リビアに迫る新たな軍事介入


パトリック・エムザデー(Patrick Haimzadeh)

前在トリポリ外交官(2001年~2004年)、

著書に『Au Coeur de la Lybie de Kadhafi』(Jean-Claude Lattes, Paris, 2011)


訳:増田 啓


 リビアで対立する政治勢力間の合意が成立した後、国民統一政府の樹立に向けた動きが欧米の軍事介入に道を開いている。イスラーム国の武装勢力に対抗するため外国軍が新たに投入されることで、過激派同士の抗争が激化し、リビア人勢力間の困難な対話が頓挫してしまう恐れがある。[フランス語版編集部]



 昨年12月17日、リビアの二議会の代表者がモロッコ北西部スキラットで、国連仲介の下、国民合意文書に署名した。これを受けて1月19日にトリポリの実業家ファイズ・サラージ率いる国民統一政府の32閣僚名簿が発表された。この流れは、2014年9月に始まった対話の妥当性を裏付けている。政治勢力や対立グループ間にいざこざはあったが、1年前には会うことさえ拒んでいた大多数の対立勢力が歩み寄ることを受け入れた。二陣営の最急進派でさえ、和解する考えを捨ててはいない。多くの点で改善の余地はあるが、「小さな一歩」を積み重ねる国連の政策(1)は、信頼できる措置を実行するための、リビア西部の地元当事者によるイニシアティヴの増加と調和しながら、紛争を抑え、さらには目に見えて減少させることに成功している。

 欧米メディアが使う「カオス」という言葉で連想されるようなこの国のイメージとは異なり、リビアでは対立勢力が話し合いを続けている。うわべだけの日常の風景が即座に戦闘に取って代わるこの国で、住民の多くは話し合いを支持し、市民生活に平和を取り戻す努力をするよう地方勢力の責任者に圧力をかけている。

 和解に向けたプロセスの要石となった12月17日の合意には、二つの重要な難点がある。一つは、合意文書に署名した者たちが代表者と言えないのではないかという問題だ。もう一つは、欧州列強による力ずくの圧力の下で大急ぎで締結されたこの合意が、イスラーム国に忠誠を誓う民兵や武装グループに対する欧米の軍事介入を許すためにしか見えないという事実だ。

 2年前から、米国やフランス、英国、それより小さな程度でイタリアの政治・軍事の責任者は毎週のように、こうした軍事介入が避けられないと繰り返し発言してきた。2014年1月27日には既に、当時のフランス統合参謀長エドゥアール・ギヨー海軍元帥がこう宣言している。「リビアで理想的なのは国際的な軍事作戦を展開することだ。リビア南部の問題は、リビア北部に統治機構がなければならないということだ」。この発言は、当時、フランスのマリ軍事介入後にマリ北部から流入した武装集団と戦うためリビア南部に軍事介入することを意味していた。

 2015年春、リビアからやって来た難民のボートが相次いで遭難した後、欧州連合は海上作戦「ソフィア」を開始した。「難民自身のネットワークの最も近くで作戦を展開し、海にやってくる小さな魚ではなく、大きな魚を捕まえなければ最終的な効果は得られない」。作戦の副司令官であるヘルヴェ・ブレジャン仏海軍少将は同年10月27日、ローマでこう語った。「いつかはリビアの主権が及ぶ地域で軍事作戦を始めなければならない」。ソフィア作戦の第3段階に相当するこの作戦はリビア人による正当な政府当局の承認がなければ不可能だ。欧米各国が認める[リビア東部]トブルクの議会は、[リビア西部]トリポリの議会とは違って、常にこの作戦の承認を拒んできた。

仕事にケリをつける

 昨年11月13日にパリで起きた連続テロ事件は、リビアで新たな国際的軍事介入を行うという考えを再燃させた。テロの実行犯はフランス国籍かベルギー国籍で、リビアに滞在したことがなかった。だが、オランド大統領が宣言した新たな「対テロ戦争」にはリビアも含まれていた。リビア国内では、東部のデルナと中西部のシルトの町で民兵がイスラーム国に忠誠を誓っている。2015年11月21日と23日に、空母シャルル・ド・ゴールから戦闘機ラファールが飛び立ち、シルト上空で偵察飛行を行った。総勢数百人と推定される武装グループがこの町を掌握しており、特に石油精製施設に対する襲撃を繰り返していたからだ。

