朝鮮半島に再び走る緊張

北朝鮮にどう働きかけるか?


フィリップ・ポンス

ジャーナリスト、在東京


訳:仙石愛子


 経済と軍備を発展させること、これが朝鮮民主主義人民共和国の最高指導者、金正恩氏の表向きの目標である。今のところ彼は挑発を増殖させているだけだが、その間に北朝鮮近海では大韓民国とアメリカ合衆国の合同軍事演習が緊張をさらに高めている。北朝鮮はアメリカによってイラクのようにされることを警戒しているが、中国が地政学的にかんでいること、核兵器の保有のせいで、イラクのようにはならないだろう。またそのためにこそ、北朝鮮は核兵器を手放さないのである。[フランス語版・日本語版編集部]





晴れて?「核保有国」となる


 このところ朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が世界中の気をもませている。同国による脅しの一斉砲撃のためだ。例えば、対米核攻撃、1953年休戦協定の破棄(注1)、「第2次朝鮮戦争は避けられない」等々の宣伝、そしてグアムの米軍基地のみならず日本にも狙いを定めたミサイル攻撃などである。3月中旬以来、北朝鮮のプロパガンダは猛威をふるってきたが、外国メディアは親切にも戦争熱を煽るような報道を行ない、こういった脅しの中で何が真実に近いか何がそうではないかを見極めることもなく、度を越した反応ぶりを示して北朝鮮を大いに満足させてきた。


 アメリカは、ブッシュ政権下では北朝鮮と対立状態にあったが、オバマ政権になって静観という戦略に戻っている。両政権の政策については失敗とみなさざるを得ないが、それは今年2月まで韓国の大統領だった李明博氏の場合も同様だ。李前大統領は北朝鮮が欲しがるものをすぐに与えず、じらそうとした。状況は15年前よりも限りなく厄介になっている。


 確かに、北朝鮮の目的は1998年当時と変っていない。その年に北朝鮮は人工衛星搭載のロケットを打ち上げたが、これは長距離ミサイルと同じ技術を用いたもので、日本の上空を通過している。これに対しクリントン政権は方針を転換させ、2000年10月には国務長官マデレーン・オルブライトをピョンヤンに派遣した。大統領の訪朝すら検討された。しかしその後、ブッシュ大統領は前任者の築き上げた両国関係を一掃してしまった。


 それ以来、北朝鮮は2006年、2009年、2013年と3度にわたり核実験を行ない自らを核保有国と宣言した。同国は貯えているプルトニウムと、核弾頭となりうるウラン濃縮システムを保有している。3月31日の労働党中央委員会総会で金正恩氏は次のように明言した、「核兵器はアメリカ・ドル獲得のための交換貨幣でもないし、交渉のテーブルに着くための取引材料でもない(中略)。帝国主義者たちによる核の脅威が存在する限り、わが国が核兵器を放棄することは絶対にない」。北朝鮮は今後の交渉のハードルを高くしてしまった。


 金正恩氏はおおよそ30歳、金一族の三代目であり、2011年12月に父親が没したのち政権のトップに就いた(注2)。当初、彼はこの国の穏やかなイメージを醸しているように見えたが、そうはいっても人権団体によると北朝鮮には強制労働収容所に拘束されている人々が20万を数えるという。その1年後、全ての権力の座(労働党第一書記、国防委員会第一委員長、人民軍最高司令官)に着いた新指導者は、12月に打ち上げた人口衛星と2月に実施した核実験を背景に、異常な刺々しさで攻勢をかけ始め、国連安全保障理事会はこの2件とも非難し制裁の強化を決定した。


《強盛大国》政策の決定的な欠陥


 金正恩氏は、外国滞在の経験――高校時代スイスに5年間留学している――があることから、先代よりもおそらく改革の必要を強く意識しているのではと思われていた。しかし、1990年代後半あたりから敷かれた路線に対して忠実であった。この《強盛大国》というスローガンは経済発展と軍事力を両立させるのが目的だった(注3)。これは言葉のニュアンスの差こそあれ、19世紀、外国の脅威に晒されていた日本の明治政府が掲げた《富国強兵》と同じであった。ところが北朝鮮の場合この2つの目標が両立できない。なぜなら《繁栄》は改革を前提とする。中でも外国へ門戸を開放し外国からの援助を受ければ、技術支援および投資が得られるからだ。しかし、北朝鮮が挑発を続けているのにアメリカとその同盟国からは協力が全く得られない。


