私ほどの親米派はいない…


フランス外交の屈折


アンヌ=セシル・ロベール

本紙特派員


訳:仙石愛子


 フランスは、シリア、イラン、ロシアに対する方針を頑固に貫き、ミッテラン大統領が着手した外交的脱皮を完成させた。ところが今や、創立以来アメリカの方を向いてきたEUと歩調を合わせ、国際舞台でフランス独自の主張を貫こうという野心を放棄してしまっている。また、現在はEUにとって肝要な地域がアジア(中国)にシフトしているように思われるが、実際にはやはり重要なのは対米関係なのである。EU委員会はこうのべている。「多くのウォッチャーたちは、アジアの目覚ましい経済成長率とヨーロッパを覆う諸問題の間の違いにこだわって、大西洋地域の再構築を考えてこなかった。北米とヨーロッパの繋がりは、今なお、2大陸間に存在する最強のものである」。[フランス語版・日本語版編集部]





アメリカでは影の薄いEU

 駐米欧州連合代表部の建物は、ビジネス街のごくありふれた一角に目立つこともなく佇んでいる。ビルの正面には辛うじて12個の星をつけたマドンナ・ブルーの旗が掲げられ(原注1)、欧州連合から他地域へと出た最古(1954年)の代表だということを見学者に示している。首都の街をそこから北へわずか数百メートル行った場所では、この日(2014年2月11日)、フランス大統領、フランソワ・オランド氏を国賓として迎える準備が豪華絢爛に進められ、通りに沿ってフランスの国旗が50メートルごとに軍旗のようにはためいている。今夜、ホワイト・ハウスは300人の客を招いて公式晩餐会の大盤振舞いをする。唖然とした地元紙は「贅沢に過ぎる」と書き立てている。

 このようなコントラストにフランソワ・リヴァソー氏――駐米EU代表部副代表――はさほど驚かない。代表部の誰一人として《仏米祝賀行事》に招待されていないのだ。「当然のことですが、両大国は双極的な外交政策を継続して行くでしょう」と同氏は認める。だからこそフランスは、かつてイギリスが演じていたアメリカの《中尉》としての役を獲得し、米国との「特別な関係」を貪るように演出しているのだ。その間にもウクライナからの信号は外交のレーダー画面上で次第に大きくなっているのだが…。

 アメリカ政府としては、《NATO》(北大西洋条約機構)の軍事司令部に復帰した同盟国フランスを豪勢にもてなし、シリア政権征伐の《十字軍》を断念させたことの埋め合わせをしようとしている。驚くような変わり身の早さだ。つまり、オランド大統領ほど好戦的ではないオバマ大統領は、一方で政府職員の給与増額を発表しながら、この社会党大統領に右よりのイメージを少しばかり加えているのだ。

 オランド大統領は、親米家として知られるロラン・ファビウス外務大臣に促され、ミッテラン大統領の下に開始された対米外交方針を終結させようとしている。彼はフランス国家の名のもとに、アメリカの新保守主義[ネオ・コン]の狡猾な非妥協性を模範とし、マリ北部の「テロリスト処罰」を表明し、シリア政権に対する軍事行動を支持してきたのだ。フランスは、イランとの交渉(ジュネーブII会議)の第1段階が決裂した後、ロシアに対して冷戦時と同じ立場をとっている。すなわち、ウクライナのEU加盟を支持し、今年(2014年)冬の暴動から生じた政権を承認、援助し、統一国家の政府と新憲法を想定した《2月21日合意》を破棄するなどしてきた[訳注a]。ファビウス外相は、中身が1ページしかないような辞書の中から言葉を探しだし、それを聞きたがっている人たちに、状況は「困難」であり、われわれは「毅然と」あらねばならない、と繰り返している。

