総選挙で盛り上がる巨大国家

《インド庶民党》(AAP)への期待


ナイケ・デスケーヌ

ジャーナリスト。

ボンベイでのルポルタージュをジャヴェド・イクバル(ジャーナリスト)と共同執筆。

訳:仙石愛子


 インドで総選挙について語り始めるとすぐに、最上級の表現が飛び交うようになる。世界でも最大の選挙だからだ。8億1400万の有権者が自分たちの代表者を決定し、選ばれた者は国会下院《ローク・サバー》の座席を5年間占めることになる。投票は5月12日まで5週間つづく。2009年の総選挙では登録有権者の59.7%が投票所に足を運び、ソニア・ガンディー氏率いる《国民会議》に勝利を、《インド人民党》(BJP)に第二位をもたらした。が、今回は勢力関係が逆転しそうだ。ナレンドラ・モディ氏を代表とする《BJP》は、2002年のイスラム教徒虐殺事件への彼自身のかかわりや嘆かわしい世論調査――メディアも買収され口を閉ざしている――にもかかわらず、追い風に乗っているようだ。一方、現政権は景気後退および増加の一途をたどるスキャンダルのつけを支払うことになる。そして、現在三番目に勢いのある《アーム・アードミ党》は腐敗糾弾からスタートした政党だが、このレースに大波瀾を巻き起こすのだろうか?(なお、本記事はインド総選挙の前に書かれた)[フランス語版・日本語版編集部]


本命の政党は?

 「時に水面下の流れの方が表面の波よりも力強いことがあるんですよ」と、精力的なエコロジー活動家、メドハ・パトカール氏(59歳)はその観察眼を示す。これはインドのメディアが名づけた「モディの波」を相対化してみせるときの彼女なりの表現方法である。インド国会の下院《ローク・サバー》543議席をめぐる選挙キャンペーンが最高潮に達している。本命は《インド人民党》(BJP)――ヒンドゥー教過激民族主義政党――の候補、ナレンドラ・モディ氏だ。このグジャラート州首相が評価をあげようとしている。

 モディ氏は、支持率が急速に落ちている与党《インド国民会議》(INC)を脅かしている人物だ。国民会議の10年に及ぶ政権を特徴づけるものは、経済成長率の低下(2009年には10%近くあったものが2013年には4.4%)、そして途方もない数の汚職事件だ。たとえば、電子通信免許や炭鉱開発認可の不法入札などである。国民会議の代表候補、ラフル・ガンディー氏――故ネルー首相の曽孫――はカリスマ性に乏しく勝利は難しいだろう。

 この2頭の《マストドン象》以外に選択肢はあるだろうか? パトカール氏はそう信じて、国政の舞台に新しく誕生した政党を選択した。《アーム・アードミ党》(AAP、インド庶民党)だ。全国で400人を下らない候補者を立てているこの政党は人気も野心もあり、2011年春にスタートして以来躍進してきた。

マハトマ・ガンディーの再来か?

 その頃、何人もの大臣が財政汚職事件で告発されると、大きな腐敗防止運動がアンナ・ハザレ氏――元陸軍お抱え運転手(70歳)――主導の下に始まった。彼は、トピ――マハトマ・ガンディーが愛用した白い舟形帽――をかぶってガンディーの象徴を利用し、首都デリーの中心地でハンストを続けメディアに注目された。彼は、普段はノンポリな都会の中間層を含め幅広い支持を獲得している。

 多くのインド国民が、利権屋的指導者やほんのわずかの用件でも役人に流れる賄賂にうんざりし、この老人のもとに集結している。ハザレ氏が、汚職で有罪となった者へ下された死刑判決に対して反動的な態度をとっても、彼に対するインド国民の熱を冷ますことはほとんどない。動員がかけられた結果、政府側の人間と市民代表の協力で汚職防止法案が練り上げられた。これには監査局「ロクパル」の設置が盛り込まれた。しかし《国民会議》が約束したこの法案は、3年経った今もなお可決されていない。

 2012年11月に、ハザレ氏の補佐役の一人、アルヴィンド・ケズリワル氏が主導権を取り、AAPを設立した。元税務署幹部のこの技術者(45歳)は、口ひげをたくわえ小さな眼鏡をかけ、そのプロフィールは完全に「庶民」だ。白いガンディー風の帽子を象徴としてかぶり続け、道路掃除の仕事をする不可触民《ヴァルミキス》の箒、すなわち《ダリト》を選挙でのシンボルとして巧みに利用している。汚職を一掃し、公的インフラを全ての人々が利用できるようにすること、それは貧困層だけではなく中間層の心をも捉える政策の基本である。その1年後の2013年12月、AAPはデリー議会へのセンセーショナルな登場を果たす。すなわち地方議会選挙で70議席中28議席を獲得したのだ(原注1)。

