もう一つの形をとった政治主張


地方選、棄権の意味するもの


セリーヌ・ブラコニエ、ジャン=イヴ・ドルマジェン*

*いずれも政治学者。
ブラコニエ氏はサン=ジェルマン=アン=レー政治学研究所教授。
ドルマジェン氏はモンンペリエ第1大学政治学教授。
共著に『棄権の民主主義』(未邦訳)がある。
Céline Braconnier, Jean-Yves Dormagen,
La Démocratie de l’abstention,
Gallimard, Paris, 2014 (1e éd. 2007)

訳:石木隆治


 ここ15年来、ヨーロッパ議会選挙が動員する有権者の数はごく一握りに過ぎない。棄権率の上昇はフランス民主主義の特筆すべき現象となった。棄権現象はとりわけ政府の政策に失望した伝統的左派の選挙民に見られる。左派支持者が棄権に走ったために、右派とくに国民戦線が伸長しているように見えるのである。(フランス語版・日本語版編集部)





 2014年3月23日と30日に行われた今回のフランス統一地方選には右翼の躍進を告げるコメントが雨あられのように降り注いだ。一部の記事は、この地方選は国民戦線(FN)の優位を告げるための準国民投票だと見た程だ。こうした言及、記事、テレビ報道と対称的な重要選挙データがある。もっと大きなくくりで言うと近年30年来の全ての選挙データと対称的なデータである。それは、記録的な棄権率である。この棄権率の綿密な調査によって、マスコミを騒がせている分析に対して修正を加えることができるだろう。

 2008年の地方選に比べて国民戦線の躍進が動かし得ないものだとしても、その伸長ぶりは抑制されたものである。国民戦線は、人口1万人以上の415の都市に被選挙人名簿を提示しているが、今回の得票率は、2012年の大統領選での党首マリーヌ・ル・ペンの得票率より低い。有権者の総数と比べると、これら都市の「国民戦線の躍進」はもっとずっと控えめなものであることが明らかだ。マリーヌ・ル・ペンは2012年第1回選の投票者の12%を獲得したが、今回の統一選第1回投票では国民戦線は8%しか集められなかったのである。

 同じことを示すのが「青い波」[訳注a]である。右派は確かに1万人以上の162地域で躍進した。これは第5共和政史上最も大きな成功の一つだ。しかし、もう一つのあるデータに注目されることはほとんどない。これらの都市で右派の候補者は――ここに民主運動(MoDem)を含めるとしても――今年2014年には、2008年よりも多くの投票者を選挙会場に足を運ばせることができなかったのである(原注1)。議会内右派の得票はこの2014年選挙で非常に悪かった。これは一見したところ矛盾に見えるが、このことは部分的に棄権の内容によって説明できる。得票を下げたはずの右派が2014年に勝利を収めたのは、左派支持の有権者がよりいっそう高い棄権率を示した結果なのだ。

年々高まる棄権率

 この30年間、調査のたびに棄権率は新記録を打ち立てている。唯一大統領選挙のみが――とりあえず――この堅固な法則をまぬかれている。1983年の統一選第2回投票は有権者の20,3%が棄権したが、今回3月は37,8%だった。

 仮に、有権者名簿に載っていない人(選挙権年齢人口の7%)の数を加えるとしたら、非投票者は、EU選挙、市町村選挙、県会議員選、国会議員選挙、市議会選挙の投票の際には50%近くになる。こうした投票行動の危機はフランス選挙の重い事実になろうとしていて、都市地域では投票者はすでにもう過半数を割っており、尚のこと顕著である。2014年市議会選挙第1回選挙では投票者が人口1万人以上の980の都市で56,5%のみにとどまり、人口10万人以上の都市では53,8%にまでも落ち込んだ。

 問題がより深刻であるのは、この少数化した投票者では社会的にも政治的にも選挙民の全体を代表しないということだ。このために、棄権が実際に選挙結果を変えるのだ。

 投票しない、ということは実際に、現在、恒常的に観察される社会的決定論に従っているということだ。まず年齢の影響が大きい。地方選では特にそうだ。若い者と違い、高齢者は熱心に投票する。フランス国立統計経済研究所(INSEE)が、年齢別に分けて投票者割合を調査した(原注2)。かなり大きな差異が見られる。2004年の統一選挙に出向いたのは18-24歳では41,2%のみ。これに対して50-64歳では80,2%。従って比率では年配者が若者の2倍投票するということだ。

 棄権はまた、貧困に陥ったり、非正規雇用についたりしない安定層を選挙が過度に代表することにつながる。2008年には、公務員ないし独立営業者の投票率に対して、臨時雇用者の参加には23ポイントの隔たりが見られ、それには及ばないが失業者との差も大きかった。

格差のあるフランス社会

 こうした社会的・年齢的要因の延長線上にあるのは、大きな地域格差である。大団地や低家賃住宅地区においては、若者と貧困層が多く、非参加者(選挙登録未実施者と棄権者)がかなりの割合に達するのである。サンドニ市の東部地区、12個の団地のあるコスモノート地区[訳注b]では、もう長いことほとんどが棄権する。今回の統一選ではその数は市民の3分の2に到った。

 住民は平均よりも年齢が低く、学歴も低く、いっそう失業の打撃を被っているので選挙に行っても自分らの生活状況が改善されるのか疑問に感じている。このような壮大な不幸から救ってくれるものはここには何もやってこない。政党の支部も、市民団体も、まだこの地区に居住するはずの地方議員の存在さえも、ない。コスモノート地区の政治はここ20数年のうちに砂漠化してしまった。左派2党が選挙の数日間に投票を得ようと戸別訪問活動を行ったが、この重苦しい傾向を食い止めるには不十分だった。

