あふれる音楽、そして金の流れ


ダヴィッド・コメイラス(David Commeillas)

ジャーナリスト


訳:瀬川愛美


 スマートフォンの普及によって、ダウンロードせずにオンラインで音楽を合法的に聴取することが流行している。現在、アーティストとレコード会社の間だけでなく、アーティストたち自身の間でも、提供の質や、利益の公平な分配に関して、問題が生じている。[フランス語版編集部]



 国際レコード産業連盟(IFPI)によると、2014年には、世界での売上高(150億ドル)が、デジタル市場と物理メディア販売との間で等分されるにいたった(1)。合法的なダウンロードが減少し続ける(マイナス8パーセント)一方で、ストリーミング(ダウンロードとは異なる「逐次再生方式の」オンライン聴取)の発展は目覚ましい。会員加入から引き出される収入が5年間で6倍に増加したため、昨年、16億ドルに達したのだ。また全国録音製作組合(SNEP)が明らかにしているところでは、フランスでは音響ストリーミングのプラットフォーム一つ当たりの加入者が200万、つまり1年だけで34パーセント増加している。これらの数字は、不振にあえいでいた音楽産業の見通しをついに明るいものにした。では、この新情勢によって実際に利益を得るのは誰なのであろうか。

  オンラインでの聴取がこれ程広がったのは、主として、フランスの人口のおよそ3分の2が持っているスマートフォンの売り上げが目覚ましい飛躍を遂げたおかげである。どの電話会社も、サイトの会員加入を含む一括契約を通してストリーミングのプラットフォームと結びついている。この拡大は、スポティファイやディーザーといった大人気を誇るサービスの向上に起因している。インターネット利用者は月額9,99ユーロ(2)を払えば、巨大なカタログに無制限にアクセスできる。しかも、聴取品質は満足すべきものであり、(インタビュー、ゴシップなど)作品やアーティストに関する編集された情報が得られる。いまや、電気の契約と同じように、音楽が契約される。何百万もの曲を入手するには、仮想のスイッチを押すだけで済む。フランスのディーザーは、国内市場のリーダーであるだけでなく180カ国に進出し、350万タイトルを提供している。

 しかしながら、合法的なダウンロードは良心的に見えるのに、ストリーミングには、音楽家にとってわずかな報酬と引き換えに、無料で作品にアクセスできる倫理的に疑わしい行為というイメージが伴う。数多くのアーティストは、多かれ少なかれ声高に反対を表明している。例えば、アイスランド人のビョーク、イギリス人グループのレディオヘッド、アメリカ人のテイラー・スウィフト等は報酬に失望し、ストリーミングサイトに彼らの最新アルバムを委ねないことを決めた。さらに2015年4月には、イギリス人グループ、ポーティスヘッドのジェフ・バロウが、自身の概算によると、3400万の聴取からグループには1700ポンド、つまり2435ユーロしかもたらされなかったと明言した。

 同じ理由から、「より公平な市場を築く」(3)という意図を表明して、アメリカ人ラッパーで起業家でもあるジェイ・Zが、わずか5600万ドル(5100万ユーロより若干多い)という金額で、ノルウェーのプラットフォーム、ティダルを買収した。カニエ・ウエスト、マドンナ、ダフト・パンクまでもが同席した2015年3月の発表記者会見では、ストリーミングがミュージシャンから膨大なお金を失わせたこと、そしてティダルはすっかり変わるであろうことを、億万長者のスターたちが説明した。だがその後、ロックプレスやソーシャルネットワーク、狭量な音楽業界全体は彼らの話に耳を貸さなかった。しかし、ジェイ・Zがアーティストとプロデューサーに収益の75パーセントを戻すと約束したことには、妥当性も合法性もないというわけではない。会社の採算がとれることに成功すれば、恐らく競争相手も同調せざるを得ないだろう。

 フランスにおいても、アーティスト協会や独立系レーベルは、サイトとメジャー間の取り決めに対する一層の透明性を要求している。ワーナーやソニー、ユニバーサルは、弱小レーベルよりも高い水準の報酬を得ているのだろうか。これは、ディーザー・フランスの支配人、シモン・バルディロー氏がインタビューで答えることを拒否した唯一のテーマである。独立系レーベルは団結した。「マーリン[世界の独立系レーベルのデジタル権利を支援するイギリスの団体]のような組織を介して我々は再結集した。これによって、単独では手に入れるチャンスがない(分配率の)条件を交渉することができ、上手く機能している」(4)と、ハルモニア・ムンディ社のステファニー・シュミッツ氏は明かしている。プラットフォームは、たとえ受け入れたくなくても、しばしばメジャーが強制する条件に従う必要がある。というのも、プラットフォームの存在はカタログの開発に依存しているからだ。

 フランスでは、音楽・芸術著作権管理協会(Adami)が、最近、新聞広告で「デジタルの利益を公平に分配しよう」(「ル・モンド」2014年11月4日)と主張した。このスローガンの隣に印刷されていたコンピューターグラフィックスによると、9,99ユーロの契約に対してアーティストの取り分はわずか0,46ユーロにすぎないのに、プラットフォームとプロデューサーは6,54ユーロを分け合い、残りは社会保険料と付加価値税(TVA)に割り当てられていた。