 腐敗防止法案

 ケズリワル氏はデリー州首相となり、その清廉潔白なイメージをなおも強化し、用意された官舎への入居を拒否する。さらに社会保障政策を実施し、中でも水の一定使用量までの無料化を制定する。しかし、政権に就いて49日後の2月14日には他党による腐敗防止法案妨害を非難しながら、大波乱の中で辞任した。《アーム・アードミ党》(AAP)は、総選挙キャンペーンのために彼の威信を持続させる必要があった。

 「わが党は他党とは違います。われわれは現体制を一掃するというただ一つの目的で政界に入ったのです」と、アーム・アードミ党(AAP)の活動家たちは繰り返す。彼らの社会経歴はきわめて多様だ。正々堂々たるスキャンダル暴露は政財界のエリートたちを巻き込み、大政党に対する辛辣な批判精神にエネルギーを供給している。AAPは、インド国民会議とリライアンス社が企んだガス料金設定の不正を白日の下にさらした。同党はモディ氏に対しても責任を追及する。同氏はアダニ・グループというインドの資本家にグジャラート州の土地を市場価格よりも安く販売し、利益供与を行なったという。

 《庶民党》(AAP)は3つの問題と闘うことを約束している。すなわち、「腐敗」、「共同体主義」(ヒンドゥー=イスラム間の緊張状態)、そして「お友だち資本主義」である。この党の悲願は《スワラージ》を制定することだ。ガンディー語録に由来するこの言葉は、一語で政治の自立と地方分権を意味する。AAPはこの言葉から各選挙区での公約を作成してきたのだ。AAPが公示した政策目標、それは被統治者が相集まって地方政治全体を預かることができるよう彼らに権限を与えることである。

 ボンベイでのパトカール氏の立候補はこういった試みの好例である(原注2)。2014年の始め、彼女はスラム街の大規模な解体とそれに伴う住民の放逐に反対し、この闘争を引き継ぐためにAAPに入党し、現在、《我々の家を守ろう、我々の家を築こう運動》の中心人物となっている。1985年に彼女はすでに独立インドの歴史上最も重要な《産業化反対運動》の先頭に立った。ナルマダ河ダム建設反対運動である。1995年には、約250の組織の連合体である《民衆運動全国連盟》(NAPM)を結成した。

AAPのかげり

 「彼女は自ら立候補をしませんから、われわれが彼女を推薦するのです。彼女がわれわれの大義の実現に力を貸してくれるようにです!」と、立候補公認の日にサントシュ・トラト氏は予言する。《ガール・バチャオ運動》の活動家、トラト氏はインドの不可蝕民《ダリト》である。彼が政治活動を始めたきっかけは、同じ階層出身指導者、ビームラオ・ラームジー・アンベードカル(1891~1956)の後継者たちが始めた解放運動に影響を受けたことだった。トラト氏は1年前、「政党の枠の中で政治活動をすることは決してない」と誓っていたのだが、最近AAPと必然性もなく脆い戦略同盟を結んだ。

 こういった驚くべき同盟を結んでも、この新政党の影の部分を消すことはできない。2014年3月14日にボンベイ、ラフィク・ナガール2番地の貧困地区を行進がスタートする前に、この地区に住む一人の詩人が、「兄弟よ、彼らの顔をご覧あれ…」と歌い始めた。この革命歌はカースト制や腐敗を非難し、ガンディーを含む全ての政治家を嘲笑している。その後、AAPのメンバーは「わが祖国よ永遠に!」と叫び始めた。これはヒンドゥー極右が非常に大事にしている民族主義的スローガンである。急進的な解放運動と熱烈な愛国心の間のこういった摩擦は、AAPのイデオロギー的矛盾を反映している。

 2014年1月15日から16日にかけての夜半、外国人嫌悪と民族主義的傾向が誰はばかることなく露見した。デリー州の法務大臣(AAP党員)がアフリカ移民が居住する地区の一斉手入れを警察に命じたのだ。大臣は些細な犯罪に対してこの「十字軍」を出動させ、「黒人は我々とは違う! 法律を守らない!」と声高に叫んだ。AAPも彼に同調した。「進歩主義に共鳴する多くの市民にとって、これは最初の大きな幻滅でした。AAP内部の反動勢力の存在を認識させられたのです」と政治学者、ステファニー・タワ・ラマ=レワ氏は解説する。

