オークションにかけられる入国ヴィザ?

アメリカならではの選別を受ける移民たち


ブノワ・ブレヴィル

(ル・モンド・ディプロマティーク記者)


訳:木下治人


 アメリカ上院では移民政策の改革に向けて議論がすすんでいる。1100万人に及ぶ不法滞在者の身分合法化に道筋をつけることがねらいである。こうしたアムネスティ措置はメディアや政党から注目を一身に集めている一方、もう一つの措置が注目されていない。企業の要求によく配慮した労働ヴィザ発給割り当てシステムの新設である。アメリカの保守勢力は移民反対の伝統的保守勢力と移民導入に賛成する新自由主義勢力とに分かれている。後者のグループは民主党系の組織とも組んで、資本の都合に合わせて移民受け入れを自動的に調節するシステムの創設を考えている。[フランス語・日本語版編集部]





移民に対する賛否両論


 数十年来、アメリカ右派勢力内では移民に関する二つの主張が共存している。ひとつの主張によれば、移民労働者は「アメリカ国民から雇用を横取りして生活保護を掠めとり、公共の安全をおびやかす存在」である。もうひとつは、「アメリカ国民がやりたくない仕事を引き受ける忍耐強い労働者、文無しでアメリカにたどり着いたにもかかわらず自分の会社の設立に真剣に取り組む起業家であり,あらゆる美徳を備えてもいる」という主張である。移民はアメリカにとってお荷物なのか? 経済界にとっては宝なのか? アメリカ右派勢力は、アメリカ的価値観を守りたい伝統的保守派と、新自由主義者(ネオ・リベラリスト)との板挟みになっている。後者の新自由主義者は経済の成長を刺激するために、国境をもっと大胆に開くことを推奨している。


ヒスパニック系が大半を占める不法滞在者


 共和党の候補者ロムニー氏は、2012年の大統領選において、不法滞在者は「自主的に帰国」するように促し―― 退去しない場合は警察が乗り出す ―― 移民排除の立場を鮮明にしていた。こうした移民戦略では何百万人ものヒスパニック系選挙民の心をとらえることはできなかった。身内の身分が法的に認められるのを待っていたからだ。ロムニー氏は結局、この大統領選挙でヒスパニック系投票者の27%しか獲得できず、現職大統領に敗北を喫した(オバマ氏は71%)(注1)。


 「ヒスパニック系の人たちにとっては、経済発展や税率あるいは社会保障などの問題は二の次なのです。彼らは、共和党の皆さんが家のばあちゃんを故国に追い返そうとしているのではないかと疑っているのです」。投票の数日後、ティー・パーティー運動の期待の星マルコ・ルビオ(フロリダ州上院議員)は、こう言いきった。もし共和党が大統領選挙に勝利したいなら、―― 共和党候補が現在の選挙区割りのおかげで手堅い白人票に頼ることができる州議会選挙でさえもそうだが、勝ちたいと思うならば ―― 反移民の主張をお蔵に入れる必要があるのだ。


「最良の人々を放すまい」


 そんなわけで、ここ数ヶ月前から、保守派のリーダーたちは公の場所に頻繁に登場し、移民往来の自由がもたらす経済効果をたたえる。たとえば、反税運動の急先鋒グローバー・ノーキストは次のように指摘する。「アメリカは世界で一番裕福な国であると同時に、外国人を最も多く受け入れている国です。これは偶然の一致ではありません。移民受け入れを望まない人々がいるが、その人たちのせいで、アメリカはさえない国、繁栄しない国となり、つまりアメリカでない国になるのです(注2)」。またその数日後には、(2012年大統領選挙で共和党副大統領候補だった)ウィスコンシン州下院議員ポール・ライヤン氏は門戸開放のサインを示した。「われわれは、わが国の経済が21世紀をリードすることを確かなものしなければならないのです。ということはつまり、最良の人々、最も知的な人々をわが国に保持しなければならないということなのです。つまり、社会に寄与できる人々、けんめいに働き、ルールを守れる人、向上心のある人々のことです。この国のすべての人たちが彼らから恩恵を受けるのです。そうです、移民からなのです(注3)」。


 大統領選挙運動期間中オバマ氏が約束した移民政策の改革は、このように大きなイデオロギー的転換に沿ったものである。昨年12月、超党派の上院議員8名から成るあるグループが会合を持ち(その中にはティー・パーティーのルビオ氏がいる)ある法案を準備した。その数ヵ月後、前代未聞の協調精神が発揮され、844ページにわたる法案が上院に提出された。これが「国境警備・経済チャンス・移民制度近代化法」(Border Security, Economic Opportunity and Immigration Modernization Act)である。ここには何が書かれているのだろうか?《ケイトー研究所》(リバタリアン)から《アメリカの進歩ためのセンター》(中道左派)まで、《全米商工会議所》から《米国労働総同盟産別組合会議》(AFL- CIO)まで、《ウォール・ストリート・ジャーナル》(保守系)から《テレビ・ニュースチャンネルMSNBC》(民主党寄り)まで、アメリカの主要な勢力の支持がとりつけられている。