 その数日後、マニュエル・ヴァルス首相は次のように断言した。「今後数カ月、リビアは明らかに大きな問題になる」(ラジオ局「Europe 1」12月1日)、「恐らく近い将来、リビアでダイッシュ(イスラーム国のアラブ語略称)と戦うべきだろう」(ラジオ局「France Inter」12月11日)。12月22日付のフィガロ紙は「ダイッシュ:フランスは再びリビアに軍事介入するのか」の見出し記事で、国防省筋の情報としてより詳細に報道した。「『ダイッシュという癌と、リビアへの転移』を根治するために、6カ月以内をめどに、早ければ春より前に軍事介入を開始することが不可欠だと考えられる」。

 戦略専門家やコメンテーター、軍事介入に無条件で賛成する信奉者がそれからメディアに交替で出演し、軍隊の新たな派遣の必要性を説明した。彼らは2011年にカダフィ政権が数日で崩壊し、民主主義が到来すると予言していた。[カダフィ政権を崩壊させた]NATO軍参戦から5年後、新たな軍事介入は「仕事にケリをつける」ことを意味する。それは2003年にイラク侵攻を正当化した米国のネオコンの議論を彷彿とさせるレトリックだ。専門家の中にはリビアで統治の名に値する政府がつくられるために、この国を信託統治下に置く必要があるとまで言う者もいる(2)

 だが、この軍事介入を実行するには、国際的適法性の形式を尊重するため、国際的に承認された政府による正式な要請が必要となる。国連安保理事会が正当とみなす国民統一政府の樹立があらゆる支援への訴えの前提条件なのだ。新しい国連代表のドイツ人外交官マーティン・コブラー氏は、11月中旬に任命されて以来、この目標に取り組んできた。リビアの二議会でいかなる合意も得られていなかった12月6日、彼はカタールの放送局「アルジャジーラ」でこう宣言した。「リビアでの政治的合意を早期承認する時が来た。列車は出発している」。提案を受け入れるか見限るか、とあいくちを突きつけたのだ。このメッセージは、政治的には対立しているが、国民合意内閣を編成するという同じ要求を表明しているリビア東西二議会に向けて発せられたものだ。

 反対があろうが是が非でも目的を達成しようする国連と欧州の意志は2015年12月13日、イタリア外相と米国務長官が共同で議長を務めたリビアに関する国際会議で確認された。会議の最終コミュニケによって、まだ任命されていない未来の国民統一内閣に、「唯一の正当な政府」としての地位が与えられた。

 リビア専門の研究者らは全会一致で疑問を呈した。国際危機グループ(代表はジャンマリー・ゲーノ元国連平和維持活動担当事務次長)などの専門家サークルも、合意を取り付けるための性急さに警戒感を露わにした。その合意は大半のリビア人によって有効であると認められそうになかった(3)。そんなことはどうでも良かった。コブラー氏は是が非でも目的を達成しようと奔走した。12月15日にはリビア東部キレナイカを拠点とし、トリポリにある政府と対立するリビア国軍の総司令官ハリファ・ハフタル将軍と会った。コブラー氏はこの時、ハフタル将軍に統合参謀長としての将来を約束している。

 ローマで開催された国際会議の開催者らの要求に従って、12月17日のリビア人相互の合意の第39条第2項には、将来の政府が安全保障分野で「国連及び国際社会、権限のある地方組織の援助を必要に応じて求める」権利を有するとの規定が盛り込まれた。12月23日、英国の提案で採択された安保理決議第2259号は、リビアの状況が「国際的な平和と安全の脅威となっている」としてこれを承認した。同決議第12項は加盟国に、国民合意政府をその要求に基づいていち早く援助し、リビアの安全への脅威と戦い、新政府に積極的な協力を提供するよう勧告している。その目的はイスラーム国とそれに忠誠を誓うイスラーム武装集団アンサール・アル=シャーリアと、アル=カーイダに協力しリビアで活動する個人、武装集団、企業のすべてを打倒することだ。

