イギリス保守党は国民投票という切札を振りかざす

反EUの虚勢を張るキャメロン首相


ジャン=クロード・セルジャン

パリ第三大学(新ソルボンヌ)名誉教授。
近著に『イギリスの倫理、政治と腐敗』(未邦訳)
Jean-Claude Sergeant, Ethique, politique et corruption au Royaume-Uni,
Publications de l’université de Provence, Aix-en-Provence, 2013.
(ダヴィッド・フェ氏との共著)がある。


訳:仙石愛子


 イギリス首相は、ヨーロッパの銀行改革に反対し自国のEU離脱のレトリックに磨きをかけている。[フランス語版編集部]





テレビ演説を断行した首相の意図


 「EU離脱が重要課題となった!」1月23日、ナイジェル・ファラージュ氏は喜びの表情を見せていた。イギリスのEU脱退を目的に結成された《英国独立党(UKIP)》のこの党首は、EUに傾倒しているイギリス「指導者層」から冷飯を食わされているとすぐ主張する人だが、この日の朝デイヴィッド・キャメロン首相が行なった演説には満足していた。保守党のキャメロン首相はEUにおける自国の地位を「明確化」したいと考えており、さらにEUからの離脱も除外しないことを示唆した。これはファラージュ氏にとって重大な政治的事件だった。


 とにかく1月23日の演説は、その内容と同じくらいに時と場所の選び方で注目を集めた。以前、カールトン・コミュニケーションズ[イギリスの大手メディア会社――訳注]のトップ・マネージメントにいたキャメロン首相には細部でもおろそかにする習慣はなかった。彼が強調しようとしたのは、「EUがイギリスを惹きつけることができるのは、もっぱらグローバル化と貿易自由化(5億人市場内で)の媒介者としてのみ」ということだった。それで首相はアメリカの経済関連の情報配信会社ブルームバーグ社のロンドン本部から演説を行なうことを選んだのである。イギリスの《欧州経済共同体(EEC)》加盟40年目のことである。


 グローバル化および貿易自由化に関しては、もともとイギリスとEUの間で考え方がさほど隔たっているとは思われない。が、金融規制と銀行統合のプロジェクトがイギリス政府に不安を抱かせている。『フィナンシャル・タイムズ』紙のジョン・ギャッパー論説委員が懸念しているのは、金融街シティーが「50年にわたる経済成長によってイギリスを世界金融界のトップに押し上げたのに」、今やヨーロッパの他の金融都市との競争に苦しんでいる、という見方があることだ(注1)。その上保守党から見ると、EU諸国における被雇用者の権利がイギリス企業の活動に枠をはめている、つまり大陸では様々な権利、中でも週最長労働時間にかかわる権利を主張しているのだ。


 キャメロン首相は、1963年にイギリスのEEC加盟に反対したフランスのドゴール大統領の分析を引っ張り出して(注2)、次のように宣言した。「わが国の特質は島国、すなわち独立性の高い国ということであり、そのことは主権国家への直接的で熱烈な帰属意識によって表現されるのです。(中略)わが国にとってEUは、それ自体が目的なのではなく目的を達成させるための手段であり、その目的とは、繁栄、安定および自由と民主主義の定着なのです」。


緊縮財政の失敗を巧みにかわそうとする首相


 続いて首相は、柔軟性の拡大と補完性の強化を擁護する弁論を展開した。この補完性というのは、EUの独占的権限に属さない分野においては、EUにとって有益とみなされる目的を達成するかぎりにおいて、加盟国が先だって行動する権限を認める《補完性原則》(1992年12月、エジンバラ欧州サミットにて採択)のことである。ユーロ圏統合のさらなる強化によって起こるイギリスの周辺化を「不安視する」多くの国民の代弁者となり、キャメロン首相はイギリス人のEU帰属意識が衰弱しているとして演説を締めくくった。1975年の国民投票からほぼ40年を経て、国民に信を問うのはそれ故に「正当な」ことである、と(注3)。


