軌道に乗る資本市場同盟(UMC)プロジェクト

ブリュッセルが再点火する金融界の導火線


フレデリック・ルメール(Frédéric Lemaire)

ATTAC(金融取引への課税と市民活動のための団体)会員、
パリ北大学・経済研究所博士号取得準備者


ドミニク・プリオン(Dominique Plihon)

ATTAC会員、パリ13大学教授(金融経済)


訳:村松恭平


 その推進論者たちによれば、今から2019年までに形成される資本市場同盟 «l’union des marchés de capitaux» は企業の資金調達環境を改善し、欧州連合(EU)域内の投資を刺激するという。しかし、銀行界のロビー団体から擁護され、新しく承認されたばかりの欧州委員会[訳註1]の最重要課題に昇格した本プロジェクトによって、金融危機の回帰が不安視されている。[フランス語版編集部]



 経済史の中で最も深刻な危機の一つからまだ7年しか経っていない現在において、金融規制緩和の流れがまた生じ始めている。2008年秋に銀行界のリーダーたちの胸を締めつけていた不安は、もはや曖昧な記憶でしかない。証券化への反感や、金融界に広がる別の妙技もまったく同じだ。金融サービス部門に新たに所属した欧州委員、ジョナサン・ヒル氏の言葉を借りれば、欧州は今「28加盟国間で資本の自由移動を促進するために、障害を打ち倒す」べき時であるという(1)。欧州委員会はこの野望を実現させるため、多数の優先企画の中に資本市場同盟(UMC)を組み込んだ。2015年9月に発表されたその行動計画は、今から2019年にかけて、一連の率先行動を通して段階的な進展を見込む。率先行動とはたとえば産業界との協議や影響の調査、欧州委員会による「指令」の見直し、そして新しい立法提案が含まれる。

 金融部門の幾度の規制緩和によって当惑した人々に対し、ブリュッセルにある欧州委員会は練り上げられた説明文句で応じている。ヒル氏の説明に従えば、「安定にとって最も重要なリスク要因は経済成長の欠如である」から、投資を刺激することが重要だという。しかし、生産ネットワークの根幹部分を構成する中小企業も、資本を貪り食うインフラ計画も、しかるべき資金を調達することに成功はしないだろう。私が考えるその原因は、古くから機能していた資金循環の麻痺である。各銀行は貸し渋り、公権力は予算の厳しい制約によって身動きが取れなくなっている。結論として、一連の改革を行わなければならない。その改革の目的は、市場での資金調達にもっと頼れるよう手段を整備することにある。

 企業に対する欧州委員会のいくつかの措置に関しては、諸手続きの簡素化や企業の支払い能力評価の標準化、そしてとりわけ「私募投資」« placements privés »を進展させることがその狙いである。この「私募投資」によって非上場の会社はもはや必要資金を得るために銀行に頼る必要がなくなり、専門の投資ファンドや保険分野の投資企業へ支援を求めることが可能となる。厳しい規制が課されない手続きによって当局による市場コントロールは弱められ、情報公開の義務もまた減らされることとなる。この「私募投資」市場は凄まじい勢いで発展を遂げている。その規模は今後数年間で600億ユーロに至ることが見込まれ、そのうちの100億から150億ユーロがフランスの投資規模(2013年は75億ユーロ)だと見積もられている。

 フランス当局はこの「金融取引の仲介からの離脱」« désintermédiation »、換言すれば、銀行を介さない資金調達というプロセスに組み込まれることになった。その活動を推進すると見なされたマクロン法[訳註2]は「企業間」融資、つまり各企業間のみで調整される融資を助長する。銀行に対するあらゆる規制は、こうして回避されるのだ。

「シャドー・バンク」« banque de l’ombre » の拡大

 銀行が保有する企業の負債の投資家たちによる買い取りが、他のいくつかの措置によって促進されている。欧州委員会は機関投資家(特に年金基金や保険会社)に対し、非上場企業の負債の直接引き受けを税制面で奨励する提案を行っている。それは伝統的な国債と比較し、より多くのリスクを引き受けることで、更に高い収益が見込まれる投資である。フランスでは中小企業(PME)や中堅企業(ETI)[訳註3]へ5年以上を満期として融資された有価証券の80%が、大手銀行ソシエテ・ジェネラルから保険・金融グループのアクサへ、こうして譲渡された。ソシエテ・ジェネラルがバランスシートの中で保有するのは残りの20%だけである。大手金融機関のクレディ・アグリコルやBNPパリバ、ナティクシスも、他の保険会社と同様の取引を行っている。

