社会民主主義の季節の終焉

怒りの時


セルジュ・アリミ(Serge Halimi)


訳:土田 修、川端聡子


 西欧の大部分の国で起きている絶え間ない経済危機を背景に、異議を申し立てる新しい勢力の出現によって大きな政治的いらだちが露わになっている。それは時として怒りに変貌する。それ以降、左翼政権は攻撃目標の一つになっている。[フランス語版編集部]



 フランス社会党政権の長引く不人気は、フランス独自の例外ではない。雇用の低迷や左翼の基本理念の裏切りに起因している。20年前、クリントン、ブレア、ゴンザレス、ドミニク・ストロス=カーン、シュレイダーらの「第三の道」が具現化したイデオロギーの季節の終焉は、米国や他の西欧諸国でも見られる。

 長らく支配的だった社会民主主義者の潰走は、右派勢力を利することにはならなかった。最近、社会民主主義に異議を唱える傾向が顕在化している。その傾向は時代遅れと主張され、グローバリゼーションや経済の不安定、新興の技術によって一掃されたものだ。ロンドン郊外にある米国の大学や、マドリードとバルセロナ市では左翼が自信を取り戻し政治的な力を発揮している。それは時として敵を名指ししさえする。資本による生産手段の掌握、権力としてのメディア、金融の過度な力のことだ。もちろん、まだ春の兆しに過ぎない。だが、極右が大衆の怒りの受け皿となっている時代に、このささやかな兆しは来たるべき政治の季節を極右と争うことになる。

 確かに社会自由主義者たちはついていない。2015年夏、メルケル首相の協力を得た彼らは、ギリシャのシリザの指導者たちに集中攻撃をあびせかけ、自陣営に引き入れようとした。こうして彼らはあらゆる反対派を一掃したと思い込んだ。その時、ジェレミー・コービンが英国で、バーニー・サンダースが米国で相次いで登場した。彼らは自国でかなりの数の若者を動員し、「第三の道」が葬り去ろうとした、政治闘争と反資本主義への熱望を復権させた。

 それに社会民主主義者へのもう一つの失望が付け加わった。社会民主主義者は完全に、また決定的に、経営者の望みに屈服することはなかったが、その代わり、いくばくかの雇用創出や政権延命に貸しをつくるという幻想を抱かせた。そこについてもまた失敗だった。経営者は金を儲け、経済情勢は悪化した。最悪なことに、世界の金融と経済はまたしても失速し、欧州の社会民主主義者たちが30年来、受け入れてきた、ネオリベの基本原理はかつての知識人の考案者たちによって無効にされてしまった。

 こうしたことは密かに行われたので、右派やリベラル左派、大メディアは何も気がつかないふりをし、事態が崩れゆく中でお題目だけを追い求めてきた。それは危機に陥った市場を救済することだ(1)。しかしながら、減税、福祉政策、不安定雇用の削減、自由貿易の拡大といったお決まりの政策が無効であることは明らかだ。こうした政治的信条の中心的課題が脱神話化された結果、内部批判が噴出している。

 労働組合の弱体化、労働法の解体は会社の気質を解放し、労働のフレクッスタイム化を可能にした。国際通貨基金(IMF)の2人の経済学者は、最近、IMFに長らく擁護されてきたこうした政策によって不平等が拡大したことを認めた(2)。これはいずれにせよやっかいな問題だ。社会的アパルトヘイトの問題は、人々の心に陰を落とし、西欧各国の首脳たちが対応せざるをえなくなっている。

妥協だらけの「左派」との闘い

 幾人かの自由主義者らは、不公平は悪いものではないと言う。「収入の分散」によって個人のイニシアティヴや技術革新、経済危機、雇用が促進されるからだ。フランスの経済大臣エマニュエル・マクロンは、自身の報告で「上げ潮がすべての船を持ち上げる」というレーガノミクスのお題目を繰り返し、「若いフランス人たちは億万長者になりたがっている」と言った。船の譬えは「トリクルダウン」と呼ばれている。

 そんなラッキーは最早、存在しない。昨年、OECDは、(経営者同様、中間流通業者も含む)最富裕層が豊かになることで「長期的な経済成長」は約束されるが、反対に、最貧困層の賃金が上がることで経済成長は加速されるだろうと予測している(3)