 いずれもほぼ「反EU」を掲げる新聞社が実施した様々な調査によると、イギリス国民の70%以上が国民投票を望んでいることが強調されている。にもかかわらずそれ以上に国民を不安に陥れている問題が別にある。それは、ジョージ・オズボーン財務相が財政赤字をなくすという口実のもと、驚くべき荒っぽさで緊縮財政政策を押し通した挙句、イギリスの財政問題を悪化させている、ということだ。すなわち2011年には国内総生産(GDP)の60%だった負債が、翌2012年には71%に跳ね上がったのだ。赤字が増大しているだけではなく、経済成長率も停滞したままだ(2012年はプラス0.1%)。今年2月、イギリスはトリプルAを失った。キャメロン首相はおそらく気がついていないだろう、エリート政治家たちの度重なる醜聞が(注4)、EUの威嚇に直面しているシティー以上に国民の信頼を失墜させている、ということに……。その首相が確信しているのはおそらく、2015年の総選挙ではEU問題が争点となり財政上の失策は影をひそめる、ということだろう。こうしたマヌーヴァーで選挙に勝てるだろうか ?


実業界の抱く不安


 キャメロン首相は、他の首脳たちから疎外されるどころか、ドイツを始めEU圏の支持を獲得することに成功した。今年2月の欧州サミットの翌日、『フィガロ』紙が掲載した記事には、「キャメロン、メルケル両首相、EUをダイエットさせる」(2013年2月9日付)というタイトルがついていた。その前日、ウィリアム・ヘイグ外相はイギリス下院外務委員会において、「首相の発表は、わが国をEU体制内で周縁化させるのではなく、わが国の影響力を強めることになるだろう」と断言した。外相はドイツの日刊紙『ディ・ヴェルト』1月24日付の記事を引用したが、その記事は《独・英体制》の構築を呼びかけるものだった。


 ブリュッセルの首脳会議でメルケル首相は、今年9月のドイツ連邦議会選挙を視野に入れながら、EU緊縮財政の周到な番人のイメージを強化しようとし、時宜にかなった、そして幻想なき同盟をキャメロン首相と結んだ。メルケル首相はイギリスに対してある程度は譲歩する用意があるが、ギド・ヴェスターヴェレ外相は首相よりずっと腰が引けており、「EU内でのアラカルト的な部分連合を結ぶことなど論外だ」とまで発言した。


離脱反対論も根強い


 イギリス保守党の中でも最も右寄りの少数派は、EUに敵愾心を持っているのが特徴だ。イギリスでは《2011年EU法》が同年7月に制定され、EUに対して追加的な権限移譲を行なう新たなEU条約の締結については、国民に判断を仰ぐことになった。さらに1年後にはEU加盟の総合評価を行なうという発表があったが、このどちらも彼らをなだめることはできなかった。国民投票の予定だけがどうにか沈静化させたが、それはヘイグ外相の反対を押してのことだった。2011年10月24日、外相は下院で次のように明言していたのだ、「この不安定な状況に、EU離脱に関して国民投票を行なうというさらに不安定な要素を加えるというのは、責任ある決定とは言えないだろう。なぜなら、わが国は外国投資の半分をEU諸国から受け入れ、EU諸国はわが国の輸出の半分を受け入れているのだから……」。企業トップの大多数が発信する議論も同様だった。その中の《英国産業連合(CBI)》のロジャー・カー会長は、そもそも日曜紙『オブザーバー』(2013年1月13日付)の紙面で次のように懸念を表明していた、「もしわが国がEUから離脱すれば、雇用に悪い影響を及ぼし、国際関係を弱め、さらにこの国の豊かさを危うくするだろう」。


 その上、キャメロン首相の戦略は自由民主党との今後の連立のあり方をさらに難しくしている。というのは、自由民主党は国民投票という賭けを一時しのぎとしてしか見ていない。1974年にハロルド・ウィルソン首相[労働党――訳注]が、欧州統合問題で意見が二分していた党を鎮めるために使った手段と同じだからだ。


 しかし、保守党党首の目的はおそらく別のところにあった。つまり、国家主権主義の政党UKIPが得意とする論法の大部分を奪うことである。この点に関しては確かに成功している。すでに、EU議会のマータ・アンドリーセン代表はファラージュ氏を見捨て保守党に寝返っている。