 ところが、欧州委員会が導き手となった本提案は、貸し付けの証券化の発展に関わっている。この技術によって銀行は、彼らが実施した融資を資本市場において金融証券の形で転売する。そうして銀行は企業に融資する際に生じる手数料をそのまま得ながら、彼らが引き受けたリスクから解放されることとなる。これは銀行が2000年代半ばに無頓着に行ったことだ。彼らは投資家に対し、米国人家庭の住宅負債を株式に転換して譲渡したのである。ところが証券化は、リスクを他者へ移転させることにより銀行の責任を免除し、金融市場の複雑性だけでなくその相互ネットワークをも同様に強化する。その結果、サブプライム危機があった2008年において、こうした金融工学はバブル崩壊を助長したと同時に、危機を世界中に拡大させることにも貢献した。

 欧州委員会はこの提案の甚大さを自覚していながら、「高品質な証券化」や、更に「透明性のある」証券化を呼びかけている。しかし実際には、採用される規準が最小限のものになるよう、銀行界のロビー団体が活動している。そしてそれは成功している。証券化された債権のリスクの一部をバランスシートに残すよう銀行に課す義務に関して、その緩和に反対しないとヒル氏は既に宣言した。

 欧州当局の見解によると、市場に支配された米国のシステムは実績を伴ったモデルであると同時に、企業に安定を保証するモデルである。欧州委員会が発行する「緑書」(2)の中に記載された真剣な説明を引用しよう。「貸し付けへの依存が最も大きくなれば、欧州経済、とりわけ中小企業が、銀行融資の引き締めの際に最も脆い状態になってしまう。まさに金融危機の時のように」。こうした危機の原因がまさに市場の金融界とその規制緩和にあったことを、この言葉は些か早く忘れてしまっている。

 更に、こうした自由化推進論者たちは、欧州の人々をなかなか納得させられずにいる。彼らの説明によれば、欧州の金融システムをアングロ・サクソンの国々の規準に連動させることにより、資本市場同盟は「持続的な経済成長への回帰と雇用の創出」を可能にするという。また、「特に中小企業の融資へのアクセス」が改善されると説明されている(3)。UEAPME(職人と中小企業の欧州協会)の研究長、ゲアハルト・フエマー氏はこの言葉に疑いを持っている。「圧倒的多数の小企業にとって、銀行からの貸し付けは主要な資金調達源であり続けるであろう。資本市場同盟が銀行融資の機能不全を補うことは不可能だ(4)」。米国の中道派のシンクタンクであるブルッキングス研究所は「中小企業のための資本市場同盟の利点が過大に見積もられている」と考えている(5)

 中小企業に向けられたこの計画に関して、ヒル氏自身がその利点の誇張を認めている。それはお人好しの機嫌を取るためだ。お人好しとは欧州市民のことであると理解しよう。彼は厳選された聴衆の前で「欧州の議論の中で中小企業が引き合いに出されるのは、彼らが経済の重要な要素として認識されているから、そして彼らを強化する提案をすれば最も容易に人々を説得できるからだ(6)」と暴露している。非政府組織のファイナンシャル・ウォッチやドイツ協同銀行組合はこの計画に関して、欧州の巨大銀行の収益強化を狙った方法であるとして非難している(7)

 資本市場同盟プロジェクトはそれに加え、2008年の危機において決定的な役割を果たした「シャドー・バンク」システムの普及を結果的にもたらすだろう。「シャドー・バンク」システムは、銀行界を取り巻く厳格な規準に従わない行為者によって資金調達がなされるという事実を示している。それは銀行に対する用心深い規制を回避しながら金融市場に訴える手段である。保険会社や年金基金、更に別の投機ファンドを資金調達先にすることは、リスクを追加的に取ることに繋がる。なぜなら、これらの投資機関は融資の質を評価する経験を得ていないからだ。こうした無理解を取り繕うために、彼らは借り手の査定と彼らへの接近をやめ、リスク計算という手段に置き換えた。しかしそうした手段では金融市場の急変を考慮に入れられないことが過去に明らかとなった。投資機関は銀行とは異なる。中央銀行による救済措置の恩恵を受けることができないだけに、融資バブルの崩壊はより深刻な影響をもたらすだろう。