 結局、ロナルド・レーガンやフランソワ・ミッテランが推奨したように、経済を再始動するには減税が必要だった(4)。2012年11月13日の記者会見でオランドが表明したように、この「サプライサイド経済政策」は国家財政の再建に貢献するものと考えられた。だが、世界の新自由主義者のバイブルである英国の週刊誌エコノミストは、「減税が自己資金で賄われるために充分な経済成長を生み出すという予測は今日では無責任でしかない(5)」と少々、不機嫌な論調で認めている。マスコミが新自由主義的な報道に集中した30年は地に落ちてしまった。

 次期大統領選挙で、右派の候補者に同じ政策を採用することを思いとどまらせることなどできない。オランドが経営者に盛大に甘い汁を吸わせているのだから、右派の候補者が同じ政策を打ち出さないはずがない。大統領と社会党にとって大統領選挙の前途は封じられているが、それが大胆さを助長し、食欲を煽っている。ニコラ・サルコジは結果として、税収の10パーセント削減と連帯富裕税(ISF)の廃止を含む「逆租税ショック」を打ち出している。フランソワ・フィヨンとアラン・ジュペは連帯富裕税法案と国庫支出の大幅削減も受け入れた。失業率の大幅アップ、交通施設改善の必要性(イル=ド=フランスで鉄道の40パーセント、信号の30パーセントが30年を超えている)、ゼロ金利にもかかわらずのことだ。そうした目的を達成するため、彼らは公務員削減、失業手当カット、外国人への医療費償還の廃止を持ち出している。要するに、新自由主義の総本山が特権階級の利害と社会自由主義自身も自ら相乗りしてしまった「処方箋」に合致しなくなっている以上、これらの総本山がいまさら後悔したところでくそくらえだ。

 不幸にも経済専門家たちが予測を外したことで、システム中枢であり左派・右派とも新自由主義たちの意見がもっとも一致をみる自由貿易という思想は打撃を受けた。それだけに是が非でもこの異端思想を拒否しようという機運が高まっている。かつて、ある部門において国際貿易によって起きた雇用喪失は、より高収益な生産事業の開発(あるいは成長)で埋め合わせられるというのが通説だった。今回は、こうした新自由主義経済創設の原理(より高い競争力と国際特化)すら揺らいでいる。アメリカでは市場における中国製品の競争力により、250万もの雇用が奪われているという。

 だからこそ、サンダーズは北米自由貿易協定(NAFTA)と環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の糾弾に重点を置く。1993年に批准されたNAFTAは、クリントン、ブッシュ両大統領が相次いで擁護した。そして、TPPは2016年2月4日にオバマ大統領が大多数の共和党議員の賛同を得て調印した。おそらく北米自由貿易協定のいい加減な約束をアメリカ国民はもう忘れたと思っているのだろう、つい先日もケリー国務長官が、TPPが65万人の雇用を生み出すと主張したばかりだ(6)

 世界経済情勢には暗雲が立ち込め、現職リーダーたちにとってよい兆候はそうそう現れない。2007年から2008年にかけての金融破綻は、不動産の暴落が原因だった。そして現在、金融機関は石油部門への過剰融資によって同じ状況に陥る脅威にさらされている。そして多くの国――理論上は左派政権国家も含まれる――が、金融機関を人質にとられた状態だ。

 要するに、2012年にオランドを信じた人々はお気に召さないだろうが、「金融界」が政府を「真の敵」だと考えたことなどない。彼らにとって政治家とはむしろ熱心に奉仕してくれるものなのだ。実際、右派が政権について主要大臣のマクロンをコントロールする必要などないのである。他方では、銀行・ヘッジファンドともに社会主義政党の元党首や閣僚クラスの政治家(ブレア、シュレイダー、ストロス=カーンら)を取締役会役員に迎え、だからといって民主党候補者の選挙運動資金を出すことも忘れていない。今ヒラリー・クリントンが行っているキャンペーンもこれら金融機関からの献金を受けて行われている。

