企業とのパートナーシップの増加

業務を「民営化」する国際連合


クロエ・モレル

歴史学博士。現代史専攻。


著書に『ユネスコの歴史 最初の30年 1945~1974年』(未邦訳)
Chloé Maurel, Histoire de l’Unesco. Les trente premières années.
1945-1974
, L’Harmattan, Paris, 2010. がある。


訳:上原秀一


 2010年に創設されたインターネットサイトBuisiness.un.orgによって、その10年前にコフィ・アナン国連事務総長(当時)が決めていたとおり、国連と民間企業のパートナーシップの構築が促進されている。公式の目的は国連が定めた目標のための財源の確保であるが、異なる部門同士が混ざり合う様子には怪しいところも見られる。目的からの逸脱の可能性という問題もさることながら、本当に問題なのは国連の専門機関が弱体化するということである。[フランス語版編集部]




 予算不足も手伝って、国連と民間の協力関係がまったく不透明な形で強化されている。これは、1995年にブトロス・ブトロス=ガーリ国連事務総長(当時)が、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラムにおいて、「多国籍企業を国際的な意思決定にいっそう緊密に参加させたい」と述べたことに始まる。


 後任のコフィ・アナン事務総長もあっさりこれに従った(注1)。ハーバード大学ジョン・ラギー教授から影響を受けて2000年7月に国連グローバル・コンパクトを提唱したのである。国連グローバル・コンパクトは、人権、労働、環境、汚職防止に関する10原則の尊重に企業が少しでも参加しようとしさえすれば、その企業を「開発の特別なパートナー」と呼ぶ、という取組である(注2)。国連人権高等弁務官事務所の報告書『ビジネスと人権 経過報告』(2000年)は、ビジネスと人権が互いに強化し合うとまで言い切っている。


 しかしながら、このような産業界とのつながりは国連憲章にも世界人権宣言にも書かれていない。国連グローバル・コンパクトには、今日、約130か国7千以上の企業が加入しているが、はっきりした法的な枠組みはまったく備えられていない。確かに制裁措置は実施されており、2008年以降600以上の企業が、10原則の実施経過を報告しなかったことを理由に除名されている(注3)。それでも10原則が尊重されているかどうかを検査するための厳格な仕組みは存在せず、企業パートナーには年次報告書を公表することしか義務づけられていない。企業パートナーは、グローバル・コンパクト・オフィスの承認を受ければ、グローバル・コンパクトのロゴを使用して「企業と業界の社会的公正を向上させる」(注4)ことができる。


 しかし、こうした企業の「地位向上」活動のために、企業の社会的な責任を問う実効性ある規範の採択にブレーキがかけられているのも事実である。このような野心はすでに1970年代に生まれている。アメリカのインターナショナル・テレフォン・アンド・テレグラフ社(ITT)によるチリの1973年軍事クーデターへの関与が明るみになるなどのスキャンダルがその背景にあった。これによって、国際労働機関(ILO)が1977年に「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」を採択することができたのだが、しかしそこには強制力は与えられていなかった。


 こうした懸念はまるで遠い昔のことのようだ。グローバル・コンパクトだけでなく、国連の専門機関と企業との間でのパートナーシップの形成が進展しているからである。国連教育科学文化機関(ユネスコ)は、ロレアル社と共同で女性科学者の顕彰を行っている。ダイムラー・クライスラー社とは、「異文化対話」の促進に向けて「モンディアロゴ」というコンテストを共同で実施している。サムスン社とは有形文化財保護事業を一緒に行っている。マイクロソフト社ともグローバルな経済社会開発のためのプログラムを行っている。P&G社は、自社の生理用品にユネスコのロゴを入れる代わりに売り上げの1%を寄付してセネガルの女子識字教育に貢献しようとしている。


 2011年にパレスチナのユネスコ加盟が認められたことに抗議してアメリカとイギリスが脱退したため、ユネスコの通常予算は厳しい状況にあるものの、こうした民間との合意のおかげで数多くの事業の実施に必要な経費を維持できている。こうした事業の一つとして、ノキア社は、文字を覚えたばかりのアフリカ諸国の人々に携帯電話を提供している。ユネスコ職員のエルスペス・マコーミシュさんが詳しく説明してくれたところによると、ユネスコは、読み物教材の不足を補うために、携帯メールを使ってアフリカの人々に練習問題を送信し、受信した人々は答えを携帯メールで送り返すという取組を行っているそうである。この作戦の効果は定かではないが、少なくともノキア社はこのおかげで自社の旧モデル機器を片付けることができているようだ。


 こうした傾向は他の国連専門機関にも見られる。1998年に世界保健機関(WHO)の事務局長に就任したグロ・ハーレム・ブルントラント氏は、任期の初めから、企業内研究所との接近を推し進めた。2009~2010年のH1N1型ウイルスによる新型インフルエンザの流行に際して、WHOは戦略諮問専門家グループ(SAGE)の助言に従ったが、SAGEの構成員のほぼ全員が製薬業界と密接な金銭的つながりを持っていた。さらに、企業内研究所は、それぞれの代表を「オブザーバー」としてSAGEの会議に出席させていた。このため、WHOによるパンデミック(世界的流行病)宣言のおかけで、製薬業界の大企業は75億~100億ドルの利益を上げることができたと言われている(注5)。現在WHOが製薬業界と緊密に連携して取り組んでいる仕事は、A型インフルエンザ対策のほか数多くの分野に及んでおり、特に利害の対立が生じないとは言えないようなエイズ対策にまで及んでいる(注6)。


 事業の大部分を実際に企業に下請けさせるまでに至りかねない多様なパートナーシップが進んでいるばかりか、民間部門に結びついた専門家への依存が拡大している。こうしたことによって、国連は「民営化」への道を歩んでいるのではないだろうか。しかも大国の支持を得てである(注7)。






(1) Christian Caubet G., «Liaisons dangereuses avec le monde des affaires», Le Monde diplomatique, septembre 2005.を参照。
(2) Cf. Thomas G. Weiss et Ramesh Thakur, Global Governance and the UN : An Unfinished Journey, Indiana University Press, Bloomington, 2010.
(3) «Développement durable : 630 entreprises éjectées par l’ONU», http://greentechexpert.blogspot.fr, 2 juillet 2008
(4) unglobalcompact.org
(5) «L’OMS et la gestion des crises et catastrophes mondiales», Chantiers politiques, no 8, Paris, juin 2010.
(6) Cf. Auriane Guilbaud, «L’insertion progressive des entreprises dans la gouvernance mondiale de la santé. Le cas de la lutte contre le VIH/sida et les maladies négligées», thèse de doctorat de science politique, sous la direction de Guillaume Devin, Sciences Po - CERI, Paris, 2012.
(7) Anne-Cécile Robert, «Qui veut étrangler l’ONU ?», Le Monde diplomatique, février 2012.を参照。


(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2013年4月号)