なおざりにされる民衆向け公共サービス

暖房事情で解るロシア


レジス・ジャンテ

トビリシ在住のジャーナリスト
コーカサスと中央アジアを担当


訳:石木隆治


 国家の威信と財政を復興させた功績により、ウラジミール・プーチン大統領はその専制ぶりにもかかわらず国民の信頼を得ることができた。しかし都市暖房設備は老朽化しており、都会人は調節不能の暑すぎる暖房に汗をかき、窓を少し開けながら、暖房が故障しないように祈っている。このような都市暖房の不調が示すのは、公共投資が回復しても、基幹サービス部門の更新を伴っていないということである。基幹サービス部門を民間企業に安価に払い下げしたい気持ちが相変わらず強い。エネルギーの生産ついては、大いに改善の余地がある。[フランス語版・日本語版編集部]


老朽化した暖房設備

 都心に住む大方のロシア人は冬をアンダーシャツや短パン、薄手のワンピースなどで過ごす。窓は・・・わずかに開けてある。シベリアの外気はいつも-40度以下、モスクワはたいてい-25度以下だ。だが建物の中では熱過ぎて時に息がつまりそうになり、窓を少し開けて冷気を入れる必要があるのだ。

 都市暖房システムは旧ソ連時代からのものを引き継いだまま、今なお4分の3の家庭をカバーしている。だが問題がある。各家庭で温度を調節できないのだ。この設備は世界中で最も古く最も広く拡がっており、ガス・石炭・重油の節約ということにあまり配慮をしていない。暖房設備の工場はたいてい産業コンビナート電力発電所に設置されており、燃料を貯めた深い穴である。熱湯を運ぶパイプは地下に埋まっているが、たいていの場合断熱装備がないので熱の損失が大きい。都市計画の設計者は、パイプの先端部、共同住宅に関しては断熱を重視しなかった。その結果、国内で製造される一次エネルギーのうち、暖房の熱効率は3分の1に留まる。漏れ、老朽、効率の悪さ、供給切れの危険があり、改修は急を要する。しかしこの膨大な改修の費用をどうやって工面するか。簡単に片付く問題ではない。財政上の理由だけでもないのだ。

 暖房、もっと一般的には居住環境関係の業務は、ロシアでは医療や教育と同様に基本的要事とされている。旧ソ連の時代から、一人一人に住居を供給すること、「公営サービス事業」(暖房、水道、電気)を安価に、あるいは無料に保つことを国の責務と考えていた(原注1)。オール・ロシアセンター世論研究所(VTSIOM)が2013年頭に発表した調べによると、アンケート対象者の58%が公営サービスを一番の心配の種と考えている。これには理由かある。公共料金は1990年代初めには世帯年収のわずか2%であったのに対し、現在は8%から10%であり、中央から離れた小さな村では、給料が低く、割合はより高くなる。

 連邦法はこの費用が一所帯収入の22%を超えてはならないと規定している。22%を越えれば自治体が料金を支払う。裕福な都市であり、非常に高物価の市モスクワでは、この敷値は10%にまで下げられている。さまざまなタイプの住民、例えば隠居者や退役軍人は特別待遇を受けている。人々はこの特権に固執している。2005年、政府は「ルゴティ」と呼ばれる社会保障――、交通機関・治療費・薬代の完全または部分的な免除措置、公共料金免除――の再検討を企て、手当でそれに代えようとした。100ほどの都市で50万を超す人がデモを起こし、公共サービスを守るために戦った。1991年のソ連崩壊以来、最初の大きな集会だった。

国民の一番の懸念は暖房費

 ヨーロッパで国民の懸念は、所得のうち、住居の購買費や賃貸料金の比率が増大することだが、1991年以降(原注2)ロシアでは大部分の所帯が無料で家持ちになったために、住民の懸念は暖房・水道・電気代である。「プーチン大統領はとてもこのことに熱心です。とくに田舎の小さな町や、シベリア地域に注意を払っているのです。彼に投票する人の関心がこの点に向かっているからです」と、分析研究所ルヴァダの所長で社会学者のルヴ・グドコフが言う。