 事実、ストリーミングサイトは、平均して純益の3分の2をレコード会社に還元し、続いて、契約上の取り決めに応じてアーティストに支払う。したがって、問題はむしろ、アーティストとレーベルを結びつけている契約内容が、新手のデジタル化に適合しきれていないことの中に探られるべきであろう。Adamiの主張は、オンライン上の音楽における付加価値の分配に関する、ピエール・レスキュル氏とクリスチャン・ペリーヌ氏によるレポート(それぞれ2013年5月、12月)の結論を思い出させる。両者とも、レーベルが利益マージンを下げないことを遺憾に思っていた。実際に、大多数のCDが今日では物理メディアと同時にデジタルで販売されているが、後者の形態は製作費と保管費、輸送費を不要にする。それゆえ、レーベルはもっと大きな割合をアーティストに戻すべきだろう。

 ほとんどのサイト上で、契約していない訪問者には曲の間に広告が挿入される。それらに承諾さえすれば、思いのまま無料で作品にアクセスできる。それでも、プラットフォームやプロデューサーにとっても、アーティストにとっても、この経済モデルは長続きしそうにない。というのは、広告主は期待したほど支払わないのに反して、リスナーの溜まり場になっているからだ。イプソスの調査によると、フランスでは、6カ月間で、聴取者の35パーセントは無料のストリーミングを、16パーセントだけが有料サービスを利用した。

 さらに、サイトは聴取された時間数に比例して、契約収入を再分配する。全タイトルの2パーセントが、ある歌手一人に集中するなら、彼が所属するレーベルはプラットホームから売上高の2パーセントを受け取るだろう。したがって、最も頻繁に聴取する利用者が利益配当金を決めることになり、皆が同じ契約料を支払っているのに常連でない利用者は顧みられていないのである。例えば、あるインターネット利用者がルンバしか好まず、1日にルンバを3、4曲聞くために契約すれば、9,99ユーロの月額投資は、大好きなキューバ音楽の名手だけのものにはならず、一部の人々が繰り返し聞くポップやラップのスターの銀行口座に横流しされることになろう。独立系レーベル、ワグラムのアレクシス・ポンスレ氏は、「この方法では、弱小レーベル市場の取り分は、大レーベル市場に吸い込まれてしまう。そうならないための可能性は、契約者によって支払われた料金が、その契約者が聞くものに応じて分配されることにある」と考えている。

 要するに、これら巨大なレコードコレクションが音楽愛好者の好奇心を刺激するとは証明されないのである。ストリーミングサイトは、現在、かつてのフナック・パラードやヴァージン・メガストアーズの売り場と同じようなサービスの提供を提案している。価格やパフォーマンス(速さ、聴取品質など)、とりわけカタログはほとんど同じである。

 フランスのもう一つのプラットホームであるクーバスは、ずっと以前から本物の音響品質を提供し、特にジャズやクラシック音楽に注力しており、高品位のダウンロードをオプションにしてサービスを補完している。創設者、イヴ・リエゼル氏は、「あるアルバムが単にオンラインで配信される商品としてではなく作品として発表される時、聴衆は音楽のための出資を進んで受け入れる」と断言する。しかし、クーバスは定期的に破産の申し立てを危うく逃れており、存続のために毎年増資し続けざるを得ないほどである。2014年8月には、司法上の保護を受けなければならなくなった(5)。その間に、ネットの巨大企業はこの有望な新分野で地歩を固めている。ユーチューブは昨冬、プラットフォーム「Music Key」の決定版と言えるものをテストした。アマゾンは、「Prime Music」を開始した。また、アップルはまさに「Apple Music」を開始したところで、同社のパソコンやiPhoneにたちまち組み込まれることになるだろう。

 このストリーミング戦争によって、聞きたい曲のリスト、つまりプレイリストを仲介する「おすすめ」の支配が確実に強まるだろう。ディーザー・フランスの経営者によると、決定的なのは、曲数を揃えることよりも、盛りだくさんの助言の質を良くすることである。「我々は単に巨大なジュークボックスであるだけではなく、あなた方のための最も素晴らしいレコード屋でもある。あなた方の好みを知り、我々のカタログの中で最善を尽くしてあなた方を案内するのである。アルゴリズムと人の介入を組み合わせることによって、『おすすめ』が決め手となるのだ」。これらのアルゴリズムによる提案は、利用者各々の最新の聴取、接続方法、習慣(朝や晩に何を好んで聞くのか)に応じて作成される。各利用者は、自分のプロフィールに合わせて、ジャンルや曲想ごと、あるいは音楽家ごとに分類したプレイリストを組み立てることができる。

 ユニバーサルのデジタル拠点責任者、ジャン・シャルル・マリアーニ氏は証言する。「スポティファイにおいて、60パーセントの人々はプレイリストから取り出して歌を聞いてる」。プレイリストは、プラットフォーム自身か利用者のいずれかによって作られる。これらのリストは極めて重要なものになったので、ユニバーサルは2011年8月に、ほぼ全てのプラットフォーム上で横断的にリストを作成するハイブリッドメディア、ディグスターの創設を決めたほどである。ユニバーサルのパリ事務所では、ディグスターの主題別リスト「青春の雰囲気」「ジャズ作品」「音楽と映画」などを編成するために2名がフルタイムで雇用されている。Forgotify.comと名づけられたサイトは、スポティファイで提供されていても一度も聞かれたことのない曲も目録に入れている。そのサイトは400万曲を列挙している……。



(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2015年8月号)