EUとアメリカとNATOと…

 こういった姿勢はどのような地政学的展望をよりどころとしているのだろうか? ある外交官によると、展望など何もない、という。彼はフランスの指導者の姿勢の中に「知的怠慢と自国の歴史についての誤解」が同居していると見ている。すでに2011年に、一部の外交官が「オルセー河岸の住人」つまり外務省の体質について、その「衝動性」、「アマチュアリズム」、さらには「メディアを気にしすぎ」であるとして告発している(原注2)。元大使、フランシス・ギュトマン氏は2011年に次のように記している。「外交は即興ではできない。外交とは展望だ(ド・ゴール将軍がベトナムで演説を行なうにあたって、会場で何を言おうか考えたのは、当日の朝プノンペンで目覚めた時ではなかった)」(原注3)。ウクライナ問題に関して、外務省の事務方トップでもあったこの外交官は、フランスを「痛ましいほど偏った考えを持つ」(原注4)と形容している。フランスは2008年のグルジア戦争における調停国であったが、今や、そういった戦略的役割をドイツに託そうとしている。とはいえ、ドイツは1945年以来アメリカと同盟関係にあるだけではなく、ロシアの重要な経済パートナーでもあるのだ。

 EU加盟国間で合意されている《共通外交・安全保障政策》(PESC)により、アメリカの指導力が最少の公分母として必要となった。というのは、加盟国はほぼ全ての問題で意見が分かれ、EUとしての外交能力が「平和の維持と危機の回避を意図する」というあいまいな宣言に陥ってしまうからである。元駐NATOアメリカ大使のカート・ヴォルカー氏は満足を隠さない。それは、フランス外交の「正常化」以来、EU=アメリカ関係が「より健全」になっているからだ。共和党員であるヴォルカー氏が不満に思っているのは、「口うるさく」て慎重なヨーロッパの同盟国に対して、オバマ大統領がアメリカの威信をさらに示そうとしない点である。幸い、フランスとイギリスはリビアへの介入により、共同防衛という名の悪名高き「重責」の一端を担う能力を誇示し、西欧の支配下にある「国際社会」の軍事的役割を果たした。国連は、《統合参謀本部》――国連憲章で謳っているのに一度も設置されたことがない――を持っていないために、NATOの人質となっているのだ。

 EUが大西洋の方へ顔を向ける変化は突然生じたわけではない、ということは明らかだ。冷戦が始まっていたにもかかわらず統合ヨーロッパが誕生したのは、アメリカの同意と軍事力の傘があったからだ。アメリカは《ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体》(ECSC)[訳注b]を承認した最初の国である。1952年のことだ。その後も同盟関係が緩むことは決してなかった。EUの《共通外交・安全保障政策》(CFSP)の上級責任者は元NATO事務総長、ハビエル・ソラナ氏だった。そして彼の後任はキャサリン・アシュトン氏に他ならず、彼女のイギリス国籍がアメリカをたいそう満足させた。彼女は28カ国の国代表と政府によって任命され、《欧州委員会》副委員長であると同時に、リスボン条約によって設立された《欧州対外行動局》(EEAS)の上級代表となった。

 1980年代までフランスは、2つの超大国――ロシア[ソ連]とアメリカ――の間に立つ「EUとしてのヨーロッパ、」すなわち「第三の勢力」という展望を推し進めていた。匿名希望の駐米EU官僚の話によると、フランスの反対が――ミッテラン政権までは毅然と表明していた――あったにもかかわらず、全ての条約が裏づけているのは、アメリカに「心理的に依存している」EUがNATOに結びついていることだ、という。ソ連圏の崩壊後、アメリカ大統領とヨーロッパ同盟国の首脳たちは、1990年の《大西洋宣言》によって、両者の戦略的合意とそれを強化する必要性を再度確認した。