 膨大な数の不法移民の合法化は、公民権保護団体によって以前から要求されているものであり、最も画期的であり最も期待感を抱かせる改革であるが、同時に反対も強い。実際、右派勢力の一部にはこの法案を犯罪者への「特赦」、優遇措置だとしてこれに反対している。しかし、議会内ではこうした共和党内反対派の支持も必要なので、彼らに対して合法化しても大丈夫だという保証が求められる。そのため、不法滞在者の「市民権獲得への道」は長く、不確かで、高くつくものになった。


2011年12月31日が基点


 同法案によると、2011年12月31日以前にアメリカに不法入国した外国人1100万人は、罰金・遡及税(無資格で労働していた場合)・数百ドルにものぼる調査費などを支払わないと10年間の「暫定的な登録移民資格」を獲得できないのだ。しかし、この10年間税金を払い続けていても、(メディケイド・健康保険・社会保障などの)行政サービスの多くは享受できない。この期間が終れば永住許可書(グリーンカード)が発行され、その三年後にはアメリカ国籍を取得できる権利も発生する。しかし、彼らは一連のテスト(言語、愛国心など)に合格し、前科がない場合に限りグリーンカードを取得できるのである。ほんのちょっとした過ちがあれば、それまでの13年間の努力は台無しになるというのだ。高齢者(アメリカ国籍を持つ前に死亡する可能性がある)、貧しい人たち(アメリカ国籍取得のための料金を支払うことができない)、そして2011年12月31日以後に不法入国した外国人は改革から除外される。


 8人の上院議員たちは、あたかもこうしたハードルの高さでは不十分であるかのように、永住権とアメリカ市民権取得には前提条件が必要だと主張した。国境警備を強化せよというのである。連邦当局は、現在国境不法通過を40%阻止しているとみなしているが、90 %に上げなければならないというのだ。しかし、[無人航空機やレーダーなど ―― 訳注] 国境警備の軍事面の強化を図らないかぎりこの目標は到達できないだろう。というのも、メキシコとの国境には1マイル[約1.6 Km ―― 訳注]ごとに10人の警備隊員がすでに配置されているからだ。「この移民政策改革案を準備した議員たちは、実現可能なものというよりは、まるでやる気をそぐための案を作り上げたかったみたいだ」とラディカル左翼雑誌《カウンターパンチ》は断言する(注4)。それでも・・・市民権獲得への道は曲がりくねった小道ではあるが、一部の右派勢力から見ると通り抜けが簡単すぎるように思えるのだ。なにせ彼らはこの道を遮断する力を持っている。


労働ヴィザ発給システムの改定


 多くの移民を対象とするこうした(厳しい条件つきの)身分合法化論争のせいで、改革の一部がかすんでしまった。それは、アメリカに広まっている移民概念に対する批判的で明確な改革案で、「労働ヴィザ発給システムの改定」と呼ばれる。このテーマをめぐってすでにいくつもの法案が挫折してきた。最新のものでは、2007年のブッシュ大統領の改革案がある。当時、ブッシュ大統領は《全米商工会議所》と《米国労働総同盟産別組合会議》に働きかけて、両者が協働してこの法案に同意するよう求めた。しかし、組合は移民労働者の大量の流入によってアメリカ人の賃金が下がるのではないかと恐れたし、経営者トップは移民労働力のストックを増やそうと考えていたので、両者の合意には至らなかった。結果として改革は失敗した。


 それ以来、さまざまな圧力団体が、年間に割り当てられるヴィザの数を増やすよう休みなく論陣を張る。《建築・製造業協会》、《農民連合》、《全米商工会議所》、シンクタンク(《ケイトー研究所》、《ブルッキングス研究所》、《移民労働USA》など)等々。つい最近では、フェイスブックの創設者マーク・ザッカーバーグ氏とシリコン・バレーの同業者たちが共同して、高度技能労働者へのヴィザ割り当て条件緩和を目的としたロビー活動を展開した。


労使協調


 ついに、すべての努力が報われた。今年2月、《全米商工会議所》会頭トーマス・ドナヒュー氏と《米国労働総同盟・産業別組合会議》のリチャード・トラムカ議長が合意にいたり、移民問題改革案を直接取り込んだ歴史的合意の内容が明らかされた。トラムカ議長は次のように声高に言う。「われわれは、入国管理の新しいモデル、新しいシステムを作り上げたのです」。議長は、合法移民がやって来れば労働者の仲間を増やすことにつながるとみているのだ。この法案の「新しさ」は組合員獲得を意味するばかりではない。企業の希望に添った柔軟性・従属性が強まるだろう。もし同法案が可決されれば企業が自分の都合に合わせて移民の波をコントロールできることになる。


 今日、労働目的でアメリカに招聘される技術者・科学者・数学者などの数は、毎年6万5千人に限定されているが、今後は10万1千人に、さらに急速な経済発展期には18万人に増え、移民を送り出す国にとっては頭脳流出という犠牲を加速することになる。さらに、アメリカの大学で学ぶ外国人科学者は、現行法ではヴィザが一年しか認められていないが、同法案では永住権が認められるのだという。毎年5倍から10倍の速度でエンジニアを輩出させているインドや中国に差をつけられているアメリカは、高学歴者獲得競争に乗り出そうとしているのだ。


