《信用》という合言葉


セルジュ・アリミ

(編集主幹)


訳:仙石愛子





 どんな人でも言いたいことを言い、書きたいことを書くことができる。アメリカについては特にそうだ。それに従えば、この半年足らずの間にこの国は蘇った不死鳥の地位(景気回復、エネルギー自給、情報産業の多国間支配、自動車産業の復興)から、衰退帝国の地位へ転落したのだが、これはアメリカ大統領の優柔不断さがもたらしたものである(注1)。


 今では、「アメリカの異常な弱気」(注2)をテーマに長々と議論することが一つの産業になった。シリア問題では、オバマ大統領は事実上アメリカの信用を傷つけたと言われている。というのは、フランス政府と明晰な戦略家たちが強く期待していたのとは異なり(注1の記事参照)、アメリカはシリアに対して新たな軍事作戦を開始していないからだ。外野の鸚鵡たちがみな口にするのは《信用の低下》というキーワードである(注3)。


 ところで、ベトナム戦争を本格化したのはケネディ、ジョンソン両大統領であるが、それは「ドミノ」が次々と倒れて共産国家――ソ連であれ中国であれ――の懐に入るのを阻止するという口実の下だった。アメリカにとっては《信用》の問題であったが、それによってインドシナでは300万人の命が奪われた。そして、アメリカの敗北から4年経った1979年には中国とベトナムが軍事衝突を起こした…。


 イラク戦争はブッシュ[第43代]大統領が仕組んだものだった。イランや北朝鮮と同様、イラク政権も《悪の枢軸》に属しているとして罰しなければならなかったからだ。アメリカにとってはこれも《信用》の問題であった。今日イラクは荒廃し、米軍によって据えられた政権はかつてないほどイランとの距離を縮めている。


 2002年10月に、バラク・オバマという若き上院議員が「私は全ての戦争に反対しているわけではない。ただ愚かな戦争には反対する」と発言して自国のイラク攻撃に反対した。ところが自身が大統領に選出されると、撤退を余儀なくされるまでアフガニスタンで「愚かな戦争」をエスカレートさせたのだ。


 今回のシリア問題では、好戦家たちがオバマ大統領に強硬姿勢で臨むよう要求した。大統領が同時に実践しなければならなかったのは、[国連]安全保障理事会の承認なしに武力に訴える、つまり国際法を犯すこと、まずは議会の頭越しに事を進めること、もし大統領が議会に諮りその決定が大統領の策と対立した場合は議決を無視すること、そして軍事作戦を開始するのに多くの同盟国――ブッシュ大統領時代の「有志連合」よりはるかに小規模とはいえ――を集めること、だった。


 ところが、アメリカ大統領に対して強く要請されたこの企ては、国民の大多数の意志に反するものだった。国民の中には、アメリカ軍がシリアで《アル・カイーダの戦闘機》(注4)代わりになるのではないかと恐れている人々もいるのだ。


 オバマ大統領はためらった。そして結論づけたようだ、中東での「愚かな戦争」を回避すれば彼の《信用》もしばらくは生き延びられると…。






(1)ブノワ・ブレヴィーユ氏は「 ポリセントリズムに翻弄されるアメリカ」(Benoît Bréville, «Les Etats-Unis saisis par le polycentrisme», L’Atlas du Monde diplomatique, 2013)の記事で、「アメリカの衰退」という繰り返し現れるテーマの本質を分析している。
(2) Dominique Moïsi, «L’étrange faiblesse de l’Amérique face à Vladimir Poutine», Les Echos, Paris, 16 septembre 2013.
2003年当時ドミニク・モイジ氏はイラク戦争を支持していた。
(3) Mathias Reymond, «Conflit en Syrie : les éditocrates s’habillent en kaki», Acrimed, 23 septembre 2013, http://www.acrimed.org
(4) 元オハイオ州選出左派議員デニス・クシニッチ氏の発言より。


(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2013年10月号)