 労働党内部には危機感がある。2012年10月31日に、エドワード・ミリバンド党首率いる議員執行部は党内議員に対しある指令を発した。11月22日の欧州理事会でEUに予算削減を求める法案を保守党議員の中の50名ほどが通そうとしていたのだが、指令とは彼らと共同戦線を張ることだった。この修正案は307対294で可決され、イギリス政府の行動の自由への影響はないながらも、EU問題に関しては保守党から「造反者」を動員できることを実証した。その時は日和見主義者、偽善者などと非難された労働党執行部も、1月23日にキャメロン首相が演説を行なった直後は、首相の冒険主義を批判はしても、それ以上確信的なものがあるわけではなかった。労働党はその一方で、2015年の選挙で政権を奪還した場合、状況によっては国民投票に頼る可能性を自分たちに留保しておきたいのだ。2月11日の下院では、保守党議員たちがブリュッセルで勝利した党首に祝辞を述べていたが、一握りの労働党議員たちはその間ずっと浮かない顔をしていた。


 絶対多数の勝利ではなかったが、象徴的で重要な勝利だった。キャメロン首相はいかなる譲歩もしなかった。1984年にサッチャー首相はEU拠出金の「払い戻し」を勝ち取ったが、2005年には払い戻し金の削減をブレア首相が承諾していた(注5)。今後7年間、毎年約40億ユーロという金額に固定されて払い戻されることになっている。それでもイギリスは80億ユーロ程度はEUへ拠出できる歴とした加盟国であり続けるだろう。その代わりにキャメロン首相が自慢できるのは、EU職員のコストを10億ユーロ分削減したことだ。彼らはこれまでイギリス保守系新聞格好のターゲットになっていたのである。


マヌーヴァーも制限され、遠吠えするのみに


 首相は、EU予算の高騰を抑えるのに大きな役割を果たしたことについて議員の仲間うちではアピールできても、だからといって自ら定めた他の目標、特に銀行の統合阻止も容易に達成できるというわけではない。2012年12月にEU経済財務理事会(ECOFIN)によって承認されたこの銀行統合計画の中で、欧州中央銀行(ECB)が果たすことになる役割は決定的なものであり、必然的にイギリスの金融システムにも強い影響を発揮するようになるだろう。この国はさまざまな手を使って統一通貨と距離を置き、対立の狭間で独り悦に入っていたわけで、その発言は、当然のことながら保守党内で期待されているほどには重要視されないだろう。


 そのことは保守党党首が解決すべき問題の1つにすぎず、他の問題はそれ以上の矛盾をはらんでいる。例えば、ユーロ圏を強化するということは必然的に、予算や銀行に関してさらに野心的な規制を進めることにつながり、これは首相も賛同していることである。しかしその一方で、単一市場の動きやそのメカニズムの応用という点においては、柔軟性がますます求められる。この相反する二つのことをどのように調整すべきだろうか? イギリスのEU政策を長期にわたり分析しているアンドリュー・ゲッデス氏の指摘によると、ユーロ圏は強化され、やがてより高度な経済統合を達成する。そうするとイギリスはオブザーバー席に追いやられ、「自ら強く推し進めている自由主義的改革の支持にも、犬の遠吠えのようにしか影響力を発揮できなくなるだろう」(注6)という。






(1) John Gapper, «Europe takes its bite from the City», Financial Times, Londres, 20 février 2013.
(2)1963年1月14日の記者会見で、ドゴール将軍はイギリスの加盟に反対する理由を述べる際、「大陸とは根本的に異なるイギリス特有の資質・構造そして事情」という言い回しをしている。
(3)国民投票の実施は次回2015年総選挙での保守党の勝利にかかっている。
(4) Lire «Ce rapport qui accable les médias britanniques», Le Monde diplomatique, janvier 2013.
(5)1984年フォンテーヌブロー・サミットでサッチャー首相は、EU予算への拠出金の60%削減を勝ちとり、予算割当て額と返還資金総額を相殺していた。
(6)Andrew Geddes, Britain and the European Union, Palgrave Macmillan, Basingstoke, 2013.


(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2013年5月号)