 1990年代の終わりとプーチンの政権獲得以後、化石燃料の世界的流通が急増し、そこから引き出される収益により、都市の暖房費助成や「弱者」援助が可能になった。こうして所帯の支払いは暖房費の3分の2だけでよくなった。一方自治体は、エネルギー生産性向上に投資することによって長期の支払い額を減らすことよりもむしろ、助成金によって目の前の支払い額を減らすことを好んでいる。福祉政策は確実な結果を得て、貧困は軽減された。ルヴァダ研究所によると、自分の所得で生活できないと考えるロシア人の割合は、1990年代中頃は15%ないし20%だったが、現在は5%ないし6%になったという。だが社会福祉政策は、市場経済の最貧窮者に対する悪影響を緩和させているに過ぎない。停滞してしまった行政モデルとあいまった極端な民営化の見直しを行っていない。他の人々に関しては、引退を望む者、十分な疾病保険給付を望む者は、民間の高い保険会社に申し込まねばならないだろう。カーネギーセンター所属の政治学者マリア・リプマンさんは次のように言う。「確かにプーチン大統領は公共サービス料金を上げましたが、彼が持っている大衆支持基盤に不利なことはしないというぎりぎりの線は守ろうとしているのです。実際のところ、彼は社会の安寧を買い取っているわけです」。

 民間部門は、2005年に都市の4分の1ほどの暖房を供給していたが、今や「ソビエト的」感覚とは縁を切り、地域公共サービスにおける《過去の蓄財》を手に入れることを夢見ている。市場の経営者たちは、価格の決定に関してもっと柔軟な態度を要求する。ロシアの暖房事情について多く研究をしているコンサルタント会社、エネルギー安全保障国立基金センター所長のコンスタンチン・シモノフ氏は以下にように説明した。「事業家の誰も、自分が価格を決められない分野にお金を出そうとはしません。その価格で自分の燃料を売るのですから。実業家は、投資をどれだけの期間で回収できるか知りたいのです」。

どのように立て直すか

 暖房設備は1980年代以来、大規模な投資をされたことがない。そして近年の経済危機が状況をいっそう悪化させた。暖房インフラ改修に割り当てられる資本は、2007年には半分になり、その後回復することがなかった。「2030年、ロシアのエネルギー資源政策」に関する公的資料によると、65%から70%のインフラが老朽化し、15%は即刻毀損の危険がある。民間企業は資金不足を一時的に回避する用意をしているという。だが費用は必ずや住民に振りかかってくるのではないか? という訳で、政府は二つのものの合間で難しいかじ取りを余儀なくされている。一つはシベリアから始めてすべての選挙基盤に配慮することと、もう一つは、ポンコツ化した部分を早急に新しくする必要である。最初の課題は価格の高騰を抑えること、二つ目は価格の大幅アップだ。

 政府は2010年7月27日、暖房に関する連邦法を採択し、料金政策を革新しようと試みた。第9条で料金計算の四つの異なる方法を見込んでいる。基本となる考えは、福祉への配慮と投資の収益率の間に適切な均衡を見出すことである。消費者にとっては、料金が妥当と見なされるためには、法の枠組みが公共サービスの信頼性、質、扱いやすさを改善することに配慮したものであってほしい。市場価格はそういうものであるべきである。企業にとっては、この法律は、料金計算の方法において投資の見返りを含むものとなった。しかし法律から現実への一歩が越えられなかった。

 問題がますます激しくなったのはプーチン氏が2012年選挙で三期目の大統領に就任しようと決めた時のことだ。2011年12月の国民議会選挙での不正行為と不正告発デモに対する弾圧により、大統領とロシア連邦1億4300万の市民の一部との間に軋轢が生じた。プーチンは、自分の選挙基盤が弱体化しているのを感じ、保守的基礎を強固にして対処した。外交ではこの意思がウクライナ危機の大事件となった。国内政策では、保守的イデオロギーへの転換を図った他に(原注3)、選挙民の物質的な期待に答えることに着手した。そのためにはエネルギー担当部門の自由主義的情熱にブレーキをかけることも厭わなかった。

民営化?

 2011年12月19日、暖房問題は政治の最優先事項として復活した。住居環境担当の大臣会合の時のことである。プーチン氏は、示された一般家庭の暖房経費明細書を調べ、2000ルーブル(40ユーロ)の値上げを「発見して」怒った。大した額だ。この年ロシアでは半数の人たちの所得が530ユーロ以下で、引退者は200ユーロ以下の年金で大方我慢していた。プーチンはカトリック的な怒りを示したすぐ後に、エネルギー関連(暖房、電気、etc.)公的企業の責任者を多数解雇させた。政府はまた、ある文書を採択したが、それはエネルギー分野の諸企業に、本当の所有者の名前を発表することを義務付けたものだ。なぜなら多くの企業がタックスヘイブンに登録しているからだ。