 これらの政治的二枚舌、熱心に過ちを犯す行動の意味するものはなにか。これらはなにを示しているのか。それは、社会自由主義が、支配階級をつなぎとめる力を使い果たしてしまったということである。支配階級はかつてないほどの権力を有し、利益を確保するのに以前ほど仲介者を必要としなくなった。同時に、元社会党員と新富裕層との共謀関係もさらに目につく。その結果、被害を被り税金を支払わなければならない国民の怒りをかっている。ヒラリー・クリントンは、夫であるクリントン元大統領が小口銀行とヘッジファンドの境界を取り払う決断をしたとき、その政策を擁護した。だが、この決断が2007~2008年の金融危機を招いたのだ(7)。「子供たちはマリファナで逮捕されるが、ウォール・ストリートの管理職が経済を破綻させてもなんの罪にも問われない。これこそまさに権力であり、腐敗であり、アメリカが改革すべきことだ。米国の大手4銀行のうち3つは、われわれが彼らを救済したときよりもさらに強権化している。これらの銀行は潰れるにはあまりにも巨大になりすぎた。銀行を打倒すべきだ! 金融界はあまりにも経済を、そして政治を支配しすぎている」(8)。サンダースのこの発言を受けたヒラリー・クリントンにいつもより笑顔が見られなかったのはそんなわけだ。「昨夜のような番狂わせがあると、極端な選挙結果により株式市場に大きなリスクが引き起こされる可能性があることを投資家たちは考えずにはいられないだろう」(9)。ニュー・ハンプシャーの予備選挙でサンダースとトランプが勝利した翌日、ある経済アナリストがこう語ったが、その懸念はもっともだ。

 「金融機関打倒」を望む民主党候補者・サンダースと、貿易戦争で中国とメキシコを脅す共和党候補者――そう、はっきり言って米国の「極右」と考えざるをえないトランプ。 産業の国外移転、購買力の低下、高等教育の高額化といったことを身をもって経験し、それに学んだ相当数の米国民が、グローバリゼーションを叩き込まれた30年を浄化する行動を起こしているようだ。彼らは何百万人もの東西冷戦の洗脳を受けていない若者とともにサンダース候補への熱狂的な支持を表明した。「富裕階級」を打ち壊し、選挙キャンペーン資金のあり方を壊し、「社会主義者」を自ら名乗るサンダースを支持したのだ!(10)

 すべてにおいて妥協してしまった「左派」に対する苛立ち、そんな左派との対決への欲求はヨーロッパにもみられる。スペイン社会党は地域有力者と汚職スキャンダルにより失墜し、そうこうするうちポデモスから出た対抗者が社会・政治の場に飛び込んできて立党以来最悪の選挙結果を出したばかりだ。二大政党制が崩壊すれば場は開かれる。マドリードで、バルセロナで、そしてサラゴサで、発想力のある地方自治体が立ち退きに反対し、金融機関を非難し、公共サーヴィスを再び自治体のものとし、負債調査に乗り出している。

 イギリスでは、2015年5月の選挙における労働党の惨敗は、慣例どおりの右傾化という方向転換をもたらしはしなかった。それどころかブレアリズムは活動家たちに見放された。そうした活動家の数は倍増し、現在その数は他党の活動家すべてを合わせた数に匹敵する。だからこそ、労働党のコービン新党首は選挙で労働党の存在意義を守ろうとする意欲を示した。ほぼ完全に散り散りになってしまった労働党の組織の意義を(11)。サンダース同様、コービンは昔風のミーティングで延々と訴えるコミュニケーション戦略を撤廃し、彼を嫌う大手メディアを恐れず批判する。自身の思想や哲学について語るコービンの誠実さを疑う者はいない。コービンは次の選挙でなんとしても勝つことよりも、イギリスの国政議論の開催期間を徹底的に変えようと努めている。

 元フランス銀行総裁で元欧州中央銀行総裁のジャン・クロード・トリシェはいう。「今日、われわれは各政府の政治的傾向を超えて少なくとも次の3つの点にで『事実上のコンセンサス』がとれている。公的支出を削減すべきであること。今もあまりにも厳しすぎる経済状態にあること。そしてわれわれには十分な経済的競争力がないという点だ」と(12)。政治家たちの「事実上のコンセンサス」が明白ならば、その結果何が生じるかもまた明白だ。もちろん、トリシェには理解できないだろう。だが、こうした結果に反旗をひるがえす者が次第に増えている。そうした人々に対し何一つ譲歩はなかったのだから。たとえば、ギリシャを屈服させた後、EUの目下の標的はポルトガルだ。フィガロ紙はこう指摘する。「弱い連立政権のトップ、社会党のアントニオ・コスタ首相は連立を組む共産党と数年におよぶ経済衰退に疲弊したポルトガル国民に緊縮政策を緩和することを約束した。ただ、安定協定の保証人である欧州委員会は承知していない。EU諸国、特に監視役のドイツと経済市場からの圧力のなか、ポルトガル政府は方針の再検討を余儀なくされた」(13)