通称「Wヴィザ」


 新しいヴィザ、通称「Wヴィザ」は、無資格労働者の受け入れを容易にし、労働力が不足している産業部門の必要量に応えるはずである(注5)。つまり、レストラン業・ホテル業・大量販売店業、とりわけ対面サービス部門などである。要するに、低賃金部門、国外委託が出来ない部門である。この分野での外国人労働者の存在が、低価格化に寄与している。「無資格移民労働者のおかげで、食費・ホームヘルパー・べビーシッターにかかる費用が下がり、生活水準が上がっています。以前より多くの女性が、外で働くことができるようになったのです(注6)」。中道右派のコラムニスト、デヴィッド・ブルックス氏は評価する。


 なんと欲深いことだろうか。この新しいヴィザを《全米商工会議所》は40万人分主張し、《米国労働総同盟産別組合会議》は1万人分だけ望んでいた。発給枠は、初年度2万人、二年目が3万5千人、三年目が5万5千人、4年目が7万5千人に決定された。5年目以降は20万人を上限として決定され調整されることになる。それを行うのは、これを機に企業需要に応えるために作られた《移民と労働市場研究事務局》である。当事務局は、急速に増大するヴィザ割り当てのプラン策定にあたって民間企業の意向を重要視することになるだろう。「労働市場の圧力の強さによって、経営者が雇用したいと考える移民労働者の量と職種を決定できるのです」「政治家や官僚が決める恣意的な年間移民割当て数では、経済状況の変化に即座に対応するには十分ではないのです」。経営者のシンク・タンク、アメリカンエンタープライズ研究所はこう説明する。


グリーンカードくじ、廃止へ


 労働力不足をどのように定義するのか? 労働力不足の拡大をどのように把握すればいいのか? こうした視点について法案は明確にしていない。雇用主は移民労働者とアメリカ国内の労働者を同等に扱う義務があるので、こうした曖昧なる労働力不足を利用して賃金を低く誘導したり、少なくとも賃金アップだけは阻止しようとする。この点について、元・労働長官で今ではカリフォルニア大学バークレー校の経済学教授であるロバート・ライシュ氏は次のように言う「労働力需要の増加が賃金を押し上げると、即座に雇用主は労働力不足を言い立てることができるようになるでしょう。こうして、賃金を同じレベルに維持するために移民労働者をもっと多く受け入れることを可能にするのです(注7)」。


 本法案には、今日のアメリカ移民状況に対する厳しい姿勢が読み取れる。家族呼び寄せ権に基づいて交付されるヴィザの数は制限されることとなる。たとえば、姉妹・兄弟、子供のうち31歳以上の既婚者はヴィザ発給対象者から除外される。さらに、市場原理に導かれている今日の世界では《偶然性》というものがそぐわなくなったので、新法案には、抽選によるグリーンカード取得方法の廃止が盛り込まれている。このグリーンカードくじのおかげで、毎年外国人5万5千人がアメリカ永住権を手に入れていた。申請者の価値評価に基づく在住権付与がグリーンカードくじに取って代われば、申請者の仕事分野、学歴、出身国、英語の習得状況が考慮されることになろう。選別的・選択的移民導入の余地が生ずることになる。そうすれば、くじ運任せにした結果、経済的にみて好ましい種子が社会的毒麦とごちゃ混ぜになるようなリスクはもはや消えるのだ。


 この国ではモノにはそれぞれお値段があり、移民も同じように「長期投資」の対象になるとみなされる。価格対利潤という合理的数値に換算されるのだ。政府が就労ヴィザをオークションにかけ企業が買えるよう示唆する人たちさえ存在する。そのシステムによれば、「滞在許可証の相場によって移民需要の大きさがわかる。それに基づいて毎年発給されるヴィザの数を調整する(注8)」のだという。そうはいっても、奴隷が公然と売買されていた時代への回帰であると指摘する人は、いまだに誰もいない。






(1) Lire Jérôme Karabe1, Fin de la “stratégie sudiste” aux Etats-Unis », Le Monde diplomatlque, décembre 2012.
(2) Grover Norquist, «Immigration reform is a nobrainer to help the economy», The guardian, Londres, 24 avril 2013.
(3) Gerald F Seib, « Ryan takes a key role on immigration », The Wall Street Journal New York, 30 avril 2013.
(4) Mark Vorpah1, «The argument for amnesty», Counterptinch, Petrolia (Californie), 5 février 2 0 13 .
(5)企業は、外国人を雇う前にアメリカ人を雇う努力をしたことを証明しなければならない
(6) David Brooks, «The easy problem», The New york Times, 31 janvier 2013.
(7) Robert Reich, « What immigration refom could mean for American workers, and why the AFL-CIO is embracing it », 2 avril 2013 , http://robertreich.org
(8) Giovanni Peri , «The economic windfall of immigration reform», The Wall Street Journal, 12 février 2013.


(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2013年6月号)