人権や民主主義よりもTTIP

 両者の数多い共通目標には、平和、民主主義そして安全保障などがあるが、外交を不安定にしているのは、特に《市場経済》と《自由貿易》の大きな発展である――具体的には、《環大西洋経済パートナーシップ》(1998年)、《新経済パートナーシップに関する枠組み合意》および《環大西洋会議》の設置(2007年)である。《大西洋貿易投資パートナーシップ》(TTIP)は目下交渉中であるが、これはEUとアメリカの間に最近誕生した、自由主義の所産である(原注5)。欧州委員会は両者のハネムーンが永遠に続くよう促している。駐米EU大使、ジョアン・ヴァレ・デ・アルメイダ氏(ポルトガル代表)は、EU議員たちにTTIPの恩恵を説くのに必死である。というのは、彼らは自国民の雇用が影響を受けることを心配しているからだ。フランスでは、ヨーロッパ問題担当大臣のティエリー・ルパンタン氏が「フランスは常に自由貿易協定の原則を支持してきました」と、フランスの立場を釈明している。地政学的観点から同氏は「NATOの次期首脳会議は2014年9月に予定されていますが、フランスはEUとNATO間のパートナーシップを強化することに専念いたします」(原注6)と断言する。

 フランセス・バーウェル氏は1961年に設立された非常に「冷戦時代色の濃い」シンクタンク、《環大西洋カウンシル》の副社長であるが、彼女はTTIPの妥結をじりじりして待っている。というのは、それによって大西洋をはさむ諸国(世界貿易の4割を占める)が「世界全体に対して経済的規範を定着させる」ことができるから、という。両大陸間の貿易額は一日につき17億ユーロにおよび、相互に最大の貿易パートナーとなっている。大西洋貿易のしくみは、複数の商業用巡洋艦に先導される豪華客船であり、豪華客船が条約の威力を駆使してアメリカとEUの利益を世界中に振りまこうとしているのである。そもそもウクライナを始めとする東方諸国とEUが交渉する協定というのは、何よりも《自由貿易》の協定であって、《民主主義》とか《人権》に関する型通りの文言を超えているのだ。アメリカの見解では、社会福祉的EUの理念は「旧大陸」という観念よりもさらに漠然としているように見える。

 《環大西洋関係》という概念は今では「広義に」理解されている、とアメリカの元ヨーロッパ担当国務副長官代理のヘザー・コンリー氏は説明する。つまり、大西洋両岸を基軸にして、アメリカとEUのテリトリー28カ国をまとめるという考えである。具体的には、東はリトアニアから西はカリフォルニアまで、北はグリーンランドから南はティエラ・デル・フエゴ[南アメリカ大陸南端]や南アフリカまで広げる。欧州委員会が2013年1月に特別プログラムを開始したのはこういった考えからであり、これは経済、安全保障、制度、環境保護などの観点から「大西洋地域の基本的な発展を分析する」ことを目的としている。「多くのウォッチャーたちは、アジアの目覚ましい経済成長率とヨーロッパを覆う諸問題の間の違いにこだわって、大西洋地域の再構築を考えてこなかった。北米とヨーロッパの繋がりは、今なお、2大陸間に存在する最強のものである」と欧州委員会は記している(原注7)。

 全ての要素が繋がり、一つのまとまりとして捉えられている。「もしアメリカが当事者たちの安全を保障しなければ、世界の貿易は緩慢になるでしょう」とヴォルカー氏は単刀直入に話す。しかしこのようなビジョンは、リスボン条約の――拘束力はないが――前文に謳われている「ヨーロッパのアイデンティティおよび独立性」の強化と相入れるだろうか? この質問に驚くのは、《ドイツ・マーシャル基金》(GMF)のアンドリュー・フィッシュベイン氏である。GMFは、ワシントンのEU代表部から数十メートル離れた一角に重厚なオフィス・ビルを構えるアメリカのシンク・タンクであり、ドイツの資金で設立されたものだ。「アジアが立場を強めてきても、われわれ[アメリカとEU]の利益は変わりません。それに、われわれには民主主義と、人権を高める《市民社会》の擁護という共通の価値観がありますから」。