 資本市場へ訴える機会が増えることにより、銀行の欧州経済への影響(それは「支配」とは呼ばない)は減少すると考えられよう。しかしそれならば何故、彼ら銀行は資本市場同盟プロジェクトにこれほど好意的な姿勢を示しているのであろうか。それは単に、彼ら自身もまた「シャドー・バンク」システムに広く深く関与しているからだ。彼らは貸し付けをすることだけに満足していない。彼らも同様に、金融市場に存在しているのだ。この活動により、伝統的な銀行の融資に適用される規制は回避され得る。特に「示談」と呼ばれる市場、つまり規制されず不透明な市場において取引されるいくつかの複雑な金融商品がその活動のベースとなっている。

 銀行は時折、投機性が非常に強いこうした活動に融資する目的で、新規流入資金を必要とする。彼らは今や、流動資金と引き換えに証券化された融資を担保として引き受けると決定した欧州中央銀行(ECB)にすがることができるだろう。ECBは証券化を支持することにより「実態経済」への融資が刺激されると主張している。どう考えてみても、この判断は特に「シャドー・バンク」を助長することになるだろう。銀行は、たとえばECBから得られた流動資金を投機活動に費やすことによって、新たな利潤を獲得するであろう(8)。金融バブルはこうして生まれ、そして破裂するのだ。証券化に基づいた資金調達システムは、危機の際にはその証券化された資産がもはや担保として受け入れられなくなるだけに一層脆いシステムとなる。銀行が保有する資金が枯渇する場面を我々はサブプライム危機の時に見たではないか。こうして資本市場同盟プロジェクトは「万人の」大銀行を、金融の時限爆弾に変えてしまう。

 そのテーマが専門的であるために公共の視線から守られている欧州委員会は、新たな重大な危機の材料を密かに溜めている。資本市場同盟の発展は、2008年以降に得られた少しばかりの進展を解体する文脈の中にそれ自身を位置付けている。ジャン=クロード・ユンカー氏率いる欧州委員会は、この同盟に向けた行動計画の枠組みの中で「資金調達と成長する能力を危険に晒す諸規則」と、他の「規則による無益な負担」(9)を発見するため、2015年10月に協議をスタートした。11カ国の間で熱心な交渉の対象となっている金融取引に対する課税については、間違いなく様々な批判を浴びることになるだろう。

 提示される様々な利点は疑わしく、そのリスクは非常に大きい。資本市場同盟はそうした困難を兼ね揃えている。その同盟の基盤さえ間違った診断に基づいている。何故なら、欧州委員会は欧州地域の経済停滞の主因の一つを始めから除外しているからだ。それは、社会保障予算や賃金面での緊縮政策である。中小企業に対するECBの調査を含め(10)多くの調査が示しているように、緊縮政策によって需要が落ち込んだ結果、販路が存在しなくなったために各企業は投資を控えるようになった。

 一つの疑問が残る。効果が不確かで危険を孕むこのプロジェクトを何故急ぐのか。それはおそらく、英国を安心させEU域内に留まるよう促しながら、ブレグジットすなわち英国のEU離脱を阻止することを狙ったシグナルであろう。当然不平不満を言いたくなる人であれば、ユンカー氏とヒル氏が金融界に保持している怪しげな繋がりも同様に強調することだろう。ユンカー氏は1995年から2013年にかけて、欧州の主要なタックス・ヘイブンであるルクセンブルクの首相であったし、ヒル氏は金融界を専門としたロビー活動を行うキラー・コンサルタントを立ち上げた。この会社はシティーの中心で、とりわけ大銀行HSBCを相手にビジネスを行っている(11)。資本市場同盟プロジェクトに邁進する欧州委員会とECBによる、世界の市場競争に直面する欧州の「トップ」銀行の収益に配慮しようとする意志も同様に働いている。それはまるで大銀行に寄与する欧州の印象を強め、ドイツの劇作家べルトルト・ブレヒトの主張を認めるようなものだ。彼は『アンティゴネ』(Antigone, 1948)の中でこう記述している。「受けた苦しみのための人間の記憶は、驚くほど短いものである」。



(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2016年1月号)