 金政権は矢面に立ちながら現状に揺さぶりをかけたのだ。つまり、自分の国を窒息させてしまうほど経済制裁を強化し、ますます孤立化に追い込むアメリカの《忍耐政策》を告発した。一方、中国は二枚舌を使っていた。国際的非難の大合唱に調子を合わせながら、裏で北朝鮮を経済的に支援している。3回目の核実験は、アメリカおよびその同盟国への挑発であると同時に、中国に対する主権の誇示でもあった。


 北朝鮮は、核抑止力のお陰で核攻撃――アメリカが脅しを少なくとも5回はちらつかせた――から守られてきたと思っている。金政権が国民に対してその成功を誇示するのは、この25年間、国の強化と独立性の保障のためにすべての犠牲を正当化し、それを侵すべからざる目標としてきたからだ。故に、金正日治世の唯一の業績である核兵器を放棄することなどありえないだろう。


北朝鮮がイラクになりにくい理由


 北朝鮮は自らを核保有国として世界に認めさせることに固執し、ポスト全体主義への移行については明白に拒絶してきたが、これは激化したナショナリズムに起因している。このことにより北朝鮮は、世界の二極化時代(ソ連崩壊後に消滅)よりもポスト・コロニアルの時代に目立つこととなった。ヨーロッパにおける冷戦期は実際には平和な時代だったが、アジア、特に朝鮮半島やベトナムでは、[第二次大戦における]解放闘争の延長としての武力衝突の時代だった(注4)。北朝鮮では、「栄光の闘争」の理想化された記憶がプロパガンダを通して維持されてきたが、それは日本の占領に抵抗して金日成のもとに結集したパルチザンが起こしたものであり、現体制の正統性の根拠となるものである。そして北朝鮮は、断固としてもう一度現状を反帝国主義闘争の枠組みの中でとらえようとしている。


 ソヴィエト連邦の崩壊後、ポストコロニアル理論が繰り返してきたテーマ――独立・国家主権・自国を認知させたい欲求――が力強くもどってきた。このテーマは国民の中に永久籠城軍の精神構造を植えつけ、強化させてきた(注5)。ブッシュ前大統領は北朝鮮を「悪の枢軸」国リストに入れ、次にイラクを攻撃して脅しを強化していった。その結果北朝鮮は核保有国となり、イラクと同じ運命を辿ることはなく、プロパガンダを鳴り響かせている。


 そもそもイラクとは地政学的状況が異なる。つまり中国の近さが軍事介入を難しくしている。中国政府がいかなる不安定要素も避けたいと思っているのは確かである。不安定になれば朝鮮半島の「非平和的な」再統一が行われ、韓国主導の下、最終的には中・朝国境地帯にアメリカ軍が配備されることになるからである。戦争になった場合、北朝鮮が敗北するのは確かだろう。しかし、韓国にも、さらには日本にも大きな損害が及ばないわけではない。そして混乱の中、北朝鮮保有の核兵器やプルトニウムの貯えはどうなるのか? これほどの危険性があるため、経済制裁やボイコットを強化して容赦なく追い詰めるのではなく、別のアプローチを考えなければならないだろう。





(1)朝鮮戦争は1950年に半島の南北間で始まった戦争で、1953年の休戦協定で一応終結はしているが、以来いかなる和平協定も結ばれていない。
(2)Bruce Cumings, «La dynastie Kim ou les deux corps du roi», Le Monde diplomatique, février 2012.
(3)明治時代(1868年~1912年)は近代化政策の幕開けだった。
(4)Heonik Kwon, The Other Cold War, Columbia University Press, New York, 2010.
(5)«En Corée du Nord, la société s’éveille», Le Monde diplomatique, janvier 2011.


(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2013年5月号)