 2014年第一回投票での投票率が最も低かった地域は、このコスモノート地区と似たり寄ったりである。大団地のフランス、移民と貧困のフランスだ。そうした地域では、社会的民族的隔離が、選挙の隔離を生む。ヴィリエ=ル=ベル(棄権率62,2%)、ヴォー=アン=ヴラン(62,1%)、エヴリ(61,3%)、スタン(61%)クリシー=ス=ボワ(60,2%)、ボビニー(59,4%)――パリ郊外5地区、リヨンの1地区である――は最も棄権率が高い10地区のうちに数えられる。

複雑な選挙制度

 フランス選挙の仕組みは世界で最も厳しいものの一つだ。これが、選挙参加の不平等をいっそうひどくしている。アメリカもそうであるように、実際に、選挙人名簿に記載する仕組みが登録断念の強力な要因となっている。この手順には特別な手続き(18歳時の若者だけは免除される)が必要だ。大部分の民主主義国では、登録手続きは自動的に行われるのに、フランスでは引っ越しの度ごとに手続きの再更新、選挙の前年に投票の登録をする、などなどの必要がある。こういうこと全てが、最も移動の多い人たちをうんざりさせ、「登録嫌悪」現象を生じさせることになる。

 現在我々がINSEE(フランス国立統計経済研究所)と一緒に行っている調査によって次のことが分かった。600万人の投票者(選挙登録者の約15%)が、投票することになっていた住所に、もう住んでいなかった。特に若者にこの傾向が多い。トゥールーズ、モンペリエのような大きな大学都市は、18-24歳が人口の20%以上を占めるが、登録者の7%未満にしかならない。彼らは、居住地のすぐ近くで投票できないため、選挙にほとんど参加しない。低学歴の者たちも同様である。若者は全体として、大幅に投票所に行かないのである。確かに、手続きを改正しても選挙参加の問題を解くには充分でないかも知れないが、記録的棄権の高まりを考えると、移動性のますます速まる社会に適応できていないシステムの妥当性が問われるところだ。

 棄権の増大によって最も不利になる政治勢力はどこなのか。定義は難しい。これに関しての調査は信頼がおけない。何故なら、尋ねられた人は大抵、投票に行くと答えるからである。棄権が40%すれすれだとしても、問われた人の80%はいつも「必ず行きます」と言う・・・。それに実際の投票者たちは――こうした類の調査に対し投票に行かない人よりもより積極的に答えてくれると想像できるので――、抽出サンプルの中でも、多分ある傾向を強く反映するのだ。

 1970年代以来の選挙民社会学の変貌が分析を複雑にしている。もし左派が依拠しているのが未だに主として労働者あるいは庶民層だったら、左派は社会学的棄権に最も影響されていただろう。しかし、さまざまな政治集団を支える選挙民は混成集団化し、多様化した。右派と国民戦線は今日、庶民層投票者のかなりの部分を集める。左派、特に社会党(PS)は、50-64歳の年齢層に今やしっかり定着している。この年齢層はすでに見たように、熱心に投票するのである。また社会党は幹部層(中でもお役所の)、高学歴者たちにも支持されている。

 もし、調査が描き出す選挙民の様態を信じるなら、国民戦線は社会学的棄権に最も深くかかわっているように思われる。国民戦線の支持者は平均よりも低年齢で、庶民的、学歴が低く、棄権にはしる潜在的可能性が高い。しかし広汎に広まっている先入見とは反対に、国民戦線は、支持者を最大限投票に動員する、とりわけ大統領選で最良の結果を残すのである。

これからの選挙に問われること

 つまるところ棄権が引き起こす結果は何にもまして政治的状況に左右される。今回の統一選は従って、大量の「違いの出る棄権」ということで際立ち、左派が犠牲になった。第2回投票では、2012年には60%以上がオランド氏に投票した人口1万人以上の都市の棄権は、多数の住民がサルコジ氏に票を入れた都市の棄権と比べて、5ポイント上回った。このような変化によって、社会党の敗走が理解できる。1万人以上の都市の、二度の投票間に記録された投票のいささかの増加は、まず右派に優位に動いた。右派投票者は14%増えた一方、左派投票者は3,5% しか増えなかったのである。棄権の増加は、選挙の性質を変えた。選挙の目的は今までは「真ん中の」、「どっちつかずの」、「穏健」あるいは「戦略的に思考する」選挙民を説得することだった。今や、党の支持者を投票所に動員することが優先事項になる。

 ここでフランス政治についてまわる二つの要因をどうしても関連付けてみたい誘惑にかられる。すなわち、右と左が順次交替することと、棄権の規則的な増大である。2007年を例外として、1978年以来、任期満了の与党で、国民議会選挙に勝利した党はない。大ざっぱに言えば、任期中の首相の党はいつでも中間選挙で敗北する。こうした交替現象は棄権の理由でも結果でもある。幻滅を誘って政治に失望させ、人々を投票場から遠ざけるのだ。任期満了の与党が30年来必ず破れるのは往々にしてその党を選んだかつての選挙人がその時は棄権に走るからである・・・。




原注

(1) 2014年第1回投票において有権者の25,1%。これに対して2008年の第1回投票では26,8%だった。

(2) « Enquête participation », Insee, Paris, 2007-2008.



訳注

[a] 青い波。選挙における右派の大幅な伸長現象を指す。『フィガロ』紙、『オピニオン』紙などで、「青い波がオランドを呑み込む」などの見出しをつけている。

[b] コスモノート地区。ロシアの宇宙飛行士たちの名を冠した通りがたくさんあるので、この名称がある。




(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2014年5月号)