整備マニュアルで見るまで、機関車を見たことがなかったのだから!」。運転士は、機関車の運転士を派遣する下請け会社の従業員だった。

 このようなコストカットの動きは、国有の大会社の従業員の労働条件を悪化させるだけでなく、完璧な状態で列車を走らせたいという職業倫理を損なうものでもある。新たな経営陣は仕事の質、つまりは安全よりも効率を上げることを労働者に求める。スイス国鉄で32年間、メンテナンス作業に従事してきたジャン・T氏は言う、「私はずっと最高の評価をもらってきたが、上司は私の仕事がしっかりし過ぎている、きちんとし過ぎていると文句を言う。『自分の仕事だけやれ、他のことには手を出すな』と。私はそんなふうな仕事はできない。擦り切れているケーブルを見つけたら取り換える、たとえブレーキの整備が自分の仕事だとしてもね。安全が私の仕事だ。上司たちもそれを耳にタコができるほど繰り返す。でも、安全っていうのはすべてに注意を払うことだ。やっつけ仕事じゃない!」

 フランス中部にあるSNCFのメンテナンス作業所でも、作業者、マネージャーともに同様のことを言う(5)。この作業所の元人事部長は、2000年代、「効率重視」への流れを目の当たりにしたと話す。「以前は、仕事をきちんとすることが何より大事だった。コストを口実にするなんて考えはなくて、サービスの改善だけを考えていた。サービスが良ければ、たとえ高くついても大した問題じゃなかった」と振り返る。当時は安全の確保が第一だったが、その後、民間企業との労働時間コストの比較が徹底されるようになる。

 フランスは今年からほとんどの夜行列車への投資をやめる。そして、旅客鉄道事業の市場開放は2020年に予定されている。これはブリュッセルのEU本部が課す最終期限であり、まずTGVに代表される国内商業路線を対象とし、その後、2024年には「公共サービス」路線(ローカル列車とインターシティ)に広げられる予定である。この視点から、SNCFのストライキの勢いがこの数週間増している理由が理解できる。組合は、すべての鉄道関係労働者の労働条件を定める労働協約について、SNCFと民間事業者で組織される公共交通事業者連合(UTP)が開く交渉の席での発言権を増そうとしている。

運賃の高騰

 2014年1月に発効された第4期「鉄道改革パッケージ」は、「ヨーロッパ統一鉄道網の創設にとっての最後の障害を取り除く(6)」という名目のもと、競争に「出遅れた」国も規制緩和に踏み込ませようとしている。この競争が広がったことによるマイナスの効果はもはや証明するまでもないのに、「より競争力のある鉄道セクターの創設」を目的として繰り返している。ハットフィールドの事故の後、英国政府はそれより7年前に民営化(1993年鉄道法)した鉄道業界に再び巻き込まれる羽目になったが、それでも「旅客」分野の規制緩和の方針を貫き、営業権を獲得した事業者は今では30ほどになっている。民営化の失敗は運賃の度重なる値上げ(2012年+6%、2013年+4.2%、2014年+2.8%、2015年+2.5%)とインフラ整備のために注入が必要となる公的資金(7)を見れば明らかである。

 「ブレグジット(英国のEU離脱)」の流れから特に注目される点として、英国で営業権を委託されている事業者のほとんどは英国企業ではなく、ドイツバーン(DB)の系列会社アリヴァ、フランスのケオリスとRATP(パリ交通公団)、オランダのアベリオなど、ヨーロッパ大陸の企業であるということが挙げられる。このように、民営化はかえって英国資本の企業の衰退を招いた。このような背景のもとで、数年前から市民運動が繰り広げられ、不要、あるいは赤字と以前に判断された駅や路線(8)の再開を求めるようになった。英国でも他国でも、鉄道労働者、利用客、地方議員には、一団となって立ち上がり公共交通機関の価値を守る道がある。




  • (1) Vincent Doumayrou, « Des transports publics en chantier », Le Monde Diplomatique, 2012年9月号参照。
  • (2) Mikael Nyberg, Det Stora Tågrånet, Karneval, Stockholm, 2011.
  • (3) Jenny Björkman et Björn Fjæstad, « “Svenskarna vill ha statlig järnväg och marknadshyror”», Dagens Nyheter, Stockholm, 7 juin 2014.
  • (4) Christian Wolmar, « Forget Byers : The scandal was in the original sell-off », The Guardian, Londres, 16 juillet 2005.
  • (5) パリの交通機関における状況については、Martin Thibault, « Métro, boulot, chrono », Le Monde diplomatique, 2014年11月号参照。
  • (6) « Le quatrième paquet ferroviaire : améliorer les chemins de fer européens », Conseil européen, 22 décembre 2015, www.consilium.europa.eu
  • (7) Sir Peter Hendyから運輸省長官へ宛てた鉄道網の投資計画見直しに関するレポート、2015年11月、www.networkrail.co.uk/Hendy-review/
  • (8) www.disused-stations.org.uk/sites.shtml


(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2016年6月号)