 ローマに集まった欧米列強の要求は文面上では満たされ、新たな介入のための法的な土台は整った。だが、実際には、この同意と新政府の指名は新たな亀裂を生み、暴力を増幅させるリスクをはらんでいる。東部[トブルク]の議会の議員の多くは、モロッコのスキラットで締結された同意を認めていない。モロッコでの締結式の際に東部トブルク議会を代表したのは、188人の議員中の75人にすぎなかった。キレナイカ地方にとどまるハフタル将軍は確かに国民合意政府を認めることを宣言したが、トリポリ[議会]の政敵との戦いをやめるとは考えにくい。東部のもう一人の有力者で石油施設警備隊長のイブラヒム・ジャドラン氏(配下の強力な民兵はシルト湾でイスラーム国と対峙している)は合意を支持した。だが同氏は、イスラーム国との戦いを優先せずイスラーム国の味方をしていると、ハフタル将軍とできたばかりの国軍を非難している。

 だがさらに問題なのは西部の状況である。スキラット合意の調印式に出席したのはトリポリ国民議会の136議員のうち26人だけだった。国民合意政府を支持する議員の総数は75人にも満たない。反対者の中には、アブデルカデル・アル=フウェイリ氏のように、この合意を「リビアに対する外国の陰謀」と見る者もいる。ジンタンやミスラタ、ザーウィヤのいくつかの民兵組織は新政府に「保護を提供する」ことを受け入れているが、首都トリポリの4大民兵組織は新たな統治機構への反対を表明している。サラ・バディ氏率いるスムード戦線に加わる複数の民兵組織も敵対の立場を示している。リビアの大ムフティであるサディク・アル=ガリヤーニ氏は、外国によって押し付けられたこの同意は「イスラームの原則にそぐわない」と断言している。ミスラタでは、アブデルラマン・スウェイリ氏のような影響力のある人物が、現在の同意文書の文面に意義を唱えている。こうした人々の立場は、コブラー氏がどれだけその要求に応えようとするか、応える能力があるかにかかっている。彼らが望んでいるのは、2012年に選出された国民会議の重要性を高め、トブルク議会と釣り合いの取れた勢力関係を作ることだ。現在の合意では、トブルク議会が、主体となる正当な機関としての位置付けを保つことが規定されている。さらに西部の議員のほとんどは、ハフタル将軍を軍隊のトップに指名することに反対している。

住民の敵意

 国連は、リビアの有力者らの不興を買ってでも、大急ぎで合意を取り付けるという賭けに出た。だがこれは新たな行き詰まりに終わる危険をはらんでいる。それを避けるために国連がすべきだったのは、この取り決めを認めない当事者とも交渉を続け、政治的・軍事的な影響を持つ地元の関係者や民兵の指導者とも安全に関する対話を開始するといった柔軟性を見せることだった。さもなければリビアは、2014年8月のような状況に再び陥ることになりかねない。「国際社会」はこの時、リビアのせいぜい3分の1しかコントロールしていなかったトブルク議会に、リビア人の唯一の代表者としての地位を与えた。

 政府の指名は早々と行われたが、国民統一政府をトリポリに立ち上げるのは容易ではないし、衝突なしにそれを維持するのはさらに難しいだろう。それができたとしても、新政府が外国の介入の要請に慎重になることは間違いない。ミスラタと東部の民兵が力を合わせれば、シルトにいるイスラーム国関連組織を制圧することは不可能ではない。外国が余計な干渉をすることは、政府の信用を落とし、リビア国民とリビア国家の再建を長期にわたって危機にさらすことにもなる上、西洋がアラブの民衆をまた空爆しているというイスラーム国のプロパガンダに“火に油”を注ぎかねない。空爆にはほとんどが反対の住民らの間で、このプロパガンダは一定の反響を呼ぶだろうし、イスラーム国に加わる人を増やすことにもなるだろう。だが欧米の政治的・軍事的リーダーらがこうしたことを気にする気配はない。彼らの多くにとってリビアでの新たな戦争は、たった数週間の時間の問題にすぎないのだから(4)



(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2016年2月号)