 こうした方針は、多くの批評家、例えばレフ・グドコフなどが「保守的社会福祉主義」とか「政府による家父長主義」などと呼び、市場経済志向の政策と馬が合う。ポスト・ソビエト経済のスウェーデン人専門家、ターネ・ギュスタフソンは次のように書いている。ロシアの政治家が1990年代の混乱から結論したことは、「非難されるべきは民間企業ではなく、国の方針の欠如ということである。国の取った解決法は公共部門と民間のプラグマティックな協調だ。ここにおいて国は政策決定のリーダー役を演じるのである」。プーチン氏の経済策は「明らかに重商主義、国家主義、愛国主義」から想を得ているのである(原注4)。

 こうして暖房設備は部分的に民営化したが、むしろそれは一部、国が支配しているロシア企業を利するようなやり方であった。公共ガス企業「ガズプロム」は概ね民間企業のように機能している。「オネクシム」はミカエル・プロコロフが、「ルノヴァ・グループ」は、ヴィクトール・ヴェクセルベルクが所有している。他には、地方実業家が独占する一群の企業があり、その中にはエネルギー分野の高級官僚と組んでいる会社もある。

 だが、「地方・市町村の公共分野には、収益をあげられない企業が多くあります」とオレグ・シェイン氏は言う。氏はアストラハンのドウマ(地方議会)議員で、ロシア労働者連盟と居住者組合の指導メンバーである。

 民営化しても暖房網の更新率は改善しなかった。1年に1%で頭打ちである。この足取りでは入れ替えに1世紀かかることになる。深刻な結果にいたる故障の脅威が切迫しているので、国民は暖房と公共サービスに対して次第に不満を高めている。

4分の1のエネルギーが失われる

 問題点は、一部には生産モデルにある。大規模な発電所は、本来の活動の他に熱を提供し、暖房の約半分を供給している。ところが発電所の多くは2003年から民営化され、所有者は熱の供給は怠るようになっている。電気より儲からない仕事だからだ。残り半分のお湯の供給は、民間企業から買うか借りるかした小さな加熱炉による。ところで熱はパイプによって運ばれるが、このパイプは供給運搬会社の経営するものである。ここも投資不足で、このパイプも必要以上に太く、うまく断熱がされていない。その結果、エネルギーの4分の1が途中で無駄になる。これに対して例えばフィンランドでは6%だ。

 まだ国営のままの暖房会社の責任者は投資不足を正当化しようと、補給面において自由がきかないことを嘆いている。「これが我々の最大の問題です。私たちは燃料の納入業者に牛耳られています。納入業者の要求が政治上層部によって抑えられるように期待しています。最終的には、私たちは何の利益も引き出せず、かろうじて受け入れられる運転状態の中で、インフラを維持することしかできません」と語るのはニコライ・ビリウコフ氏。モスクワ郊外のムィティシ市長第1補佐官、地域サービス事業を担当している。一部のエネルギーグループは権力を行使して暖房会社を買収している。「エネルギー会社が暖房企業と一体になると、燃料供給業者と熱生産者は消費エネルギーの量を減らすことに興味を持たなくなります。逆に、暖房が必要であればある程、人々はたくさん消費することになります。そして、請求書によるか、税金(暖房費の助成を受ける分)によるかは問わないとしても、支払いをするわけです。暖房分野の企業は一層これを利用します」。ピョートル・ファルコフさんはこう嘆く。彼は引退後「暖房費明細書」を詳細に渡り調べ、「専門家」になった。

 価格凍結政策からもエネルギー専門家からも圧力を受けている地方暖房会社は、議員と役人の腐敗にも直面しなければならない。2013年初頭、『シュピーゲル』誌は政権党の期待の星だったミハイル・パコモフ死後の調査を公表した。この若い議員が集めた何百万ユーロという金は、彼の町リペツクのパイプ設置のために自分の会社を利用し、契約獲得のために注がれた賄賂によるものだった(原注5)。パコモフの死体は、ドラム缶の中にコンクリート詰めされた状態で発見された。「汚職はこの分野の立て直しを不可能にする要素の一つです」と、クラスノヤルスク地方の暖房供給を長らく担当していたミハイル・ニコルスキ氏は証言する。「ここでは議員とガス供給会社間の利益争いが価格高騰として現れるのです。その他に、配給会社の社長が配管交換工事の法外な請求書を作成するのです」。