 一方では、キャメロン首相率いるイギリス保守政権が「欧州のパートナー諸国」が単一通貨の影響から「シティ」の利益を保護すること、さらにはイギリス政府がEU加盟諸国からの移民労働者に対する社会福祉を削減することを認めるようEUに要求した。イギリスがこの「懸案事項」の再検討を迫られることはなかった。オランドを筆頭とする「旧大陸」の社会民主主義者たちは、共通ルール違反であるイギリスの「自国民優先主義」を承認したのだ。だが、30年以上もの間 「優先すべきは、社会的ヨーロッパ」(14)であると宣言してきたのではなかったのか……。

 こうした指導者たちと左派は袂を別った。投票箱に、街頭に、それがはっきりと現われている。現状と現状擁護者は却下され、彼らの政治基盤は弱まった。今や、このシステムの改革不能性と、拡がるばかりの不平等、幾多の危機から何の教訓も得ていないという事実が確実に社会に染み渡っている。うず高い絶縁状の山が、全領域においてオランド大統領時代の終焉を示しており、少なくともそれが何らかの教えとなっている。つまり、オランドが再選すれば、あるいはサルコジが巻き返せば、その直後には絶望感でフランスが冷え込んでしまう、そう誰もがすでに考えているということだ。

 このような全体情勢のなか、一か八かの賭けに出ることは、極右に主導権と優位性を渡さない限りにおいて魅力的な冒険となった。テロリズムと戦争により表面上の国のまとまりは保たれている。だが、社会的地位の低下や将来性の縮小といった問題と政治的安定性とが永続的に折り合うことはないだろう。これこそまさに、抗議の新たな登場人物たちが自分たちの流儀で表明していることだ。その足取りは確かで、その行き先は未知だ。だが、歴史的転換点というのは、受け身になるよりも行動し、待つよりも心をときめかすべき時なのだ。




  • (1) « Le naufrage des dogmes libéraux » et « A crise du marché, remèdes de marché », Le Monde diplomatique, respectivement octobre 1998 et septembre 2002. 参照。
  • (2) Florence Jaumotte et Carolina Osorio Buitron, « Le pouvoir et le peuple » (PDF), Finances & Développement, Washington, DC, mars 2015. 参照。
  • (3) « Tous concernés. Pourquoi moins d’inégalités profite à tous » (PDF), OCDE, Paris, 21 mai 2015.
  • (4) 1983年9月15日、フランソワ・ミッテランは次のように語っている。「税金を取りすぎたら税金ではなくなる。経済は麻痺し、生産は制限され、エネルギー消費は抑えられる。私は絶対に経済の衰退を望んではいない」
  • (5) « Be serious », The Economist, Londres, 2 janvier 2016.
  • (6) Lori M. Wallach, « Mirages du libre-échange. Retour sur les promesses de l’Alena »(日本語版掲載「自由貿易の幻影」 ), Le Monde diplomatique, juin 2015.参照。
  • (7) « Le gouvernement des banques »(日本語版掲載「銀行の政府か、人民の政府か?」 ), Le Monde diplomatique, juin 2010.参照。
  • (8) 2016年2月4日、ニューハンプシャーでのテレビ討論会で。
  • (9) The Wall Street Journal, New York, 16 février 2016.
  • (10) Bhaskar Sunkara, « Un socialiste à l’assaut de la Maison Blanche », Le Monde diplomatique, janvier 2016.参照。
  • (11) Alex Nunns, « Jeremy Corbyn, l’homme à abattre », Le Monde diplomatique, octobre 2015. 参照。
  • (12) Le Journal du dimanche, Paris, 14 février 2016.
  • (13) Le Figaro, Paris, 15 février 2016.
  • (14) これらのテーマにおける数々の声明を思い起こすには、« 35 ans de promesses d’Europe sociale en bref », Youtube.com, 15 mai 2014. を参照。


(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2016年3月号)