 同じころ、旅行中のデンマーク人女性がニューデリーで強姦されるという事件がおきた。その時ケズリワル氏は、強姦罪発生の原因として「売春と麻薬」をあげ、性暴力とDVの構造的・社会的原因は自分には分析できないという態度を示した(原注3)。同様に、「パンチャヤト」(村議会)を大いに信頼しており、彼に言わせるとそれは地方自治体的民主主義を備えているという。それでも一部のインテリ左派は、それが権威主義的で男性中心的な社会であり、上位カーストによって支配されている例だ、と強調している(原注4)。

最下層民と女性を擁護する公約

 さらにAAPは、産業界の腐敗を批判しているにもかかわらず、自由主義経済的な構想を推し進めている。同党の産業政策検討委員会のメンバーの多くが、国家の干渉を軽減させるために闘っている企業経営者たちである。南ボンベイの選挙区では、《ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド》インド部門の元社長で、シンクタンク《リベラルスインディア》のメンバー、メーラ・サニャル氏が、AAPのシンボル・カラーを堂々と身につけている。作家のアルンダーティ・ロイ氏も嘆いているように(原注5)、インドで実施されている新自由主義的政策にアメリカの影響があることに疑問の余地はない。AAPは反資本主義や反帝国主義よりも「よき地方行政」を選択しているが、同党が労働者の解放運動を擁護するのは、彼らが非常に制限された合法的活動に留まる場合のみである。

 AAPの力強さが大したものである一方、マルクス主義政党の無力さも相当なものである。後者は「第三の戦線」もしくは確固たる「左翼戦線」をなかなか形成できないでいる。現在、そういった左翼政党と地元政党との連立党派は、BJPやインド国民会議に対抗するだけの統一ある代替ビジョンを何も持っていない。メンバーのほとんどがカースト上層部出身という《インド共産党》(CPI)や《インド共産党マルクス主義派》(CPI-M)は、大衆から遊離する危険を冒そうとしている。彼らがお互いに手を結んだのは、もっぱら古典的なものの見方を選択しカースト体制批判に後退した時であった。結局、こういった政党が、現に行なわれている闘争の破壊的・解放的な潜在力をつかみ取ることなど到底無理な話なのだ。都市部では住居と水の確保が求められ、地方では産業界の土地買い占めや原発計画に反対する闘争が行なわれているのに…。

 多くの知的エリートや活動家たち――工業化に反対するエコロジストから左派の教授に至るまで、さらには市民の権利をもとめる活動家たち――が闘ってきた。彼らの大部分を導いたように見えるもの、それは《非暴力的な主張》、《マルクス主義的語彙の排除》、《合法主義》の混合物である。彼らは党内部の保守的傾向や反動的傾向を軌道修正したいと思っている。タワ・ラマ=レワル氏は次のように予測する。「綱領は思ったよりもはるかに進歩的です。公約の中には、国民皆保険制度と義務教育制度の実施が入っています。これまでこの党は、貧困層や女性問題に関してはあいまいな態度をとってきましたが、今では彼らの福祉に目が向いています。また、同性愛の非刑罰化擁護をも表明しました」。

 綱領において、天然資源の再領有に重要性を認めたことは、エコロジー活動家の影響力を立証するものである。この綱領においては、地方自治体や少数派の権利を主張している。それは自分たちの土地や資源をどう使うか自己決定する権利である。再生可能エネルギーに関しては、地方自治による解決を提案しているが、それは《国民会議》が中央集権的に推進してきた太陽熱と風力によるエネルギー・プログラムの看板を下ろすことになる。インドが国家として産業の発展と人口増加を理由に、原子力エネルギー利用率を現在の3%から2050年までに25%に増大させようとしているが、AAP代表のケズリワル氏は、こういったエネルギーに頼ることに反対の立場をとってきた。当選議員の数がどうなっても、AAPはすでに政界地図に風穴をあけることには成功している。


原注

(1) 人民党(BJP)が31、国民会議が8、シク教・アカリ・ダルが1、ジャナタ・ダルが1、「独立系」の1党が1議席を、それぞれ獲得した。

(2) Lire Javed Iqbal , « A lady amist the Aam Aadmi », Outlook, New Delhi, 28 avril 2014.

(3) Lire Bénédicte Manier, « l’Inde nouvelle s’impatiente », Le Monde diplomatique, février 2013.

(4) Rohini Hensman, « 2014 elections, a secular united front and the Aam Aadmi Party », Economic and Political Weekly, Bombay, 22 février 2014.

(5) Arundhati Roy, « Those who’ve tried to change the system via elections have ended up being changed by it », Outlook, 26 novembre 2012.

(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2014年5月号)