 プーチン大統領自身もこうした現象を定期的に告発し、テレビで憤慨を見せた後、地方自治体長に対する反汚職調査を主導してきた。《トランスペアレンシー・インターナショナル・アソシエーション》ロシア支部所長のエレナ・パンフィロヴァさんが次のように説明する。「確かなことですが、プーチン大統領は暗々裏に役人と契約を結んでいるのです。彼の大統領任期の間にそうした役人の数は増えています。プーチンは役人の忠誠心と引き換えに彼らが暴利をむさぼることを許すのです。しかし暖房の分野では、越えてはならない限界を定めています。つまり自分に投票してくれる弱者の国民に影響しないという限界です。言いかえれば、暖房は、自分に忠実な二つのグループのうち彼がどちらかを選ばなければならない分野なのです」(原注6)。

「暖房は無料が当然」

 こんな状態で、いったいどうしたらエネルギーの生産性を高め、今後家庭への請求額を減らすというようなことができるというのか。しかも売却カロリーあたりの現行の価格は高くするというのである。「2009年11月23日のエネルギー高生産性についての法」は、理論上ではあるが幾つかの条件を定め、熱生産工場が一次エネルギーの消費をもっと少なくなるようにした。「熱と電気」の同時生成の最適化をおこなう他に、パイプを絶縁し、損失を3分の1にすることを予定している。幾つかの市町村、例えばモスクワの北東ムィティシのように、地域内の加熱炉と協力して団地の熱消費をコントロールできるシステムを設置しているところもある。作業は団地一棟につきおよそ10万ユーロにまでになる。だがこうした投資をされると住民は、理論的には、節約したという気持ちになる。だが節約すべく最適化された喜ばしい計算を前にした時の人々のやる気のなさがシモノフ氏を残念がらせる。「たとえ[設備更新のための]投資額の回収が充分に速く行われるとしても、我々ポスト・ソビエト的な心情からすると、これでも遅すぎるのです。ロシア人は自問します。6、7年の間支払い額は増加したあと減額されるのだけれども、それでも何故出費を認めねばいけないか、と。ロシア人にとっては、暖房はタダであるべきなのです」。その結果、エネルギー安全保障国立基金の専門家は特別予算用の資金調達を提案し、インフラ整備のための借金を表明している。議論が始まってそろそろ15年、成果の現れないアイデアだ。ムィティシ市長のニコライ・ビリウコフ氏が要約するように、「民営化はされたが、しかし投資に踏み込めない企業」の矛盾を解決するために、公権力と民間分野を結びつけた自由主義的な方式、例えば半官半民企業や、権利委託システムなどが検討されたが、計画の域を超えていない。

 これからの政策に関する討論では、ロシア政治家たちは以下のことを見逃していなかった。欧州で行われている民営化では、市町村は市場の支配者に対して依存状態になってしまった。インフラの民営化は、十分な投資を見込めると約束するものではない。それどころではないのだ。イギリス鉄道の民営化が示すように、あるいはフランス水道供給大企業グループに与えられた公的サービス委託がその好例だ。一方で、ドミートリー・メドゥヴェージェフ首相に代表されるエリート派は、より国家管理主義でない政治様式を好み、自由主義的な「改革」を支持し、気候問題を通してエネルギー問題に取り組んでいる。メドゥヴェージェフは大統領時代の2009年、「現代化計画」を立て、一例としては、2020年までにエネルギーの効率を40%改善することで、ロシア経済の競争力を強化するという野心的目的を持っていた。

 停滞した経済状態と、大衆の支持を失うことができない大統領の欲求の合間で、都市の暖房設備の現代化にはもう少し時間がかかるだろう。ロシアの都会人はまだまだ何回もの冬を、-20度の中、汗をかきながら、暖房が故障しないように祈って過ごすことになるのだ。



原注
(1) Jane R. Zavisca, Housing New Russia, Cornell University Press, Ithaca, 2012.

(2) 団地民営化に関する1991年7月4日法。

(3) Lire Jean Radvanyi, « Moscou entre jeux d’influence et démonstration de force », Le Monde diplomatique, et Jean-Marie Chauvier, « Eurasie, le “choc des civilisations” version russe », avril 2014

(4) Thane Gustafson, Wheel of Fortune: The Battle for Oil and Power in Russia, Belknap Press, Cambridge (Massachussetts), 2012.

(5) Matthias Schepp, “The ‘Pride of Russia’: A corrupt politician’s ignoble demise”, Der Spiegel, Hambourg, 27 mars 2013.

(6) 2000年から2012年の間に役人の数は35%増え、116万人から157万人になった(ロシア連邦統計研究所ROSSTAT)。



(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2014年6月号)