EUの東方拡張とロシア

 こういった虚ろな決まり文句はほとんどの取材相手が口にしたことだが、これによってEUの政治力のなさが露呈してしまっている。アメリカにとって、EUとのパートナーシップは《ペンチのアゴ部分》の片方であり、もう一方のアゴ部分つまり太平洋における協定と結びつけて、ロシアと中国を制御しなければならないのだ。何よりも市場経済と自由貿易を推進したいEUにとって、この戦略的目的はますますわかりづらい。

 ロシアはウクライナの政治に直接干渉し、自国のヨーロッパへの帰属を西欧列強にアピールしようとするが、西欧諸国はアメリカの指揮のもとにロシアをアジアへ押し返そうとしている。ドイツは自らの国益をよく理解しながらそれを超えて、歴史にも地理にもそぐわない将来の見通しにためらっている。EUはといえば、今では「広い意味で」理解されてはいるが、その誕生時から大西洋という大浴場につかり、ロシアの周辺地帯にゾウのような軽薄さとモグラのような視力で入り込んでいる。

 EUはヨーロッパ大陸の利益となる戦略的ビジョンを何も持っていないばかりか、実行に移すべき何かを計画しようともしない。さらに悪いことに、EUは自ら苦労して採択した原則のいくつかと矛盾する議論を平気で唱える。EUのいわゆる「隣国」政策は、表向きはヨーロッパの安定化に貢献するだろう。しかしEUは、ヨーロッパ大陸でのNATOの拡大を支援し、たとえばセルビアがロシアから遠ざかるのを手助けしながらEUをバルカン半島西部にまで拡大する野望を持ち、そしてウクライナに《連合協定》(AA)――伝統的にEU加盟の前段階――の調印をさせようとするのは、上記の《高貴な目的》に矛盾を生じさせかねない。

 ロシアのプーチン大統領は武力に訴える達人であり、それを外交の通常の道具と考えているが、その彼が心ならずもEUと「ダルマさんがころんだ」ゲーム(原注8)をやってきた。ロシアは何年か静かにしたあと後ろを振り返り、NATOがロシア国境まで迫っているのを認めるしかなくなるだろう。一方、EUはバカ正直なふりをしてキエフのマイダン(独立)広場[訳注c]までたどり着き、ズルをした子供のようにその行動主義の言い訳をするのだ。




原注

(1) 欧州旗の立案者、アルセーヌ・ハイツ氏は「聖母マリアの冠を囲む12個の星」から着想を得たことを認めている。

(2) Groupe Marly, « La voix de la France a disparu dans le monde », Le Monde, 22 février 2011.

(3) Francis Gutmann, Changer de politique. Une autre politique étrangère pour un monde différent ?, Riveneuve Éditions, Paris, 2011.

(4) Francis Gutmann, « Une France fâcheusement partisane », Observatoire de la défense et de la sécurité, 21 janvier 2014, www.espritcorsaire.com

(5) Lori Wallach, « Le traité transatlantique, un typhon qui menace les Européens », Le Monde diplomatique, novembre 2013.

(6) « Déclarations officielles de politique étrangère du 19 février 2014 », ministère des affaires étrangères, Paris, www.diplomatie.gouv.fr

(7) Programme Atlantic Future, www.atlanticfuture.eu

(8) 子どもの遊びで、別のところを見ている鬼に気づかれることなく各人(EU)がある地点に達しようとするが、鬼(ロシア)が振り返った時は不動の姿勢でいなければならない。

訳注

[a] 親ロシア派のヤヌコヴィッチ大統領(当時)は事態収拾のために挙国一致内閣、大統領選前倒しなどを野党と合意したが、反政府デモの沈静化にいたらなかった。

[b] 軍事力の源となる石炭・鉄鋼を共同管理する目的で1951年に欧州6か国の合意で発足し、現在のEUの母体となった。

[c] 2004年のオレンジ革命や今回の一連の反大統領騒乱の中心となった広場。

(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2014年4月号)